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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第5章 Aランク冒険者

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第65話 フェリシアの事情

 ヴァルディス侯爵領を出てから、しばらく誰も話さなかった。


 馬車の窓から流れていく景色を眺める。


 さっきまでいた場所が、少しずつ遠ざかっていく。


 父上。


 カイル。


 十五年間暮らした土地。


 昔なら、ここを離れるだけで色々考えていたと思う。


 でも今は、不思議なくらい静かな気持ちだった。


「アレンさん」


 向かいに座っていたフェリシアが声をかけてきた。


「はい?」


「……私のこと、聞かないんですか?」


「何をです?」


「本当の名前とか。どうして偽名を使っていたのかとか」


「ああ」


 そういうことか。


「話したくなったら話してくれると思ってました」


「……気にならないんですか?」


「気にはなりますよ」


 フェリシアを見る。


「でも、話したくないことを無理に聞いても仕方ないでしょう?」


「…………」


 フェリシアはしばらく黙っていた。


 やがて膝の上で組んでいた手に少し力を入れる。


「私の本当の名前は、フェリシア・ローランドです」


「はい」


「父はルーフェン帝国で宰相をしています」


「それも、さっき聞きました」


「そうでしたね」


 フェリシアが小さく息を吐く。


「ロートという名前は、ルーフェン帝国を出てから使い始めました」


「見つからないためですか?」


「はい」


「なるほど」


 やっぱりそういうことらしい。


「父が嫌いで国を出たわけではありません」


「そうなんですか?」


「むしろ、大切に育ててもらいました」


 それなら、どうして国を出たんだろう。


 そう思ったところで、フェリシアが続ける。


「ただ、宰相の娘として生きていくことが、だんだん苦しくなっていったんです」


「宰相の娘として?」


「はい。私が何をするのか、どこへ行くのか、誰と会うのか。何を学ぶのかまで、周囲が決めていきました」


 フェリシアは窓の外へ目を向けた。


「結婚の話もありました」


「政略結婚ですか?」


「そうです。でも、それだけが理由ではありません」


「……」


「すみません。その先は、まだ……」


「分かりました」


 それ以上は聞かなかった。


「話したくなった時でいいですよ」


「……ありがとうございます」


 しばらく馬車の音だけが続いた。


「私は、自分のことを自分で決めてみたかったんです」


 フェリシアが再び口を開く。


「何をするのか。どこに住むのか。誰と一緒にいるのか。少しくらい、自分で選んでみたかった」


「それで冒険者になったんですか?」


「はい」


 少しだけ表情が柔らかくなる。


「最初は、ずっと続けるつもりではありませんでした」


「そうだったんですか?」


「少しだけルーフェンを離れて、自分で生活してみたかっただけです」


 でも、冒険者になった。


 そして俺と一緒に依頼を受けるようになった。


「アレンさんと依頼を選んで、報酬を受け取って。それが思っていたより楽しかったんです」


「そうなんですね」


「はい。それに……」


 フェリシアが少しだけ迷う。


「前より、自分で決められることが増えました」


 その感覚は、俺にも少し分かった。


 家を出てから初めて、自分で行き先を決めるようになったからだ。


「分かる気がします」


「アレンさんも?」


「はい」


 フェリシアがこちらを見る。


 少しして、表情を曇らせた。


「それと……偽名を使っていたことは、本当にすみませんでした」


「それは、ちょっと驚きました」


「ですよね……」


「でも」


 フェリシアを見る。


「フェリシアさんがフェリシアさんなのは変わらないので」


「……」


「ロートでもローランドでも、一緒に戦ってきたことは変わらないでしょう?」


 フェリシアが少し目を見開いた。


 それから静かに頭を下げる。


「……ありがとうございます」


「いえ」


 顔を上げたフェリシアの表情は、さっきより少しだけ明るくなっていた。


 ◇


「そういえば、アレンさん」


「はい?」


