第61話 二十階層
十五階層。
《魔力感知》には、いくつもの反応があった。
一か所に固まっているわけじゃない。
正面の通路に一つ。
右の奥に一つ。
左側には少し離れた場所に、さらにいくつか。
「左へ行きます」
「はい」
フェリシアと並んで歩き出す。
少し進むと、前方からブラックオーガが現れた。
「グオオッ!」
こちらに気づき、大きな棍棒を振り上げる。
その横を魔弾が抜けた。
ドンッ!
棍棒を持つ腕に当たり、攻撃が逸れる。
俺はそのまま懐へ入った。
一閃。
「グ……!」
ブラックオーガが倒れた。
【800P獲得】
「次、右から来ます」
「はい!」
《魔力感知》にも反応がある。
アイアンウルフが横道から飛び出してきた。
ブラックオーガを斬った炎牙剣を無理に戻さず、その軌道のまま身体を回す。
振り抜いた剣が、そのまま次の攻撃へ繋がった。
アイアンウルフの前脚の付け根へ刃を通す。
「ギャウッ!」
倒れる。
【200P獲得】
「すごいですね……」
フェリシアが呟く。
「《剣聖》ですか?」
「はい。見てると、一回斬った動きがそのまま次に繋がってるんです」
俺自身も同じ感覚だった。
以前なら、一度攻撃したあとに次の相手へ身体を向け直していた。
今は、その動作すら必要ない。
次にどう動けばいいのかが自然に分かる。
倒した魔物を《収納》へ入れた。
さらに奥へ進む。
しばらく何も出なかった。
静かな通路が続いたあと、岩陰からシャドウパンサー。
さらに先ではブラッドボアが一体現れた。
出てくる魔物も、数もばらばらだ。
でも、遭遇する回数は多い。
【保有:8,950P】
「もうすぐ九千ですね」
「五万使ったばかりなんですけどね」
フェリシアが少し笑う。
「今日は私、倒さない方がいいですよね?」
「できれば。その方がPが――」
「分かってます」
杖を持ち直す。
「じゃあ、アレンさんが倒しやすいように動きを止めます。
私も共有が二割になった状態に慣れておきたいので、ちょうどいいです」
「ありがとうございます」
「ただ、危ない時は私も倒しますからね」
「もちろんです」
無理に手加減してもらうつもりはない。
でも、フェリシアが敵の動きを崩してくれるだけで、討伐速度はかなり変わる。
十六階層へ進んだ。
しばらく歩いたところでアーマードエイプが現れ、その先ではデスホーンと遭遇した。
さらに奥へ進む途中でアイアンウルフ。階段を探している最中にはグレイウルフが二体出てきた。
フェリシアが魔弾で動きを崩し、俺が仕留める。
死体を《収納》へ入れ、そのまま先へ進んだ。
【保有:10,280P】
「一万超えました」
「早いですね」
「このダンジョン、思ってたよりいいかもしれません」
一体あたりのPは高くない。
それでも、これだけ次々と遭遇するなら話は別だ。
十七階層。
曲がり角の向こうから現れたのはブレードマンティスだった。
鎌のような前脚が振り下ろされる。
半歩下がる。
前脚が目の前を通り過ぎたところで、一気に距離を詰めた。
身体と前脚の付け根へ炎牙剣を入れる。
「ギィッ!」
体勢が崩れる。
「アレンさん!」
背後から別の反応。
ブラックオーガだった。
フェリシアの魔弾が顔の横へ当たり、こちらへ向かおうとしていた巨体が一瞬止まる。
その間にブレードマンティスを仕留めた。
振り返る。
ブラックオーガが棍棒を振り下ろす。
軌道から外れながら、首へ炎牙剣を通した。
【1,300P獲得】
【800P獲得】
さらに少し進んだところで、ブラッドボアが一体現れた。
これも倒す。
【保有:12,560P】
ここまで来ると、Pが増えていくのを見るのが少し楽しくなってきた。
「アレンさん、顔に出てますよ」
「え?」
「Pが増えるたびに嬉しそうです」
「そうですか?」
「はい」
否定はできない。
