第41話 《収納》
空が少しずつ明るくなってきた。
昨夜は、フェリシアと交代で見張りをした。
先に俺が休み、夜中に交代。
それからは俺が火のそばに座り、森の方を警戒していた。
幸い、夜の間に魔物が近づいてくることはなかった。
ただ、さすがに眠い。
数時間は眠ったものの、普段に比べれば明らかに足りない。
身体も少し重かった。
天幕を見る。
フェリシアはまだ眠っているようだ。
「……使ってみるか」
《会員》を開く。
【保有:4,925P】
回復の項目を選ぶ。
【半回復 50P】
【全回復 100P】
選んだのは《全回復》。
【負傷・疲労を完全に回復します】
【《全回復》を使用しますか?】
【必要ポイント:100P】
「使う」
【100Pを消費しました】
【全回復しました】
【保有:4,825P】
身体が一気に軽くなった。
「……すごいな」
眠気もなく、身体の重さも消えている。
一晩しっかり眠った朝と変わらない。
いや、それ以上かもしれない。
負傷だけじゃなく、睡眠不足の疲労まで取れる。
本当に便利だ。
ただ。
「百Pか……」
安くはない。
ソーンプラントなら五体分だ。
毎晩これで睡眠を済ませるような使い方は、さすがにもったいない。
緊急時ならともかく、普段はちゃんと寝た方がいい。
「……アレンさん?」
天幕の方から声がした。
「おはようございます」
「おはようございます」
フェリシアが外へ出てくる。
「ずっと起きてたんですか?」
「交代してからは」
「眠くないです?」
「《全回復》を使いました」
「そんな使い方もできるんですね」
「疲労も消えるみたいです」
「便利ですね」
「便利ですけど、百Pしました」
「……それは毎回使いたくないですね」
「俺もそう思いました」
二人で火を起こし直す。
パンと残っていた干し肉で簡単に朝食を済ませた。
食べ終われば、次は片付けだ。
天幕を畳む。
毛布をまとめる。
鍋。
水袋。
食料。
さらに昨日回収した魔物の素材もある。
「やっぱり多いですね」
フェリシアが荷物を見下ろした。
「昨日より増えてますからね」
タイラントベアの爪や牙だけでもそれなりの重さがある。
二人で分けて持っているとはいえ、今日もこれを背負って森の中を歩かなければならない。
もう一度《会員》を見る。
【保有:4,825P】
《収納》まではあと百七十五P。
昨日の夜より少し遠くなった。
「今日の調査中には五千まで届きそうですか?」
「魔物次第ですけど、たぶん届くと思います」
「《収納》ですね」
「はい。ただ、先に調査を進めましょう」
「そうしましょう」
荷物を背負う。
俺たちは二日目の調査を始めた。
◇
昨日とは少し違う場所から森へ入った。
朝でも森の中は薄暗い。
高い木々の枝が重なり、日差しを遮っている。
昨日一日歩いたおかげで、森での動きにも少し慣れてきた。
足元の根を避ける。
低い枝を確認する。
視界の悪い茂みには不用意に近づかない。
「昨日より歩きやすく感じます」
フェリシアが言った。
「俺もです」
「一日でも結構変わりますね」
「慣れは大きいですね」
そう話しながら進んでいると、右側の草むらが揺れた。
「来ます」
「はい」
一体。
二体。
さらに奥から三体。
最後に左側から二体。
「五体ですね」
「俺が三体やります」
「じゃあ、私は二体を」
ソーンプラントが一斉に蔓を伸ばす。
俺は右側へ踏み込んだ。
昨日なら、まず避ける場所を探していた。
今日は最初から周囲の木の位置を見ている。
一本目をかわす。
二本目を炎牙剣で切った。
そのまま一体目へ。
大きく振らず、太い茎を斬る。
【20P獲得】
二体目。
蔓が左右から来る。
下がるのではなく、斜め前へ入った。
二本の蔓が背後を通る。
炎牙剣を返す。
【20P獲得】
三体目が後ろから伸ばした蔓を剣で弾く。
木の根を踏まないよう足を運び、本体へ近づいた。
短く一閃。
【20P獲得】
「《魔弾》!」
フェリシアも一体を倒した。
すでにもう一体へ杖を向けている。
青白い光が木々の隙間を抜けた。
命中。
二体目のソーンプラントも倒れる。
「終わりました」
「こっちもです」
五体すべて倒した。
表示を確認する。
【保有:4,885P】
【累計獲得P:41,895P】
「あと百十五です」
「もう少しですね」
素材になりそうな部分を回収し、さらに進む。
それから十分もしないうちに、前方の茂みが大きく揺れた。
「ヴァインウォーカーです」
太い蔓を絡ませた人型の植物魔物が一体。
「俺がやります」
「援護します」
ヴァインウォーカーが腕のような蔓を伸ばす。
一本。
続けて二本目。
どちらも見えている。
最初の一本をかわし、二本目を炎牙剣で切った。
昨日戦ったおかげで、攻撃の前兆も分かってきた。
身体の中心が傾く。
次は右。
予想どおり、蔓が飛んでくる。
先に剣を置く。
ザンッ!
