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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第3章 はじめての戦場

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第32話 橋を落とせ

 翌朝。


 俺たちは再び、スコッティ公爵軍の本陣へ呼ばれていた。


 大きな机には昨日と同じ戦況図が広げられている。


 その横に、一通の書状が置かれていた。


 赤い封蝋にはベルガント伯爵家の紋章が押されている。


「ベルガント伯から書状が届いた」


 スコッティ公爵が言った。


「昨日送った手紙の返事ですか?」


 俺が聞くと、公爵は首を横に振った。


「いや。君たち遊撃隊をこちらへ送り出した際、ベルガント伯が別便で出していたものらしい。今朝、本陣へ届いた」


 それなら昨日の書状よりずっと前にベルガントを出ている。


 公爵が書状へ目を落とす。


「ベルガントから派遣した冒険者遊撃隊について、スコッティ公爵領の防衛に必要な任務であれば、私から直接依頼して構わないそうだ。

ただし、冒険者は正規兵ではない。任務を受けるかどうかは本人たちの意思に委ねる、とある」


「伯爵らしいな」


 クロードさんが小さく笑った。


「私もそれで構わん。君たちを私の兵と同じように扱うつもりはない。

任務の内容と危険性を伝える。その上で受けるかどうかを決めてもらう」


「分かりました」


 クロードさんが俺たちを見る。


「俺は受けるつもりだ。みんなは?」


「問題ない」


 ボルクさんが答えた。


 リディアさん、セシルさん、ラウルさん、エナさんも頷く。


「俺もやります」


「私もです」


 フェリシアも答えた。


「決まりだな」


 クロードさんが公爵へ向き直る。


「必要な任務があれば言ってください」


「助かる」


 公爵が頷いた、その時だった。


「急報!」


 天幕の外から大きな声が聞こえた。


 一人の騎士が飛び込んでくる。額には汗が浮かび、外では乗ってきた馬が荒い息を吐いていた。


「公爵閣下! セイル大橋西方で帝国軍に動きがあります!」


 天幕の空気が一瞬で変わった。


「規模は?」


「現在確認できるだけでも千以上! さらに西から後続が続いています!」


「来たか」


 公爵が戦況図へ向かう。


 騎士や参謀も机を囲んだ。


「第二隊をセイル大橋へ。第四隊も続け」


「はっ!」


「橋の東岸に防衛線を構築しろ。騎兵隊は北の渡河地点を警戒。敵が大橋だけを狙うとは限らん」


「承知しました!」


 机の上では数個の駒が動いただけだった。


 しかし天幕の外では、伝令が走り、馬がいななき、兵士たちの声が飛び交い始めている。


 小さな駒一つで、何百人もの兵が動く。


 これが戦争なんだ。


「セイル大橋には主力を集中させます」


 参謀が言った。


「ああ。ここは抜かせん」


 公爵の指がセイル大橋の上で止まった。


 そこへ、また別の騎士が駆け込んできた。


「公爵閣下! 南方の斥候から報告です!」


「何だ?」


「帝国兵の一団が南東へ進んでいます!」


「場所は?」


 騎士が地図へ近づき、一点を指した。


 昨日、クロードさんが警戒していた南側の道だった。


 その先には、セイル川へ架かる別の橋がある。


「ラーン橋……」


 参謀が呟く。


 ラーン橋は木造で、セイル大橋ほど大きくない。


 大量の荷馬車を一度に通すには向かないが、歩兵や騎兵なら十分に渡れる。


「数は?」


「正確には分かりません。少なくとも百以上。後続もいるようです」


「セイル大橋へこちらの主力を引きつけている間に、南から回り込むつもりか」


「ラーン橋を抜かれれば、セイル大橋の守備隊の側面へ出られます」


 参謀の言葉に、公爵の表情が険しくなる。


「南へ兵を回しますか?」


「まとまった兵を今から動かせば、セイル大橋の守りが薄くなる」


 公爵は数秒、地図を見つめた。


 やがて顔を上げる。


「クロード」


「はい」


「早速だが、頼みたい任務がある」


