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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第3章 はじめての戦場

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第35話 英雄の名前

 セイル大橋を取り戻してから、少し時間が経った。


 さっきまで橋を揺らしていた歓声は、もう聞こえない。


 代わりに響いているのは、負傷者を呼ぶ声だった。


「担架をこっちへ!」


「治癒術師はいるか!」


「この人を先に!」


 橋の上には、戦いの跡がそのまま残っている。


 折れた槍。


 砕けた盾。


 転がった剣。


 そして、多くの兵士たち。


 立ち上がれる者もいれば、仲間に肩を貸されて運ばれていく者もいる。


 勝った。


 それは間違いない。


 でも、戦いが終われば残るものもある。


「アレンさん」


 声に振り向く。


 フェリシアが俺の肩を見ていた。


「座ってください」


「もう大丈夫ですよ」


「大丈夫じゃありません」


 いつもより強い口調だった。


「肩、かなり深く斬られてますよね」


「そうですね」


「脚もです」


「はい」


「頬も」


「これは浅いです」


「そういう話じゃありません!」


「……すみません」


 仕方なく近くの石へ腰を下ろした。


 すぐにセシルさんがこちらへ来る。


「見せてください」


「セシルさん」


「はい?」


「俺は大丈夫です」


「どこがですか?」


 今日二度目だ。


「自分で治せますから」


「自分で?」


 俺は《会員》を開いた。


【会員ランク:ゴールド】


【保有:6,125P】


 《回復》へ意識を向ける。


【半回復 50P】


【全回復 100P】


 肩。


 太腿。


 脇腹。


 頬。


 それだけじゃない。


 剣聖との戦いで、身体全体に疲労が溜まっている。


 帝国軍は撤退した。


 それでも戦争そのものが終わったわけじゃない。


 なら。


「全回復」


【全回復を使用しますか?】


【必要:100P】


【保有:6,125P】


「使う」


【100Pを使用しました】


【保有:6,025P】


 直後。


「……っ」


 全身が温かくなる。


 肩に残っていた痛みが引いていく。


 裂けていた傷が塞がる。


 太腿。


 脇腹。


 頬。


 身体の奥に溜まっていた重さまで、一気に消えていった。


 肩を回す。


 痛くない。


 立ち上がって脚を動かす。


 こちらにも違和感はなかった。


「治りました」


「…………」


 フェリシアが俺の肩を見る。


 セシルさんも同じだった。


「知ってはいましたけど……」


 フェリシアが呟く。


「実際に見ると、やっぱりすごいですね」


「百P使いますけどね」


「百Pでこれだけ治るなら十分じゃないですか?」


「まあ……」


 少し考える。


「剣聖を倒した時に、五千P入ったので」


「…………」


 フェリシアの動きが止まった。


「今、なんて言いました?」


「五千Pです」


「一人で?」


「はい」


「今までそんなにもらったことありました?」


「ありません」


 フェリシアが倒れた剣聖の方を見る。


「《剣聖》って、Pまで桁違いなんですね……」


「みたいです」


 俺はセシルさんを見る。


「なので、俺はもう大丈夫です。それより他の重傷者をお願いします」


 橋の上では、まだ治療を待っている兵士が大勢いる。


「本当に痛みもありませんか?」


「はい」


「疲労は?」


「それもありません」


 セシルさんが少しだけ考えたあと、頷いた。


「分かりました。では、そちらへ行きます」


「お願いします」


「無茶はしないでくださいね」


「気をつけます」


「絶対ですよ」


 フェリシアまで念を押してきた。


「……はい」


 セシルさんが負傷兵のところへ走っていく。


 少し離れた場所では、ボルクさんが大きくへこんだ盾を眺めていた。


「こいつ、修理できると思うか?」


「買い替えた方が早いんじゃない?」


 リディアさんが言う。


「高かったんだぞ!」


「剣聖の大剣を受けたんだから十分元は取ったでしょ」


「まぁ、それはそうなんだけど」


 ラウルさんが笑った。


