第68話 《鑑定》
七階層。
階段を下りてすぐ、《魔力感知》にいくつもの反応があった。
「前に六体。少し離れたところに四体います」
「また多いですね」
「ですね」
六階層から魔物は明らかに強くなった。
それでも、俺たちの進む速度はほとんど落ちていない。
通路の奥から、アイアンオーガが二体現れる。
その後ろにはメタルスコーピオン。
「右をお願いします!」
「はい!」
フェリシアの魔弾が飛ぶ。
俺も炎牙剣を抜き、そのまま前へ出た。
振り下ろされた棍棒をかわし、アイアンオーガの脇腹を斬り抜ける。
そのまま二体目へ向かい、横から迫った魔物も返す刃で仕留めた。
フェリシアの方を見る。
「《魔弾》!」
青白い光がメタルスコーピオンの甲殻へ直撃した。
大きな身体が横へ吹き飛ぶ。
すぐに次の魔弾が飛んだ。
俺だけじゃない。
フェリシアもかなり強くなっている。
戦闘を終え、地図を広げる。
「この辺りにも鉱石がありますね」
フェリシアが壁を指した。
六階層まで何度も見つけた黒っぽい鉱石だ。
「場所だけ記録しておきましょう」
「はい」
通路の形。
出現した魔物。
数。
鉱石が見つかった場所。
確認できるものを一つずつ記録しながら進む。
七階層を一通り調べたところで、《会員》を確認した。
【保有:40,290P】
【累計獲得P:142,500P】
「かなり増えました?」
「はい。七階層だけでも結構増えてます」
「やっぱり魔物が多いですね」
「この調子なら……」
五万P。
そこまで、もう遠くない。
◇
八階層。
ここでも魔物との遭遇は途切れなかった。
メタルスコーピオン。
アイアンオーガ。
ブレードマンティス。
西部ダンジョンなら、もっと深い階層で出てきた魔物が普通に現れる。
ただ、今の俺たちなら問題はない。
俺が前を切り開き、フェリシアが横から魔弾を撃ち込む。
魔物を倒すたびに地図へ記録を加え、そのまま奥へ進んだ。
八階層を抜ける頃には、Pもかなり増えていた。
【保有:45,890P】
【累計獲得P:148,100P】
「あと四千ちょっと……」
「何か買うんですか?」
フェリシアが聞く。
「五万を超えたら、プラチナで増えたスキルが一つ買えるんです」
「そういえば、五万Pのスキルがありましたね」
「はい」
《剣聖》も五万Pだった。
他にも同じ金額のスキルはいくつもある。
今すぐ何を買うかまでは決めていない。
ただ、このダンジョンに入ってから気になっているものが一つあった。
◇
九階層。
ここまで来ても、魔物の数は減らなかった。
むしろ複数体で現れることが増えている。
「また来ます!」
「何体ですか?」
「十一体!」
「多いですね!」
フェリシアが杖を構えた。
「半分お願いします!」
「分かりました!」
前方から魔物の群れが押し寄せる。
俺は正面から来た一体を斬り、そのまま次へ進む。
フェリシアの魔弾が横を抜け、奥にいた魔物を吹き飛ばした。
「まだ来ますよ!」
「見えてます!」
残りも次々と倒していく。
戦闘が終わったところで《会員》を開いた。
【保有:51,290P】
【累計獲得P:153,500P】
「超えた」
「五万ですか?」
「はい」
ついに五万Pを超えた。
プラチナ会員になった時に増えたスキルを表示する。
【《鑑定》 50,000P】
【《剣聖》 取得済み】
【《魔聖》 50,000P】
【《弓聖》 50,000P】
【《斧聖》 50,000P】
【《槍聖》 50,000P】
【《拳聖》 50,000P】
並んでいるものを見る。
戦うことだけを考えるなら、《魔聖》も気になる。
でも、今一番欲しいのは別のものだった。
【《鑑定》 50,000P】
「これにします」
「《鑑定》ですか?」
フェリシアが少し意外そうな顔をした。
「戦闘用のスキルじゃないんですね」
「このダンジョンを調べるなら、こっちの方が役に立ちそうなので」
正体の分からない鉱石。
初めて見る魔物が出てくる可能性もある。
伯爵から頼まれているのは、攻略ではなく調査だ。
なら、これが一番使える。
【《鑑定》を購入しますか?】
【必要P:50,000P】
迷わず決定する。
【50,000Pを使用しました】
【スキル《鑑定》を取得しました】
【保有:1,290P】
「一気に減った……」
「また稼ぎ直しですね」
「ですね」
でも、ここならPは稼ぎやすい。
「そうだ」
《収納》を開く。
「六階層で見つけた鉱石、調べてみます」
「あの青っぽいやつですか?」
「はい」
六階層で採った鉱石を一つ取り出す。
青みがかった灰色。
鉄鉱石らしい黒い石とは明らかに色が違う。
手に持ち、《鑑定》を使う。
「《鑑定》」
目の前に文字が浮かんだ。
【魔鉄鉱石】
【魔力を多く含む鉄鉱石】
【精錬すると、通常の鉄より魔力を通しやすい金属となる】
「魔鉄鉱石……」
「分かるんですか?」
「はい。魔力を含んだ鉄鉱石みたいです」
「それって、普通の鉄より珍しいですよね?」
「たぶん」
もう一つ。
今まで大量に見つけていた黒っぽい鉱石も取り出す。
「《鑑定》」
【鉄鉱石】
「こっちは鉄鉱石で合ってます」
「じゃあ、本当に鉄がかなり採れるんですね」
「そうみたいです」
しかも六階層では魔鉄鉱石まで見つかった。
これだけでも、伯爵へ持ち帰る情報としてはかなり大きい。
「《収納》」
二つの鉱石を戻す。
「十階層まで行きましょうか」
「はい」
九階層の地図を確認し、階段へ向かった。
◇
十階層。
階段を下りきったところで、今までとの違いに気づいた。
「広いですね」
フェリシアの声が響く。
「ですね」
通路ではない。
大きな空間になっている。
天井も高い。
ベルガント西部ダンジョンの十階層を思い出す。
あそこにも階層主がいた。
「もしかして、ここも……」
《魔力感知》を使う。
すぐに反応があった。
「います」
「何体ですか?」
「一体です」
でも。
これまでの魔物とは、反応の大きさがまるで違う。
「かなり強そうです」
暗い空間の奥を見る。
低い唸り声が響いた。
「グルルルルル……」
二つの赤い光が浮かぶ。
目だ。
巨大な前脚が暗闇から現れる。
「……大きい」
フェリシアが杖を構えた。
獅子のような頭。
巨大な身体。
その背中から、もう一つの頭が伸びている。
山羊。
さらに後ろで、長いものが動いた。
「蛇……?」
尾の先が大きな蛇になっている。
「キマイラ……」
フェリシアが呟く。
巨大な獅子の頭が、ゆっくりとこちらを向いた。
「グオオオオオオオオオッ!」
咆哮が十階層に響き渡った。
累計獲得P=153,500P
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