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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第3章 はじめての戦場

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第31話 戦争の理由

 南西の村は無事だった。


 家は焼かれず、畑も荒らされていない。


 村人たちも全員生きている。


「……間に合った」


 村へ入ったところで、思わず息が漏れた。


 昨日の村とは違う。


 俺たちが騎馬隊を途中で止めたからだ。


 クロードさんが村長へ事情を説明する。


「この辺りまで帝国兵が入り込んでいます。すぐに避難の準備をしてください」


「ここまで来ているのか……」


「はい。スコッティ公爵軍にも連絡します。荷物は最低限にしてください」


「分かりました」


 村人たちが慌ただしく動き始める。


 俺たちは長く留まらなかった。


 騎馬隊長から手に入れた地図と命令書。


 これを早く届ける必要がある。


 捕らえた帝国兵二人を連れ、集結拠点へ戻った。


 ◇


「ロイド」


 司令天幕へ入るなり、クロードさんが声をかけた。


 ロイド副団長が地図から顔を上げる。


「戻ったか。どうだった?」


「村は無事だ。避難を始めさせた」


「帝国兵は?」


「騎馬斥候だった。十五騎いた」


「十五騎?」


 ロイド副団長の眉が動く。


「隊長を含め二人を斬った。二人は捕らえた。残り十一騎は西へ逃げてる」


「こちらの損害は?」


「ない」


「またか……」


 ロイド副団長が俺たちを見る。


 クロードさんは一枚の地図を机へ広げた。


「それより、これを見てくれ」


「何だ?」


「隊長が持ってた」


 ロイド副団長が地図を見る。


 最初は黙っていた。


 だが、視線が地図の上を動くにつれて表情が変わっていく。


「……この印」


「ああ」


 クロードさんが命令書も置いた。


「こっちもだ」


 ロイド副団長が紙を開き、しばらく読む。


 天幕の外では兵士たちの声が飛び交っている。


 馬のいななき。


 荷車が軋む音。


 その音が、急に遠くなったように感じた。


「これは俺のところで止めていい情報じゃないな」


 ロイド副団長が顔を上げる。


「本陣へ行く」


「スコッティ公爵軍の?」


「ああ」


 地図と命令書をまとめる。


「公爵閣下へ直接報告する」


 ◇


 スコッティ公爵軍の本陣は、集結拠点からさらに西にあった。


 近づくにつれて、人の数が増えていく。


「……すごい」


 思わず周囲を見る。


 何列にも並ぶ天幕。


 槍を持って行き交う兵士たち。


 繋がれた何十頭もの馬。


 荷車から次々と降ろされる木箱。


 大鍋からは白い湯気が上がり、そのすぐ横を血のついた布を抱えた兵士が走っていく。


 馬の汗。


 焚き火の煙。


 煮炊きされる肉。


 薬。


 そこへ微かに血の臭いが混じっている。


 どこかでは、金属を叩く乾いた音が何度も響いていた。


「ここが……本陣」


 俺たちがいた集結拠点とは全然違う。


 数百人どころじゃない。


 もっといる。


 これまで俺たちが戦っていた場所は、本当にこの戦争の一部分に過ぎなかったんだ。


「止まれ」


 本陣の入口で騎士に呼び止められた。


 ロイド副団長が前へ出る。


「ベルガント伯爵軍のロイド・ヘイゼンだ。公爵閣下へ至急報告したいことがある」


「報告?」


「帝国騎馬斥候から地図と命令書を入手した」


 騎士の顔つきが変わった。


「少し待ってくれ」


 奥へ走っていく。


 ほどなく、別の騎士を連れて戻ってきた。


「公爵閣下がお会いになる。こちらへ」


 俺たちは本陣の中央へ進む。


 その途中、一人の騎士がクロードさんを見て足を止めた。


「……クロード?」


「ん?」


 クロードさんも相手を見る。


「俺を知ってるのか?」


「やはりそうか。《銀狼》のクロードだろう?」


「そうだけど」


「王都騎士団にいた?」


「ああ」


「やっぱり……」


 俺はクロードさんを見る。


「クロードさん、王都の騎士団にいたんですか?」


「昔な」


「聞いてないですよ」


「まぁ、人に言う話でもないからな」


「…………」


 ラウルが横で笑う。


「アレン、お前、本当に知らなかったのか?」


「知りませんよ」


「結構有名だぞ、この人」


「そうなの?」


 フェリシアへ聞く。


「私も《銀狼》のクロードさんとしては知ってましたけど……王都騎士団のことまでは」


「そのくらいでいい」


 クロードさんが歩き出す。


「昔の話だ」


 それ以上聞く時間はなかった。


