第47話 Aランクへの道
職員に案内され、俺とフェリシアはギルドの奥へ向かった。
通されたのは、以前Bランクへ昇格した時にも入った部屋だった。
中ではギルドマスターが待っている。
「座ってくれ」
「はい」
俺たちは並んで椅子へ座った。
ギルドマスターは机の上に置かれた書類を確認してから、こちらを見る。
「まずは二十階層踏破、おめでとう。それも階層主まで二人で討伐したそうだな」
「ありがとうございます」
「ミスリルゴーレムを丸ごと持ち帰ったと聞いた時は、何の冗談かと思ったが」
「解体場にあります」
「職員が何人も慌ただしくしているぞ」
ギルドマスターが苦笑する。
「それで、Aランクへの昇格についてだ」
少し姿勢を正した。
さっき受付嬢から聞いたばかりだ。
二十一階より先へ進むには、Aランクになる必要がある。
「俺たちは、Aランクになれるんですか?」
「候補には入る」
ギルドマスターは迷わず答えた。
「戦闘能力については、もう疑う必要はないだろう。二十階層の階層主を二人で討伐した。
それ以前にも、ドラン帝国との戦争で大きな戦果を挙げている」
剣聖を倒したことも記録には残っているはずだ。
「ただし、AランクはBランクまでとは意味が違う」
「意味が違う?」
「ああ。Aランク冒険者になると、それはサハル王国でも有数の冒険者だ。
その名前自体が信用になり、大きな依頼を任されるだけでなく、時には貴族や大商会、王国そのものから協力を求められることもある」
そこまで大きな立場なのか。
「だから、強ければ誰でもなれるわけではない」
フェリシアが聞く。
「他には何が必要なんですか?」
「この国への貢献だ」
「サハル王国への?」
「そうだ」
ギルドマスターが頷く。
「高い戦闘能力があることは大前提だ。そのうえで、その力を何に使ってきたのかが問われる。
高難度依頼の実績、判断力、信用、そして王国への貢献。それらを含めて、Aランクの名にふさわしい人物か判断される」
「戦争での功績は?」
今度は俺が聞いた。
「もちろん大きく評価されている。ドラン帝国の侵攻を防いだ戦いで、お前たちが果たした役割は大きい。
アレンは敵の剣聖を倒し、フェリシアも第一班の一員として前線で戦った。
その実績だけでも、普通の冒険者とは比較にならない」
そこで言葉を区切った。
「だが、それだけでAランクへの昇格が決まるわけではない」
「そうなんですね」
少しだけ期待していた。
二十階層まで攻略したことで、すぐにAランクへ上がれるのかもしれないと思っていた。
でも、話を聞けば納得できる。
Aランクというのは、単に強い冒険者へ与えられる称号ではないらしい。
「では、俺たちは何をすればいいんでしょう?」
「それを考えていた」
ギルドマスターが机の上に地図を広げた。
ベルガントから北東へ指を動かし、一つの大きな都市を示す。
「王都へ行ってみてはどうだ?」
「王都?」
「王都の冒険者ギルドには、ベルガントには回ってこない依頼が集まる。
王宮や国の機関から出されるものもあるし、王国全体に関わる仕事も多い」
ギルドマスターが地図の王都を指す。
「国への貢献を積むのであれば、ベルガントに留まるより機会は多いはずだ」
なるほど。
Aランクになるために、ただ依頼を数多くこなせばいいわけじゃない。
王国にとって意味のある仕事をする必要がある。
「王都か……」
行ったことはない。
王国最大の街で、王宮もある。
冒険者ギルドにも、ベルガントとはまったく違う仕事が集まっているはずだ。
フェリシアを見る。
「どうします?」
「私は行ってみたいです」
「俺もです」
決まった。
「王都へ行きます」
ギルドマスターが頷いた。
「それがいいだろう。Aランクだけを目的にする必要はない。
今のお前たちなら、王都で経験を積むこと自体が今後につながる」
「分かりました」
「今日持ち込んだ素材は量も多い。
ミスリルゴーレムもあるから、査定には少し時間がかかるだろう。結果を受け取ってから出発するといい」
「そうします」
さすがにミスリルゴーレムを預けたまま王都へ出る気にはならない。
「話は以上だ」
俺たちは立ち上がった。
部屋を出る前、ギルドマスターが声をかけてくる。
「アレン、フェリシア」
「はい?」
「Bランクになったばかりだからと、Aランクを目指すことまで遠慮する必要はない。
候補として名前が挙がるところまで来たのは、お前たち自身が積み上げてきた結果だ」
「ありがとうございます」
俺たちは一礼して部屋を出た。
◇
ギルドを出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「王都ですか」
フェリシアが隣を歩く。
「急に次の行き先が決まりましたね」
「二十一階へ行こうと思ってたんですけどね」
「それはAランクになってからですね」