「記念に取っとけば?」


「宿まで持って帰るの、俺なんだぞ」


「盾役だし」


「関係ねえだろ!」


「来る」


 エナさんが東を見る。


 全員の空気が変わった。


 俺もそちらを見る。


 騎馬隊が橋へ向かってくる。


 先頭にいる人物には見覚えがあった。


「スコッティ公爵……」


 公爵本人だった。


 周囲には騎士と参謀。


 少し遅れてロイド副団長の姿もある。


 馬が橋の手前で止まった。


 公爵が降りる。


「閣下」


 近くにいた騎士たちが姿勢を正した。


「そのままでいい」


 公爵は短く答える。


 そして橋を見る。


「…………」


 ゆっくり歩いていく。


 戦死した兵士。


 負傷者。


 壊れた武器。


 石畳に残る血。


 その一つ一つを見ながら進む。


 やがて、公爵の足が止まった。


 地面には、大柄な男が倒れている。


 大剣を使っていた《剣聖》だ。


 少し離れた場所には、俺が倒した男もいる。


「……この二人か」


「はい」


 クロードさんが答えた。


「ドラン帝国の双剣聖です」


 公爵が二人を見る。


「本当に、二人とも討ち取ったのだな」


「はい」


「どちらをお前が?」


 クロードさんが大剣の男を見る。


「こっちです」


 公爵の視線がもう一人へ移る。


「なら、こちらは?」


 クロードさんが俺を見る。


「アレンです」


「…………」


 公爵の目がこちらへ向いた。


「君が?」


「はい」


「一人で倒したのか?」


「途中でみんなに助けてもらいました」


 すぐに答える。


「クロードさんから教えてもらったことも使いました。俺一人だけだったら無理だったと思います」


「それでも最後に剣を交え、討ったのは君だ」


「……はい」


 公爵が俺を見たまま言った。


「君は十五歳だったな」


「はい」


「…………」


 少し前にも同じことを聞かれた。


 でも、今度はその時より長く黙っていた。


「十五歳で《剣聖》を……」


 参謀が小さく呟く。


 公爵はクロードさんへ向き直った。


「報告を聞かせろ」


「はい」


 クロードさんがセイル大橋での出来事を説明していく。


 公爵は振り返る。

「帝国軍の迂回路を潰し、その足でセイル大橋へ戻り、双剣聖を討った。その結果、帝国軍は撤退した」


「…………」


「並べられると、とんでもないな……」


 ラウルさんが呟いた。


「お前もやった側だろ」


 ボルクさんが言う。


「だから余計に驚いてるんだよ」


 公爵の口元がわずかに緩んだ。


 すぐに表情を戻す。


「クロード」


「はい」


「双剣聖の一人を討った」


「はい」


「だが、お前一人の戦功ではないのだな」


「もちろんです」


 クロードさんが迷わず答える。


「ボルクが大剣を止めた。ラウルが牽制した。リディアとフェリシアが隙を作った。エナの警告がなければ俺も何度か食らってます」


「セシルは?」


「負傷者の治療です。前線に戻れた兵士も多い」


 公爵が一人ずつ見る。


 ボルクさん。


 ラウルさん。


 リディアさん。


 エナさん。


 少し離れた場所で治療をしているセシルさん。


 フェリシア。


 クロードさん。


 そして俺。


 公爵は参謀に話しかける。


「彼らの正式な戦功報告をまとめろ」


「承知しました」


「ラーン橋破壊。双剣聖二名討伐。セイル大橋奪還」


「はっ」


 公爵が俺たちを見る。


「今回の戦いの第一戦功は、君たち第一班だ」


「…………」


「ベルガント伯には、私からそう報告する」


 ラウルさんがクロードさんを見る。


「……俺たち?」


「ああ」


「第一戦功?」


「そう言われたな」


「本当に?」


「公爵閣下に聞き直してみろ」


「絶対嫌だ」


 ボルクさんが笑った。


「急に小さくなったな」


「うるせえよ」


 俺も少しだけ笑った。


 公爵がこちらを見る。


「アレン・ヴァルディス」


「はい」


「君の名も個人戦功として記録する」


「俺の?」


「当然だ」


「でも……」


「君が十五歳だろうと、冒険者だろうと関係ない」


 公爵は倒れた剣聖を見る。


「《剣聖》を討った者の名を残さない理由がない」


「…………」


「クロードも同じだ」


「俺は別にいらんが」


「お前の希望は聞いていない」


「ははは、そうですか」


