第62話 再会
翌朝。
俺とフェリシアは、王都の冒険者ギルドへ来ていた。
「お待ちしていました」
昨日、大量の魔物を預けた職員が声をかけてくる。
「査定、終わったんですか?」
「はい。かなりの量でしたので、昨夜から人を増やして確認しました」
職員が一枚の書類を差し出した。
【素材買取総額:5,320,000ジェニー】
「五百三十二万……」
昨日はPを稼ぐことばかり考えていた。
でも、倒した魔物はほとんど《収納》で持ち帰っている。
数が多ければ、素材だけでもこれくらいになるらしい。
「こちらはギルド銀行へ入金でよろしいですか?」
「……」
返事をする前に、ふと思った。
今までは、大金を持ち歩くのが危険だからギルド銀行に預けていた。
でも、今は《収納》がある。
グランドリザードまで丸ごと入る空間だ。
少なくとも、今持っている金を入れるくらいなら問題ないだろう。
「すみません。入金しなくて大丈夫です」
「現金でお受け取りになりますか?」
「はい。それと、今ギルド銀行に預けている分も全部引き出せますか?」
「全部ですか?」
職員が少し驚いた。
「かなりの額になりますが」
「大丈夫です」
しばらく待つと、金貨や銀貨の入った袋が次々と運ばれてきた。
「……これ、全部持っていくんですか?」
フェリシアも目を丸くしている。
「《収納》に入れます」
「あ」
一袋に触れる。
消えた。
もう一袋。
それも《収納》へ入れる。
次々としまっていくと、あれだけあった袋があっという間になくなった。
「便利ですね……」
「俺も今まで思いつきませんでした」
盗まれる心配もない。
重さも気にしなくていい。
普段使う分だけ財布へ入れておけば十分だ。
これで王都でやることは終わった。
◇
宿へ戻り、地図を広げる。
王都からベルガントへ戻る道は、大きく分けて二つあった。
南へ進み、ルーフェン帝国を通る道。
もう一つは、南西へ向かい、ヴァルディス侯爵領を抜ける道。
ルーフェン帝国を通る方が少し近い。
でも。
「ヴァルディス侯爵領の方から帰りましょう」
そう言うと、フェリシアが俺を見る。
「……いいんですか?」
「はい」
「ルーフェンを通る方が早いですよね?」
「多少は。でも、それほど変わりませんよ」
フェリシアが申し訳なさそうに目を伏せた。
事情は分からないが、フェリシアが話したくないならそれでいい。
「すみません」
「謝ることじゃないですよ」
「……ありがとうございます」
フェリシアが少しだけ笑った。
その日のうちに王都を出発した。
◇
王都へ来た時、俺たちはBランクだった。
帰る今はAランク。
《会員》もゴールドからプラチナになった。
さらに《剣聖》まで手に入れた。
王都にいたのはそれほど長い期間じゃない。
それでも、来た時とはかなり変わったと思う。
馬車を乗り継ぎながら南西へ向かう。
数日後、見覚えのある景色が増えてきた。
「ヴァルディス侯爵領に入りましたね」
「はい」
前に通った時は、近くの町がスタンピードに襲われた。
キングオーガを倒し、領都にも寄った。
ただ、侯爵邸には行っていない。
父上とカイルはアルスレイン王国へ行っていて、不在だったからだ。
今回も、そのままベルガントへ抜けるつもりだった。
ところが、領都が近づくにつれて街道の様子が変わってきた。
「人、多いですね」
「何かあるんでしょうか」
道沿いに領民が集まっている。
侯爵家の旗を持った兵士まで立っていた。
近くにいた男性へ声をかける。
「すみません。今日は何かあるんですか?」
「ああ、侯爵様がお戻りになるんですよ」
「父上が?」
思わず口にしてしまった。
男性が俺を見る。
「父上?」
「あ……」
顔をじっと見られる。
しばらくして、男性の目が大きく開いた。
「もしかして……アレン様ですか?」
「はい」
「やっぱり!」
思った以上に大きな声だった。
周囲にいた人たちが、一斉にこちらを見る。
「アレン様だ!」
「本当だ!」
「この前のスタンピードを止めてくださった!」
「アレン様!」
人が集まってくる。
「この前は本当にありがとうございました!」
「あの時、戻ってきてくださらなかったら町はどうなっていたか……」
「いえ、俺だけでやったわけじゃないので」
どうしたものかと思っていると、隣でフェリシアが笑っていた。
「ずいぶん人気ですね」
「俺も驚いてます」
その時だった。
街道の向こうから、さらに大きな歓声が上がった。
「侯爵様だ!」