「カイルさんと戦っていた時、何か考えていましたよね」


「分かりました?」


「途中から雰囲気が変わったので」


「ああ……」


 確かに、一つ決めたことがある。


「Sランクを目指そうと思ってます」


「Sランク……」


「はい」


 フェリシアが驚いたように俺を見る。


「Aランクになったばかりですよね?」


「なったばかりですね」


「それでも、もう次を目指すんですか?」


「はい」


 王都でAランクになった。


 でも、それで終わりにしたいとは思わなかった。


「クロードさんみたいな冒険者になりたいんです」


「クロードさんみたいに?」


「はい。強さだけじゃなくて」


 戦場でも、普段でも。


 クロードさんが仲間から信頼されている理由を何度も見てきた。


「俺も、もっと上へ行ってみたいです」


「だからSランクですか?」


「はい」


 簡単になれるものではない。


 ほとんど存在しないと言われているくらいだ。


 でも、だからこそ目指す価値がある。


「アレンさんなら」


「はい?」


「本当にSランクまで行ける気がします」


「さすがに、そんな簡単にはいかないと思いますよ」


「簡単にはいかなくても、目指すんですよね?」


「……そうですね」


 それを言われると、その通りだった。


 フェリシアが微笑む。


「なら、私は応援します」


「ありがとうございます」


 目標は決まった。


 次はSランクだ。


 ◇


 それから数日。


 大きな問題もなく旅は進み、ようやく見慣れた街並みが見えてきた。


「ベルガントですね」


「戻ってきましたね」


「はい」


 馬車の窓から城壁を眺める。


 王都へ向かった時とは、ずいぶん状況が変わった。


 馬車を降りると、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


 扉を開ける。


 依頼掲示板。


 受付。


 冒険者たちの声。


 見慣れた光景だった。


 王都のギルドより規模は小さい。


 でも、こっちの方が落ち着く。


「お」


 奥から声がした。


「帰ってきたか」


「クロードさん」


 第一班のメンバーが何人か集まっていた。


 クロードさんの近くには、ボルクさんとラウルさんもいる。


「王都はどうだった?」


「無事、Aランクになれました」


「……もう?」


 ラウルさんが目を丸くした。


「早すぎないか?」


「俺もそう思います」


「本人が言うのかよ」


 ボルクさんが笑った。


 クロードさんも少し驚いたようだったが、すぐに笑う。


「まあ、お前ならそのうち上がるとは思ってたけどな」


「ありがとうございます」


 クロードさんを見る。


 やっぱりこの人は格好いい。


 俺も、いつかこんな冒険者になりたい。


「それで?」


「はい?」


「Aランクになって満足した顔じゃないな」


「分かります?」


「分かる」


 クロードさんが笑う。


「次は何を狙ってる?」


「Sランクです」


「……」


 今度はクロードさんまで少し黙った。


「本気か?」


「はい」


 クロードさんが俺の顔を見る。


 それから笑った。


「いいじゃないか」


「そう言ってくれるんですね」


「目指すだけなら誰にでもできる。でも、お前なら本当に狙えるかもしれないからな」


「ありがとうございます」


 クロードさんが俺の肩を軽く叩いた。


 その時。


「アレンさん」


 受付の方から呼ばれた。


「はい?」


 ギルド職員がこちらへ歩いてくる。


「お戻りになったばかりのところ申し訳ありません」


「どうしました?」


「ギルドマスターがお呼びです」


「俺を?」


「はい」


 職員が頷く。


「Aランク冒険者にお願いしたい案件があるそうです」


 王都から戻ってきたばかりだけど。


 どうやら、ゆっくりしている暇はなさそうだ。


 累計獲得P=124,680P



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― 新着の感想 ―
アレンくんのスキルは魔物か人を倒さないと真価がわからない物です 放逐されて冒険者になれたからこそ、ここまで強くなりました もし後継者のままだったり、弟のスペアとして飼い殺しにされてたら剣聖には勝てなか…
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