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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第3章 はじめての戦場

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第33話 双剣聖

 ラーン橋を離れ、本陣へ戻る途中から、北の空が土埃で霞んでいた。


 何百、何千という兵士が動き、馬が走っている。


 近づくにつれて、金属がぶつかる音や兵士たちの叫び声まで聞こえてきた。


「もう始まってるな」


 クロードさんが馬上から北を見る。


 ラーン橋を落としたあと、降伏した帝国兵は後から来たスコッティ公爵軍へ引き渡した。


 俺たちはほとんど休まず本陣へ戻っている。


 セイル大橋では、すでに戦いが始まっていた。


「急ぐぞ」


「はい!」


 馬の速度を上げる。


 俺の後ろでは、フェリシアが腰へ回した腕に力を入れた。


 しばらくして本陣へ着く。


 昨日までとは空気がまるで違っていた。


 伝令が絶え間なく出入りし、負傷した兵士が次々と運び込まれている。


 治療用の天幕の前には、すでに何人もの兵士が横たわっていた。


「第一班、戻りました!」


 クロードさんが馬を降り、俺たちも続いた。


「クロード!」


 本陣の入口にいた騎士が駆け寄ってくる。


「公爵閣下がお呼びだ。すぐ来てくれ!」


「分かった」


 休んでいる暇はない。


 俺たちはそのまま司令用の天幕へ向かった。


 中にはスコッティ公爵と数人の騎士、それに参謀たちがいる。


 机には大きな戦況図が広げられていた。


「戻ったか」


「ラーン橋は落としました」


 クロードさんが答える。


「帝国軍の南への迂回は、しばらく止められるはずです」


「報告は受けた。よくやってくれた」


 公爵の表情は険しいままだった。


「だが、今はこちらの方がまずい」


 指がセイル大橋を叩く。


「帝国軍本隊が到着した。現在、橋の西側から攻撃を受けている」


「戦況は?」


「押されている」


 その直後、天幕の外から声が響いた。


「第三防衛線、後退!」


「負傷者を下げろ!」


 公爵が顔をしかめる。


「原因は数だけではない」


「何かいるんですか?」


 俺が聞く。


「ああ。剣聖だ」


「……剣聖?」


 頭に浮かんだのはカイルだった。


 十五歳で《剣聖》を授かった弟。


「一人ではない」


 公爵が続ける。


「二人だ」


「二人?」


 フェリシアが声を上げた。


 クロードさんの表情も変わる。


「まさか……」


「ああ。ドラン帝国の双剣聖だ」


 帝国でも名の知られた二人の剣聖。


 本隊に所属しているという話は聞いていたらしい。


 だから今まで前線には姿を見せなかったのか。


「見た方が早い」


 公爵が天幕を出る。


 俺たちも続いた。


 本陣は少し高い場所に作られている。


 そこからなら、セイル大橋周辺を見渡せた。


 川の向こうには帝国軍の軍旗が並び、こちら側ではスコッティ公爵軍が防衛線を作っている。


 だが、その防衛線が少しずつ後ろへ動いていた。


「……押されてる」


 フェリシアが呟く。


 その中心に、一人の男がいた。


 両手で大きな剣を握っている。


 王国兵三人が盾を並べ、道を塞いだ。


 男が踏み込む。


 大剣が横へ走った。


 三枚の盾が大きく揺れ、兵士たちがまとめて後ろへ弾き飛ばされた。


 空いた場所へ帝国兵が流れ込んでくる。


「穴を塞げ!」


 王国側の騎士が叫び、別の兵士たちが前へ出た。


 しかし、反対側にも一人いる。


 こちらの男は大きな動きをしない。


 王国兵の剣を半歩ずれてかわし、そのまま懐へ入る。


 一人が倒れた。


 横から槍が伸びる。


 男は剣で受けることなく、穂先の内側へ潜り込んだ。


 二人目。


 後ろから騎士が斬りかかる。


 振り返りざまに剣が走った。


 三人目が倒れる。


 何十人もの兵士がいるのに、その男の周囲だけ次々と人が倒れていった。


「……あれが」


 公爵が低い声を出す。


「噂の双剣聖か」


 一人は正面から防衛線を壊し、もう一人は生まれた隙間から内側へ入り込んでいく。


 戦い方はまるで違う。


 それでも、どちらも止められていなかった。


「クロード」


「はい」


「あれを止められるか?」


 クロードさんはすぐには答えなかった。


 二人の剣聖の動きをじっと見ている。


「一人なら」


「一人?」


「倒せるとは言いません。ただ、一人を足止めするならなんとか」


「二人は?」


「無理です」


 迷いのない答えだった。


「あの二人を同時に相手にしたら、長くは持ちません」


「そうか……」


 その間にも王国軍の防衛線がまた下がった。


 帝国兵が橋の東側へ少しずつ広がっていく。


 ここを突破されたらどうなる?


