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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第5章 Aランク冒険者

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第72話 北へ

 グレンツ伯爵領へ向かうと決めてから、三日が経った。


 その間に、俺とフェリシアは旅の準備を済ませた。


 厚手の外套に山道用の靴。保存食や水、毛布、雨除けの布も買って《収納》へ入れてある。


「やっぱり多くないですか?」


「持てますから」


「《収納》があると、アレンさんはどんどん荷物が増えますね」


「途中で足りなくなるよりいいでしょう?」


「それはそうですけど」


 フェリシアが苦笑する。


 グレンツ領北部は山が多く、ベルガントより気温も低いらしい。


何が必要になるか分からない以上、準備しておいて困ることはない。


 出発前日。


 俺たちは、もう一度ベルガント伯爵邸を訪れた。


 ◇


「こちらになります」


 騎士が二つの木箱を机へ置いた。


 蓋を開ける。


 中には銀白色の鉱石がいくつも入っていた。


 十階層で俺が削り取ったものより、一つ一つがずっと大きい。


 一つ手に取る。


「《鑑定》」


【ミスリル鉱石】


 間違いない。


「昨日、ギルドと騎士団で十階層まで入り、鉱脈を確認しました。

伯爵様から、お二人の装備を作るのに必要な量を確保するよう命じられています」


「こんなにもらっていいんですか?」


「精錬すれば全部がミスリルになるわけではありません。

実際にどれだけ取り出せるかは、鉱石の質と職人の腕次第だそうです」


「なるほど」


 フェリシアも鉱石を一つ持ち上げた。


 窓から差し込む光を受けて、銀色の表面がわずかに青く光る。


「これが杖になるかもしれないんですね」


「俺のは剣ですね」


「作ってもらえれば、ですけど」


「そこが問題ですね」


 騎士が小さく笑った。


「そのことについて、伯爵様からもう一つ預かっています」


 一通の封筒を渡される。


「グレンツ領北部のロゼッタ村に、ドレイクという鍛冶師がいます」


「ドレイク?」


「伯爵様によれば、ミスリルを扱える職人の中でも特に腕がいいそうです。こちらはドレイク殿への紹介状です」


 封筒を見る。


 これで、いきなり訪ねて追い返される可能性は少し下がったかもしれない。


「ありがとうございます」


「ただ……」


 騎士が少し言いにくそうな顔をした。


「何です?」


「いえ。伯爵様からは、とにかく紹介状を渡すようにとしか」


 妙な言い方だ。


 気にはなったけど、それ以上は聞かなかった。


 二つの木箱と紹介状を《収納》へ入れる。


 これで準備は整った。


 翌朝、俺たちはベルガントの北門から出る乗合馬車に乗った。


 目的地はグレンツ伯爵領北部、ロゼッタ村。


 四日の旅になる。


 ◇


 一日目は、まだベルガント周辺の見慣れた景色が続いた。


 街道の両側には畑が広がり、ベルガントへ向かう荷馬車と何度もすれ違う。


荷台にあるのは穀物や布、酒樽、野菜。あの大きな街へ運ばれていく品々だ。


 馬車が北へ進むにつれ、背後の城壁は少しずつ小さくなっていった。


「随分長くいましたね」


 フェリシアが振り返る。


「そうですね」


 初めてベルガントへ来た時は、ここまで長く住むなんて考えていなかった。


 冒険者ランクも上がった。


 装備も変わった。


 《会員》でできることも増えた。


 いつの間にか、あの街へ戻ることを「帰る」と思うようになっている。


 やがて城壁は見えなくなり、午後になると畑も少なくなった。


代わりに森が街道の近くまで迫り、その日は林業で栄えている宿場町に泊まった。


 二日目になると、道は緩やかに上り始めた。


 低い丘が続き、その向こうには山並みが見える。


 街道沿いでは畑より牧草地が目立ち、牛や羊が草を食んでいた。


やがて大量の薪を積んだ場所や、低い屋根から煙を上げる小屋も現れる。


「あれは何でしょう?」


「炭焼きだよ」


 御者が前を向いたまま答えた。


「この辺りはグレンツへ木炭を送ってる村が多いんだ」


「木炭をそんなに使うんですか?」


「鉱石から金属を取り出すにも、鍛冶にも火がいるからな。

向こうじゃ木炭はいくらあっても足りん」


 言われてみれば、すれ違う荷馬車も昨日とは違う。


 穀物や布の代わりに、薪や木炭を積んだ荷車が増えていた。


中には荷台いっぱいに灰色の石を積んだものまである。


「鉱石でしょうか」


「たぶん」


 目的地へ近づいている。


 そう実感したのは、その頃からだった。


 ◇


 三日目の昼前。


 低い峠を越えたところで、景色が一気に変わった。


 左右から山が迫り、斜面のところどころで灰色の岩肌が露出している。


街道に沿って流れていた川も細い流れではなくなり、岩の間を白く泡立ちながら下っていた。


 反対側から、大きな荷馬車がやってくる。


 四頭の馬が引く荷台には、黒っぽい鉱石が山のように積まれていた。


すれ違う時、木製の車輪を覆った分厚い鉄輪が石を踏み、重い音を響かせる。


「ここからグレンツ領だ」


 御者が言った。


「もう入ったんですか?」


「ああ。見てればそのうち分かるよ」


 その意味は、少し進んだところで分かった。


 山裾から何本もの煙が立ち上っている。