 クロードさんが苦笑した。


「それから、この戦果は王都にも報告する」


「王都?」


 思わず聞き返した。


 参謀が答える。


「双剣聖の討伐は、スコッティ公爵領だけの問題ではありません。

ドラン帝国が《剣聖》を二人投入し、その二人を同時に失った。

それは王国全体が把握すべき戦果です」


「国王陛下にも報告が上がるだろう」


 公爵が続ける。


「国王陛下……」


 話が急に大きくなった。


「もちろんベルガント伯にも正式に報告する。君たちはベルガント伯が派遣した遊撃隊だからな」


「……はい」


 冒険者として依頼を受けただけだった。


 最初はダンジョンで魔物を倒してPを稼いで。


 少しずつ強くなればいいと思っていた。


 それが、いつの間にか戦争へ来て。


 《剣聖》を倒した。


 その名前が王都へまで報告される。


「アレンさん」


 隣でフェリシアが小声で言う。


「有名になっちゃいますね」


「困ります」


「なんでですか?」


「静かに冒険者をやりたかったので」


「……もう無理じゃないですか?」


「…………」


 否定できなかった。


 ◇


 その夜。


 本陣近くに用意された天幕。


 第一班はしばらく休息を取ることになった。


 帝国軍が退いたとはいえ、戦争そのものが終わったわけではない。


 ただ、少なくとも今夜すぐに大規模な戦闘が起きる可能性は低いらしい。


 隣の天幕から、ボルクさんとラウルさんの声が聞こえてくる。


「だからその盾は捨てろって」


「捨てねえ!」


「真ん中へこんでるだろ」


「直す!」


「いくらかかるんだよ」


「知らん!」


 元気そうだ。


 俺はベッド代わりに敷かれた毛布へ腰を下ろした。


「《会員》」


 表示を開く。


【会員ランク:ゴールド】


【保有:6,025P】


 六千二十五P。


 能力強化なら何度も買える。


 でも。


 今日は別のものが気になっていた。


 固有スキル購入を開く。


【5,000P】


《身体強化》


《気配察知》


《暗視》


《高速思考》


《魔力操作》 取得済み


《剣士》


《再生》


《収納》


《隠密》


《魔力感知》


《剣士》か、今ならいけるな。


「…………」


 今日の戦いを思い出す。


 身体能力なら負けていなかった。


 筋力。


 耐久。


 敏捷。


 むしろ俺の方が上だったかもしれない。


 それでも剣聖には何度も攻撃を流された。


 体勢を崩された。


 俺が剣を振るより前に、次の動きを読まれていた。


 最後はクロードさんから教わったことを使って《魔力操作》と炎牙剣まで使い、ようやく勝った。


 純粋な剣技では最後まで向こうが上だった。


 《剣士》へ意識を向ける。


 五千P。


 買える。


 でも。


 表示をさらに下へ送った。


【10,000P】


《付与》 取得済み


《剣豪》


《魔豪》


《弓豪》


《斧豪》


《槍豪》


《拳豪》


 目が止まる。


「《剣豪》……」


 剣士。


 剣豪。


 剣聖。


 剣神。


 剣を扱う固有スキルの格。


 《剣豪》でも一年に一人現れるかどうか。


 その一つ上が《剣聖》。


 今日戦った二人。


 そして。


 カイル。


「一万Pか」


【保有:6,025P】


「あと三千九百七十五P」


 遠すぎる数字には思えなかった。


 十階より下のダンジョンなら、強い魔物から大量のPを得られる。


 もっと深く潜れば、さらに増えるかもしれない。


 今日みたいな戦場なら。


「…………」


 そこで考えるのを止めた。


 人を倒してPを稼ぐために、戦争を続けたいわけじゃない。


 今日だって五千Pをもらったことより、あの男を斬った感触の方がまだ手に残っている。


 でも強くなることは別だ。


 今日、もし俺が弱かったら双剣聖は止められなかった。


 セイル大橋も奪われていたかもしれない。


「もっと強くならないとな」


 《剣豪》を見る。


 今はまだ買えない。


 なら。


「次はこれだ」


 あと三千九百七十五P。


 表示を閉じた。


 ◇


 それから七日後。


 アルスレイン王国王都。


 サハル王国第一王女セリカの一行は、すでに長い旅を終えて王都へ到着していた。


 だが、護衛団の任務がそれですべて終わるわけではない。