 帝国軍本隊がサハル王国へ入ってくる。


 その先には町がある。


 村もある。


 まだ逃げ切れていない人だっている。


 昨日助けた村人たちを思い出す。


 あの時は、帝国兵に追いつかれる前に逃がすことができた。


 でも、本隊がここを突破すれば、今度は村一つでは済まない。


「公爵閣下」


「なんだ?」


「もう一人は、俺がやります」


 全員の視線が集まった。


「アレンさん?」


 フェリシアも驚いた顔をする。


 公爵が俺を見た。


「君が?」


「はい」


「相手は《剣聖》だぞ」


「分かっています」


 《剣聖》がどれだけ強いかは知っている。


 カイルが《剣聖》を授かった日、俺は何もできなかった。


 だが、その後に冒険者になってから、もう一度カイルと戦った。


 今度は剣を受けることができた。


 一度だけだが、肩にも当てた。


 そして今の俺は、あの時よりさらに強くなっている。


「以前、《剣聖》と戦ったことがあります」


「何?」


「弟が《剣聖》です」


 公爵が目を見開いた。


「ヴァルディス家の……そうか。君はあの《剣聖》の兄か」


「はい」


「どこまで戦えた?」


「剣を受けることはできました。一度だけですが、肩にも当てています」


 クロードさんが俺を見る。


「いつの話だ?」


「冒険者になって間もない頃です」


「なら、今はその時より強いな」


「はい」


 公爵が戦場を見る。


「ラーン橋での働きもあるか――」


 そして俺に視線を戻した。


「分かった。ただし、無理だと思ったら退け。必要なのは倒すことではない。

あの二人を止めることだ」


「分かりました」


「第一班」


 クロードさんが振り返る。


「行くぞ」


「はい!」


 俺たちはセイル大橋へ向かって走り出した。


 その間にも、クロードさんが指示を飛ばす。


「ボルクは中央。俺たちの後ろを守れ」


「おう!」


「ラウルは右。抜けてくる兵を止めろ」


「了解!」


「リディアは帝国兵が密集したところを狙え。前へ出すぎるな」


「分かったわ」


「エナは周囲を見ろ。剣聖だけに集中するな」


「うん」


「セシルは後方で治療」


「任せて」


 最後にフェリシアを見る。


「フェリシアはアレンの援護。ただし剣聖との間には入るな」


「……分かりました」


 そして俺を見る。


「アレン」


「はい」


「俺たちの仕事は剣聖を倒すことじゃない」


「止めることですね」


「そうだ」


 昨日と同じだ。


 帝国軍をここから先へ進ませない。


 それが俺たちの仕事だ。


 走りながら二人の剣聖を見る。


 俺とクロードさんが一人ずつ受け持つ。


 その時、思い出した。


「クロードさん!」


「なんだ?」


「俺のスキルを使わせてください!」


「何?」


「俺の身体能力の一部を仲間へ渡せます」


「……どういうことだ?」


「今もフェリシアさんに使っています」


「本当です!」


 フェリシアが答える。


「アレンさんの能力の一部が、私にも来ています!」


 クロードさんがフェリシアを見る。


「それでお前、あんな動きができるようになったのか?」


「かなり助けられてます」


「クロードさんにも使えます」


「お前に影響はないのか?」


「俺の能力がその分下がります」


「駄目だ」


 即答だった。


「これから剣聖と戦う奴が弱くなってどうする」


「大丈夫です」


「何が大丈夫なんだ」


「今はフェリシアさんに一割渡しています。クロードさんを加えれば合計二割です」


「それのどこが大丈夫なんだ」


 《会員》を開く。


【保有:2,690P】


「下がった分は補えます」


「……また意味の分からないことを言っているな」


