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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第3章 はじめての戦場

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第37話 酔ったフェリシア

 冒険者ギルドを出ると、外はすっかり暗くなっていた。


 通りには店先から漏れる明かりが並び、夕食を求める人たちが行き交っている。


「アレンさん」


 隣を歩いていたフェリシアが声をかけてきた。


「はい?」


「今日、どこかで食事していきませんか?」


「いいですね」


 ベルガントへ戻ってきたばかりだ。


 宿で食べてもいいが、せっかくなら久しぶりに外で食べたい。


「それに、今日はお祝いしたいです」


「Bランクになったお祝いですか?」


「それもありますけど、一番は別です」


「別?」


 フェリシアが少し笑った。


「二人とも無事に帰ってこられたお祝いです」


「……なるほど」


 それなら俺にも異論はない。


「ちゃんとお祝いしましょう」


「はい」


 戦場へ向かった時は、二人とも無事に帰れる保証なんてなかった。


 帝国兵。


 騎馬隊。


 ラーン橋。


 そして双剣聖。


 今こうして二人でベルガントを歩いているだけでも、十分祝う理由になる。


「何が食べたいですか?」


「お肉です」


「即答ですね」


「戦場だと保存の利く食べ物が多かったじゃないですか。焼きたてのお肉が食べたいです」


「じゃあ、そうしましょう」


 大通りを歩き、以前から何度か見かけていた店へ入る。


 肉料理と酒を出す店らしく、扉を開けた瞬間、焼いた肉と香辛料の匂いがした。


「いらっしゃ――」


「アレン!」


 店員の声より先に大声が飛んできた。


「?」


 店の奥を見る。


「あ……」


 大きなテーブルを囲んでいる四人組。


 クロードさん。


 ボルクさん。


 リディアさん。


 セシルさん。


 《銀狼》の四人だった。


 テーブルの上には肉料理やパンの皿と、いくつもの木製の杯が並んでいる。


「クロードさんたち」


「お前らも来たのか!」


 ボルクさんが大きく手を上げる。


「ちょうどいい。こっち来い!」


「いや、俺たちは二人で食事を――」


「席空いてるぞ!」


 話を聞いていない。


 フェリシアを見る。


「どうします?」


「……断っても無理そうじゃないですか?」


「俺もそう思います」


 結局、俺たちも同じテーブルへ座ることになった。


「二人ともBランク昇格だって?」


 リディアさんが聞いてくる。


「さっき決まりました」


「十五歳と十六歳でBランクねぇ」


 ボルクさんが杯を持ったまま俺たちを見る。


「俺、その歳のころ何してたかな」


「今と大して変わらないでしょ」


 リディアさんが言う。


「そんなことねえよ!」


「盾持ってた?」


「持ってた」


「じゃあ一緒じゃない」


「雑すぎるだろ!」


 笑い声が上がる。


 戦場にいた時とは本当に雰囲気が違う。


 クロードさんもいつもより表情が柔らかい。


 ボルクさんはさらに声が大きい。


 リディアさんはよく笑っているし、セシルさんまで少し頬を赤くしていた。


「なんか……」


「何だ?」


 クロードさんが俺を見る。


「戦場にいた時と全然違いますね」


「当たり前だろ」


 クロードさんが笑う。


「戦場じゃ酒飲んで騒げないからな」


「確かに」


「今日は仕事も終わった。飲める時くらい飲ませろ」


 クロードさんが杯を持ち上げた。


「アレンも飲むか?」


「いえ。俺はやめておきます」


「フェリシアは?」


「私も果実水で」


「二人とも真面目だな」


「クロードが勧めないの」


 セシルさんが少し呆れたように言う。


