第46話 二十階層踏破者
二十階層の転移石が青白く光っている。
俺とフェリシアは、その前に立っていた。
「そういえば、十階の時はこれの使い方が分からなかったんですよね」
フェリシアが転移石を見る。
「触るだけ触って、そのまま歩いて戻りましたね」
「九階でブラックオーガにも会いました」
「今回は使いましょう」
「もちろんです」
もう使い方は分かっている。
二人で転移石へ触れると青白い光が強くなり、一瞬だけ視界が真っ白になった。
次に見えたのは、見慣れた一階の景色だった。
「……楽ですね」
「二十階から一瞬ですもんね」
フェリシアが笑う。
十階の転移石が使えるようになった時も便利だと思った。
だが、二十階となるとありがたさがまるで違う。
十九階分の階段を戻る必要がない。
身体は《全回復》で元に戻っているが、フェリシアはかなり魔力を使っている。
「大丈夫ですか?」
「歩くくらいなら全然平気です。ただ、今日はもう魔法を撃ちたくないです」
「それは休んだ方がいいですね」
「アレンさんは元気そうですよね」
「回復しましたから」
「ずるいです」
「俺のスキルなんですけど」
そんな話をしながらダンジョンを出た。
外はもう夕方になっている。
朝から十一階以降を進み続け、最後にはミスリルゴーレムと戦った。
一日で随分遠くまで来た気がする。
俺たちはそのまま冒険者ギルドへ向かった。
◇
「お帰りなさい」
いつもの受付嬢が俺たちに気づいた。
夕方のギルドには、探索から戻ってきた冒険者が大勢いる。
「どうでした? 二十階までは行けましたか?」
「はい」
受付嬢が少し安心したように頷く。
「では、ミスリルゴーレムは確認できました?」
「確認しました」
「やっぱりまだいましたか。無理に戦わず戻って――」
「倒しました」
受付嬢の言葉が止まった。
「……はい?」
「ミスリルゴーレム、倒しました」
隣でフェリシアも頷く。
受付嬢が俺とフェリシアを交互に見た。
「お二人で?」
「はい」
「二人だけで?」
「そうですけど……」
少し離れた場所から声がした。
「待て」
振り返る。
四人組の冒険者がこちらを見ていた。
全員、かなり使い込まれた装備を身につけている。
その中の一人が近づいてきた。
「ミスリルゴーレムって、今日出てた二十階の階層主だよな?」
「はい」
「本当に倒したのか?」
「倒しました」
男が仲間を見る。
「俺たちが今朝見つけたやつだ」
「え?」
どうやら、この人たちがミスリルゴーレムの出現を報告したBランクパーティらしい。
別の男が口を開く。
「あれを見て、俺たちは引き返したんだぞ」
「そうだったんですか?」
「ああ。試しに攻撃したが、まともに傷もつかなかった」
最初の男が俺を見る。
「それを二人で?」
「かなり苦戦しましたけど」
「苦戦したで済むのかよ……」
男が呆れたように頭をかく。
周囲でも、話を聞いていた冒険者たちがこちらを見ている。
受付嬢が咳払いした。
「討伐を確認できるものはありますか?」
「本体を持ってきました」
「本体?」
「《収納》に入ってます」
受付嬢が一度黙った。
「……解体場へ行きましょう」
◇
ギルドの裏にある解体場へ向かった。
昨日も世話になった解体担当の職員がいる。
俺を見るなり、少し嫌そうな顔をした。
「また来たのか」
「来ました」
「今日は何を持ってきた?」
「十一階から二十階までの魔物です」
「二十階まで行ったのか?」
「はい」
「……まあいい。出してくれ」
空いている場所へ移動する。
「じゃあ、出します」
《収納》から魔物を取り出していく。
スチールリザード、アイアンウルフ、アーマードエイプ、メタルスコーピオン、クリスタルホーン、ケイブワイバーン、ブレードマンティス。
さらに十六階以降で倒したアクアサーペント、ロックタートル、アイアンオーガ、ストームワイバーンまで続く。
一体ずつ出しているだけなのに、解体場の空いていた場所があっという間に埋まっていった。
「ちょっと待て」
職員が止めた。
「はい?」
「まだあるのか?」
「あります」
「どれくらい?」
フェリシアと顔を見合わせる。
「正確には数えてません」
「数えてない?」
「今日かなり倒したので」
「……そうか」
職員が遠い目をした。
「続けていいぞ」
「はい」
別の場所へ移動し、残っている魔物も出していく。
途中から他の解体担当まで集まってきた。
「これ全部、今日一日か?」
「十一階から十九階までです」
「二人で?」
「はい」
何度か同じことを聞かれている気がする。
やがて通常の魔物をすべて出し終えた。
「以上です」
職員が息を吐く。
「やっとか」
「普通の魔物は」
「普通の?」
「あと一体あります」
職員がこちらを見る。
「何だ?」
「大きいので、少し場所を空けてもらえますか?」
周囲にいた職員たちが顔を見合わせる。
解体場の奥に比較的広い場所を作ってもらった。
「ここならいいぞ」
「じゃあ出します」
《収納》を使う。
ドンッ!
