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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第5章 Aランク冒険者

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第76話 ドラゴンの痕跡

 翌朝。


 俺とフェリシアは、ロゼッタ村の冒険者ギルド支所へ向かった。


 昨日の受付嬢が待っていて、机の上に一枚の地図を広げる。


「こちらをお持ちください」


 ロゼッタ村と、その北に広がる山々が描かれている。


 今回の目撃地点には印がつけられていた。


「この辺りですね」


「はい。坑道へ続く道から、さらに北へ入った場所です」


 地図を見る。


 村からは、それなりに距離がある。


「分かりました」


 地図を《収納》へ入れる。


「気をつけてください」


「はい。行ってきます」


 俺たちはギルドを出た。


 ◇


 村の北側から山へ向かう道に入る。


 最初のうちは、鉱石を運ぶ荷車が通るため道幅も広く、きちんと整備されていた。


 ただ、昨日まで狩りをしていた裏山とは方向が違う。


 しばらく歩くと、建物も人の姿も見えなくなった。


「こっちの方が山深いですね」


「ですね」


 道の両側には背の高い木が並んでいる。


 鳥の声。


 風で葉が擦れる音。


 それ以外は静かだった。


 一時間ほど進んだところで、ふと気づく。


「……フェリシアさん」


「はい」


「魔物、見ました?」


 フェリシアが周囲を見る。


「いえ」


「俺もです」


 昨日までいたゴブリンも、グレイウルフも、角ウサギすら見かけない。


 《魔力感知》へ意識を向ける。


 周囲の魔力を探る。


「どうです?」


「大きな反応はありません」


「やっぱり……」


 フェリシアの声が少し低くなる。


「静かすぎませんか?」


「俺もそう思います」


 昨日の裏山とは明らかに違う。


 さらに北へ進んだ。


 道は次第に細くなり、やがて人が歩ける程度になる。


 その時だった。


 前方の茂みが激しく揺れた。


「何か来ます」


 ミスリルブレードへ手を掛ける。


 フェリシアもミスリルロッドを構えた。


 ガサガサッ!