 大きな天幕が目の前に見えてきた。


 ◇


 中へ入る。


 今まで見た司令天幕より、ずっと広い。


 中央には大きな机。


 その上いっぱいに地図が広がっている。


 赤と青の駒。


 小さな旗。


 いくつもの線。


 騎士や文官らしい男たちが地図を囲み、低い声で話していた。


 その中央に一人の男がいる。


 五十歳くらいだろうか。


 短く切った髪には白いものが混じっている。


 華美な服ではない。


 鎧の上から濃い色の外套を羽織っている。


「公爵閣下」


 ロイド副団長が頭を下げた。


 俺たちもそれに続く。


「ベルガント伯爵領から参りました、ロイド・ヘイゼンです」


「あぁ、よく来てくれたな」


 スコッティ公爵が俺たちを見る。


「後ろの者たちは?」


「ベルガント伯爵閣下から増援として派遣された、冒険者による遊撃隊です。

こちらが第一班になります」


「冒険者の……」


 公爵の視線が動く。


 クロードさんのところで止まった。


「……クロードだな?」


「はい」


「やはりか」


 クロードさんが少し驚いた顔をした。


「俺をご存じなんですか?」


「王都騎士団にいた頃から名前は知っている」


「…………」


「若いのに腕が立つ騎士がいると何度も聞いた。その後、騎士団を辞め、《銀狼》を率いるAランク冒険者になったこともな」


 スコッティ公爵が少し笑う。


「顔を合わせて話すのは初めてだったな」


「はい」


「まさかベルガントからの援軍にお前が混じっているとは思わなかった」


「今は冒険者ですから」


「そうだったな」


 公爵が第一班を見回す。


 ボルク。


 リディア。


 セシル。


 ラウル。


 エナ。


 最後に、俺とフェリシアへ視線が向いた。


「……待て」


「?」


「この二人も冒険者なのか?」


「はい」


 俺が答える。


「何歳だ?」


「十五です」


「私は十六です」


 フェリシアも答えた。


「十五と……十六?」


 公爵の表情から笑みが消える。


「まだ子供じゃないか」


 天幕の中が少し静かになった。


 公爵は俺たちをしばらく見ていた。


 怒っているわけではない。


 でも、嬉しそうでもなかった。


「この歳の子供まで戦場へ来させることになったか……」


 小さく息を吐く。


「公爵閣下」


 クロードさんが口を開こうとした。


 その前に俺が言った。


「私は、自分で来ると決めました」


 公爵が俺を見る。


「誰かに無理やり連れてこられたわけじゃありません」


「そうか」


「はい」


 公爵は少し考えた。


「なら、その選択を否定するつもりはない」


 だが、すぐに続ける。


「君が自分で決めたことと、我々大人が子供を戦場へ出すことを当然だと思っていいかは、別の話だ」


「…………」


「本来なら、君たちが剣を持つ前に終わらせるのが我々の仕事だ」


 その言葉に、誰もすぐには返さなかった。


 公爵が地図へ視線を戻す。


「だからこそ、早く終わらせなければならん」


 ◇


「それで、緊急の報告とは?」


 ロイド副団長が持ってきた地図を広げた。


「今朝、南西の村へ向かっていた帝国騎馬斥候十五騎と交戦しました」


「十五騎?」


「はい。隊長を含む二名を討ち、二名を捕縛。十一騎が西へ撤退しています」


 公爵の隣にいた騎士が聞く。


「こちらの被害は?」


「ありません」


「……十五騎相手に?」


「はい」


 騎士が第一班を見る。


 ロイド副団長は続ける。


「その騎馬隊長が持っていた調査用の地図と命令書です」


 スコッティ公爵が受け取った。


 参謀らしい男も横から覗き込む。


「これは……」


「街道だけじゃないな」


 地図には村だけではなく。


 橋。


 細い道。


 川。


 渡河できそうな場所。


 それぞれに細かい印がついている。


 命令書にも目を通す。


「本隊が通れる経路を調査せよ、か」


 公爵が低く呟いた。


「やはり、そこまで来ているか」


「やはり?」


 俺が思わず聞いた。


 公爵がこちらを見る。


「今回の戦いについて、どこまで聞いている?」


「ドラン帝国が国境を越えたことと、先鋒が千人以上いることくらいです」


「そうか」


 公爵が大きな戦況図を指した。


「なら、ここから先は知っておいた方がいい」


 天幕の中にいる者たちが地図へ集まる。


「現在確認できているだけで、帝国軍はおよそ三千」


「三千……」


 思っていたより多い。


「ただし、これはドラン帝国軍の全力ではない」


「え?」


「帝国がサハル王国そのものを攻め落とすつもりなら、三千程度で来るわけがない」


 公爵の指が国境をなぞる。


「大規模な越境が確認されているのも、この一帯だけだ」


「じゃあ……」


 何のために?


