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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第4章 Aランクへの道

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第50話 スタンピード

 ヴァルディス家の屋敷へ向かう兵士を見送ってから、乗合馬車は再び街道を進み始めた。


「本当に屋敷へ行くんでしょうか」


 フェリシアが窓の外を見る。


「たぶん」


「誰か追いかけてきたりしません?」


「父上もカイルもいないみたいですし、大丈夫じゃないですか」


「お母様はいらっしゃらないんですか?」


「えぇ……。母は小さい頃に亡くなりました」


「え……。そうなんですか…申し訳ありません」


「良いんですよ。もう昔の話なので」


 一瞬、母がいた頃のことを思い出した。


 だけど、今の俺はもう冒険者だ。


 いつまでもヴァルディスを名乗るのはやめようかな。


 余計なことは考えるな。


 今の俺たちは王都へ向かうだけだ。


 ◇


 しばらく走ったところで、前方から激しい蹄の音が聞こえてきた。


 御者が馬車を減速させる。


「何だ?」


 一頭の馬がこちらへ向かってくる。


 乗っているのは領兵だった。


「止まれ! 馬車を止めろ!」


 御者が慌てて手綱を引いた。


「どうした!」


「この先へ行くな! 引き返せ!」


 領兵は馬を止めると、息を切らしながら叫んだ。


「北東の森から大量の魔物が出た!」


「北東の森?」


「ああ! 群れは街道へ出て、そのまま南西へ向かってる!」


 南西。


 俺たちが今まで進んできた方向だ。


「それって……」


「このまま行けば、さっきの町にぶつかる!」


 やっぱり。


 昼に食事をした町だ。


「どれくらいの数ですか?」


「分からん。斥候が確認しただけでも数十体はいた。

グレイウルフ、ブラッドボア、アーマードエイプ。それにオーガも混じってる!」


 種類までバラバラだ。


 本来なら一緒に行動するような魔物じゃない。


「町には兵がどれくらいいます?」


「二十人ほどだ。近くの詰め所にも応援を頼んでるが、とても足りない。

領都にも知らせたが、間に合うかどうか……」


 フェリシアと目が合った。


「戻ります?」


「はい」


 迷う必要はなかった。


「町へ戻ります」


 俺が言うと、領兵が驚いた。


「待て! 危険だぞ!」


「俺たち、冒険者なので」


「だが、かなりの数だ!」


「分かってます。それでも、このまま町が襲われると分かっていて先へは行けません」


 フェリシアも杖を握った。


「私も戦います」


 領兵が俺たちを見比べる。


「二人で?」


「まずは状況を見ます。無理なら住民の避難を手伝います」


 後ろでは御者も乗客たちへ声をかけていた。


「この先には進めない! 町へ引き返すぞ!」


 馬車の向きが変わる。


 俺たちは、来た道を戻り始めた。


 ◇


 町へ戻った時には、さっきまでとは空気がまるで違っていた。


「急げ!」


「子供と老人を先に避難させろ!」


「荷物は置いていけ!」


 領兵たちが走り回り、住民を町の北側へ移動させている。


 街道の北東側には簡単な柵しかない。


 大量の魔物が来れば、あれだけで防げるとは思えなかった。


「アレンさん」


「はい」


「何か感じます?」


 《魔力感知》へ意識を向ける。


「……います」


「どれくらいです?」


「かなり多いです」


 森の方向に、小さな魔力反応がいくつもある。


 それが一斉にこちらへ向かっている。


「五十……いや、もっといるかもしれません」


「そんなに……」


 近くにいた領兵が息を呑んだ。


「やっぱりスタンピードなのか」


「スタンピード?」


「大量の魔物が一斉に生息地を離れて押し寄せる現象だ。この規模なら間違いない」


 その時だった。


 森の方から鳥が一斉に飛び立つ。


 直後。


 地面が微かに揺れた。


「来るぞ!」


 領兵が叫ぶ。


 木々の間から最初の魔物が飛び出してきた。


 グレイウルフ。


 一体ではない。


 十体以上が街道へ広がって走ってくる。


 その後ろにはブラッドボアもいた。


「戦える者は前へ!」


 領兵たちが剣や槍を構える。


 俺も炎牙剣を抜いた。


「フェリシアさん、後ろをお願いします」


「はい!」


 地面を蹴る。


「待て!」


 領兵の声が聞こえたが、そのまま群れへ向かった。


 一体目のグレイウルフが飛びかかってくる。


 身体をずらし、首を斬る。


【15P獲得】


 そのまま二体目へ踏み込む。


【15P獲得】


 三体目が横から迫った。


 剣を返す。


【15P獲得】


 遅い。


 以前なら、数を確認しながら一体ずつ慎重に戦っていた。


 今は違う。


 正面からブラッドボアが突進してくる。


 寸前で横へ外れ、すれ違いざまに首へ炎牙剣を通した。


【180P獲得】


「《魔弾》!」


 後ろから青白い光が飛んでくる。


 三つの魔弾が、それぞれ別のグレイウルフへ命中した。


 さらにアーマードエイプが両腕を振り上げながら向かってくる。


 振り下ろされる腕をかわし、懐へ入った。


 炎牙剣を胴へ走らせる。


【400P獲得】


「右から来るぞ!」


 領兵の声。


