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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第4章 Aランクへの道

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第63話 フェリシア・ローランド

「フェリシアさんの意思を無視して渡すわけにはいかない」


 そう言うと、カイルが眉を寄せた。


「兄さん、これはそんな簡単な話じゃないよ」


「分かってる。でも、本人が嫌がってるだろ」


「だからって――」


「カイル」


 父上が低い声で止めた。


「ここでする話ではない」


 周囲には、父上たちの帰還を見に来た領民がまだ大勢いる。


 フェリシアのことをこれ以上話す場所ではない。


 父上の指示で、俺たちは街道沿いにある侯爵家の詰所へ移動した。


 騎士たちは外に残り、部屋へ入ったのは俺とフェリシア、父上、カイルの四人だけだった。


 父上がフェリシアを見る。


「まず確認させていただきたい。あなたは、フェリシア・ローランド殿で間違いないのですか?」


「……」


 フェリシアはすぐには答えなかった。


 膝の上で手を握っている。


 やがて、小さく息を吐いた。


「……はい」


 認めた。


「私の本当の名前は、フェリシア・ローランドです」


 ロートじゃない。


 今まで聞いていた名前は偽名だったということか。


「では、ルーフェン帝国宰相のご令嬢というのも?」


「はい」


 父上の表情が険しくなる。


 カイルはやっぱりそうだったという顔をしている。


 俺は隣に座るフェリシアを見た。


「ロートっていうのは……」


「偽名です」


「そうだったんですね」


「……すみません」


「いや」


 謝られても困る。


 確かに驚いた。


 でも、それ以上に今まで引っかかっていたことがつながった。


 王都へ向かう時も、フェリシアはルーフェン帝国を通ることを嫌がっていた。


 帰り道でも同じだった。


 理由を聞かなかったけど、こういうことだったらしい。


「一つ聞いてもいいですか?」


「はい」


「どうしてルーフェン帝国を出たんです?」


 フェリシアの視線が落ちる。


「それは……」


 言葉が続かない。


「……すみません。今は」


「分かりました」


 それ以上は聞かなかった。


 話したくないなら、無理に聞く必要はない。


 カイルが不満そうに俺を見る。


「兄さん、それでいいの?」


「何が?」


「偽名を使ってたんだよ?」


「だから?」


「だからって……」


 カイルが言葉に詰まった。


 父上がフェリシアへ尋ねる。


「一つだけ確認したい。あなたは誰かに連れ去られたのですか?」


「違います」


 今度はすぐに答えた。


「自分の意思でルーフェン帝国を出ました」


「では、今も戻る意思はないと?」


「……はい」


 父上はしばらくフェリシアを見たあと、カイルへ視線を移した。


「カイル」


「はい」


「ルーフェン帝国へは、彼女を見つけたことを報告する」


「だったら――」


「だが、我々がここで本人の意思を無視して拘束し、連れて行くことはできん」


 カイルが目を見開いた。


「でも父上、宰相閣下は――」


「頼まれたのは、見つけたら知らせてほしいという話だったはずだ」


「それはそうですけど……」


「ならば、まずは知らせればいい」


 父上は淡々と言った。


「その後、ルーフェン帝国がどう動くかは別の話だ」


 カイルは納得していないようだった。


「でも、宰相閣下は本当に心配してたんですよ」


 フェリシアの肩がわずかに動く。


「娘が突然いなくなったって。どこにいるかも分からないって。だからサハル王国にいるかもしれないなら、見つけたら必ず知らせてほしいって」


「……」


「それを知ってるのに、このまま行かせるんですか?」


 誰もすぐには答えなかった。


 カイルが間違っているわけじゃない。


 実際に父親から頼まれたんだ。


 心配している姿も見ている。


 それでも。


「フェリシアさん」


「はい」


「どうしたいですか?」


 フェリシアが俺を見る。


「今後のことです。ルーフェンに戻るのか、それとも」


「戻りたくありません!」


 はっきり言った。


 少し間を置いて続ける。


「私はベルガントへ戻りたいです!」


「分かりました」


「……アレンさんと一緒に」


 予想していなかった言葉だった。


「俺と?」


「はい」


 フェリシアは小さく頷いた。


「これまで通り、冒険者を続けたいです」


「分かりました」


 だったら俺から言うことはない。


「じゃあ、ベルガントへ戻りましょう」


「はい」


 フェリシアの表情が少しだけ緩んだ。


 その様子を、カイルが黙って見ていた。


「父上。話も終わったみたいなので、俺たちは行きます」


「そうか」


「ルーフェンへの連絡はお願いします」


「ああ」


 立ち上がる。


 フェリシアも続いた。


 扉へ向かおうとした時だった。


「兄さん」


 カイルに呼び止められた。


「何?」


「さっきの話だけど」


「さっき?」


「《剣聖》を倒したって話」


 またそれか。


「本当に兄さんが倒したの?」


「うん」


「一人で?」


「一人ってわけじゃないよ。仲間もいたし、フェリシアさんにも助けてもらった」


 フェリシアを見る。


「でも、最後に倒したのは俺」


「……」


 カイルが黙り込む。


「まだ信じられない?」


「……うん」


「別にいいよ」


「え?」


「信じなくても」


 俺は別にカイルに認めてもらうために戦ったわけじゃない。


 あの時、生きるために戦った。


 それだけだ。


「行きましょう、フェリシアさん」


「はい」


「待ってよ!」


 カイルの声が大きくなった。


「何?」


「なんでそんな平気なんだよ」


「何が?」


「僕が信じてないって言ってるんだよ?」


「だから、別にいいって」


「よくないだろ!」


 机を叩くような勢いで立ち上がった。


「僕は兄さんに勝ったんだ!」


 部屋が静かになる。


「カイル」


 父上が止めようとする。


 でも、カイルは続けた。


「あの時、兄さんは僕の剣を受けることもできなかった。避けることもできなかった。

何もできなかったじゃないか!」


「そうだな」


「だったら、なんでだよ!」


 カイルの顔には怒りというより、焦りが浮かんでいた。


「僕は《剣聖》なんだぞ」


「知ってる」


「その僕に何もできなかった兄さんが、別の《剣聖》を倒したなんて……」


 そこで言葉が止まる。


 ずっと不思議だった。


 昔から、俺に勝つことにこだわっていた。


 《剣聖》を授かった日もそうだった。


 自分が強くなったこと以上に、俺より強くなったことを喜んでいた。


 たぶん、カイルにとっては大事なことなんだろう。


「俺も、あの時とは違うよ」


「……違う?」


「半年以上、冒険者をやってきたから」


 魔物を倒した。


 戦争にも参加した。


 何度も死にかけた。


 強くなるためにPも使った。


 そして今は、《剣聖》だって持っている。


 でも、それをわざわざカイルに教えるつもりはなかった。


「強くなったよ」


「……」


 カイルが俺を見る。


 次に、腰の炎牙剣へ視線を落とした。


 しばらく黙ったあと、口を開く。


「だったら……」


「ん?」


「もう一回、僕と戦ってよ」


「……」


 カイルは真っ直ぐ俺を見ていた。


「兄さんが本当に《剣聖》を倒せるくらい強くなったのか」


 拳を握る。


「僕が確かめる」


 累計獲得P:124,680P



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