第66話 新発見ダンジョン
職員に案内され、俺とフェリシアはギルドの奥へ向かった。
何度か入ったことのある部屋だ。
扉を叩く。
「入れ」
「失礼します」
中ではギルドマスターが待っていた。
「戻ったか」
「はい」
「王都でAランクになったそうだな」
「もう伝わってるんですか?」
「当然だ。お前たちはベルガント所属の冒険者だからな」
ギルドマスターが苦笑する。
「それにしても早かったな。王都へ送り出した時は、もう少しかかると思っていた」
「俺もです」
ギルドマスターが笑った。
「まあ、座れ」
「はい」
俺たちは机の前に並んで座った。
「Aランク昇格については、あとで正式な記録も確認しておく。今日は別件だ」
「依頼ですか?」
「ああ」
ギルドマスターが机の上から一枚の書類を取った。
「ちょうどAランクへ依頼したい案件が来ている」
さっき職員が言っていた話だ。
「これだ」
書類がこちらへ向けられる。
【大規模商隊護衛】
【目的地:ルーフェン帝国】
そこまで読んだところで手が止まった。
「ルーフェン……」
隣のフェリシアを見る。
「…………」
表情はほとんど変わっていない。
でも、昨日事情を聞いたばかりだ。
今は戻りたくないだろう。
「商人十数組が参加する大きな商隊だ」
ギルドマスターが説明を続ける。
「荷馬車の数も多い。国境を越える長距離護衛だから、依頼主としても実績のある冒険者を付けたいらしい」
「期間は?」
「片道だけでも十日前後を見ている。往復まで受ければ、その倍以上だな」
「報酬は?」
「片道で一人二百万ジェニー。道中で大きな戦闘があれば危険手当も出る」
「二百万……」
かなり高い。
Aランク向けと言われるだけはある。
「どうしますか?」
もう一度フェリシアを見る。
目が合った。
フェリシアは何も言わない。
俺が決めるのを待っているようだった。
「すみません」
「ん?」
「その依頼は受けません」
フェリシアが俺を見る。
ギルドマスターも少し意外そうな顔をした。
「報酬が気に入らないか?」
「そうじゃありません」
「では?」
「少し事情があって、今はルーフェン帝国には行きたくないんです」
「お前が?」
「俺たちが、です」
一瞬だけ間があった。
ギルドマスターはフェリシアを見る。
それ以上は聞かなかった。
「そうか。なら別の案件にしよう」
「ありがとうございます」
「指名依頼というわけでもない。ちょうど、もう一件ある」
「もう一件?」
「ああ。むしろ、こっちはお前たちの方が向いているかもしれん」
今度は別の書類を取り出した。
机の上に広げる。
【ベルガント伯爵家 調査依頼】
「伯爵様から?」
「そうだ」
その下へ目を移す。
【調査対象:ベルガント南方森林・新発見ダンジョン】
「……ダンジョン?」
フェリシアも依頼書をのぞき込む。
「南方森林って、前に私たちが調査したところですよね?」
「そうだ」
ギルドマスターが地図を広げた。
ベルガントの南。
以前、俺たちが三日かけて調べた広大な森だ。
「お前たちが持ち帰った報告は覚えているか?」
「もちろんです」
魔物が多かった。
ソーンプラント。
ヴァインウォーカー。
それに、タイラントベアまでいた。
「開拓するなら、先に魔物を減らす必要があると報告しました」
「ああ。それを受けて、伯爵家が冒険者と領兵を集めた」
ギルドマスターが森の北側を指す。
「この二週間ほど、開拓予定地を中心に魔物の駆除を進めている」
「もう始めてたんですね」
「お前たちが王都へ行っている間にな」
知らないところで話が進んでいたらしい。
「最初は森の北側だけを安全にする予定だった。だが魔物を追って奥へ入った討伐隊が、妙な場所を見つけた」
指が森の中ほどへ移る。
「岩壁に大きな洞窟があった」
「洞窟?」
「ああ。最初はただの洞窟だと思われていた」
ギルドマスターが別の報告書を取り出す。
「中には魔物がいた。討伐隊が入口付近にいた魔物を全て倒したんだが、数日後に別の隊が確認すると、同じ種類の魔物がまた現れていた」
「それだけなら、外から入った可能性もありますよね?」
「ああ。だから最初はダンジョンとは断定しなかった」
ギルドマスターが頷く。
「だが、その後に調べると、洞窟内から魔石が見つかった。内部の魔力も外とは明らかに違う。
