第83話 二十一階
ベルガント西部ダンジョン。
入口を通り一階にある転移石へ向かう。
「久しぶりですね」
「ですね」
青白く光る石へ触れる。
フェリシアも隣で手を伸ばした。
光が強くなる。
一瞬。
視界が真っ白になった。
次に見えたのは見覚えのある小部屋。
「二十階」
「一瞬ですね」
以前、ミスリルゴーレムを倒したあとに見つけた転移石。
その先にも道が続いていた。
でも、Bランクだった俺たちは進めなかった。
二十一階から先へ入れるのはAランク以上。
そして今は。
「行けますね」
「はい」
俺もフェリシアもAランクだ。
小部屋を出て、奥にある階段。
その階段を下りる。
◇
二十一階へ入った瞬間。
「……暑い」
フェリシアが呟いた。
「ですね」
空気が違う。
岩壁は赤黒い。
ところどころに細い亀裂が入っていて、その奥から熱気が流れてくる。
地面まで少し温かい。
「今までの階層と全然違いますね」
「はい」
でも、思ったほど苦しくはない。
新しい防具のおかげだろうか。
ドレイクさんが言っていた。
レッドドラゴンの鱗は熱に強い。
「防具、効いてるかもしれません」
「私もです」
フェリシアが胸元に使われている赤黒い鱗を見る。
「暑いですけど、普通に歩けます」
「さっそく役に立ちましたね」
「まだ魔物とも戦ってませんよ」
「それもそうですね」
竜爪剣の柄へ手を置く。
その時、《魔力感知》に反応があった。
「来ます」
「何体です?」
「一体」
正面を見る。
ガリッ。
ガリッ。
岩を引っかくような音。
赤黒い通路の奥から大きな影が現れた。
「トカゲ?」
四本脚。
体長は三メートルを超えている。
全身を覆う赤黒い鱗。
口の隙間から赤い光が漏れていた。
「《鑑定》」
【フレイムアーマーリザード】
【高温地帯に生息する大型魔獣】
【硬い鱗で全身を覆い、口から高温の炎を吐く】
「炎を吐くみたいです」
「この階層らしいですね」
フェリシアがミスリルロッドを構える。
フレイムアーマーリザードが口を開いた。
「来ます!」
ゴオオオッ!
炎が通路いっぱいに広がる。
「アレンさん!」
横へ跳ぶ。
ほとんどは避けた。
しかし、炎の端が左肩を包んだ。
「っ!」
熱いが……。
「……あれ?」
「大丈夫ですか!?」
「はい」
肩を見る。
防具は焦げていない。
身体も少し熱を感じた程度。
レッドドラゴンの火炎とは比べものにならない。
「本当に効いてる……」
ドレイクさん、すごいな。
「今度はこっちです」
竜爪剣を抜く。
フレイムアーマーリザードが突っ込んでくる。
硬い鱗。
《鑑定》にもそう出ている。
前なら一度斬って硬さを確認して。
狙う場所を考えた。
でも、今の剣はどうだ?
一歩踏み込む。
首元へ振る。
ザンッ!
「え?」
抵抗がほとんどない。
竜爪剣が赤黒い鱗を斬り裂き、そのまま首へ深く入った。
「グギャアッ!」
身体が傾く。
もう一撃。
首を斬り抜いた。
ドンッ!
巨体が倒れる。
【2,100P獲得】
「……二千百」
剣を見るが傷一つない。
「すごいですね」
フェリシアが近づいてくる。
「岩を斬った時もすごかったですけど」
「魔物だともっと分かりますね」
硬い鱗をほとんど気にせず斬れた。
前のミスリルブレードより明らかに上だ。
「ドレイクさんに感謝ですね」
「本当に」
フレイムアーマーリザードを《収納》する。
「先へ行きましょう」
「はい」
◇
しばらく進む。
「また反応です」
「一体?」
「……いえ」
立ち止まる。
「四体」
「結構いますね」
前方に四つの大きな影が現れた。
フレイムアーマーリザードだ。
「どうします?」
「一体ずつなら問題なさそうですけど」
「四体同時ですね」
「戻ります?」
少し考える。
でも。
「やってみましょう」
「ですよね」
「分かってたんですか?」
「聞くだけ聞いてみました」
フェリシアが笑う。
四体が一斉にこちらを見る。
一体が炎を吐いた。
さらにもう一体も炎を吐いた。
二方向から火炎。
「フェリシアさん!」
「はい!」
左右へ分かれる。
炎が俺の横を抜ける。
三体目が俺へ突っ込んできた。
爪が振られる。
身体を沈め、前脚へ竜爪剣を振った。
ザンッ!
