第84話 魔聖の効果
《魔聖》をフェリシアへ付与したあと、俺たちは二十一階の探索を再開した。
「実戦でも試してみたいですね」
「私もです」
岩を相手にしただけでも《魔聖》の効果は分かった。
でも、実際の魔物を相手にしたらどうなるのか。
少し進んだところで《魔力感知》に反応があった。
「三体来ます」
「分かりました」
前方の岩陰から飛び出してきたのは、灰色の毛に覆われた狼だった。
「《鑑定》」
【アッシュウルフ】
【高温地帯に生息する狼型魔獣】
【素早い動きと群れでの連携を得意とする】
三体が左右へ散らばる。
「速いですね」
「はい」
一体が正面から飛びかかり、残り二体が左右へ回り込む。
「フェリシアさん、右をお願いします」
「はい!」
俺は正面の一体へ走った。
アッシュウルフが飛びかかってくる。
竜爪剣へ魔力を流す。
《魔聖》を手に入れる前より、明らかに速い。
必要な分だけ刃へ魔力を集め、そのまま振る。
ザンッ!
【1,900P獲得】
振り返る。
フェリシアの周囲には二つの魔弾が浮かんでいた。
「《魔弾》!」
二つの魔弾が別々の方向へ飛ぶ。
バンッ!
バンッ!
「ギャウッ!」
一発は右から来たアッシュウルフの頭へ直撃。
もう一発は左の個体の前脚を撃ち抜いた。
「二体同時に?」
「前より狙いやすいです!」
頭を撃たれた一体が倒れる。
脚を負傷したもう一体へ向かい、首を斬った。
【1,900P獲得】
「すごいですね」
フェリシアが自分の杖を見る。
「前なら二つ出すだけならできました。でも、別々の相手を狙う時はもっと集中が必要だったんです」
「今は?」
「かなり楽です」
倒したアッシュウルフ三体を《収納》へ入れる。
「次へ行きましょう」
「はい」
◇
そこから先も魔物は次々と現れた。
最初に出てきたのは、天井に張りつく赤いコウモリ。
「《鑑定》」
【エンバーバット】
【高温の洞窟に生息する飛行魔獣】
【小さな火球を吐きながら集団で襲う】
五体。
「上です!」
火球が降ってくる。
俺は横へ避ける。
フェリシアが杖を上へ向けた。
五つの《魔弾》がほとんど同時に現れる。
「《魔弾》!」
五方向へ飛んだ。
ドンッ!
ドンッ!
二体が一撃で落ちる。
残り三体も翼や身体を撃ち抜かれて高度を落とした。
「速っ……」
「私も驚いてます!」
落ちてきた一体を竜爪剣で斬る。
【1,700P獲得】
残りはフェリシアが倒した。
五体まとめて《収納》する。
さらに進むと、大きな角を持つ猪型の魔物が現れた。
「《鑑定》」
【ヒートホーンボア】
【高熱を帯びた角を持つ大型魔獣】
【正面からの突進は非常に強力】
二体。
「ブオオオッ!」
同時に突っ込んでくる。
「一体ずつ!」
「はい!」
フェリシアの魔弾が左の個体の顔へ直撃し、動きが鈍る。
俺は右へ向かった。
竜爪剣へ魔力を集中させる。
巨大な角。
硬そうだ。
正面から斬る。
ガキンッ!
一瞬だけ抵抗があった。
それでも。
ザンッ!
角ごと頭部を斬り裂いた。
【2,300P獲得】
左の個体もフェリシアが動きを止めている。
「アレンさん!」
「はい!」
横から回り込み、首を斬る。
【2,300P獲得】
「剣への魔力もやっぱり違いますね」
「はい」
魔法は使えない。
でも、《魔聖》を手に入れてから剣へ流す魔力を以前より細かく扱える。
ヒートホーンボア二体を《収納》した。
その先では、岩の隙間から赤い液体の塊が這い出してくる。
「スライム?」
「みたいですね」
「《鑑定》」
【マグマスライム】
【高温の体液を持つ軟体魔物】
【斬撃への耐性が高い】
「斬撃耐性……」
「私がやります?」
「一回試してみます」
竜爪剣を振る。
ザンッ!