ギルドの調査員が確認して、ダンジョンである可能性が極めて高いと判断した」
「なるほど」
「奥は?」
「まだほとんど調べていない」
「どうしてですか?」
「発見した連中の仕事は、森の魔物を減らすことだからだ」
それなら勝手に奥へ入るわけにもいかない。
「それに、入口付近でもそれなりに魔物が出たらしい。
どれだけ深いのかも、何がいるのかも分からん場所へ、討伐隊をそのまま入れるわけにはいかない」
「それでAランクを?」
「そういうことだ」
ギルドマスターが依頼書を指で叩く。
「伯爵が知りたいのは、このダンジョンを今後どう扱うべきかだ」
「どう扱う?」
「ああ。確認してほしいことはいくつかある」
地図の横へ紙を置く。
「まず、無理のない範囲で内部を探索して、階層構造を確認する」
「はい」
「次に、各階層にどんな魔物がいるのか。どの程度のランクの冒険者なら探索できそうか」
続けて紙を指す。
「危険な場所があるなら、どこから先を立入禁止にするべきか」
「なるほど」
「そして、もう一つ」
ギルドマスターが机の隅に置いてあった小さな布袋を取った。
「どんな資源が取れるのか」
「資源?」
袋から黒っぽい石を一つ出す。
「これは?」
「ダンジョンの入口近くで見つかったものだ」
受け取って見る。
掌に乗るくらいの石。
黒い表面のところどころに、銀色のものが混じっている。
「鉱石ですか?」
「そうらしい」
フェリシアも横からのぞき込む。
「何の鉱石なんでしょう?」
「鍛冶師の話では、鉄を含んでいるのは間違いないそうだ」
「鉄ですか」
「ああ。ただ、それ以外の成分も混じっている。詳しく調べるには、これだけでは量が足りないらしい」
もう一度、石を見る。
「だから、鉱石も持ち帰ってほしいと?」
「できる範囲でな」
ギルドマスターが頷く。
「もし有用な鉱脈があるなら、話はダンジョンだけでは済まなくなる」
確かに。
魔物を倒して素材を取れる。
魔石も手に入る。
さらに鉱石まで採れるなら、相当な価値がある。
「ベルガント西部ダンジョンみたいになる可能性もあるんですね」
「それ以上になる可能性だってある」
「それ以上?」
「まだ誰も奥を知らんからな」
そう言われると、急に気になってきた。
何階層まで続いているのか。
どんな魔物がいるのか。
何が採れるのか。
全部分からない。
「ただし」
ギルドマスターの声が少し低くなった。
「最深部まで行けという依頼じゃない」
「はい」
「確認できる範囲で十分だ。危険だと思ったら戻れ」
「分かりました」
「伯爵が欲しいのは、今後の判断に使える情報だ。お前たちの死体じゃない」
「はい」
未知のダンジョン。
無茶をしてまで奥へ進むつもりはない。
「フェリシアさん」
「はい?」
「どうします?」
フェリシアが依頼書を見る。
少し考えてから、こちらを向いた。
「私は行きたいです」
「俺もです」
ギルドマスターが笑う。
「そう言うと思った」
「分かってたんですか?」
「お前たち、ダンジョンが好きだろ」
「好きというか……」
否定しようとしてやめる。
ベルガント西部ダンジョン。
王都西部ダンジョン。
どちらもかなり潜った。
「否定できませんね」
「私もです」
フェリシアも小さく笑った。
「じゃあ受けます」
「ああ」
ギルドマスターが依頼書へ印を押す。
「出発は好きな時で構わん。だが、討伐隊の拠点までは案内を付ける」
「森の中に拠点があるんですか?」
「入口から少し離れた場所に簡易拠点を作っている。伯爵家の兵もいるから、詳しい話はそこで聞け」
「分かりました」
依頼書を受け取る。
【ベルガント南方森林・新発見ダンジョン調査】
以前は、開拓できる土地なのかを調べるために入った森だった。
その奥で、今度はダンジョンが見つかった。
しかも、まだ誰も全容を知らない。
「明日の朝、出ましょうか」
「はい」
フェリシアも頷く。
未知のダンジョン。
何がいるのかは分からない。
でも、強い魔物がいるなら、それだけPも増える。
明日の出発が、少し楽しみになってきた。
累計獲得P=124,680P
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