蔓が途中から落ちた。
「《魔弾》!」
フェリシアの魔法が本体へ当たる。
ヴァインウォーカーが揺れた。
踏み込む。
中央にある太い茎へ炎牙剣を入れた。
【120P獲得】
【保有:5,005P】
【累計獲得P:42,015P】
「五千超えました」
「じゃあ……」
「はい」
荷物を下ろす。
《会員》を開いた。
固有スキル一覧。
【《身体強化》 5,000P】
【《気配察知》 5,000P】
【《暗視》 5,000P】
【《高速思考》 5,000P】
【《魔力操作》 5,000P】
【《剣士》 5,000P】
【《再生》 5,000P】
【《収納》 5,000P】
【《隠密》 5,000P】
【《魔力感知》 5,000P】
《収納》を選ぶ。
【《収納》】
【物品を専用空間へ収納・取り出しできる固有スキル】
【生物は収納できません】
【必要ポイント:5,000P】
「生き物以外なら入るみたいですね」
「どれくらい入るんでしょう」
「試してみましょう」
【《収納》を購入しますか?】
【必要ポイント:5,000P】
【保有ポイント:5,005P】
迷わず決定する。
【5,000Pを消費しました】
【固有スキル《収納》を習得しました】
【保有ポイント:5P】
「覚えました」
「早速使ってみます?」
「はい」
まず足元に置いた毛布へ手を触れる。
《収納》を意識した。
次の瞬間、毛布が消えた。
「……消えました」
「入りました」
意識を向けると、中に毛布があることが分かる。
今度は取り出してみる。
手を前へ出すと、先ほどの毛布が現れた。
「ちゃんと戻ってきましたね」
「これなら使えそうです」
もう一度収納する。
続いて天幕。
鍋。
食料。
水袋。
縄。
調査道具。
どれも問題なく入った。
タイラントベアの爪や牙も収納する。
「まだ入りそうですね」
「私の荷物もお願いできます?」
「もちろんです」
フェリシアが持っていた天幕や毛布、食料なども順番に入れていく。
しばらくすると、二人が背負っていた大きな荷物はほとんどなくなった。
「すごく軽くなりました」
フェリシアが肩を回す。
「全然違いますね」
「これなら遠征がかなり楽になりますね」
「素材も持ち帰れます」
「昨日みたいに、持てる部分だけ選ばなくてもよくなりそうですね」
今までは、価値があっても重すぎれば諦めるしかなかった。
《収納》があれば、それも変わる。
戦闘力が上がったわけじゃない。
それでも、冒険者としてできることはかなり増えた気がする。
「調査を続けましょう」
「はい」
身軽になった俺たちは、さらに森の奥へ進んだ。
◇
昨日見つけた川を目印にして、その周辺を調べることにした。
森の中では方向が分かりにくい。
川沿いなら、戻る方向を見失いにくい。
歩きながら地面を見る。
昨日より少し乾いている。
木の根は多いが、極端な傾斜はない。
「この辺り、意外と平らですね」
フェリシアが言った。
「俺も思ってました」
木が多すぎて分かりにくいだけで、地形そのものはそれほど悪くない。
「木を全部なくしたら、かなり広くなりそうです」
「問題は、その木をなくすのが大変なことですね」
「ですよね」
周囲を見る。
太い木。
低木。
草。
地中へ伸びた根。
伐採しただけで終わりではない。
「魔物もいますしね」
「最初に広い範囲を安全にしないと、作業自体ができないでしょうね」
「冒険者や騎士が必要ですか?」
「はい。その後に木こり。切った木を運ぶ人。根を掘り起こす人。
それから地面をならして、道を作る人も必要になると思います」
「かなりの人数ですね」
「金もかかるでしょうね」
ただ、水はある。
地形もそれほど悪くない。
ベルガントから近い。
開拓できれば、かなり広い土地になる。
「伯爵様もその辺りまで考えてるんでしょうね」
「たぶん。俺たちの役目は、実際に調べた結果を持ち帰ることですね」
「魔物の数も忘れずに報告しましょう」
「はい」
その時だった。
左側から草を踏み荒らす音が聞こえた。
「何か来ます」
「大きそうです」
ドドドドッ!
木々の間から、大きな猪が飛び出してきた。
普通の猪より二回りほど大きい。
茶色い身体。
太い牙。
「フォレストボア!」
フェリシアが杖を構える。
フォレストボアは止まらない。
一直線にこちらへ突っ込んでくる。
「俺が引きつけます!」
「はい!」
前へ出る。
速い!
ただ、動きは直線的だ。
ぎりぎりまで引きつける。
右側には太い木。
フォレストボアがさらに加速する。
直前で横へ抜けた。
ドンッ!