 その疑問が顔に出たらしい。


「今回の侵攻は、領土を奪うための全面戦争ではないと見ている」


「では、何のために?」


 フェリシアが聞いた。


「圧力だ」


 答えたのは参謀だった。


「サハル王国に対する政治的な圧力だ」


「政治……」


「これはまだ国民へ広く知らされている話ではない」


 公爵が少し間を置く。


「現在、サハル王家とアルスレイン王家との間で婚姻の話が進んでいる」


「アルスレイン王国?」


 サハル王国の西南にある大国だ。


「我が国の第一王女殿下と、アルスレイン王国第一王子アルフレッド殿下との婚姻だ」


「王女と王子……」


 フェリシアが呟く。


「婚姻が成立すれば、両国の関係は今までより遥かに強くなる」


 公爵が続ける。


「軍事同盟が即座に結ばれるわけではない。だが、王家同士が婚姻で結ばれる意味は大きい」


「ドラン帝国から見れば、それを歓迎する理由はありません」


 参謀が地図を指す。


「これまで帝国は我が国へ西から圧力をかけてきました。

だが、サハルとアルスレインの関係が強まれば事情が変わります」


「サハルへ攻めたら、アルスレイン王国が動くかもしれない……」


「そういうことだ」


 公爵が頷いた。


「だから今回の戦争を?」


「婚姻だけが理由だと断言するつもりはない。だが、時期を考えれば無関係とは考えにくい」


 公爵の指が帝国軍の駒へ触れる。


「今回の侵攻で国境に損害を与え、こちらを後退させる。その上で交渉を有利に進めるつもりなのだろう」


「アルスレイン王国との関係を深めれば、また国境を荒らすぞってことですか?」


「ああ。そう示したいのかもしれん」


「…………」


 なんとなく分かった。


 サハル王国全部が欲しいわけじゃない。


 戦場で勝ったという事実が欲しい。


 交渉に使える材料が欲しい。


 そのために、村が焼かれた。


 人が殺された。


「……それでも」


「何だ?」


「帝国にも帝国の理由があるのかもしれませんけど」


 昨日見た村を思い出す。


 焼けた家。


 殺された男。


「村の人を殺していい理由にはならないと思います」


「その通りだ」


 公爵は迷わず答えた。


「あちらにはあちらの理屈がある」


 地図を見る。


「だが、こちらにも守るべき者がいる」


 ◇


「問題はここです」


 参謀が地図上の一点を指した。


 大きな川が南北へ流れている。


「セイル川」


 その川を一本の太い街道が横切っていた。


「ここにセイル大橋があります」


「橋?」


「スコッティ公爵領の西部と東部を結ぶ最大の石橋だ」


 公爵が説明する。


「ほかにも小さな橋や渡れる場所はある。だが、大勢の兵と補給の荷車を一度に通せるのは、事実上ここだけだ」


 地図を見る。


 帝国軍は西から来ている。


 そのまま東へ進めば、セイル大橋。


 その先には俺たちが最初にいた集結拠点や、多くの村がある。


「ここを取られたら……」


「帝国軍は一気に東へ出られる」


 参謀が答える。


「逆に言えば」


 公爵の指が橋の上で止まる。


「ここを渡らせなければいい」


「…………」


「帝国は今回、王国を征服するほどの大軍を動員していない。

セイル大橋を越えられず、こちらの援軍が増え続ければ、いつまでもスコッティ領内に居座ることはできん」


「補給線も長くなります」


 参謀が付け加える。


「国境の向こうから食料や物資を運び続けなければなりませんから」


 公爵が俺たちを見る。


「帝国兵を一人残らず倒す必要はない」


「……じゃあ」


「セイル大橋を守り切る」


 公爵が地図を指す。


「そして帝国軍を国境の向こうへ追い返す」


「それが……」


「ああ」


 公爵が頷いた。


「今回の戦いにおける、我々の勝利だ」


 初めて。


 この戦争の終わりが見えた気がした。


 帝国軍を全員倒す必要はない。


 橋を守る。


 そして追い返す。


 そこまで行けば、この戦争は終わる。


「ただし」


 参謀が俺たちの持ち帰った地図を見る。


「帝国軍も当然、それを分かっている」


 調査用の地図には、セイル大橋へ続く街道や、その周辺の細い道にも印がついていた。