「説明はあとでします」


 もう戦場は近い。


「使います」


 《共有》を開く。


【共有メンバー】


【フェリシア・ロート】


【空き:1】


【共有候補】


【クロード】


【共有メンバーに登録しますか?】


「登録する」


【対象者の同意が必要です】


「クロードさん。目の前に何か出るはずです」


「何?」


 クロードさんの目が大きくなる。


「……なんだ、これは」


「承認してください」


「本当に大丈夫なんだな?」


「はい」


 一瞬だけ俺を見る。


「分かった」


【クロードが共有メンバーへの登録を承認しました】


【共有メンバー:2名】


【共有率:10%】


【クロードへ基礎能力値の10%を移譲します】


 身体が重くなった。


 フェリシアとクロードさん。


 二人へ能力を渡している分、今までよりはっきりと違いを感じる。


「……っ」


 隣でクロードさんが足を止めかけた。


「どうしました?」


 クロードさんは右手を握り、もう一度開いた。


 軽く地面を蹴る。


 予想以上に身体が前へ出て、慌てて足を止めた。


「なんだ、これは……」


「それが《共有》です」


「身体が軽い。それに力も……」


 クロードさんが俺を見る。


「アレン」


「はい?」


「お前、普段こんな身体で戦っているのか?」


「俺はもう少しあります」


「……そうか」


 クロードさんの顔に驚きが残っている。


 俺も自分の身体を確かめた。


 二人分を共有したことで、確かに能力は落ちている。


 それでも最初にフェリシアへ《共有》を使った頃より、ずっと強い。


 ダンジョンで何度も戦った。


 戦争に来てからも、帝国兵や騎兵と戦った。


 戦った分だけ、俺自身の基礎能力も少しずつ伸びている。


 ただ、相手は剣聖だ。


 少しでも速さが欲しい。


 《会員》を開く。


【敏捷強化(大) 1,000P】


「二回」


【敏捷強化(大)を2回購入しますか?】


【必要:2,000P】


【保有:2,690P】


「買う」


【2,000Pを使用しました】


【保有:690P】


【敏捷+360】


 身体の奥を、一気に力が駆け抜けた。


「……っ」


 足が軽くなる。


 そういえば、しばらく自分の能力を確認していなかった。


 《能力情報》を開く。


【名前:アレン・ヴァルディス】


【会員ランク:ゴールド】


【基礎能力】


【筋力:1,028】


【耐久:1,020】


【敏捷:1,565】


【魔力:198】


「千五百六十五……」


 敏捷は大きく伸びた。


 筋力と耐久も、最後に確認した時より少し上がっている。


 ダンジョンで戦い続けた。


 戦争へ来てからも、何度も帝国兵と戦った。


 Pで強化した分だけじゃない。


 戦った分だけ、俺自身の基礎能力も伸びている。


 さらに《共有》を確認する。


【共有メンバー:2名】


【フェリシア・ロート】


【クロード】


【共有率:10%】


【共有値】


【筋力:102】


【耐久:102】


【敏捷:156】


【魔力:19】


 一人につき、この能力が渡っている。


 そして共有中の俺自身は、


【筋力:824】


【耐久:816】


【敏捷:1,253】


【魔力:160】


「……これなら」


 二人へ能力を渡している。


 それでも敏捷は千二百を超えている。


 カイルと再戦した時より、俺はずっと強い。


「あっ」


 フェリシアが声を上げた。


「アレンさん、また上げましたね?」


「敏捷を上げました」


「やっぱり!」


 クロードさんも自分の身体の変化に気づいたらしい。


「……今度は速さか」


「はい。共有している二人にも反映されています」