脚が落ちる。
「ギャアアッ!」
バランスを崩した首へ。
一撃。
【2,100P獲得】
横を見ると、フェリシアの周囲に五つの魔弾が浮かんでいた。
「《魔弾》!」
青白い光が飛ぶ。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
すべて同じ場所。
フレイムアーマーリザードの頭部へ集中する。
「グギャッ!」
鱗が砕ける。
「まだです!」
さらに二発、同じ場所へ命中。
巨体が倒れた。
俺にはPの表示は出ない。
フェリシアが倒したからだ。
「やっぱり硬いですね」
「でも倒せてます」
「はい!」
残り二体。
一体がフェリシアへ向かう。
「させない!」
横から割り込む。
竜爪剣を胴へ叩き込んだ。
ザンッ!
深い。
そのまま刃を抜き、今度は首を斬る。
【2,100P獲得】
あと一体。
口が赤く光る。
炎が正面から来る。
「アレンさん!」
横へ跳ぶ。
炎の端が左半身を包んだ。
「くっ……!」
熱い。
でも、耐えられる。
防具の表面を炎が流れる。
すぐに火炎が止まった。
「大丈夫です!」
地面を蹴る。
フレイムアーマーリザードが後ろへ下がる。
「今度はこっち!」
首へ向かい、竜爪剣を振った。
ザンッ!
【2,100P獲得】
最後の一体が倒れた。
「ふう……」
「大丈夫ですか?」
「はい」
「炎、結構当たってませんでした?」
「端の方だけです」
防具を見る。
「焦げてもないですね」
「すごい……」
「本当にすごいですね」
新しい剣。
新しい防具。
ちゃんと違う。
これなら今までより先へ進める。
その時、表示を見る。
【保有:50,030P】
「…………」
「どうしました?」
「超えました」
「何をです?」
「五万P」
「えっ?」
フェリシアが近づいてくる。
「もう?」
「はい」
朝は四万一千六百三十P。
俺が倒したフレイムアーマーリザードは四体。
フェリシアが倒したフレイムアーマーリザードを含めて回収した。
一体二千百P。
八千四百P。
合わせて。
五万三十P。
「五万……」
「買えます」
「何がです?」
《会員》を開く。
【固有スキル購入】
【50,000P】
【《鑑定》 取得済み】
【《剣聖》 取得済み】
【《魔聖》 50,000P】
【《弓聖》 50,000P】
【《斧聖》 50,000P】
【《槍聖》 50,000P】
【《拳聖》 50,000P】
「魔聖……」
俺が呟く。
フェリシアもそこを見る。
詳細を開いた。
【《魔聖》】
【魔力の制御能力を大幅に高め、習得済みの魔術の威力、精度、発動速度、魔力効率を向上させる固有スキル】
「習得済みの魔術……」
「アレンさんが覚えたらどうなるんでしょう?」
「試してみたいですね」
五万P。
全部なくなるな。
でも、迷う理由はなかった。
「買います」
「本当に?」
「はい」
《魔聖》を選ぶ。
【《魔聖》を購入しますか?】
【必要P:50,000P】
決定する。
【50,000Pを消費しました】
【固有スキル《魔聖》を習得しました】
【保有:30P】
「三十……」
フェリシアが表示を見る。
「一気になくなりましたね」
「使うために貯めてましたから」
《会員》を閉じる。
身体の中へ意識を向けた。
「……分かる」
「何がです?」
「魔力です」
前から《魔力操作》で身体の中の魔力は動かせた。
でも今はさらに細かい。
どこに。
どれくらい。
どう流れているのか。
前よりはっきり分かる。
「魔法、使えそうですか?」
「試してみます」
右手を前へ出す。
身体の中の魔力を集める。
手のひらへ集中する。
「…………」
何も起きない。
「…………」
「どうです?」
「駄目ですね」
「《魔聖》でも?」
「はい」
もう一度、右手へ魔力を集める。
さっきよりずっと簡単に動く。
でも、魔法にはならない。
「やっぱり」
「?」
「魔力があることと、魔法を使えることは別みたいです」
「前にも同じこと言ってましたね」
「はい」
《魔力操作》を覚えた時も魔法は使えなかった。
魔力はある。
動かすこともできる。
それでも魔法そのものを知らなければ使えない。
「ちゃんと魔法を覚えないと駄目なんでしょうね」
「多分そうだと思います」
「まあ、仕方ないですね」
魔法も使えたら便利だとは思う。
でも、俺には剣がある。
