第7話 分けた力
《共有》の登録を終えたあと、俺はもう一度表示を開いた。
「そういえば……」
「どうしました?」
「フェリシアさん自身の能力も見られないかなと思って」
「私の能力ですか?」
「俺からどれだけ移ったか分かるなら便利でしょう」
《共有》へ意識を向ける。
すぐに表示が切り替わった。
【共有メンバー情報】
【名前:フェリシア・ロート】
【筋力:8+11】
【耐久:9+10】
【敏捷:11+12】
【魔力:30+1】
【※一般成人基準:10】
「見えた」
「本当ですか?」
「はい。フェリシアさんの能力も数字になってます」
「私にも見えます?」
その問いに答えるように、新しい表示が現れた。
【共有メンバーは自身の能力情報を確認できます】
「見られるみたいです。自分の能力を確認したいって意識してみてください」
「やってみます」
フェリシアが目を閉じる。
すぐに目を開いた。
「あっ、出ました!」
表示を眺めていたフェリシアの眉が、少しずつ寄っていく。
「……筋力、八」
「はい」
「一般成人が十なんですよね?」
「そうみたいですね」
「私、平均以下なんですか?」
「少しだけです」
「少しでも下は下ですよ」
フェリシアが自分の腕を見る。
「確かに力仕事は苦手ですけど……」
「それより魔力を見てください。三十あります」
「三十?」
「俺は十八です」
「えっ?」
フェリシアが顔を上げた。
「私の方が高いんですか?」
「かなり」
「……ちょっと嬉しいです」
さっきまで筋力を気にしていたのに、すぐに機嫌がよくなった。
《魔弾》を何十発も撃てるのは、この魔力量も関係しているのかもしれない。
「この横の数字は、アレンさんからもらってる分ですよね?」
「たぶん」
「じゃあ今の私は、筋力十九、耐久十九、敏捷二十三、魔力三十一?」
「そうなりますね」
「筋力の数字、いきなり倍以上じゃないですか」
フェリシアが両手を握ったり開いたりする。
「少し動いてみてもいいですか?」
「転ばないようにしてくださいね」
「はい」
フェリシアが木々の間を走り出した。
最初の数歩はぎこちなかったが、すぐに速度を落として身体を合わせる。
一度往復して戻ってきた。
「すごいです。身体が思った通りについてきます!」
「敏捷がかなり上がってますからね」
「アレンさんは今いくつでしたっけ?」
「共有してる状態なら百八です」
「…………」
「どうしました?」
「なんでもないです」
なぜか遠い目をされた。
◇
俺たちは町へ戻ることにした。
森を抜けて街道を歩いていると、右手の茂みが揺れた。
「何かいます」
フェリシアが杖を構える。
直後、角ウサギが飛び出してきた。
「キィッ!」
こちらへ角を向け、地面を蹴る。
「フェリシアさん!」
「はい!」
俺が前へ出るより先に、フェリシアが横へ動いた。
角ウサギの突進が空を切る。
「《魔弾》!」
バシッ!
一発目が脇腹へ当たった。
角ウサギが向きを変える。
フェリシアは素早く距離を取り、もう一度杖を向けた。
「《魔弾》!」
二発目。
同じ場所。
角ウサギが再び突っ込む。
フェリシアが横へかわす。
「《魔弾》!」
三発目。
「キィッ……!」
角ウサギが地面へ倒れた。
「倒せた……」
「一人でいけましたね」
「はい!」
以前は俺が前に立っていたが、今回はフェリシア一人で対処した。
「《共有》、すごいですね」
「フェリシアさんとは相性がいいのかもしれません」
「相性?」
「速くなれば、近づかれても自分で距離を取れますから」
「ああ……」
フェリシアが杖を見る。
「もっと練習したら、戦い方が変わりそうです」
「俺も助かります」
「頑張ります」
角ウサギの角を取り、死体を処理する。
俺の前には何も表示されなかった。
◇
夕方、冒険者ギルドへ戻った。
「お帰りなさい」
受付嬢が俺たちを迎える。
「アーマーベアはどうでした?」
「倒しました」
討伐証明の爪を差し出す。
「……確かにアーマーベアですね」
受付嬢が俺たちを見比べた。
「Eランクになったばかりなのに、もうアーマーベアまで倒したんですか」
「二人だったので」
「それでも十分早いですよ」
報酬を受け取った直後、表示が現れた。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【累計獲得P:1,120P】
【保有:260P】
「二百六十か」
「Pですか?」
フェリシアが小声で聞いてきた。
「はい。百増えました」
「じゃあ、また使うんですか?」
「もちろん」
「やっぱり」
フェリシアが笑う。
そのまま二人で依頼掲示板へ向かった。
Eランクになって受けられる依頼は増えたが、それほど数が多いわけではない。
「この町だと、Eランク以上の依頼はこれくらいなんですか?」
「そうですね」
フェリシアも掲示板を見る。
「ヴァルディス領ではここが一番大きな冒険者ギルドですけど、大都市とは全然違いますよ」
「大都市?」
「西にベルガントがあります」
「ベルガント……」
名前は知っている。
ヴァルディス家の跡取りとして育てられていたころ、サハル王国の主要都市については勉強した。
「交易都市ベルガントですよね」
「知ってたんですね」
「名前だけですけど」
「ベルガントの冒険者ギルドはかなり大きいですよ。DランクやCランクの冒険者も珍しくありません」
「そんなに違うんですか?」
「武器屋も多いですし、魔術師向けのお店もあります。ランクが上がるとベルガントへ移る冒険者もいますよ」
「なるほど」
覚えておいてもよさそうだ。
「ベルガントか……」
◇
その夜。
宿へ戻った俺は、いつものように《会員》を開いた。