「内容は?」


 公爵の指がラーン橋を叩いた。


「橋を落としてほしい」


 クロードさんの目が細くなる。


「帝国軍がラーン橋を渡り切る前に破壊する。正規軍を南へ割く余裕がない。

それに、今から最も早く現場へ行けるのは君たちだ」


「敵との接触は?」


「避けられんだろう。数百まで増える可能性もある」


 クロードさんが俺たちを見る。


「どうする?」


「行きます」


 俺はすぐに答えた。


 他のみんなも同じだった。


「引き受けます」


「頼む」


 公爵はラーン橋を指したまま言った。


「任務は一つ。帝国軍が東へ抜ける前に、ラーン橋を破壊してくれ」


 ◇


 本陣を出ると、馬が用意されていた。


「……すみません」


 フェリシアが申し訳なさそうに手を上げる。


「私、馬に乗れません」


「乗ったことないんですか?」


「ありません。普通はそんなに機会ありませんよ」


 俺はヴァルディス家にいた頃、馬術も教え込まれていた。


 でも、誰もが乗れるわけじゃない。


 幸い、フェリシア以外は全員騎乗できるらしい。


「ならアレンの後ろに乗れ」


 クロードさんが言った。


「俺ですか?」


「お前なら乗れるだろ」


「はい」


「だったら一番安全だ」


 馬へ乗り、フェリシアへ手を伸ばす。


「手を」


「はい」


 腕を取って引き上げると、フェリシアが俺の後ろへ座った。


「大丈夫ですか?」


「た、多分」


「落ちそうだったら俺を掴んでください」


「分かりました」


「行くぞ!」


 クロードさんが馬を走らせた。


 俺も続く。


「きゃっ」


 腰に腕が回った。


「す、すみません!」


「大丈夫です!」


 振り返る余裕はない。


 七頭の馬が南へ向かって街道を駆ける。


 蹄が土を叩き、風が顔へぶつかる。林も畑も、避難する人々の荷車も次々と後ろへ流れていった。


 ◇


「止まって」


 しばらく走ったところで、エナさんが馬を止めた。


 俺たちも速度を落とす。


「どうした?」


「橋が見える」


 ラーン橋まではまだかなり距離がある。


 俺には川が見える程度だった。


 エナさんは少し高くなった場所へ上がり、目を細める。


「《遠目》」


 そんなスキルも持っていたのか。


 数秒後、エナさんの表情が変わった。


「……遅かった」


「どういう意味だ?」


 クロードさんが聞く。


「もう渡ってる」


「何人?」


「四十から五十くらい」


「こっち岸に?」


「うん。騎兵七。残りは歩兵」


「橋の上は?」


「まだ渡ってる。向こう岸には二百以上。もっと後ろにもいるかも」


「弓兵は?」


「いる」


「魔術師?」


「杖を持ってるのが六……いや、七人」


 クロードさんがすぐに馬へ戻る。


「急ぐぞ!」


 ◇


 ラーン橋が見えた。


 太い木材を何本も組み合わせて作られた、大きな木造橋だ。荷馬車二台がすれ違えるほどの幅がある。


 その東岸には、すでに帝国兵が展開していた。


 本当に五十人以上いる。


 騎馬兵もいる。


 橋の上にも兵士が並び、次々にこちら側へ渡ってきていた。


「このままだと増えるわ!」


 リディアさんが叫ぶ。


「リディア! 橋の向こうを散らせ!」


「分かった!」


「フェリシア! 弓兵と魔術師を優先に攻撃するんだ!いけるか!?」


「はい!」


 リディアさんが杖を向ける。


 火玉が飛び、橋の西詰めで爆発した。


 ドンッ!


「敵襲!」


 帝国兵が散る。


「《魔弾》!」


 フェリシアの魔弾が飛ぶ。


 一人の弓兵が腕を押さえて弓を落とす。


 続いて杖を構えていた魔術師。


「ぐっ!」


 魔術師の一人に命中し、詠唱が止まった。


 橋を渡る帝国兵の流れが一瞬だけ鈍る。


 しかし、敵もすぐに反応した。


「弓兵! 撃て!」


「矢!」


 エナさんが叫ぶ。


「下がれ!」


 ボルクさんが大盾を構えた。


 ガガガガッ!


 何本もの矢が盾へ突き刺さる。


 地面にも次々と矢が落ちた。


「魔法も来る!」


 対岸で光が集まる。


 火球が飛んできた。


 ドンッ!