巨体が木へ激突する。
「ブギィッ!」
頭を振りながら体勢を立て直そうとする。
「今です!」
フェリシアはすでに木と木の間へ移動していた。
「《魔弾》!」
一発目が肩へ当たる。
二発目は前脚。
フォレストボアがフェリシアの方へ身体を向けた。
杖の先に、今度は小さな魔弾が作られる。
圧縮している。
「《魔弾》!」
青白い光が額へ直撃した。
「ブギャッ!」
フォレストボアの脚が止まる。
そのまま前へ倒れた。
少し待つ。
動かない。
「倒しましたね」
フェリシアが息を吐いた。
「いい魔弾でした」
「アレンさんが木にぶつけてくれたから狙いやすかったです」
「二人で倒したってことで」
「はい」
倒れたフォレストボアを見る。
かなり大きい。
昨日までなら、牙や皮など価値のありそうな部分だけ持ち帰っただろう。
「試してみます?」
フェリシアが言った。
「そのつもりです」
フォレストボアへ触れる。
《収納》を使う。
次の瞬間、巨大な身体が消えた。
「……入りましたね」
「丸ごと入りました」
「まだ余裕はありそうですか?」
「今のところ、限界は分かりません」
少なくとも、遠征道具一式と大型魔物一体程度なら問題なく入る。
それだけでも十分だ。
「これなら素材を選ばなくて済みますね」
「ギルドで丸ごと査定してもらえます」
「《収納》、かなり便利ですね」
「買って正解でした」
調査を続ける。
◇
午後になっても、魔物との遭遇は続いた。
ソーンプラント。
ヴァインウォーカー。
昨日と同じ魔物が多い。
ただ、二日目になると戦い方も変わっていた。
「左から来ます!」
「見えてます!」
フェリシアが先に横へ動き、木の間に射線を作る。
俺は正面のソーンプラント二体へ入った。
蔓をかわす。
一体目。
【20P獲得】
剣を返す。
二体目。
【20P獲得】
別の場所ではヴァインウォーカーが二体現れた。
一体をフェリシアが引きつける。
俺はもう一体へ踏み込む。
蔓を切る。
短く剣を振り、本体へ刃を入れた。
【120P獲得】
「こっち終わりました!」
「私ももう少しです!」
フェリシアが三発の《魔弾》を続けて撃つ。
最後の一発が本体を貫いた。
さらに進んだところで、ソーンプラントが二体。
俺が両方を仕留める。
【40P獲得】
《会員》を確認した。
【保有:205P】
【累計獲得P:42,215P】
《収納》を買ったことで、保有Pはほとんどなくなった。
でも後悔はない。
必要なものを手に入れた。
◇
夕方。
少し高くなった岩場を見つけた。
「上から見てみます?」
「はい」
岩場へ登る。
それほど高い場所ではない。
それでも森の中よりは視界が開けた。
木々の間から、昨日見つけた川が見える。
その向こうにも森が広がっていた。
「広いですね……」
「ですね」
改めて見ると、この辺りはかなり平らだ。
大きな谷もない。
急な斜面も見当たらない。
川も流れている。
「何となく分かってきました」
「何がです?」
「伯爵がここを開拓候補にした理由です」
フェリシアも周囲を見る。
「土地の広さですか?」
「たぶん、それが大きいと思います」
ベルガントに近い。
まとまった平地。
水もある。
市街地を広げる場所として、条件そのものは悪くない。
「でも、木と魔物が……」
「そこが問題ですね」
かなりの人数が必要になる。
当然、金もかかる。
それでも開拓後に利用できる土地が広ければ、それだけの価値があるのかもしれない。
「戻ったら、この辺りも報告しましょう」
「はい」
空を見る。
そろそろ戻る時間だ。
俺たちは森の外へ向かった。
◇
昨日と同じ場所まで戻る。
今日は野営の準備がかなり楽だった。
「天幕を出します」
《収納》を使う。
畳んだ天幕が現れた。
続けて毛布。
鍋。
食料。
水。
必要な物だけを取り出す。
「昨日とは全然違いますね」
フェリシアが笑った。
「荷物を背負わなくていいだけでも楽ですね」
二人で天幕を張る。
俺が支柱を固定し、フェリシアが布を引っ張る。
その後は火を起こして、二人で食事の準備をした。
「これなら、もっと遠くへ行く時も楽になりますね」
「ダンジョンの深いところへ行く時にも使えそうです」
「何日か潜るようになったら、野営道具も必要ですもんね」
「はい。食料も水も持っていけますし、素材も持ち帰れます」
今までなら荷物の量を考えて、持っていく物や持ち帰る素材を選ばなければならなかった。
《収納》があれば、その制限はかなり減る。
「そろそろ食べられそうですよ」
フェリシアが鍋を見る。
「食べましょうか」
「はい」
二人で火のそばに座る。
明日でもう一日調べれば、伯爵へ持ち帰れる情報はかなり揃うはずだ。
魔物の数。
地形。
川。
開拓に必要な人員。
そして、この森の広さ。
《収納》も手に入った。
これなら今までより、さらに遠くまで冒険できそうだった。
累計獲得P=42,215P
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