 王女一行の正式な引き渡しや、その後の予定が整うまでサハル側の護衛の一部は、アルスレイン王都に残っていた。


 ヴァルディス侯爵とカイルも、その中にいる。


 アルスレイン王家が用意した迎賓館。


 ヴァルディス侯爵が滞在している部屋へ、一人の騎士が入ってきた。


「侯爵閣下」


「何だ?」


「サハル王国より戦況報告が届きました」


「国境か?」


「はい」


 騎士が封書を差し出す。


 ドラン帝国軍が国境を越えたという知らせは、すでにアルスレイン側にも届いている。


 今回の侵攻が王家同士の婚姻と無関係だとは考えにくい。


 そのため、王女一行にもサハル西部の戦況は届けられていた。


「父上」


 同じ部屋にいたカイルが振り向く。


「戦況ですか?」


「ああ」


 ヴァルディス侯爵が封を切った。


 書面へ目を通す。


「……セイル大橋」


「どうなったんです?」


「帝国軍は撤退した」


「本当ですか?」


「ああ」


 カイルの表情が少し緩んだ。


「じゃあ、押し返したんですね」


「そのようだ」


 ヴァルディス侯爵が続きを読む。


「セイル大橋を奪還……」


 その指が止まった。


「…………」


「父上?」


 返事がない。


「どうしました?」


「……双剣聖」


「え?」


 カイルの表情が変わった。


「何です?」


「ドラン帝国はセイル大橋へ《剣聖》を二人投入していたらしい」


「二人?」


 カイルが目を見開く。


「そんなにいたんですか?」


「ドラン帝国の双剣聖……名は聞いたことがある」


「そんなすごい奴らが…それで?」


 カイルが一歩近づく。


「サハル軍が負けたんですか?」


「いや」


「では?」


 ヴァルディス侯爵が、もう一度同じ場所を読む。


「……二名とも戦死」


「は?」


「双剣聖は二人とも討ち取られた」


「…………」


 カイルが黙った。


 自分も《剣聖》だ。


 だからこそ、その言葉の重さは分かる。


「誰が?」


「一名は冒険者だ」


「冒険者?」


「クロードという男らしい」


「《銀狼》のクロード…名前は聞いたことがあります」


「ああ」


 ヴァルディス侯爵の目が、その次の行で止まった。


「…………」


「父上?」


「もう一人は……」


「誰です?」


 侯爵がカイルを見る。


「アレンだ」


「…………は?」


「アレン・ヴァルディスだ」


「……兄さん?」


 カイルが動かなくなった。


 数秒して。


「見せてください」


「カイル」


「書面を」


 父から受け取り読む。


 セイル大橋防衛。


 冒険者遊撃隊第一班。


 双剣聖二名討伐。


 一名――クロード。


 そして。


【双剣聖一名討伐】


【アレン・ヴァルディス】


【十五歳】


「…………」


 何度読んでもそこには兄の名前がある。


 カイルは、以前アレンと再び剣を交えた時のことを思い出した。


 最初に《剣聖》を授かった日。


 兄は、自分の剣を一度もまともに止められなかった。


 あれほど剣を鍛えていた兄を簡単に倒した。


 だから思った。


 もう自分の方が上なのだと。


 だが。


 次に会った兄は違っていた。


『兄さん、強くなった?』


 そう聞いた。


 実際、兄は自分の剣を防いだ。


 速さにもついてきた。


 そして、木剣の先が自分の肩に触れた。


『……当たった』


 あの時の感触まで思い出す。


 強くなっていることは分かっていた。


 それでも。


「…………」


 カイルが書面を握る手に力を入れた。


 《剣聖》。


 自分と同じ固有スキルを持つ者。


 それを実戦で兄が討ち取った。


「……兄さんが」


 書面から目を離せない。


「《剣聖》を討った……?」


 ヴァルディス侯爵も答えなかった。


 かつて《会員》というだけで家から追い出したアレン・ヴァルディスの名が、今度は《剣聖》を討った者として、父と弟の前へ戻ってきた。


 累計獲得P=32,935P



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― 新着の感想 ―
敵国の剣聖を討てる人間を放逐した阿呆侯爵はどちら様ですかー?ww
クロードとの共有が気になるんですが。 一緒に行動しないなら解錠しないと駄目じゃない?能力1割減るわけだし。
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