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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第5章 Aランク冒険者

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第73話 名工ドレイク

 ロゼッタ村の北側へ続く道を上っていく。


 村の中心から離れるにつれて、家の数は少なくなっていった。


代わりに山肌が近くなり、道の脇には切り出された石材や木材が積まれている。


「一番奥って言ってましたよね」


「はい」


 御者から聞いた通り、そのまま坂を上っていく。


 しばらくすると、村中から聞こえていた槌の音も遠くなった。


 その先に、一軒だけ大きな建物が見える。


 石造りの工房。


 高い煙突。


 建物の裏手には大きな水車もあった。


 ただ――。


「動いてませんね」


 フェリシアが言った。


「ですね」


 水車は止まっている。


 煙突から煙も上がっていない。


 村ではあれだけ鍛冶の音が響いていたのに、ここだけ妙に静かだった。


 工房の扉を叩く。


「すみません」


 返事はない。


 もう一度叩いた。


「ドレイクさん、いらっしゃいますか?」


 しばらくして、中から足音が聞こえてきた。


 扉が開く。


 出てきたのは六十歳くらいの男だった。


 背はそれほど高くないが、腕は太い。短く切った白髪に、煤で黒くなった革の前掛け。


「誰だ」


「アレン・ヴァルディスです」


「フェリシア・ロートと申します」


「知らんな」


 そのまま扉を閉めようとする。


「待ってください」


「何だ」


「ベルガント伯爵様から紹介状を預かっています」


 ドレイクの動きが止まった。


「ベルガント?」


「はい」


 《収納》から封筒を取り出す。


 ドレイクは受け取ると、その場で封を開けた。


 しばらく黙って読む。


「……あいつか」


 知り合いらしい。


「入れ」


 さっきよりは少しだけ態度が柔らかくなった。


 工房の中へ入る。


 壁には大小さまざまな槌や工具が掛かっていた。


 奥には大きな炉があるが、火は消えている。


 作業台には途中まで加工された剣や金属片が置かれていた。


「それで、何を作れって?」


「剣です」


「私は杖をお願いしたいです」


「素材は?」


「これです」


 《収納》から二つの木箱を取り出す。


 蓋を開けた。


 銀白色の鉱石を見た瞬間、ドレイクの目が変わった。


「……ミスリルか」


「分かるんですか?」


「何年この仕事をやってると思ってんだ」


 木箱の前へしゃがみ、一つ手に取る。


 表面を見て、重さを確かめる。


「悪くない」


 別の鉱石も確認する。


「むしろ、かなりいい」


「じゃあ――」


「無理だ」


「え?」


 ドレイクが鉱石を木箱へ戻した。


「今は作れん」


「材料が足りないんですか?」


「違う」


「費用なら払えます」


「金の話でもねえ」


 即答だった。


 紹介状がある。


 素材も問題ない。


 金でもない。


「だったら、何が問題なんです?」


 ドレイクが工房の奥を指した。


「炉だ」


「炉?」


「普通の鋼なら小さい炉でも何とかなる。

 だが、ミスリルをまともに扱うにはあの炉が必要だ。今は火力も送風量も足りねえ」


 大きな炉を見る。


「送風機を水車で動かしてるんだが、三日前から止まってる」


「壊れたんですか?」


「水が来てねえ」


 さっき見た水車が止まっていた理由はそれか。


「山の上から引いている水路が、落石で塞がれた」


「岩をどかせばいいんですよね?」


「できるなら、とっくにやってる」


 ドレイクが眉を寄せた。


「昨日まで石工も入れてた。だが、落ちた岩が水路へ食い込んでる上に、その下の石組みにまで亀裂が入ってやがる」


「砕くのも駄目なんですか?」


「ああ。水路ごと崩れたら、修理に何週間かかるか分からん」


 鉱山の村でも手が出せない理由はそこらしい。


「見に行ってもいいですか?」