「騎馬斥候は、橋までの進軍路を探していたのでしょう」


「本道はこっちだな」


 公爵の隣にいた騎士が太い街道を指す。


「ならば兵をここへ集めれば――」


「いや、それじゃ遅い」


 クロードさんが言った。


 一瞬、天幕の中が静かになる。


「何?」


 公爵がクロードさんを見る。


 クロードさんは地図へ近づいた。


「この印を見てください」


 騎馬隊長から奪った地図の南側。


 細い道がある。


「帝国の斥候は本道だけを調べてません。こっちも見てる」


「だが、その道は狭い」


 騎士が言う。


「本隊は通せないぞ」


「本隊全部を通す必要はない」


 クロードさんの指が動く。


「別働隊だけこっちへ回せばいい。橋の南側へ出て、守備隊を横から突けば――」


「クロード」


 ロイド副団長が小さく言う。


 でもクロードさんは地図を見たままだ。


「本道だけ見てたら、気づいた時には橋の横を取られる」


「おい!」


 若い騎士が声を上げた。


「公爵閣下に対して、その口の利き方は――」


「よい」


 スコッティ公爵が止めた。


 騎士が黙る。


「今は礼儀より戦況だ」


 公爵はクロードさんを見る。


「続けろ」


「……失礼しました」


「構わん」


 クロードさんがもう一度地図を見る。


「十五騎も使って周辺を調べていた。帝国軍が何も考えずに、この道まで調べていたとは思えません」


「つまり?」


「橋を正面から攻めるだけじゃないと思います」


 公爵はしばらく地図を見続けた。


「斥候を出せ」


 突然言った。


「南側の道をすべて洗い直せ」


「はっ!」


「橋の南側にも兵を回す。ただし守備の本隊を薄くするな」


「承知しました!」


 騎士たちが動き出す。


 公爵は俺たちが持ち帰った地図へもう一度目を落とした。


「この地図がなければ、本道ばかりを見ていたかもしれんな」


 その視線が第一班へ向く。


「良い情報を持ち帰ってくれた」


 ◇


「ロイド副団長」


「はい」


 スコッティ公爵が言った。


「この冒険者遊撃隊について確認したい」


「何でしょうか」


「第一班を、今後本陣からの緊急要請へ優先的に回してもらいたい」


「…………」


「斥候がいる。治癒術師もいる。前衛と後衛も揃っている」


 公爵がクロードさんを見る。


「何より、クロードが率いている」


 そのあと、俺のところで視線が止まった。


「それに、騎馬斥候十五騎を追った少年もいる」


「はい」


 公爵がロイド副団長を見る。


「帝国軍の騎馬斥候に走って追いついたのは本当なのか?」


「私も最初は聞き間違いかと思いましたが、本当です」


 クロードさんも続ける。


「短い距離なら、馬より速いです」


「…………」


 公爵が俺を見る。


「十五歳だったな?」


「はい」


「本当に、何をしているんだ君は……」


「すみません」


「謝ることはない」


 公爵が小さく息を吐く。


「ただ、その力が必要になる場所が戦場だというのは、喜ばしいことではないな」


「…………」


「早く終わらせよう」


 公爵の視線がセイル大橋へ戻った。


「君たちがここにいる必要がなくなるようにな」


 それからロイド副団長へ向き直る。


「第一班の運用についてだが」


「公爵閣下」


 ロイド副団長が先に口を開いた。


「ベルガント伯爵閣下からは、スコッティ公爵領の防衛へ協力するよう命を受けています」


「ああ」


「ただ、遊撃隊の運用そのものを変えるとなると、私の判断だけで決める話ではありません」


「分かっている」


 公爵はすぐに頷いた。


「ベルガント伯の援軍を、私が勝手に自分の部隊へ組み込むつもりはない」


「ありがとうございます」


「今日中に私から書状を出す。第一班を本陣の緊急要請にも優先して回してもらいたいと、正式にベルガント伯へ頼む」


「それなら問題ありません」


「返事が来るまでは?」


「これまで通り、私の指揮下で遊撃任務を続けさせます」


「それでいい」


 公爵が頷く。


「本陣から必要な救援があれば、まずロイド副団長へ要請する。その先は今までの指揮系統で動いてくれ」