 地面が爆ぜ、土煙が上がる。


 さらにこちら岸の帝国兵まで動き出した。


「魔術師を潰せ!」


「行け!」


 十人ほどの歩兵がリディアさんたちへ向かって走る。


 俺は炎牙剣へ手をかけた。


「先にあいつらを――」


「違う!」


 クロードさんが言った。


「橋が先だ」


「でも五十人以上います!」


「この五十人を倒してる間に百人渡られたら終わる」


 クロードさんが橋を見る。


「俺たちの任務は敵を倒すことじゃない。橋を落とすことだ」


 すぐに全員へ指示を飛ばす。


「リディア! 橋の東詰めを撃て!」


「え?」


「俺たちが通る道を作れ!」


「分かった!」


 火球が飛ぶ。


 帝国兵の前で爆発し、何人かが左右へ飛び退いた。


「ボルク!」


「おう!」


「あそこを広げろ!」


「任せろ!」


 ボルクさんが大盾を前へ出して突進する。


「どけぇ!」


 ドンッ!


 帝国兵二人が弾き飛ばされた。


 敵の列が割れる。


「ラウル! ボルクの右!」


「了解!」


「フェリシアは弓兵と魔術師を止めろ! エナは側面と対岸を見ろ! セシルは後ろで待機!」


「はい!」


 最後にクロードさんが俺を見る。


「アレン!」


「はい!」


「今だ!」


 クロードさんが走る。


 俺もその後を追った。


 ◇


「止めろ!」


 前へ出た騎兵がこちらへ突っ込んできた。


 馬上の兵士が長槍を突き出す。


 身体を横へずらし、槍をかわす。


 炎牙剣を振った。


「ぐっ!」


 兵士が馬から落ちた。


【人間討伐を確認しました】


【130P獲得】


 表示に構わず走る。


 歩兵が一人、クロードさんの横から斬りかかろうとする。


 間へ入った。


 剣を受け、押し返す。


 炎牙剣を振る。


【人間討伐を確認しました】


【70P獲得】


「止まるな!」


「はい!」


 クロードさんも前にいた帝国兵を一太刀で斬り伏せる。


 もう一人が槍を突き出す。


 クロードさんは身体を半歩ずらしただけだった。


 槍を逸らし、そのまま相手の懐へ入る。


 一閃。


 兵士が倒れた。


 速い。


 俺みたいに力で押しているわけじゃない。


 相手が動いた時には、もう次の位置へ剣がある。


「アレン! 橋だ!」


「はい!」


 橋へ入る。


 クロードさんが構造を見回す。


 太い支柱と主桁がいくつも組み合わされている。


「全部壊す必要はない」


 二本の主桁を指す。


「左右のここを落とす。中央が持たなくなる」


「分かりました」


 主桁はかなり太い。


 普通なら何人いても簡単にどうにかできるものじゃない。


 クロードさんが俺を見る。


「アレン。できるか?」


「できます」


 一瞬だけ、クロードさんが笑った。


「そうか。ならやるぞ」


「はい!」


 炎牙剣を木材へ振り下ろす。


 ガンッ!


 木片が飛ぶ。


 もう一撃。


「橋を壊す気だ!」


「止めろ!」


 対岸から声が上がる。


 弓兵がこちらを狙った。


「撃て!」


 矢が飛ぶ。


「《魔弾》!」


 フェリシアの魔弾が一人の腕を撃ち抜く。


 それでも何本かはこちらまで届いた。


 一本がクロードさんの肩をかすめる。


「クロードさん!」


「構うな!」


 クロードさんが剣を置いた。


「時間がない」


 主桁へ両手をかける。


「《剛体》」


 腕と肩に力が入った。


 ミシッ。


 太い木材が軋む。


「アレン!」


「はい!」


 俺も反対側の主桁へ手をかける。


「いくぞ!」


 二人で力を込める。


 ギシギシと橋全体が鳴った。


「もっとだ!」


「はい!」


 さらに力を込める。


 バキッ!


 大きな亀裂。


「もう一度!」


 バキバキバキッ!


「崩れるぞ!」


 橋が大きく傾く。


「アレン! 離れろ!」


 二人で東岸へ跳ぶ。


 直後。


 ゴゴッ――!