「冗談だよ」


 少しして店員が料理を運んできた。


 厚く切った肉を焼いたもの。


 温かいスープ。


 焼きたてのパン。


「美味しそう……」


 フェリシアの目が輝く。


「さっきまでBランクで驚いてた人と同じ顔とは思えないな」


 ボルクさんが笑った。


「食事は大事です」


「そうだな!たくさん食べろよ!」


 俺たちも料理を頼み、そのまま《銀狼》の飲み会へ混ざった。


 ◇


「それにしても」


 しばらくして、クロードさんが杯を置いた。


「最初に会った時は、こんなことになるとは思わなかったな」


「最初?」


「ああ。冒険者ギルドで初めて会った時だよ」


「あの時ですか」


 覚えている。


「あの頃は、妙に身なりのいい新人が二人いるな、くらいに思ってた」


「身なりのいい新人?」


「二人とも冒険者にしては育ちが良さそうだったからな」


「冒険者になったばかりでしたから」


「それがすぐにダンジョンへ潜り始めて、気づけば十階を越えてCランクになった」


「早かったですね」


 フェリシアが言う。


「早いなんてもんじゃないわよ」


 リディアさんが口を挟む。


「普通じゃないから」


「それは最近よく言われます」


「そろそろ自覚した方がいいわね」


 クロードさんが笑いながら続ける。


「そのあと戦争へ来て、ラーン橋を落として、最後は《剣聖》まで倒した」


「俺一人じゃありませんけど」


「分かってるよ。でも、お前が倒したのも事実だ」


「…………」


「正直、ここまでとは思わなかった」


 クロードさんの言い方に嫌な感じはない。


 むしろ楽しそうだった。


「これからお前たちがどこまで行くのか、楽しみだよ」


「どこまでって……」


「俺にも分からん」


 クロードさんが笑う。


「だから楽しみなんだろ」


 そう言われると、少しだけ照れる。


「クロードさんもAランクじゃないですか」


「俺は俺だ」


 そこでクロードさんの表情が少し変わった。


「そうだ。アレン」


「はい?」


「一つ頼みがある」


「何ですか?」


「《共有》だ」


 俺はクロードさんを見る。


「俺から外してくれ」


「……いいんですか?」


「ああ」


 フェリシアもクロードさんを見る。


「せっかく強くなってるのに?」


「だからだよ」


 クロードさんは自分の手を見る。


「今回、《共有》がなかったら、あの《剣聖》には勝てなかったかもしれない」


「…………」


「おかげで帝国の剣聖とやりあうことができた」


 クロードさんが俺を見る。


「助かった。本当に感謝してる」


「いえ」


「でも、あいつと戦って分かったんだ」


 さっきまでの酔った表情から、少しだけ真剣な顔へ変わる。


「まだ俺は強くなれる」


「クロードさん……」


「アレンの力を借りて届いた場所なら、次は自分の力でも少しでも近づいてみたい」


 ボルクさんが笑う。


「お前、そういうところ妙に真面目だよな」


「うるさい」


「でも、クロードらしいです」


 セシルさんが言った。


 俺は少し考えてから頷いた。


「分かりました」


 《会員》を開く。


【会員ランク:ゴールド】


【共有メンバー】


【フェリシア・ロート】


【クロード】


 クロードさんへ意識を向ける。


【クロードとの《共有》を解除しますか?】


「解除」


【《共有》を解除しました】


【共有メンバー:1名】


【フェリシア・ロート】


 表示が変わった。


 その瞬間、クロードさんが肩を動かす。


「おっ……」


「どうしました?」


「身体が重くなった」


「そんなに違います?」


「あぁ。さっきまでより一段遅いし重く感じる」


「大丈夫ですか?」


「ああ」


 クロードさんは笑った。


「これでいい」


 俺も自分の能力値を確認する。


 クロードさんへ移していた分が戻っている。


【筋力:926】