銀白色の巨大な身体が現れ、地面がわずかに揺れた。
「…………」
誰も声を出さない。
倒れたミスリルゴーレムが、解体場の中央に横たわっている。
さっきのBランク冒険者たちも後ろからついてきていた。
一人が巨体を見て呟く。
「……間違いない。俺たちが見たやつだ」
受付嬢もゆっくり近づいた。
「本当に倒したんですね……」
「はい」
解体担当の職員が銀白色の表面へ手を触れる。
「これを丸ごと持ってきたのか?」
「《収納》に入ったので」
「魔石も?」
「まだ中にあると思います」
「待て。これは勝手に解体できる代物じゃない」
職員の表情が変わった。
「どういうことですか?」
「ミスリルをどこまで素材として使えるのか確認する必要がある。
魔石も普通のゴーレムとは違う可能性があるからな」
銀白色の巨体を見回す。
「専門の職人にも見せる。値段を出すのは今日じゃ無理だ」
「分かりました」
「こっちの魔物も、この量だ。全部の査定は明日以降になる」
「お願いします」
昨日も似たようなことを言われたが、今日は量が違う。
フェリシアが小さな声で言った。
「本当に怒られませんでしたね」
「まだ査定が終わってないですから」
「明日怒られるんですか?」
「分かりません」
「聞こえてるぞ」
「すみません」
職員が呆れたようにため息をついた。
◇
受付へ戻る。
これでミスリルゴーレムの討伐も確認された。
「それでは、緊急討伐依頼の達成処理を行います」
受付嬢が書類を取り出す。
「ミスリルゴーレム討伐。達成報酬は百二十万ジェニーです」
二人で六十万ジェニーずつ。
「いつも通り、ギルド銀行でお願いします」
「私もお願いします」
「承知しました」
その直後、視界へ表示が現れた。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【保有:33,265P】
【累計獲得P:85,475P】
百P増えた。
受付嬢が別の記録用紙を確認する。
「これで、お二人はベルガント西部ダンジョン第二十階層の踏破者として記録されます」
「記録されるんですか?」
「もちろんです。二十階層の階層主まで討伐していますから」
少し嬉しい。
最初にこの街へ来た時は、三階へ行くだけでも慎重だった。それが今では二十階だ。
「次は二十一階ですね」
フェリシアが言った。
俺もそのつもりだった。
ところが、受付嬢は首を横に振った。
「それはできません」
「え?」
「Bランク冒険者が探索を許可されているのは、第二十階層までです」
そうだった。
Bランクになった時、二十階まで入れると説明された。
「では、二十一階からは?」
「Aランク以上です」
「Aランク……」
さすがにすぐには無理だろう。
Bランクへ上がったのだって、戦争から戻ってきたばかりだ。
「Aランクになるには、何が必要なんですか?」
「単純に強ければいいというものではありません。
高難度依頼の実績や達成率、冒険者としての判断、信用などを総合して判断されます。
それに、ギルドからの推薦も必要です」
「じゃあ、しばらく先ですね」
俺がそう言うと、受付嬢が妙な顔をした。
「それが……」
「何です?」
「少々お待ちください」
受付嬢が奥を見る。
ちょうどその時、一人の職員がこちらへ歩いてきた。
「アレン・ヴァルディスさん、フェリシア・ロートさん」
「はい」
「はい」
「ギルドマスターがお呼びです」
俺とフェリシアは顔を見合わせた。
「俺たちをですか?」
「はい」
職員が頷いた。
「Aランクへの昇格について、お話があるそうです」
累計獲得P=85,475P
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