「お戻りになったぞ!」
集まっていた人たちの視線が一斉に移る。
侯爵家の旗。
騎士。
何台もの馬車。
長い一行がこちらへ近づいてきた。
「今日だったんですね」
「みたいです」
父上とカイルがアルスレイン王国から戻ってくる日と、俺たちがこの領地を通る日。
偶然、同じ日になったらしい。
「アレン様!」
また誰かが俺の名前を呼んだ。
その声が、帰還する一行にも届いたようだった。
馬に乗っていた少年がこちらを見る。
目が合った。
「……兄さん?」
カイルだった。
◇
一行が止まった。
カイルが馬から降り、こちらへ歩いてくる。
「兄さん……」
「久しぶり」
「なんでここにいるの?」
「王都からベルガントへ戻る途中だよ」
「王都?」
「Aランクになるために行ってたんだ」
カイルの眉が動いた。
「……なれたの?」
「うん」
「Aランクに?」
「そう」
カイルが黙り込む。
しばらく俺を見ていた。
「兄さんが……」
「どうした?」
「いや」
首を振った。
でも、何か引っかかっているように見える。
そこへ父上もやってきた。
騎士たちが周囲の領民へ少し下がるよう声をかけ、俺たちの周りにわずかな空間ができた。
「アレン」
「父上。お帰りなさい」
「ああ。まさか今日、お前と会うとは思わなかった」
「俺もさっき知りました」
父上が俺の姿を上から下まで見る。
「アルスレインでも、お前の話は聞いた」
「俺の?」
「ドラン帝国の《剣聖》を倒したそうだな」
「はい」
横にいたカイルの表情が変わった。
「……本当だったの?」
「何が?」
「兄さんが《剣聖》を倒したって話」
「うん」
「……」
カイルが俺の腰にある炎牙剣を見る。
「僕、信じてなかった」
「そうなんだ」
「だって――」
何か言いかけて、口を閉じた。
何を言おうとしたのかは、何となく分かる。
以前、俺とカイルが戦った時。
俺は一方的に負けた。
その俺が別の《剣聖》を倒したと言われても、信じられなかったんだろう。
「まあ、詳しい話はいいよ」
今ここで長く話すつもりはなかった。
父上たちは長旅から帰ってきたばかりだ。
俺たちもベルガントへ戻る途中だ。
「じゃあ、俺たちは行くから」
「もう行くのか?」
父上が聞く。
「はい。失礼します」
フェリシアを見る。
「フェリシアさん、行きましょう」
「はい」
「……フェリシア?」
カイルの声がした。
足を止める。
「どうした?」
カイルは俺ではなく、フェリシアを見ていた。
「いや……」
一歩近づく。
じっと顔を見る。
さっきまでとはまるで違う表情だった。
「カイル?」
父上も不思議そうにしている。
カイルは答えない。
そして。
「まさか……フェリシア・ローランド様ですか?」
その瞬間、フェリシアの表情が変わった。
「……」
答えない。
でも、その反応だけで十分だった。
ローランド。
俺が知っている名前は、フェリシア・ロートだ。
――これは何かあるな。
「フェリシアさん?」
「……」
カイルがさらに一歩近づいた。
「やっぱり……」
「カイル、知ってるの?」
カイルが俺を見る。
「兄さん、今すぐフェリシア様をこちらへ引き渡すんだ」
「え?」
「ルーフェン帝国から捜索を頼まれてるんだ。宰相の娘が行方不明になっていて、サハル王国にいるかもしれないって」
宰相の娘。
フェリシアを見る。
顔が強張っている。
「その時、肖像画も見せてもらった。間違いない。この人だ」
父上も表情を変えた。
「カイル、それは本当か?」
「本当です」
カイルが再び俺を見る。
「だから兄さん、フェリシア様をこちらへ」
「……」
事情は分からない。
どうして偽名を使っていたのか。
どうしてルーフェン帝国を避けたかったのか。
フェリシアが本当に宰相の娘なのか。
何も知らない。
でも、目の前のフェリシアがここに残りたくないと思っていることだけは分かった。
「フェリシアさん」
「……はい」
「事情は分かりません」
フェリシアが俺を見る。
「でも、ここを離れたいですか?」
「……」
一瞬、迷ったように見えた。
そして、小さく頷いた。
「……お願いします」
「分かりました」
カイルへ向き直る。
「兄さん!」
「悪いけど」
半歩、フェリシアの前へ出る。
「フェリシアさんの意思を無視して渡すわけにはいかない」
累計獲得P=124,680P
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