【会員ランク:シルバー】
【保有:260P】
【累計獲得P:1,120P】
特典を確認する。
「……あれ?」
表示が変わっていた。
【筋力強化(中) 50P】
【耐久強化(中) 50P】
【敏捷強化(中) 50P】
【回復 50P】
「中?」
ブロンズのときにはなかった。
しかも、強化に必要なPも三十から五十へ増えている。
《筋力強化(中)》へ意識を向けた。
【筋力強化(中)】
【必要:50P】
【上昇値:+30】
「一回で三十……」
ブロンズでは三十Pで十だった。
以前見た表示を思い出す。
【会員ランク上昇により特典が拡張されます】
【既存強化特典の拡張】
「これか」
《共有》以外の特典も変わっている。
保有Pは二百六十。
《回復》一回分を残しても、二百P使える。
「四回か」
筋力、耐久を一回ずつ。
敏捷を二回。
【筋力強化(中)を購入しました】
【50Pを使用しました】
【筋力:110 → 140】
【耐久強化(中)を購入しました】
【50Pを使用しました】
【耐久:100 → 130】
【敏捷強化(中)を2回購入しました】
【100Pを使用しました】
【敏捷:120 → 180】
【保有:60P】
「……っ!」
身体の奥から熱が広がる。
拳を握ると、以前よりさらに力が入りやすい。
耐久を上げたあとは、身体全体が一段頑丈になったように感じた。
そして敏捷。
立ち上がるだけでも、身体が先に動こうとする。
「部屋では試さない方がよさそうだな」
能力を確認する。
【筋力:140】
【耐久:130】
【敏捷:180】
【魔力:18】
【保有:60P】
さらに《共有》を開く。
【共有メンバー:フェリシア・ロート】
【共有率:10%】
【共有値が更新されました】
【筋力:14】
【耐久:13】
【敏捷:18】
【魔力:1】
共有中の俺自身は、
【筋力:126】
【耐久:117】
【敏捷:162】
【魔力:17】
「これなら十分だな」
表示を消してベッドへ横になった。
◇
翌朝。
冒険者ギルドの前では、フェリシアが先に待っていた。
「おはようございます」
「おはようございます、アレンさん」
フェリシアがこちらへ歩いてくる。
途中で足を止めた。
「……あれ?」
「どうしました?」
「また身体が違う気がします」
「ああ」
「昨日の夜、使いました?」
「二百P」
「二百!?」
フェリシアがすぐに自分の能力情報を確認する。
【名前:フェリシア・ロート】
【筋力:8+14】
【耐久:9+13】
【敏捷:11+18】
【魔力:30+1】
「やっぱり増えてる!」
「俺が強くなった分ですね」
「私、寝てただけですよ?」
「そうですね」
「なのに強くなってるんですけど」
「便利ですね、《共有》」
「便利で済ませていいんでしょうか……」
フェリシアが呆れた顔をする。
「でも、昨日と数字の増え方がすごくないですか?」
「シルバーになって強化が変わりました」
「変わった?」
「五十Pで三十上がるようになりました」
「三十?」
「はい」
「一回で?」
「一回で」
「…………」
フェリシアが額に手を当てた。
「もう驚かないようにしようと思ってたんですけど」
「無理でした?」
「無理です」
俺たちは笑いながらギルドへ入った。
今日受ける依頼を探し、しばらく掲示板を見て回る。
「これなんてどうです?」
フェリシアが一枚の依頼書を指した。
「街道警護?」
「近くですし、今日はこれでも――」
そのとき。
「兄さん?」
背後から声がした。
聞き覚えがある。
振り返る。
「…………」
ギルドの入口に、一人の少年が立っていた。
「やっぱり兄さんだ」
「……カイル」
双子の弟。
俺を家から追い出した張本人が、驚いた顔でこちらを見ている。
その後ろには、ヴァルディス家の紋章をつけた騎士が一人いた。
「なんでここにいる?」
「それ、こっちの台詞だよ」
カイルが近づいてくる。
「父上と王都へ向かう途中なんだ。馬を休ませるためにこの町へ寄ったんだけど、まさか兄さんがいるなんてね」
「そうか」
「兄さんは?」
「見れば分かるだろ」
「冒険者になったんだ」
「家を出たからな」
「…………」
カイルの視線が俺の顔へ戻る。
そのまま何も言わず、俺の身体を見ていた。
「何だ?」
「兄さん」
カイルが少し眉を寄せる。
「なんか変わった?」
「別に」
「いや……」
一歩近づいてくる。
カイルの目から、さっきまでの軽い雰囲気が消えていた。
「前と違う」
「そうか?」
「うん」
カイルが俺を見る。
「兄さん、強くなった?」
「…………」
「何したの?」
「お前に話すことじゃない」
「へえ」
カイルが笑った。
その笑い方を見て、嫌な予感がした。
「アレンさん、この人は?」
フェリシアが小声で聞く。
「弟です」
「弟……」
フェリシアがカイルを見る。
「もしかして、《剣聖》の?」
「ああ」
それを聞いたカイルがフェリシアへ目を向けた。
「その人、誰?」
「一緒に依頼を受けてる仲間だ」
「兄さんに仲間ができたんだ」
「何かおかしいか?」
「別に。ただ、ちょっと意外だっただけ」
カイルはそう言うと、再び俺へ視線を戻した。
「でも、ちょうどよかった」
「何が?」
「王都へ行く前に兄さんに会えるとは思わなかったから」
「俺は別に会いたくなかったけどな」
「相変わらずだね」
カイルが楽しそうに笑う。
「せっかくだし、少し付き合ってよ。兄さん」
やっぱり、嫌な予感しかしなかった。
累計獲得P=1,120P
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