「まずはそっちですね」
今日は朝からダンジョンへ潜り、二十階層まで攻略した。
ミスリルゴーレムも倒した。
そして、次の目標まで決まった。
「せっかくだし、何か食べて帰りません?」
「お祝いですか?」
「二十階層踏破のお祝いです」
フェリシアが少し考える。
「前に行った店はどうです?」
「いいですね」
Bランクへの昇格を祝った時にも行った店だ。
そのまま二人で向かうことにした。
◇
扉を開けると、店内はかなり賑わっていた。
食事をしている冒険者もいれば、酒を飲んでいる者もいる。
空いている席を探していると、奥から声が飛んできた。
「アレン!」
聞き覚えのある声だった。
見ると、クロードが手を上げている。
同じテーブルにはボルク、リディア、セシルもいた。
「クロードさん」
「こっち来いよ」
四人のところへ向かう。
「皆さん、ここにいたんですね」
「ああ。俺たちも飯を食いに来たところだ」
ボルクが笑う。
「それより、お前たちだろ」
「俺たち?」
「聞いたぞ。二十階の階層主を倒したって」
もう広まっている。
「今日倒したばかりなんですけど」
「冒険者ギルドであれだけ騒ぎになれば広まるだろ」
リディアが呆れたように言った。
「しかもミスリルゴーレムを丸ごと持ち帰ってきたんでしょう?」
「《収納》に入ったので」
「それができる時点で普通じゃないのよ」
「まあ、いいじゃないか」
クロードが笑う。
「座れ。二十階踏破なら祝わないとな」
空いている椅子へ座り、料理を頼んだ。
「二十階層踏破、おめでとうございます」
セシルが笑顔で言う。
「ありがとうございます」
「Bランクになって、もう二十階か」
クロードが感心したように俺を見る。
「本当に速いな」
「今日、Aランクの話もされました」
クロードの表情が少し変わった。
「もうそこまで話が出たのか」
「すぐ昇格できるわけじゃないです」
ギルドマスターから聞いた話を説明する。
Aランクには王国への貢献も必要なこと。
戦争での功績は評価されているが、それだけで昇格が決まるわけではないこと。
そのために、王都へ行くことを勧められたこと。
「それで、王都へ?」
「はい。素材の査定が終わったら行こうと思っています」
「そうか」
クロードが少しだけ考えた。
「俺は騎士団にいた頃、ずっと王都にいた」
「どんなところです?」
「人も仕事も多い。ベルガントとは規模が違う。冒険者として上を目指すなら、行って損はない」
「じゃあ、いいところなんですね」
「いいところかどうかは人によるな」
「え?」
クロードが苦笑する。
「王宮があって、大貴族も集まる。金も情報も仕事も多い分、面倒なことも多い」
「面倒なこと?」
「まあ、行けば分かるさ」
「それ、一番気になる言い方ですよ」
「今から余計な心配しても仕方ないだろ」
それはそうかもしれない。
クロードが俺とフェリシアを見る。
「王都でも、今まで通り二人でよく相談して動け。
強くなったからって、何でも自分たちだけで何とかしようとするなよ」
「はい」
「それができれば大丈夫だ」
第一班にいた時にも、クロードは似たようなことを言っていた。
一人で全部やる必要はない。
「頑張ってきます」
「ああ」
そこへ料理と飲み物が運ばれてきた。
俺の前には果実水。
フェリシアの前にも、よく似た色の飲み物が置かれる。
フェリシアがグラスへ手を伸ばした。
「ちょっと待ってください」
「何です?」
グラスを見る。
「それ、お酒じゃないですよね?」
「え?」
フェリシアもグラスを見る。
店員へ確認すると、果実酒だった。
「……危なかった」
「今日はやめてくださいね」
「分かってますよ!」
前にこの店で酒を飲んだフェリシアを思い出す。
あの日は宿まで背負って帰ることになった。
「そんなに警戒しなくても大丈夫です」
「一応です」
「信用してください」
「信用してます。でも、お酒は確認します」
向かいでクロードが笑った。
「何だ? 何かあったのか?」
「何もありません」
フェリシアが即答する。
これ以上は言わない方がよさそうだ。
果実酒を別の飲み物へ替えてもらう。
改めてグラスを持つ。
クロードが自分の酒を掲げた。
「じゃあ、二十階層踏破と、これからの王都行きに」
みんながグラスを上げる。
「乾杯」
「乾杯!」
グラスを合わせた。
料理を食べながら、戦争の時の話や最近のベルガントの話をする。
少し前まで、俺たちは同じ第一班として戦場にいた。
これからは、またそれぞれ別の場所で進んでいく。
俺とフェリシアには、新しい目標ができた。
Aランク。
そのために、王都へ行く。
あとは今日持ち込んだ素材の査定を待つだけだ。
結果を受け取ったら、王都へ向かおう。
累計獲得P=85,475P
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