「それより」
竜爪剣を抜く。
「こっちを試してみます」
「剣ですか?」
「はい」
柄を握る。
《魔力操作》。
そして《魔聖》。
身体の中にある魔力を剣へ流した。
「……おお」
刀身に青白い光が走る。
前にもミスリルブレードへ魔力を流した時に同じことが起きた。
でも違う。
「光、強くないですか?」
「俺もそう思います」
流れる速度が速い。
それだけじゃない。
今までより狙った場所へ魔力を集めやすい。
刀身全体へ薄く流すことも、刃先へ集中させることも、思った通りにできる。
「試してみます」
近くにある岩へ向かう。
竜爪剣を構える。
魔力を刃へ集中させたまま軽く振る。
スパンッ。
「…………」
岩へ入った刃がそのまま抜ける。
少しして。
ズズッ。
岩の端が落ちた。
「前より……」
「はい」
もともとよく斬れる剣だった。
でも、魔力を流した時はさらに違う。
「剣に流す魔力も《魔聖》の影響を受けてるみたいですね」
「魔法じゃなくても使えるんですね」
「魔力を扱う能力そのものが上がってますからね」
これはかなり使える。
魔法は使えなかった。
でも《魔聖》が無駄になったわけじゃない。
むしろ、今の俺にはこっちの方が合っているかもしれない。
「それと」
「?」
フェリシアを見る。
「フェリシアさんにも試してもらいたいです」
「私?」
「はい」
「まさか……」
「《付与》です」
「やっぱり」
《会員》を開く。
《付与》を選ぶ。
【スキル付与対象】
【共有メンバー】
【フェリシア・ロート】
対象を選ぶ。
【付与可能スキル】
【《魔力操作》 付与済み】
【《魔聖》】
「出ました」
「本当に付けられるんですね……」
「やります?」
「もちろん!」
即答だった。
「お願いします」
「はい」
《魔聖》を選択する。
【フェリシア・ロートへ《魔聖》を付与します】
決定。
「……っ!」
フェリシアが目を見開いた。
「どうです?」
「待ってください」
ミスリルロッドを握る。
自分の魔力を確認するように目を閉じる。
「……すごい」
「分かります?」
「はい」
目を開く。
「《魔力操作》をもらった時より、さらに細かく分かります」
「そんなに?」
「出したい場所へ、出したい量だけ持っていける感じです」
杖を前へ向ける。
「試していいですか?」
「もちろん」
少し離れた岩を見る。
「普通の《魔弾》から」
杖先へ。
青白い光が浮かんだ。
速い。
ほとんど一瞬。
「《魔弾》!」
光弾が飛ぶ。
バンッ!
岩へ命中。
表面が大きく抉れた。
「…………」
「…………」
フェリシアが岩を見る。
「今の」
「はい」
「普通の《魔弾》ですよね?」
「そのつもりです」
「圧縮してません?」
「してません」
もう一度。
今度は少し小さな魔弾を作る。
それもほとんど一瞬だ。
「《魔弾》!」
バシッ!
岩へ命中。
「……今の方が弱いですね」
「はい。でも」
フェリシアが杖を見る。
「使った魔力も少ないです」
「自分で調整したんですか?」
「はい」
威力。
速さ。
使う魔力量。
全部。
今までより細かく調整できるらしい。
「これなら」
フェリシアが嬉しそうに笑う。
「同じ魔力でも、前よりずっと戦えそうです」
「それは頼もしいですね」
「はい!アレンさんに頼りきりなので少しでもお役に立てればと思います。」
「フェリシアさんは十分に活躍されていますよ」
「ありがとうございます」
なぜか満足そうだ。
もう一度、《会員》を見る。
【保有:30P】
五万P。
ほとんど全部使った。
でも俺は剣へ流す魔力を今までより強く、細かく扱えるようになった。
フェリシアは魔術そのものを今までより速く、正確に、無駄なく使える。
「三十Pからやり直しですね」
フェリシアが言う。
「ですね」
「また貯めるんですか?」
「もちろん」
竜爪剣を鞘へ戻す。
まだ二十一階へ入ったばかりだ。
「先へ行きましょう」
「はい!」
新しい剣。
新しい防具。
そして、新しい力。
まだ見たことのない階層はこの先に続いている。
【保有:30P】
【累計獲得P:203,240P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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