「承知しました」


 クロードさんも頷いた。


 まだ立場が変わったわけではない。


 俺たちはベルガント伯爵から派遣された冒険者遊撃隊のままだ。


 それでも今、スコッティ公爵軍の本陣で、俺たちの働きが必要とされ始めている。


「第一班だったな」


 公爵が言った。


「はい」


「覚えておこう」


 ◇


 その頃。


 スコッティ公爵軍の本陣から遥か西。


 ドラン帝国軍の前線陣地。


 低い雲の下を冷たい風が吹き抜けていた。


 十一騎の馬が陣地へ入ってくる。


 馬の身体は汗で濡れ、荒い息と一緒に白いものを吐いている。


 だが、出発した時にいた隊長の姿はなかった。


 司令用の天幕。


 油の臭いがする灯りの下に、大きな地図が広げられている。


「十五騎だったはずだが?」


 帝国軍の指揮官が言った。


「はい…」


「隊長は?」


「せ、戦死しました…」


 報告する兵士の声が小さくなる。


「ほかに三人戻っていません…」


「相手は?」


「冒険者と思われます」


「冒険者だと?」


「はっ!八人ほどでした」


 指揮官が眉を寄せる。


「八人に?」


「はい」


 天幕の布を風が叩く音だけがした。


「詳しく話せ」


 兵士が説明する。


 大盾を持った大男。


 魔術師。


 斥候らしい女。


 剣の腕が立つ男。


 そして。


「一人、少年がいました」


「少年?」


「十五か……そのくらいです」


「そんな奴が戦場に?」


「はい」


 兵士が一度言葉を止めた。


「そいつが……馬に追いつきました」


「…………」


 指揮官の動きが止まる。


「何?」


「走ってです」


「…………」


「馬上から兵を引きずり下ろして、隊長もそいつにやられました」


「何を言っている」


「俺だって、見間違いだと思いました!」


 兵士の声が少し大きくなる。


「でも、本当に追いついてきたんです!」


 天幕の隅にいた参謀が顔を上げた。


「待て」


 机の上に積まれた報告書へ手を伸ばす。


「この辺りでは、昨日から連絡が途絶えた小隊が二つある」


 一枚目の報告書を地図へ置く。


「六名」


 もう一枚。


「こちらは十数名」


 そして今日、騎馬斥候が敗れた地点。


 三つの場所はそれほど離れていない。


「偶然か?」


 指揮官が聞く。


「分かりません」


 参謀が三つの印を見る。


「ただ、もし同じ連中が動いているなら少々厄介です」


「八人程度の冒険者が?」


「今日だけで騎馬十五騎を退けています」


「…………」


 指揮官が地図を見る。


「それだけじゃありません」


 生還した騎兵が言った。


「隊長が調査図を持ったまま倒れました」


 参謀の顔が変わった。


「調査図?」


「はい」


「何が載っている」


「街道と橋、渡河地点です。セイル大橋も」


 今度こそ、天幕の空気が変わった。


 指揮官がゆっくり立ち上がる。


「まずいな」


 地図の中央。


 セイル川。


 そこへ架かる一本の橋。


 指揮官が指を置く。


「橋への行動を前倒しする」


「しかし、偵察がまだ終わっていません」


「こちらが橋までの道を調べていることは知られた可能性が高い」


 低い声だった。


「サハル側が守りを固める前に動く」


「はっ」


 騎兵が頭を下げる。


 立ち去ろうとする。


「待て」


「はい?」


「その八人」


 指揮官が呼び止める。


「次に見つけても、勝手に戦うな」


「え?」


「場所と人数を確認して報告しろ」


 指揮官の指が、今日騎馬隊が敗れた場所へ移る。


「特に、その少年だ」


「……はい」


 地図の上に、小さな印が一つ増えた。


 累計獲得P=26,295P



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― 新着の感想 ―
敵も味方もちゃんとアレンを評価してて嬉しいですね。 普通に考えて身体能力がおかしすぎますからね。
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