「好きにしろ」


 ドレイクが立ち上がる。


「見たところで変わらんと思うがな」


 ◇


 工房の裏から山道を上る。


 ドレイクも一緒だ。


 十分ほど歩いたところで、水の音が聞こえてきた。


 ただし、かなり弱い。


 斜面に沿って石造りの水路が伸びている。


 その途中に、大きな岩が落ちていた。


「これか……」


 高さは俺の胸くらい。


 横幅はもっとある。


 岩の一部が水路へ食い込み、上流から来た水をほとんど塞いでいる。


 さらに悪いことに、水路は山肌から少し張り出すように組まれていた。


 下は急な斜面だ。


「俺が持ち上げてみます」


「やめとけ」


 ドレイクが止める。


「岩の下を見ろ」


 しゃがんで確認する。


 岩が食い込んでいる部分の下で、水路の石組みに細い亀裂が走っていた。


「無理に動かしたら……」


「そのまま下へ崩れる可能性がある」


「なるほど」


 岩を壊すだけなら難しくないと思う。


 でも水路を壊さずに、となると話が変わる。


「フェリシアさん?」


 少し離れたところで、フェリシアが岩を調べていた。


 正面から見たあと、横へ回る。


 しゃがみ込んで、岩と水路の境目を見る。


「ここだけ、割れ方が違います」


「どこです?」


 近づく。


 フェリシアが岩の側面を指した。


 細い亀裂が一本走っている。


「この亀裂、奥まで続いてるみたいです」


 ドレイクも覗き込む。


「確かに入ってるな」


「全部を砕く必要はないと思います」


「どうする?」


「この部分だけ外します」


 フェリシアが水路へ食い込んでいる場所より少し上を示した。


「ここから亀裂を広げれば、上側だけ分離できると思います」


「そんな細かく砕けるのか?」


「やってみます」


 フェリシアが少し離れ、白銀樹の杖を構えた。


 魔力が集まる。


 でも、普段の戦闘で使う魔法弾よりずっと小さい。


 放つ。


 岩の亀裂へ当たった。


 パキッ。


 表面が少し欠ける。


「それだけか?」


「これでいいんです」


 フェリシアがもう一発放つ。


 同じ場所。


 三発目。


 今度は角度を少し変える。


 一発一発の威力は小さい。


 でも、ほとんど同じ場所へ当たっていた。


 亀裂が少しずつ深くなっていく。


「……すげえ精度だな」


 ドレイクが小さく呟いた。


「大きな魔法を撃ったら水路まで壊してしまいますから」


 さらに二発。


 乾いた音が岩の奥から響く。


「アレンさん」


「はい」


「たぶん、ここまでで大丈夫です」


 亀裂へ手を掛ける。


 力を込めた。


 ミシッ。


 岩の上半分がゆっくり動く。


「おお……」


 そのまま水路へ落とさないように持ち上げ、横の地面まで運んだ。


 残った岩はまだある。


 でも、水を塞いでいた部分は大きく減った。


 直後、上流から水が一気に流れ込んでくる。


 石造りの水路を走り、山の下へ向かっていった。


「通りましたね」


「はい」


 フェリシアがほっとしたように息を吐く。


 ドレイクは水路ではなく、フェリシアを見ていた。


「嬢ちゃん」


「はい?」


「今の魔法、普段からあんな使い方してるのか?」


「戦う時はもっと威力を上げます。でも、細かく狙うこともあります」


「……そうか」


 それだけ言うと、ドレイクは山道を下り始めた。


「戻るぞ」


 ◇


 工房へ戻る。


 裏手から、ゴトン、と重い音が聞こえた。


 水車が回り始めている。


 最初はゆっくりだったが、やがて一定の速さになる。


 それに合わせて工房内の送風機が動き出した。


 ドレイクが炉へ火を入れる。


 風が送り込まれた瞬間、炎が大きく立ち上がった。


「これなら使える」


 しばらく炎を見たあと、ドレイクが振り返る。


「ミスリルを出せ」


「作ってくれるんですか?」


「気が変わった」


 木箱をもう一度出す。


 ドレイクはミスリル鉱石を手に取りながら、フェリシアを見る。


「嬢ちゃん」


「はい」


「杖を見せろ」


「これですか?」


 白銀樹の杖を渡す。


