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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第3章 はじめての戦場

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第30話 馬より速い

 集結拠点を出て、南西へ向かう。


 朝はまだ早い。


 街道脇の草には朝露が残り、踏むたびに靴の先が濡れた。


 空気は冷たい。


 しばらく進んだところで、風に別の臭いが混じり始めた。


 湿った土。


 馬の汗。


 それから、微かに何かが焦げたような臭い。


「止まって」


 先頭を歩いていたエナが片手を上げた。


 全員が足を止める。


 エナが街道脇へしゃがみ込んだ。


「どうした?」


 クロードさんが聞く。


「馬」


 地面を見る。


 いくつもの蹄の跡が残っている。


 俺には数も新しさも分からない。


 エナは一つの跡を指でなぞり、それから街道の先へ視線を向けた。


「新しい。そんなに時間は経ってない」


「数は?」


「……十四」


 少し先へ進む。


 もう一度、地面を見る。


「十五騎」


 ラウルの表情が変わった。


「昨日言ってた騎馬兵か」


「たぶん」


 エナが立ち上がる。


「南西へ向かってる」


 クロードさんが地図を開いた。


 その先には、昨日帝国兵から奪った地図にも印のあった村がある。


「村を目指してる可能性が高いな」


 ボルクが大盾へ手を置く。


「急ぐか?」


「いや」


 クロードさんはすぐには動かなかった。


「エナ。先を見られるか?」


「行ってくる」


 エナが街道から外れ、木々の間へ消えた。


 俺たちは待つ。


 数分後。


 エナが戻ってきた。


「いた」


「どこだ?」


「この先。街道を十五騎で進んでる」


「村は?」


「まだ着いてない」


「そうか」


 今回はまだ間に合う。


 村は襲われていない。


「装備は?」


「揃ってる。長槍も持ってる」


 エナがクロードさんを見る。


「昨日の連中より、ちゃんとしてる」


「正規の騎馬斥候かもしれないな」


 クロードさんが地図を畳む。


「奴らの先回りをして仕留めるぞ」


 全員を見る。


「村まで行かせない」


「了解」


 クロードさんが周囲を確認する。


 街道の左右には林があり、少し先で道が緩く曲がっている。


「ボルクは街道側。ラウルは俺と来い」


「あいよ」


「リディアは左。フェリシアは右から抜ける奴を狙ってくれ」


「分かったわ」


「はい」


「セシルは後ろ。エナは敵の動きを見ろ」


「うん」


 最後に俺を見る。


「アレン」


「はい」


「まだ走るな」


「……はい」


 昨日までなら、自分が一番早く着けるなら先に行けばいいと思っていたかもしれない。


 しかし、今はクロードさんの指示を待つ。


 俺たちは街道の左右へ散った。


 ◇


 やがて遠くから音が聞こえてきた。


 最初は小さい。


 だが、すぐに何の音なのか分かった。


 馬だ。


 いくつもの蹄が地面を叩き、音が重なって近づいてくる。


 街道沿いの木々から鳥が一斉に飛び立った。


 乾いた土が舞い上がり、その向こうに騎馬の影が現れる。


「来るぞ」


 クロードさんの声。


 十五騎。


 鎧。


 長槍。


 剣。


 昨日の帝国兵より、明らかに装備も動きも揃っている。


 その先頭にいる男が突然手を上げた。


「止まれ!」


 馬が次々に速度を落とす。


「……気づかれたな」


 ラウルが槍を握り直した。


 帝国兵の隊長らしい男が周囲を見る。


 街道。


 林。


 俺たちが隠れている方角。


「いるんだろう!」


 声が響く。


「出てこい!」


「ばれてるなら仕方ない」


 クロードさんが剣を抜いた。


「行くぞ!」


 俺たちも街道へ出る。


「その恰好、冒険者か!」


 帝国兵の一人が叫んだ。


 隊長がこちらの人数を確認する。


「八人……」


 その口元がわずかに上がった。


 向こうは十五騎。


 こちらは八人。


 しかも、全員徒歩だ。


「蹴散らせ!」


「おおっ!」


 三騎が前へ出た。


 一気に加速する。


「来るぞ!」


 ボルクが大盾を構えた。


 一騎はボルク。


 一騎はクロードさん。


 そして最後の一騎が俺へ向かってくる。


「……っ!」


 馬上の兵士が長槍を構えた。


 蹄の音が一つの塊になって迫る。


 蹴り上げられた土が顔に当たる。


 足の裏にまで、地面の震えが伝わってきた。


 人間が走ってくるのとは全然違う。


「死ね!」


 槍が突き出された。


「っ!」


 身体を横へずらす。


 槍先が脇を通り過ぎる。


 そのまま炎牙剣を振った。


 狙ったのは兵士じゃない。


 槍の柄。


 ガンッ!