【耐久:918】


【敏捷:1,409】


【魔力:179】


 フェリシアへの共有はそのままだ。


 クロードさん一人分が戻ったことで、戦争中より能力値も高くなった。


「戻りました」


「俺に渡してた分か?」


「はい」


「なら、次に組む時までには今よりもっと強くなっておくよ」


「楽しみにしてます」


「言ったな?」


「はい」


 クロードさんが笑った。


 その時。


「アレンさぁん」


「……はい?」


 隣から妙に間延びした声が聞こえた。


 振り向く。


 フェリシアだった。


「どうしました?」


「アレンさんはですねぇ」


「はい」


「無茶しすぎなんです」


「……急ですね」


 フェリシアの頬が赤い。


 目も少し潤んでいる。


「フェリシアさん?」


「はい?」


「何飲んでます?」


「果実水です」


 手元を見る。


 赤い飲み物が入っていた杯は、もうほとんど空だ。


 向かいに座っていたリディアさんが、その杯を見る。


「あれ? それ、私が頼んだ果実酒じゃない?」


「え?」


 テーブルを見る。


 同じような色の飲み物が二つ並んでいる。


 一つは果実水。


 一つは果実酒。


「フェリシアさん」


「はい?」


「間違えてます」


「何をです?」


「飲み物です」


「…………」


 フェリシアが自分の杯を見る。


「……お酒?」


「たぶん」


「それ、一気に飲んだの?」


 リディアさんが聞く。


「美味しかったので」


「そりゃ回るわよ……」


「全然分かりませんでした」


「見れば分かる」


「何がですかぁ」


 フェリシアが俺を向いた。


「アレンさん」


「はい」


「もっと私を頼ってください」


「頼ってますよ」


「足りません」


「足りないんですか?」


「足りません」


 椅子を寄せてくる。


「近いです」


「逃げないでください」


「逃げてません」


「すぐ前に出るし」


「はい」


「すぐ強い敵と戦うし」


「はい」


「危ないことするし」


「……はい」


「私がいないと駄目じゃないですか」


「それは……」


 少し考える。


「困りますね」


「ほらぁ」


 フェリシアが満足そうに笑った。


 クロードさんたちがこっちを見ている。


「何ですか?」


「いや」


 クロードさんが口元を押さえる。


「別に」


「絶対何かありますよね?」


「アレン」


 ボルクさんが俺の肩を叩く。


「頑張れ」


「何をですか?」


「色々だ」


「そんなこと言われても分かりませんよ」


「そうだろうな」


 なぜかリディアさんまで笑っている。


「アレンさぁん」


 フェリシアが俺の袖を掴んだ。


「今度は何です?」


「私ぃ、ちゃんと役に立ってますぅ?」


「もちろんです」


「本当にぃ?」


「はい」


「どれくらい~?」


「どれくらい……」


「いっぱいですかぁ?」


「いっぱいです」


「じゃ~あ、もっと褒めてくださいよ~」


「今ですか?」


「今です」


 困った。


「魔法の狙いも正確ですし、《剣聖》と戦った時――」


「そおじゃなくてぇ」


「え?」


「…頭を撫でてください」


 フェリシアが俺をじっと見る。


「え?何を言ってるんですか?」


 ニヤニヤするクロードたち。


「やってやれよ、アレン」


「そんなこと言ったって――」


 フェリシアが椅子に座ったまま、頭をこちらへ寄せてくる。


「じゃあ、ちょっとだけですよ。」


 フェリシアの頭を軽く撫でる。


「フェリシア~、よく頑張ってるなって言いながら撫でてくださいぃ」


「わ、わかりました!」


 もう一度撫でながらアレンは言葉を振り絞る。


「フェリシア、よく頑張ってるな」


 顔を赤らめ笑顔を見せるフェリシア


「えへへ、ありがと~、アレン」

 

 急に呼び捨てになったぞ?