 大きな建物の横には鉱石を積んだ荷車が並び、高い煙突から黒い煙が途切れることなく吐き出されていた。


「精錬所だ」


 近づくにつれて、炭の焼ける匂いが馬車の中まで入ってくる。


 煤で顔や腕を黒くした男たちが荷台から鉱石を降ろし、その横では別の男たちが木炭を運んでいた。


建物の奥からは炎の明かりが見え、時折、熱気が道路まで流れてくる。


 さらに進むと、金属を叩く音まで聞こえ始めた。


 カン、カン、と一定の間隔で響く音が、ひとつではない。


 街道沿いには鍛冶場が点在し、店先には鎌や斧、つるはしが並んでいる。


その隣には剣や槍まで置かれていた。荷馬車の車輪には太い鉄輪が巻かれ、建物の扉や窓にも頑丈そうな金具が使われている。


「すごいですね」


 フェリシアが窓の外を見ながら言った。


「ベルガントとは全然違います」


「向こうは色んなものが集まる街でしたからね」


 ベルガントには王国中から品物が集まってくる。


 ここは逆だ。


 山から石を掘り出し、火に入れ、叩き、別のものへ変えて送り出している。


 鉱山の領地という言葉の意味が、ようやく分かった気がした。


 その日の宿場も、今までとは違っていた。


 一階の食堂には鉱夫らしい男が多く、壁にはつるはしやランタンが掛けられている。


隣の席では、明日どの坑道へ入るかという話をしていた。


 窓の外では、暗くなってもどこかで槌の音が続いている。


 この土地では、鉱山と鍛冶が特別なものじゃない。


 生活そのものなんだ。


 ◇


 四日目。


 馬車はさらに山奥へ入った。


 街道は昨日までより細くなり、片側には急な斜面、反対側には深い谷が続く。


谷底を流れる川は底の石まで見えるほど澄んでいた。


 背の高い針葉樹が増え、枝が空を覆う。


 窓から入ってくる風も、ベルガントを出た時より明らかに冷たい。


「外套、買って正解でしたね」


 フェリシアが首元を押さえた。


「はい。やはり北の方へ来ると少しずつ寒くなりますね」


「アレンさん、すごく嬉しそうですね」


「はい。ここまで北上するのは初めてなのでワクワクしてます」


 馬車に乗っていた客は、途中の町や鉱山の入口で次々と降りていった。


 最初は十人近くいたのに、昼を過ぎる頃には俺たちを含めて四人しか残っていない。


 道も次第に険しくなり、大きな荷馬車とはすれ違わなくなった。


 代わりに、鉱石を積んだ小さな荷車や、つるはしを担いで歩く人を何度も見かける。


 しばらくして、左右を山に挟まれていた谷が少しだけ開けた。


 川沿いに建物が見えてくる。


「次がロゼッタ村だ」


 御者の声に、フェリシアと一緒に外を見る。


 山間の村と聞いて、もっと小さな場所を想像していた。


 けれど、川沿いには何十もの家が並び、その間からいくつも煙突が伸びている。


村の奥では山肌が大きく削られ、黒い坑道の入口が口を開けていた。


 馬車が村へ入る。


 まず聞こえたのは、槌の音だった。


 右からも、左からも響いてくる。


 開け放たれた工房の奥では炉が赤く燃え、職人が火の中から取り出した金属を叩いている。


 通りには鉄と炭の匂いが混じっていた。


 つるはしを肩に担いだ男が歩き、別の荷車には掘り出したばかりらしい鉱石が積まれている。


軒先に農具を吊るしている店もあれば、剣や槍を並べている店もあった。


「……村ですよね?」


 フェリシアが言う。


「たぶん」


「武器屋だけなら、ベルガントより多くないですか?」


「そう見えますね」


 鍛冶の村。


 言葉だけなら聞いたことがある。


 でも、実際に来ると想像していたものとは全然違った。


 ここでは剣を作ることすら、特別な仕事ではないらしい。


 馬車が村の中央にある広場で止まった。


「ロゼッタだ。ここが終点だよ」


「ありがとうございました」


 荷物は全部《収納》に入っているので、そのまま馬車を降りる。


 御者が荷台を確認している間に、一つ聞いてみることにした。


「すみません」


「ん?」


「ドレイクさんの工房って、どこにありますか?」


 御者の動きが止まった。


「ドレイク?」


「はい。鍛冶師の」


「そりゃ知ってるが……」


 俺とフェリシアを見る。


「何の用だ?」


「剣を作ってもらいたくて」


「私は杖をお願いできればと思っています」


「……あのドレイクに?」


「伯爵様から紹介状もいただいています」


「紹介状ねえ」


 それを聞いても、御者の表情はあまり変わらなかった。


 少し離れた山の斜面へ視線を向ける。


「村の北側に上っていく道がある。その一番奥だ」


「ありがとうございます」


 俺たちが歩き出そうとすると、背後から声が飛んできた。


「兄ちゃん」


「はい?」


 振り返る。


 御者が少し笑っていた。


「作ってもらえるといいな」


「……どういう意味です?」


「会えば分かるさ」


 それ以上は教えてくれなかった。


 フェリシアと顔を見合わせる。


「伯爵様の紹介状がありますよね?」


「あります」


「ミスリルもあります」


「ありますね」


 材料もある。


 紹介状もある。


 ここまで四日かけて来た。


 あとは作ってもらうだけだと思っていた。


 どうやら、そう簡単でもないらしい。


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急に察しがよくなるやんw 頭そんなに良くないのにw
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