五万Pを全部使ってゼロになったばかりだ。
それがもう一万二千を超えている。
十八階層へ進んだ。
しばらく魔物の姿がない。
長い通路を歩いていると、《魔力感知》に上から反応があった。
「上です!」
フェリシアと同時に見上げる。
大きな翼。
ストームワイバーン。
天井近くから一気に降下してくる。
「《魔弾》!」
青白い光が翼へ当たる。
軌道がわずかにずれた。
俺の横を巨体が通過する。
翼を畳み、地面へ降りた瞬間。
踏み込み炎牙剣を振った。
翼の動きから、次に身体がどちらへ向くのかが分かる。
首がこちらを向くより早く、刃を通した。
【1,800P獲得】
「早っ……」
フェリシアが思わず声を漏らした。
「前なら、もう少しかかってましたね」
「もう少しどころじゃないですよ」
少し先でアイアンウルフも現れた。
倒して回収する。
【保有:14,560P】
十九階層。
最初に現れたのはクリスタルホーンだった。
角を低くして突進してくる。
ぎりぎりまで引きつけ、身体をずらす。
すれ違う瞬間、首の付け根へ剣を入れた。
【1,100P獲得】
その後、しばらく魔物は出なかった。
階段を探して通路を進む。
あと少しというところで、シャドウパンサーが背後から襲ってきた。
《魔力感知》ですでに気づいている。
一歩ずらし、身体を回しながら炎牙剣を振る。
【600P獲得】
【保有:16,260P】
「二十階層ですね」
フェリシアが前を見る。
下へ続く階段があった。
「行きましょう」
◇
二十階層。
しばらく進むと、広い空間へ出た。
奥に一体だけ魔物がいる。
巨大なトカゲのような姿。
四本の脚。
太い尾。
身体を覆う鱗は黒褐色で、岩のように厚い。
「グランドリザード……」
フェリシアが名前を口にした。
「知ってるんですか?」
「本で見たことがあります。大きいですね」
おそらく、ここの階層主だ。
グランドリザードがこちらを向いた。
低く唸る。
そして。
「来ます!」
四本の脚で地面を蹴った。
速い。
身体の大きさから想像するより、ずっと速い。
正面から牙。
避ける。
直後、太い尾が横から飛んできた。
しゃがむ。
頭の上を尾が通過した。
炎牙剣を振る。
ガキンッ!
鱗に弾かれた。
「硬い……」
ベルガントの深層ほどではない。
でも、普通に斬るのは難しそうだ。
「《魔弾》!」
フェリシアの攻撃が顔へ当たる。
グランドリザードがそちらへ首を向けた。
その時、鱗と鱗の間がわずかに開いた。
剣士として見れば、そこへ刃を入れるのが最も通りやすいと自然に分かる。
炎牙剣へ魔力を流す。
赤い炎が刀身を包んだ。
「フェリシアさん、もう一度お願いします!」
「はい!」
魔弾が飛ぶ。
グランドリザードが再び顔を向けた。
踏み込む。
鱗の隙間。
そこへ炎牙剣を入れる。
炎を圧縮する。
刀身を包む炎の中心が白く変わった。
「はあっ!」
振り抜く。
「グギャアアッ!」
グランドリザードの巨体が大きく傾いた。
それでも倒れない。
尾が振られる。
その軌道から外れながら前脚の関節へ一撃。
身体が沈む。
もう一度首元へ入った。
炎牙剣を振り抜く。
巨体が地面へ倒れた。
【2,000P獲得】
【保有:18,260P】
「二千か」
「最下層の魔物でも二千なんですね」
「ベルガントだと、もっと上がいましたからね」
ミスリルゴーレムは八千Pだった。
それと比べれば、やはりこのダンジョンの魔物は弱い。
グランドリザードも《収納》へ入れた。
そのまま奥を確認する。
行き止まり。
「本当にここで終わりみたいですね」
「そうですね」
フェリシアが周囲を見る。
「転移石は……?」
俺も探した。
ない。
「……ないですね」
「ということは」
「歩いて戻るしかなさそうです」
フェリシアが階段の方を見る。
「二十階層分ですか」