 ドレイクが先端から柄まで確認していく。


「悪くない杖だ」


「ありがとうございます」


「だが、お前ならもう一段上を使える」


「私が?」


「あれだけの威力を持ってて、あそこまで細かく魔力を絞れるならな」


 フェリシアが少し驚いた顔をする。


「杖は魔法の威力だけを上げりゃいいってもんじゃねえ。

 魔力をどれだけ無駄なく、狙った通りに流せるかも重要だ」


 ドレイクが杖を返す。


「ミスリルを使えば、今より魔力の通りは良くできる」


「お願いします」


「まだ金の話をしてねえぞ」


「あ……」


 ドレイクが俺を見る。


「剣も同じだ」


「はい」


「先に言っとく。安くはねえ」


「いくらですか?」


「剣が一千二百万ジェニー」


「一千二百万……」


 黒竜剣とほとんど変わらない値段だ。


「嬢ちゃんの杖は一千万ジェニー」


 フェリシアと顔を見合わせる。


 二人合わせて二千二百万ジェニー。


 さすがに高い。


「勘違いすんなよ」


 ドレイクが続ける。


「それでもミスリルを持ち込んでるからこの値段だ。

 素材から俺が用意するなら、こんな金額じゃ済まねえ」


「なるほど」


「精錬からやる。必要なら別の金属や魔石も使う。全部、お前らに合わせた一品物だ」


 それなら高いのも分かる。


「お願いします」


 答える。


 ドレイクが俺を見る。


「……今の金額、聞いてたか?」


「聞いてます」


「一千二百万だぞ?」


「はい」


 フェリシアも頷く。


「私もお願いします」


「値切らねえのか?」


「必要なものなので」


 安いとは思わない。


 でも、命を預ける剣だ。


 それに、今の俺なら払える。


「腕のいい人に作ってもらうためのお金ですよね?」


「まあ、そうだ」


「なら払います」


 ドレイクがしばらく俺を見る。


「変な若造だな」


「よく言われます」


「誰にだ」


「色んな人に」


 鼻で笑った。


「分かった」


 作業台の上へミスリル鉱石を置く。


「剣一本。杖一本」


「はい」


「どんな剣が欲しい?」


 考える。


 炎牙剣はいい剣だった。


 魔力を流せば炎も出た。


 ずっと俺と一緒に戦ってきた。


 でも、ブラックキマイラとの戦いには耐えられなかった。


「丈夫な剣です」


「それだけか?」


「今の俺が全力で使っても、壊れない剣が欲しいです」


「……全力ねえ」


 ドレイクが俺の腰にある騎士剣を見る。


 それから顔へ視線を戻した。


「面白え」


 今度はフェリシアを見る。


「嬢ちゃんは?」


 フェリシアが白銀樹の杖を見る。


「今より、魔力を速く正確に扱える杖が欲しいです」


「威力じゃなく?」


「威力だけなら、今でも十分あります」


 ブラックキマイラとの戦いを思い出す。


 あの時、フェリシアはかなり魔力を消耗していた。


 それでも残った魔力を集中させ、山羊の頭を正確に撃ち抜いた。


 強い魔法を撃てるだけじゃ足りない。


 必要な時に、必要な場所へ撃てること。


 フェリシアも、それを感じたんだと思う。


 ドレイクが少しだけ笑った。


「分かった」


 作業台の上のミスリルへ手を置く。


「作ってやる」


 ようやく、俺たちの新しい剣と杖を作ってもらえることになった。


 累計獲得P=163,600P



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― 新着の感想 ―
岩、そんな丁寧に砕かなくても 収納したら良かったのでは? この話に限らず、 物語を進めるためのメタ的な都合で 主人公たちの行動が 歪まされてる気がします
エピソード73という、まだまだ先がある面白いところで1つ感想というか期待感を。 レティシアさんの過去がほんの少し明らかになりましたね。 この物語はのベースは、「役にたたないと思われている」または「…
粗利がどれぐらいかわからないが、お高い気がするなぁ。ミスリルを精錬する炉を個人の攻防が持つから高いのでは。産出する領地で精錬までやる、産業のメリットを享受したいわ
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