真っ二つになった。
「いけた?」
直後、二つに分かれた身体が再びくっついていく。
「あ」
「駄目みたいですね」
《魔力感知》へ意識を向ける。
身体全体に薄く魔力が広がっている。
その中心。
一か所だけ、明らかに魔力が強い。
「フェリシアさん。中心に核があります」
「分かりました!」
フェリシアが杖を向ける。
「《魔弾》!」
青白い光が一直線に飛び、身体の中心を撃ち抜いた。
マグマスライムが地面へ崩れる。
「倒せました」
「俺より相性が良さそうですね」
「たまには任せてください」
「いつも任せてますよ」
「もっと任せてください」
「分かりました」
三体現れたマグマスライムは、すべてフェリシアが倒した。
残った身体も《収納》する。
さらにフレイムアーマーリザードが二体。
今度は俺が二体とも倒した。
【2,100P獲得】
【2,100P獲得】
もちろん《収納》する。
「これ、何体入ってるんでしょう」
「もう数えるのやめました」
フェリシアが笑った。
その後もアッシュウルフやエンバーバットと何度か遭遇した。
今度は《魔聖》の感覚を確かめたいフェリシアが中心になって仕留めていく。
以前なら一戦ごとに慎重に進んでいた。
今は違う。
フェリシアが複数の敵を同時に止める。
俺が前へ出て仕留める。
俺が敵を引きつける。
フェリシアが正確に撃ち抜く。
戦うたびに、二人の動きが噛み合っていく。
倒した魔物はすべて《収納》した。
◇
「階段です」
フェリシアが前を指す。
二十二階へ続く階段。
「結構倒しましたね」
「Pも増えました」
【保有:14,330P】
「さっきまで三十Pだったんですよね」
「そう考えるとすごいですね」
「深い階層だからでしょうか」
「多分」
階段を下りる。
◇
二十二階。
「……ここも暑い」
「ですね」
二十一階と同じように赤黒い岩壁が続いている。
ただし通路はもっと広い。
地面には大きな亀裂があり、その奥から赤い光が見える。
時々、熱風まで吹き出してくる。
「足元も気をつけた方が良さそうですね」
「はい」
少し進む。
カサッ。
「来ます」
左右の岩陰から二体。
巨大なサソリ。
「《鑑定》」
【ラーヴァスコーピオン】
【溶岩地帯に生息する大型魔獣】
【硬い甲殻と高温の毒を持つ尾針で攻撃する】
「一体ずつですか?」
「そうしましょう」
「右をお願いします」
「はい」
俺は左。
ラーヴァスコーピオンの尾が伸びる。
横へ避ける。
今度は大きな鋏。
剣で受ける。
ガキンッ!
「硬い!」
正面の甲殻はフレイムアーマーリザードより硬い。
だったら!
鋏を振り上げた瞬間、関節へ竜爪剣を振る。
ザンッ!
鋏が落ちた。
続けて脚。
姿勢が崩れる。
最後に頭部と胴の隙間へ刃を入れた。
【2,500P獲得】
フェリシアを見る。
「《魔弾》!」
鋏の付け根へ一発。
尾の根元へ一発。
脚の関節へ一発。
硬い甲殻の隙間だけを正確に撃ち抜いている。
動けなくなったところへ、さらに魔弾。
もう一体も倒れた。
「やりました」
「狙いがすごく正確ですね」
「前よりずっと当てやすいです」
二体とも《収納》。
「次行きましょう」
「はい」
◇
二十二階も魔物だらけだった。
次に現れたのは二メートルを超える巨大なカマキリ。
「《鑑定》」
【バーニングマンティス】
【高温地帯に生息する昆虫型魔獣】
【左右の鎌による高速攻撃を得意とする】
二体同時。
速い。
でも、剣の軌道は見える。
右。
左。
踏み込む。
鎌を竜爪剣で斬り落とす。
そのまま胴。
【2,800P獲得】
もう一体が背後から鎌を振る。
振り返りながら受け流し、返す刃で斬る。
【2,800P獲得】
「速かったですね」
「でも見えました」
二体を《収納》。
さらに先。
今度は五体。
犬に似た黒赤色の魔物。
「《鑑定》」
【マグマハウンド】
【群れで獲物を追い詰める火属性魔獣】
【口から小規模な火炎を吐く】
「五体です」
「私が先にやります」
フェリシアの周囲に五つの魔弾が現れた。
「《魔弾》!」
五方向へ同時に飛ぶ。
「ギャッ!」
「ギャンッ!」
二体が倒れる。
残り三体も身体を撃ち抜かれ、動きが止まった。
「今です!」
「はい!」
一体。
【2,000P獲得】
二体。
【2,000P獲得】
三体。
【2,000P獲得】
数秒で終わった。
「……前よりずっと速いですね」
「ですね」
「私も前より役に立ててます?」
「かなり」
「よかったです」
五体全部を《収納》する。
◇
さらに奥。
岩壁の亀裂を横切った瞬間、《魔力感知》に三つの反応が出た。
「後ろ!」
細長い赤い蛇が三体、岩の亀裂から飛び出してくる。
「《鑑定》」
【ファイアサーペント】
【岩の亀裂に潜む蛇型魔獣】
【高温の牙と奇襲を得意とする】
「三体です!」
一体を斬る。
【2,400P獲得】
「右!」
「はい!」
フェリシアが振り向きながら杖を向ける。
「《魔弾》!」
ドンッ!