 飛び出してきたのは――。


「グレイウルフ?」


 一体。


 二体。


 さらに三体。


 灰色の狼型魔物がこちらへ走ってくる。


「来ます!」


 剣を抜く。


 でも。


「……え?」


 先頭のグレイウルフは俺を見ても止まらなかった。


 横を通り過ぎる。


 二体目も。


 三体目も。


 俺たちには見向きもしない。


 そのまま山を下る方向へ走り去っていった。


「襲ってこなかった……」


 フェリシアが振り返る。


「俺たちから逃げたわけじゃないですね」


「じゃあ……」


 二人でグレイウルフが来た方向を見る。


「何かから逃げてる?」


「たぶん」


 さっきまでより、山が静かに感じた。


 ◇


 さらに一時間ほど進んだ。


 地図によれば、目撃情報があった辺りはもう近い。


「アレンさん」


 フェリシアが足を止める。


「これ……」


 道の脇。


 土が大きくへこんでいた。


 近づく。


「足跡?」


「だと思います」


 俺の身体よりはるかに大きい。


 三本の太い指のような跡があり、その先には深く土へ食い込んだ爪痕まで残っている。


 しゃがんで確認した。


「こんなのが歩いてるんですか」


「ドラゴンなら、このくらいなんでしょうか」


「分かりません」


 俺も本物のドラゴンを見たことはない。


 足跡の横には折れた枝。


 さらに先では、小さな木が根元から倒れていた。


「こっちにもあります」


 少し離れた場所に、もう一つ足跡。


 同じ形だ。


 地図へ位置を書き込む。


「情報にあった場所と一致してますね」


「はい」


 さらに少し進む。


 今度は、何本もの木が黒く焦げている場所へ出た。


「これが……」


 一本だけじゃない。


 斜面の一部で、幹や枝が炭のようになっている。


 近づいてみる。


 すでに熱は残っていない。


「火事の跡には見えませんね」


 フェリシアが周囲を見る。


「ここだけですからね」


 焦げているのは一方向に偏っている。


 山火事なら、もう少し広く燃えていてもおかしくない。


 これだけでも十分不自然だ。


 でも。


「もう少し先まで行ってみます?」


「はい」


 俺たちはさらに山奥へ進んだ。


 十分ほど歩いたところで、フェリシアが突然止まる。


「アレンさん」


「どうしました?」


「これ……さっきのとは違います」


 見る。


 一本の木の幹が黒く焼けている。


 その後ろの草も一部だけ焦げていた。


 さっき確認した場所とは離れている。


 近づいた瞬間、焦げた匂いが鼻についた。


「匂いが強いですね」


「はい」


 フェリシアが手を近づける。


「まだ少し温かいです」


「新しい?」


「たぶん、かなり」


 つまり。


「今も、この辺りにいる可能性が高いですね」


「そう思います」


 さっきまでとは違う緊張が走る。


 ◇


 その先で、さらに痕跡を見つけた。


 大きな獣の死骸。


 鹿に似た魔物だった。


 身体の半分近くがなくなっている。


「食べられたんでしょうか」


「たぶん」


 周囲の地面には血の跡。


 近くの土には、太い爪で抉られたような傷まで残っている。


 フェリシアの顔から、さっきまでの軽い雰囲気が消えていた。


「アレンさん」


「はい」


「ここから先、もっと気をつけましょう」


「ですね」


 《魔力感知》へ意識を向ける。


 周囲の魔力を探る。


 最初は何も感じない。


 そのままゆっくり歩く。


 五分。


 十分。


 そして。


「……待ってください」


 俺は足を止めた。


「どうしました?」


「何かいます」


 フェリシアも立ち止まる。


「どっちです?」


「北です」


 山のさらに奥。


 かなり距離があるはずなのに。


「大きい」


「魔物ですか?」


「分かりません」


「分からない?」


「こんな反応、今まで感じたことがないです」


 ブラックキマイラも強い魔力を持っていた。


 でも、今感じているものは違う。


 遠い。


 それなのに、そこに何かいるとはっきり分かる。


「戻りますか?」


 フェリシアが聞く。


 考える。


 依頼は調査。


 すでに足跡も焼け跡も見つけた。


 しかも新しい痕跡まである。


 ここで戻っても十分報告はできる。


 でも、ドラゴンだと確定したわけじゃない。


「もう少しだけ」


「分かりました」


「姿が見えたら、それ以上は近づきません」


「はい」


 慎重に進む。


 道を外れ、木々の間を抜けた。


 やがて山の斜面が急になる。


 岩の多い場所まで来たところで、魔力の反応がさらに強くなった。


「近いです」


「どれくらい?」


「かなり」


 声を落とす。


 その時。


 バサッ。


 遠くから大きな音が聞こえた。


「……?」


 もう一度。


 バサッ。


 風が来た。


 木々の枝が大きく揺れる。


「上!」


 フェリシアの声。


 見上げる。


 空を巨大な影が横切った。


「……っ!」


 大きい。


 前に戦ったストームワイバーンとは、比べものにならない。


 赤い鱗。


 長い尾。


 太い脚。


 巨大な翼が一度動くたび、空気そのものが押される。


「ドラゴン……」


 フェリシアが呟いた。


 本当にいた。


 俺は岩陰へ身を寄せる。


 フェリシアも隣へ入った。


 ドラゴンはまだこちらに気づいていない。


「《鑑定》」


 視界に文字が浮かぶ。


【レッドドラゴン】


【赤い鱗を持つ大型の竜種】


【高温の火炎を吐き、高い飛行能力を持つ】


「レッドドラゴン……」


「分かるんですか?」


「《鑑定》に出ました。高温の火炎を吐く大型の竜種だそうです」


 フェリシアが息を呑む。


 さっき見た焼け跡。


 説明とも一致する。


 間違いない。


 あれを見れば、戦おうなんて考えは浮かばない。


 ブラックキマイラとは違う。


 空を飛んでいるだけなのに、身体が勝手に警戒している。


 腰には新しいミスリルブレードがある。


 昨日、岩を簡単に斬った剣だ。


 でも、今は抜こうとも思わなかった。


 レッドドラゴンが大きく翼を動かす。


 そのまま山のさらに北側へ向かって飛んでいく。


「追いますか?」


 フェリシアが小声で聞く。


 すぐには答えなかった。


 依頼はすでに達成できる。


 姿を確認した。


 種類まで分かった。


 これ以上近づく必要はない。


「……いえ」


 ミスリルブレードの柄から手を離す。


「戻りましょう」


「はい」


 あれと戦うために来たわけじゃない。


 新しい剣を手に入れたからといって、何でも斬れるわけでもない。


 俺たちは来た道を戻り始めた。


 その時。


 山の向こうから――。


 グオオオオオオオオッ!!


「っ!」


 空気が震えた。


 鳥が一斉に木々から飛び立つ。


 足元の小石まで震えている。


 フェリシアと顔を見合わせる。


 あれがレッドドラゴン。


「急ぎましょう」


「はい」


 俺たちは山を下り始めた。


 まずはロゼッタへ戻って、このことを報告しないといけない。


 この山に、本当にドラゴンがいることを。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
更新ミスかな? 綻びの目ならどう見えるんだろう(笑)
75話と内容が同じではないでしょうか
大事な事なので2度書いたか…
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