 見ると、数体のブラッドボアが柵の方へ回り込もうとしている。


「フェリシアさん!」


「見えてます!」


 白銀樹の杖が向けられる。


 フェリシアの周囲に五つの魔弾が浮かんだ。


「《魔弾》!」


 五つの光が一斉に飛び、それぞれ別の魔物へ命中する。


 倒れたところへ領兵たちが駆け寄った。


「今だ!」


 槍が突き込まれる。


 最初は混乱していた領兵たちも、少しずつ動きが揃ってきた。


 さらにグレイウルフが三体、森から飛び出す。


 《魔力感知》で位置は分かっている。


 一体目。


【15P獲得】


 二体目。


【15P獲得】


 三体目。


【15P獲得】


 最後の一体を倒した直後、その向こうから大きな影が現れた。


「オーガだ!」


 黒い金属のような皮膚。


 アイアンオーガ。


 巨大な棍棒を振り上げる。


 俺は炎牙剣へ魔力を流した。


 赤い炎が刀身を包む。


 棍棒が振り下ろされる。


 横へかわす。


 地面が砕けた。


 振り切った直後。


 無防備になった脇腹へ炎牙剣を叩き込む。


「はっ!」


 そのまま深く斬り抜いた。


 アイアンオーガの巨体が傾く。


 ドンッ!


【2,000P獲得】


「……一人で倒した」


 後ろから声が聞こえた。


 でも、振り返っている余裕はない。


「まだ来ます!」


 森から次々に魔物が飛び出してくる。


 俺が前で勢いを止める。


 フェリシアが後方から魔弾を撃ち込み、数を減らす。


 傷ついた魔物を領兵たちが仕留めていく。


「左だ!」


「柵を越えさせるな!」


「負傷者は下がれ!」


 さっきまでばらばらだった声が、次第に揃っていった。


 どれくらい戦っただろう。


 気づけば町の前には、何十体もの魔物が倒れていた。


 やがて。


 森から飛び出してくる魔物が途切れた。


「……止まった?」


 領兵の一人が荒い息を吐く。


 町まで突破した魔物はいない。


 後ろを見ると、避難していた住民たちが恐る恐るこちらを見ていた。


「助かった……」


「終わったのか?」


 俺は炎牙剣についた血を払った。


「アレンさん、大丈夫ですか?」


「はい。フェリシアさんは?」


「まだ大丈夫です」


 視界に表示が残っている。


【保有:35,935P】


【累計獲得P:88,145P】


 一気に二千六百七十P増えた。


 その時だった。


「アレン様!」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 さっき俺を見つけた年配の領兵だった。


「お怪我はありませんか?」


「大丈夫です」


 周囲が静かになった。


「……アレン?」


 住民の一人が呟く。


「今、アレン様って言ったか?」


「まさか……」


 昼に食堂で見た男もいた。


 目を大きくして俺を見ている。


「アレン・ヴァルディス?」


「ドラン帝国の《剣聖》を倒したっていう?」


 視線が一斉に集まった。


「本人だったのか……」


「さっき食堂にいたぞ」


「じゃあ、あの話は本当に……」


「アレンさん」


「何です?」


「すごく見られてます」


「分かってます」


 居心地が悪い。


 でも、そんなことを気にしていられたのは一瞬だった。


「……え?」


 《魔力感知》に反応があった。


 森の奥。


 さっきまでとは明らかに違う。


「どうしました?」


「まだいます」


「魔物が?」


「はい」


 大量の小さな反応ではない。


 一つ。


 それだけなのに、強い。


 しかも、こちらへ向かっている。


「何か来ます」


 ドンッ。


 地面が揺れた。


 少し間を置いて、もう一度。


 ドンッ。


 森の奥から鳥が一斉に飛び立つ。


 領兵たちも異変に気づき、再び武器を構えた。


「何だ……?」


 一本の木が大きく揺れる。


 次の瞬間。


 バキバキバキッ!


 太い幹が折れ、横へ倒れた。


 その奥から巨大な影が姿を現す。


 オーガ。


 だが、さっき倒したアイアンオーガとは大きさがまるで違う。


 三メートルを優に超える巨体。


 黒ずんだ皮膚。


 太い腕には、人間一人よりも大きな棍棒を持っている。


 額から二本の角が伸びていた。


「そんな……」


 領兵の顔から血の気が引いた。


「キングオーガ……」


「知ってるんですか?」


「ああ」


 領兵が震える声で答える。


「オーガの上位種だ。普通のオーガとは比べものにならない」


 キングオーガが森から完全に姿を現す。


 その後ろにも、まだいくつもの魔力反応があった。


 さっきまでの群れ。


 あれで全部じゃなかった。


 キングオーガが巨大な棍棒を持ち上げる。


「グオオオオオオオオオッ!」


 咆哮が町まで響いた。


 俺は炎牙剣を構え直す。


 スタンピードは、まだ終わっていなかった。


 累計獲得P=88,145P



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
あー、領主と嫡子が居ない間に起きた大事件を解決してしまう。 これは面倒なことに……。 でも別のルートで王都に向かっていたら町が滅びて無辜の民が大勢犠牲になっただろうし、来なければ良かったとは言えんなぁ…
侯爵家から伯爵家に格下げになってる
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