一体の頭へ直撃。
残る一体も続けて撃ち抜いた。
三体とも倒れる。
「助かりました」
「アレンさんが先に気づいたからですよ」
「《魔力感知》は便利ですね」
「本当に」
三体を《収納》。
その後も魔物との遭遇は続いた。
ラーヴァスコーピオン。
バーニングマンティス。
マグマハウンド。
ファイアサーペント。
時々、二十一階にいたフレイムアーマーリザードまで混ざっている。
《魔聖》の感覚を確かめたいフェリシアが積極的に前へ出て、次々と仕留めていった。
倒した魔物はその都度《収納》へ入れる。
◇
「……大きいですね」
通路の先。
四メートル近い人型の魔物が立っていた。
黒い岩で作られた身体。
身体の隙間から赤い光が漏れている。
「《鑑定》」
【アッシュゴーレム】
【火山岩と高熱の魔力によって形成された大型魔物】
【身体を破壊されても核が無事なら再生する】
「核ですか」
「探せそうですか?」
「やってみます」
アッシュゴーレムが腕を振り上げる。
「来ます!」
ドンッ!
拳が地面を叩く。
石床が割れた。
「威力ありますね」
「でも遅いです」
横から回り込み、竜爪剣で脚を斬る。
ザンッ!
大きく削れた。
でも、赤い光が集まり、欠けた部分が少しずつ戻っていく。
「本当に再生する」
《魔力感知》へ意識を向ける。
腕。
脚。
胴。
全身を魔力が巡っている。
その中で一か所だけ、明らかに強い場所がある。
「胸です!」
「分かりました!」
「胸の奥に核があります!」
フェリシアが杖を構える。
三つの魔弾。
同じ場所。
「《魔弾》!」
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
胸の岩が砕ける。
その奥。
赤く光る核。
「見えた!」
地面を蹴る。
アッシュゴーレムが腕を振る。
その下へ潜る。
竜爪剣へ魔力を集中。
「はあっ!」
核ごと胸を斬り抜いた。
バキンッ!
赤い光が消える。
巨体が崩れ落ちた。
【3,500P獲得】
「倒した……」
「やりましたね」
「フェリシアさんが胸を開けてくれたからです」
「アレンさんが核を見つけたからですよ」
「二人で倒したということで」
「はい」
アッシュゴーレムへ触れる。
「《収納》」
四メートルの巨体が消えた。
「これも入るんですね」
「レッドドラゴンが入ったくらいですから」
「それもそうでした」
フェリシアが笑う。
表示を確認する。
【保有:34,330P】
「三万四千……」
「もう?」
「はい」
「すごい増え方ですね」
「やはり深層だからでしょうね」
二十一階。
二十二階。
大量の魔物。
それだけ倒せば当然なのかもしれない。
でも、深層はやっぱりPが多い。
「また五万もすぐですね」
「そうかもしれません」
「次は何を買うんです?」
「まだ決めてません」
十万Pまで貯めるのもありだ。
でも、今は先へ進みたい。
「階段を探しましょう」
「はい」
◇
しばらく進むと、下へ続く階段が見つかった。
「二十三階ですね」
「行きます?」
「もちろん」
「そう言うと思いました」
二人で階段を下りる。
二十三階へ足を踏み入れた。
「……まだ暑いですね」
「ですね」
赤黒い岩壁。
地面の亀裂。
奥から流れてくる熱気。
二十一階。
二十二階。
そして二十三階。
どうやら、この三階層は同じ高温地帯になっているらしい。
「どこまで続くんでしょう」
「少なくとも、ここまではですね」
前を見る。
赤い光に照らされた通路が奥まで続いている。
その向こうから、また何かの鳴き声が聞こえた。
「行きましょうか」
「はい!」
《魔聖》。
思っていた以上に、俺たち二人の戦い方を変えるスキルだった。
【保有:34,330P】
【累計獲得P:237,540P】
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