「なっ!?」


 槍が大きく横へ弾かれた。


 馬上の男の身体まで崩れる。


 そのまますれ違う。


 俺は少し跳ね、腕を伸ばした。


 帝国兵の鎧を掴む。


「え?」


 引いた。


「うわっ!」


 男の身体が馬上から外れた。


 そのまま地面へ転がる。


 馬だけが街道を駆け抜けていった。


「おい……」


 ラウルの声が聞こえる。


「馬から人を引っこ抜いたぞ」


「前見ろ!」


 クロードさんの声。


「はい!」


 顔を上げる。


「右から回れ!」


 騎馬隊長が叫んだ。


 二騎が向かってくる。


 一騎は正面。


 盾を構えている。


 もう一騎は大きく横へ回り込んできた。


「っ!」


 横から来た騎兵が槍を振るう。


 身体を沈めてかわした。


 その瞬間だった。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 正面から来ていた騎兵の盾が、肩へまともにぶつかった。


 重い。


 視界が回る。


 身体が宙へ浮いた。


「アレンさん!」


 フェリシアの声が聞こえた。


 地面へ落ちる。


 一度。


 二度。


 土の上を転がった。


「……っ」


 肩が痛い。


 背中も痛む。


 それでも身体を起こす。


 腕を動かす。


 折れてはいない。


 脚も動く。


「アレンさん!」


「大丈夫です!」


 立ち上がった。


 さっき俺へぶつかった帝国兵が、馬を返しながらこちらを見る。


「……嘘だろ」


「?」


「今ので立つのかよ……」


 痛いことは痛い。


 でも、戦える。


「もう一度だ!」


 騎兵が馬首を返した。


 再びこちらへ突っ込んでくる。


 今度は真正面。


「…………」


 一度見た。


 馬の速さ。


 槍の長さ。


 突っ込んでくる時の動き。


 さっきより分かる。


「はっ!」


 槍が来る。


 槍へ向かって踏み込んだ。


 穂先が横を抜ける。


 すれ違う瞬間。


 炎牙剣を振った。


「ぐっ!」


 騎兵の脇腹へ刃が入る。


 男が馬上から崩れ落ちた。


【人間討伐を確認しました】


【120P獲得】


 表示はすぐに消す。


 戦いはまだ終わっていない。


「隊長!」


 帝国兵の一人が叫ぶ。


「こいつら、強い!」


 周囲を見る。


 ボルクの大盾の前では騎兵が進路を変えている。


 クロードさんも、騎馬の速度を利用させないように間合いを外している。


 フェリシアの《魔弾》が飛ぶ。


「《魔弾》!」


「くっ!」


 騎兵の手元に命中した。


 長槍が地面へ落ちる。


 リディアの火魔法が街道脇で弾けた。


 帝国兵たちの馬が騒ぐ。


 隊長が周囲を見る。


「…………」


 判断は早かった。


「引け!」


「隊長!?」


「ここで消耗する必要はない! 撤退する!」


 最初に俺が馬から落とした一人。


 俺が斬った一人。


 二人を残して、十三騎が一斉に馬首を返した。


 蹄の音が遠ざかっていく。


「逃げるぞ!」


 ラウルが叫ぶ。


 徒歩では追えない。


 普通なら。


「アレン!」


 クロードさんを見る。


「はい!」


 短く言った。


「行け!」


「はい!」


 地面を蹴る。


 ◇


 馬は速い。


 人が走って追いつくものじゃない。


 普通なら!


「……っ!」


 速度を上げる。


 風が耳元で鳴った。


 木々が横へ流れていく。


 前を走る十三騎。


 まだ離れている。


 さらに地面を蹴る。


「…………」


 追いつける。


 すぐに分かった。


 長い距離を走り続ければどうなるかは分からない。


 馬には馬の持久力がある。


 けれど少なくとも短い距離なら俺の方が、馬より速い!