 主桁が折れ、橋の中央部が川へ落ちた。


 大きな水柱が上がる。


 橋上にいた帝国兵たちは慌てて両岸へ退避し、何人かは転倒しながら西岸へ戻っていった。


 これで後続は渡れない。


「橋が!」


「退路がない!」


 東岸へ渡っていた帝国兵たちが動揺する。


 クロードさんは剣を拾った。


「これで増えない」


 そして俺たちを見る。


「第一班! ここからこっち側を片づける!」


 ◇


「東へ抜けろ!」


 帝国側の指揮官が叫んだ。


「ここを突破すればまだ助かる! 騎兵、前へ!」


 残った騎兵が動き出す。


 歩兵も一斉に押し寄せた。


 橋が落ちたからといって、敵が戦意を失ったわけじゃない。


 むしろ必死だった。


「アレン! 騎兵を止めろ!」


「はい!」


 一騎目。


 正面から来る槍をかわし、馬の横へ入る。


 兵士の鎧を掴んで引きずり下ろした。


 着地する前に炎牙剣を振る。


【人間討伐を確認しました】


【55P獲得】


 二騎目。


 こっちは俺を無視して横へ抜けようとする。


 狙っているのはリディアさんたちだ。


「行かせない!」


 追いつく。


 馬より先へ出て、進路へ入る。


「なっ!?」


 兵士が槍を振るう。


 受け流して斬った。


【人間討伐を確認しました】


【90P獲得】


「魔術師を狙え!」


 敵指揮官の声。


 歩兵六人がボルクさんの横へ回った。


「フェリシアさん!」


 走る。


 一人目。


 剣を受けて腹へ斬り返す。


【人間討伐を確認しました】


【120P獲得】


 二人目が横から来る。


 槍を掴んで引く。


「うわっ!」


 体勢が崩れたところへ剣を振った。


【人間討伐を確認しました】


【65P獲得】


 三人目。


 他とは動きが違う。


 俺の剣を避けた。


「死ね!」


 速い。


 でもクロードさんほどじゃない。


 踏み込みをずらして脇へ回る。


 一撃。


【人間討伐を確認しました】


【150P獲得】


「アレンさん!」


 フェリシアの声。


 振り返る。


 別の兵士がフェリシアへ剣を振り上げていた。


「っ!」


 一気に距離を詰める。


 炎牙剣を振った。


【人間討伐を確認しました】


【80P獲得】


「大丈夫ですか?」


「は、はい!」


「後ろにいてください!」


 前を見る。


 敵がまだ来る。


 クロードさんも中央で戦っていた。


 三人に囲まれている。


 一人目の斬撃を避ける。


 返す剣で首元。


 二人目の槍を払う。


 一歩入って斬る。


 三人目が背後へ回ろうとする。


 振り返りもしない。


 身体を沈めて剣をかわし、そのまま後ろへ剣を突き出した。


 兵士が崩れ落ちる。


 三人。


 ほんの短い間だった。


「押せ!」


 敵指揮官が怒鳴る。


「数ではこちらが上だ!」


 その言葉通りだった。


 敵はまだ多い。


 十人以上が一気にボルクさんへ押し寄せる。


「ぐっ!」


 大盾が後ろへ押される。


「ボルク!」


 ラウルさんが横から一人を突く。


 それでも止まらない。


「ボルク、下がれ!」


 クロードさんの声。


「おう!」


 ボルクさんが下がる。


 帝国兵が一気に前へ出る。


 密集した。


「リディア! 今だ!」


「分かってる!」


 火球が飛ぶ。


 ドンッ!