「私、好きよぉ。アレンと一緒に冒険するのぉ」


 【冒険をする】のがってことだな。


「俺もですよ」


「本当ですかぁ?」


「はい。フェリシアさんと組めてよかったと思ってます」


「えへへ」


 フェリシアが嬉しそうに笑った。


 なぜかクロードさんが額を押さえる。


「どうしました?」


「何でもない」


 リディアさんが笑いを堪えている。


「とりあえず水飲ませた方がいいわよ」


「そうします」


 店員に水を頼む。


「フェリシアさん、水です」


「まだ飲めますぅ」


「もう飲まなくていいです」


「厳しいれすねぇ」


「誰のせいですか」


 水を渡す。


 フェリシアは素直に飲んだ。


 それからしばらくすると、俺の肩へ頭を乗せた。


「フェリシアさん?」


「…………」


「寝ました?」


「…………」


「早いな」


 ボルクさんが笑う。


「完全に寝たわね」


 リディアさんも覗き込む。


 俺は小さく息を吐いた。


「今日はもう宿へ戻ります」


「その方がいいな」


 クロードさんが言う。


「すみません。途中で」


「気にするな」


 椅子から立ち、フェリシアの身体を支える。


「起こします?」


「いや」


 セシルさんが首を横に振る。


「そのまま寝かせてあげた方がいいと思います」


「分かりました」


 背中を向ける。


 フェリシアをおんぶする。


 思ったより軽い。


「じゃあ、お先に失礼します」


「ああ」


 クロードさんが手を上げる。


「また冒険者ギルドでな」


「はい」


「今度会う時は、俺も今より強くなってる」


「俺も強くなっておきます」


「あぁ、楽しみにしてるぞ」


 クロードさんが笑った。


 ◇


 夜のベルガントを歩く。


 背中からフェリシアの寝息が聞こえる。


「完全に寝てますね」


 返事はない。


 戦場では何度も背中を預けた。


 魔法で助けてもらった。


 怪我を心配された。


 それなのに今は、俺が背負っている。


「果実水と間違えるかな……」


 当然、返事はない。


「明日、覚えてるんでしょうか」


 多分、覚えていない気がする。


 しばらく歩くと、《銀麦亭》の看板が見えてきた。


 中へ入ると、宿の女将がこちらを見た。


「あら、どうしたの?」


「飲み物を間違えて、お酒を飲んでしまったみたいで」


「まあ」


 女将が俺の背中にいるフェリシアを見る。


「完全に寝ちゃってるね」


「はい。部屋まで運びたいんですけど、鍵がどこにあるか分からなくて」


「分かったよ。私も行くから運んであげて」


「ありがとうございます」


 女将に部屋を開けてもらい、一緒に中へ入る。


 フェリシアをベッドへゆっくり寝かせた。


「ん……」


 少しだけ声を出したが、目は開かない。


 女将が靴を脱がせ、毛布を掛ける。


「これで大丈夫だろ」


「ありがとうございます」


「朝になれば起きるよ。ただ、水は置いといてあげな」


「分かりました」


 机の上へ水差しと杯を置く。


「じゃあ、おやすみなさい」


 部屋を出ようとした時だった。


「……アレン」


 小さな声が聞こえた。


 振り返る。


 フェリシアは目を閉じたままだ。


「起きました?」


「…………」


「フェリシアさん?」


 返事はない。


 寝言だったらしい。


 すると、もう一度だけ口が動いた。


「……置いていかないでね」


「…………」


 何の夢を見ているんだろう。


「置いていきませんよ」


 そう答えても、フェリシアから返事はない。


 そのまま静かな寝息を立てている。


 俺は女将と一緒に部屋を出た。


 自分の部屋へ戻り、扉を閉める。


「ふう……」


 久しぶりの部屋だ。


 見慣れたベッド。


 机。


 壁。


 戦場では毎晩、敵が来るかもしれないと思いながら眠っていた。


 急に呼び出される可能性もあった。


 剣も手の届くところへ置いていた。


 でも今夜は違う。


 明日戦う相手は、人間じゃない。


 冒険者としてダンジョンへ行く。


 机の上へ新しい冒険者証を置いた。


【冒険者ランク:B】


 冒険者になった時はFランクだった。


 それが今はBランク。


 明日からは、これまで入れなかった場所へ行ける。


 新しい階層。


 新しい魔物。


 まだ知らない依頼。


 考えているうちに、自然と楽しみになってきた。


「明日から、また冒険者だ」


 久しぶりのダンジョン。


 明日は思い切り楽しもう。


 累計獲得P=32,935P



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妙に身なりのいい新人二人…そろそろフェリシアの身の上話も欲しいかもね
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