 クロードさんが自分の手を開いて、握る。


「本当にとんでもないスキルだな」


 そして戦場を見る。


「だが、今は助かる」


 最前線はもうすぐそこだった。


 負傷した王国兵がこちらへ下がってくる。


「剣聖だ!」


 一人が叫んだ。


「前に出るな! あいつらは普通じゃない!」


 その奥に二人がいた。


 大剣を持った剣聖が盾兵を弾き飛ばす。


 もう一人は騎士の剣を流し、そのまま懐へ入った。


 騎士が倒れる。


「下がれ!」


 王国側の隊長が叫ぶ。


「陣形を立て直せ!」


 しかし、二人は立て直す時間を与えない。


 大剣の剣聖が防衛線を崩し、空いた場所へ帝国兵が流れ込む。


 もう一人の剣聖がその先頭へ入り、さらに穴を広げていった。


「第一班!」


 クロードさんが叫ぶ。


「ここからは作戦通りだ!」


「おう!」


 ボルクさんが大盾を構える。


 ラウルさんが槍を持って右へ回る。


 リディアさんとフェリシアが後方で杖を構えた。


 エナさんは戦場全体を見る。


 セシルさんが最後尾へ下がる。


 クロードさんが剣を抜いた。


「アレン」


「はい」


 二人の剣聖を見る。


「右は俺がやる」


「はい」


「左はお前に任せる」


「分かりました」


「無理に倒そうとするな」


「止めればいいんですよね」


「そうだ」


 クロードさんが前へ出る。


「行くぞ!」


「はい!」


 二人で王国兵の間を抜けた。


「誰だ!?」


「冒険者!?」


「道を開けろ!」


 兵士たちが左右へ動き、視界が開く。


 俺が向かう剣聖もこちらに気づいた。


 三十歳くらいの男。


 長めの片手剣を握っている。


 男が俺を見て眉を寄せた。


「なんだ?」


 周囲の帝国兵もこちらを見る。


 男の口元が少し歪む。


「子供まで出てきたか」


 剣を構えた。


 その瞬間、空気が変わった。


「……!」


 速い。


 分かっていた。


 カイルと同じ《剣聖》。


 普通の兵士とはまるで違う。


 男が地面を蹴った。


 一気に間合いが消える。


 右上から剣が振り下ろされた。


 炎牙剣を抜く。


 ガァンッ!


 腕へ強い衝撃が走った。


 だが、止めた。


「……何?」


 男の目が見開かれる。


 炎牙剣と相手の剣が噛み合った。


 カイルが《剣聖》を授かった日とは違う。


 あの日は剣を見ることすらできなかった。


 何度立ち上がっても、一方的に倒された。


 今は見える。


 受けられる。


 足に力を込めた。


 炎牙剣を押し返す。


 男の腕がわずかに戻った。


「お前……」


 俺は炎牙剣を構え直す。


 男の顔から、さっきまでの笑みが消えていた。


 後ろではクロードさんも、もう一人の剣聖と向かい合っている。


 その周囲では、第一班と帝国兵の戦闘も始まっていた。


 ここを抜かせたら、帝国軍本隊がサハル王国へ入ってくる。


 昨日みたいに村一つを守れば終わりじゃない。


 もっと多くの人が巻き込まれる。


 だったらここで止める!


「ここから先には行かせない!」


 剣聖の男が俺を見据える。


 今度は子供を見る目ではない。


 敵を見る目だった。

【名前:クロード】

【筋力:340+102】

【耐久:355+102】

【敏捷:360+156】

【魔力:80+19】


 累計獲得P=27,500P



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
クロードさん、素で各350くらいあるんだ。 Aランク半端ねぇぜ。
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