「ぐあっ!」


 兵士たちが吹き飛ぶ。


 その隙間へクロードさんが入る。


 一人。


 二人。



 剣が止まらない。


 俺の目の前にも兵士が来る。


 胴を横から一閃。


【人間討伐を確認しました】


【95P獲得】


 今は数字を確認している余裕がない。


 剣。


 槍。


 怒号。


 血の臭い。


 人を斬るたびに表示だけが視界へ現れては消えていく。


【人間討伐を確認しました】


【110P獲得】


「左!」


 エナさんの声。


 振り向く。


 二人。


 一人の剣を受ける。


 もう一人が横から槍。


 身体を沈める。


 槍が頭の上を通る。


 最初の兵士を押し返して斬る。


【人間討伐を確認しました】


【60P獲得】


 槍の兵士がもう一度来る。


 踏み込んだ。


 相手の懐へ入る。


 炎牙剣を振る。


【人間討伐を確認しました】


【180P獲得】


「……!」


 高い。


 でも考えるのは後だ。


「アレン!」


 クロードさんが呼ぶ。


「はい!」


「右を三十秒持たせろ!」


 クロードさんの視線の先に、帝国側の指揮官がいた。


 まだ命令を飛ばし続けている。


「分かりました!」


 クロードさんが敵指揮官へ向かう。


 その分、俺の方へ敵が集まった。


 三人。


 いや、四人。


「行かせるな!」


 剣と槍が同時に来る。


 炎牙剣で剣を受ける。


 槍は身体をずらしてかわす。


 三人目が背後へ回る。


 蹴った。


「ぐっ!」


 兵士の身体が吹き飛び、後ろの一人まで巻き込む。


 倒す必要はない。


 今はここを抜かせなければいい。


 前を見る。


 クロードさんが敵指揮官と剣を合わせていた。


 ガンッ!


 相手も強い。


 一撃。


 二撃。


 指揮官がクロードさんへ踏み込む。


 クロードさんは剣を受けなかった。


 半歩ずれる。


 敵の剣が空を切る。


 その瞬間、クロードさんの剣が走った。


「ぐっ……!」


 指揮官が膝をつく。


 それでも剣を上げようとする。


 もう一閃。


 男が倒れた。


「隊長!」


 帝国兵の動きが止まった。


 クロードさんがすぐに叫ぶ。


「聞け!」


 戦場に声が響いた。


「橋は落ちた! 指揮官も死んだ!」


 帝国兵たちが崩れたラーン橋を見る。


 対岸に味方はいるが来られない。


 東へ抜けようとしていた騎兵も、ほとんど動けなくなっている。


 こちら側では、すでに二十人以上が倒れていた。


「もう援軍は来ない!」


 クロードさんが剣を構える。


「武器を捨てろ!」


 誰も動かなかった。


「降伏するなら殺さない!」


 川の音だけが聞こえた。


 やがて。


 カラン。


 一人の兵士が剣を落とした。


 それを見た別の兵士も槍を置く。


 さらに一人、二人と続き、残っていた帝国兵たちは次々に武器を地面へ置いていった。


「……終わった?」


 フェリシアが小さく言う。


「ああ」


 クロードさんが剣を下ろした。


「ここはな」


「ここは?」


 クロードさんは崩れたラーン橋を見る。


「俺たちが勝ったわけじゃない。任務を達成しただけだ」


 公爵から受けた任務は、敵を全滅させることじゃない。


 橋を落として、南からの侵攻を止めることだった。


 俺なら目の前の敵を何人倒せるかばかり考えていたかもしれない。


 クロードさんは違う。


 敵の数だけじゃない。


 橋。


 地形。


 味方の位置。


 敵の指揮官。


 その全部を見ながら戦っていた。


 強いだけじゃ、戦場では足りない。


 少しだけ、その意味が分かった気がする。


「クロード」


 エナさんの声がした。


 いつもより低い。


「どうした?」


 エナさんは西を見ていた。


 しばらく黙ったまま遠くを見つめる。


「……来た」


「何が?」


「帝国軍本隊」


 俺も西を見る。


 最初は何も分からなかった。


 やがて遠くの街道に大きな土煙が見えてきた。


 その中にいくつもの軍旗と、数え切れないほどの槍が並んでいる。


「どこへ向かってる?」


 クロードさんが聞く。


「北東」


 エナさんが答えた。


「セイル大橋」


 ラーン橋は落とした。南からの進路は塞いだが、帝国軍本隊との戦いはこれからだ。


 戦闘が終わってから、《会員》を開く。


【会員ランク:ゴールド】


【保有:2,690P】


【累計獲得P:27,500P】


「……千二百?」


 今回だけで、千を超えている。


 でも、その一つ一つは人間を斬った結果だ。


 ダンジョンを攻略しているときの様な高揚感はない。


 少しだけ画面を見てから、《会員》を閉じた。


【本日の獲得P:1,205P】


【保有:2,690P】


【累計獲得P:27,500P】


 累計獲得P=27,500P



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― 新着の感想 ―
あらかじめ大規模戦闘になるとわかってれば遠距離攻撃手段をとっておけたんですけどねー。 アレンは規格外に強いですけど、魔法職でこの人外っぷりを発揮できていれば50や100は全てPに変えられたでしょう。
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