「ですね」
少しだけ沈黙する。
すると、フェリシアがこちらを見た。
「じゃあ、帰りもPを稼げますね」
「……そうですね」
「今、ちょっと嬉しくなりました?」
「少しだけ」
フェリシアが笑った。
「五万P、全部使ったんですから。貯め直して帰りましょう」
「はい」
来た道を戻り始めた。
◇
帰りは階段へ向かう最短の道を選んだ。
それでも魔物は出てくる。
十九階層ではブラックオーガ。
十八階層へ上がったあとにはアーマードエイプ。
しばらく何も出ない区間もあれば、曲がり角で突然シャドウパンサーと遭遇することもあった。
さらに上っていく途中でも、ブレードマンティスやデスホーン、アイアンウルフ、ブラッドボアと何度も遭遇した。
フェリシアが動きを崩し、俺が仕留める。
死体はすべて《収納》へ入れていった。
「今日、何体くらい倒しました?」
「……分かりません」
「ですよね。私も途中から数えてません」
階段を上る。
通路を歩く。
魔物が出れば倒し、また階段を目指す。
王都西部ダンジョンへ入った時は、ここまで長くいるつもりじゃなかった。
十階層を過ぎる頃には、さすがに足にも疲れを感じ始めた。
それでも《会員》を見ると、Pは増えている。
【保有:22,470P】
《剣聖》を買ってゼロになったはずなのに、もう二万を超えていた。
しかも《収納》の中には、大量の魔物が入っている。
Pだけじゃない。
全部、素材として売れる。
「このダンジョン、かなりいいですね」
「また来るなら、次も一緒に来ます」
「いいんですか?」
「私も共有が二割になった感覚を、もっと掴んでおきたいですから」
フェリシアが笑う。
「それに、一緒に戦った方が早いですよね?」
「はい。かなり助かってます」
「なら決まりです」
そのまま一階層まで戻った。
ダンジョンの外へ出る。
「……暗い」
入った時とは景色がまるで違った。
空はすっかり暗くなっている。
「一日中いましたからね」
王都へ戻る馬車に乗った。
◇
ギルドへ着いた頃には、かなり遅い時間になっていた。
それでも一階には、まだ冒険者が何人もいる。
受付へ向かう。
「素材の買い取りをお願いしたいんですが」
「はい。何をお持ちですか?」
「色々です」
「何体ほどでしょう?」
「……分かりません」
「はい?」
職員が聞き返した。
「かなり多いです」
結局、解体場へ案内された。
今日は依頼を受けていないので、ギルドで精算するのは素材の買い取りだけだ。
広い場所まで行き、《収納》を開く。
ゴブリン。
グレイウルフ。
アイアンウルフ。
ブラッドボア。
アーマードエイプ。
ブラックオーガ。
シャドウパンサー。
次々と出していく。
最初は一人だった職員が、途中から二人、三人と増えた。
「……まだあります?」
「あります」
ブレードマンティス。
デスホーン。
クリスタルホーン。
ストームワイバーン。
さらにグランドリザード。
「ちょ、ちょっと待ってください」
とうとう職員に止められた。
「はい?」
「これ、全部今日一日で?」
「はい」
職員が並んだ魔物を見渡す。
少し離れたところでは、別の職員が数を書き留めている。
「……これは、今日中の査定は無理です」
「ですよね」
もう夜だ。
この量を一体ずつ確認して値段をつけるとなれば、時間がかかる。
「こちらでお預かりします。明日までに順番に査定しますので、買い取り金額は明日お伝えしてもよろしいですか?」
「お願いします」
《剣聖》を買ってゼロになったPは、もう二万を超えた。
しかも、これだけの素材が残った。
王都西部ダンジョン。
最初に思っていたより、ずっといい場所だった。
累計獲得P=124,680P
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