「なっ……」


 最後尾の騎兵が振り返る。


 目が合った。


「おい!」


「なんだ!?」


「来てる!」


「何が!」


「さっきの奴だ!」


 別の騎兵も振り返った。


「…………は?」


 その顔が固まる。


「追いついてくるぞ!」


「馬で走ってるんだぞ!?」


「知るか! 本当に来てる!」


 さらに距離を詰める。


 最後尾の一騎へ追いついた。


「くそっ!」


 騎兵が長槍を横へ振るう。


 走りながらかわす。


 槍の柄を掴んだ。


「離せ!」


 男が馬を走らせる。


 槍を握ったまま、俺を引きずろうとする。


「っ!」


 足へ力を込めた。


「な――」


 槍が騎兵の手から抜けた。


 街道脇へ投げる。


「なんて力だ……!」


 男が剣へ手を伸ばした。


 その前に馬の横へ並ぶ。


 騎兵の腕を掴む。


「待っ――」


 引いた。


「うわあっ!」


 男が馬から転がり落ちた。


 俺は止まらない。


 前を見る。


 残り十二騎。


 その先頭に隊長がいる。


「隊長!」


 後ろから声が飛ぶ。


「あいつ、馬より速い!」


「馬鹿な!」


 隊長が振り返った。


「…………」


 一瞬。


 目が合う。


 男の顔から余裕が消えた。


「なんだ、あれは……」


 地面を蹴る。


 さらに距離を詰める。


 隊長が舌打ちした。


「先に行け!」


 ほかの騎兵へ叫ぶ。


 自分だけ馬首を返す。


「俺が止める!」


 残り十一騎はそのまま西へ走っていった。


 隊長が長槍を構える。


 動きが違う。


 さっきまでの騎兵より明らかに迷いがない。


「来い!」


 真正面から突っ込んでくる。


「…………」


 速い!


 でも見える!


 槍が突き出される。


 炎牙剣を合わせた。


 ガキンッ!


「っ!」


 槍先がわずかに逸れる。


 だが。


 隊長はそのまま槍を引いた。


 すぐ次の突き。


「!」


 身体をかわす。


 頬の横を穂先が通り過ぎた。


 この人は今までの帝国兵より強い。


「速いだけのガキじゃないようだな!」


 隊長が馬を返す。


 再び来る。


 今度は突撃する直前、わずかに槍先が動いた。


「…………」


 さっきと同じじゃない。


 俺が避ける方向を狙っている。


 ならば避けるんじゃなく、先に入る!


 馬が迫る。


 地面を蹴った。


「なっ!?」


 一気に間合いを詰める。


 槍の穂先より内側。


 隊長が目を見開く。


 炎牙剣を振るった。


「ぐっ……!」


 鎧の上から刃が入る。


 隊長の身体が馬上で大きく揺れた。


 それでも剣へ手を伸ばす。


「まだ――」


 もう一歩。


 炎牙剣を振り抜いた。


「がっ……!」


 男の身体が馬上から落ちた。


 馬だけが走っていく。


【人間討伐を確認しました】


【260P獲得】


「……やっぱり」


 昨日の隊長格より高い。


 相手の強さでPが変わる。


 その可能性は、さらに高くなった。


「…………」


 顔を上げる。


 十一騎が遠ざかっていく。


 走ればまだ追えるかもしれない。


「…………」


 いや、違う。


 俺たちの任務は、あいつらを全員倒すことじゃない。


 村を守ることだ。


 追いかけている間に、別の帝国兵が来たら意味がない。


 炎牙剣を下ろした。


「……戻るか」


 街道には、さっき馬から引きずり落とした帝国兵がいる。


 気を失っているが、生きている。


 騎馬隊長の荷物も調べる必要がある。


 しばらくすると街道の向こうから第一班のみんなが見えてきた。


「アレンさん!」


 フェリシアが先頭に近い位置から走ってくる。


「大丈夫ですか?」


「はい」


 フェリシアが俺を見る。


 次に倒れている騎馬隊長。


 さらに、遠くへ逃げていった馬たちを見る。


「……本当に追いついたんですね」


「短い距離なら、馬より速いみたいです」


「…………」


 フェリシアが一度黙った。


「そうですか……」


「はい、どうかしましたか?」


 ラウルも追いついてくる。


「おい、アレン」


「はい?」


「さっきの見えてたぞ」


「何がです?」


「馬から人を引きずり下ろしてただろ」


「ああ……」


「しかも一人じゃなかったよな?」


「二人ですね」


「そういうのを普通みたいに言うなよ」


 ボルクも近づいてくる。


「馬にぶつけられた方は?」


「肩がちょっと痛かったですけど、もう何ともありません」


「それだけか?」


「はい」


「…………」


 ボルクが自分の大盾を見る。


「俺でもまともに食らいたくはないぞ」


 エナが気を失っている帝国兵を確認しながら言った。


「速いだけだと思わない方がよさそう」


「今さらだけどな」


 ラウルが頷く。


 クロードさんは俺を見る。


 それから西の街道へ視線を向けた。


「逃げたのは十一騎か」


「はい」


「追わなかったんだな」


「村を守るのが先だと思ったので」


「そうか」


 それだけ言ってクロードさんは小さく頷いた。


「正解だ」


「……はい」


 ◇


 騎馬隊長の荷物を調べる。


 地図。


 小さな書簡。


 帝国軍の印が入った命令書。


 エナが紙を広げた。


「クロード」


「なんだ?」


「これ」


 みんなが地図を覗き込む。


 昨日手に入れたものより、広い範囲が描かれている。


 今いる村。


 集結拠点。


 西へ続く複数の街道。


 さらに一際大きな印が目に入る。


「帝国軍の先遣隊か?」


 ラウルが聞く。


「たぶんな」


 クロードさんが命令書を読む。


 その表情が少しずつ険しくなった。


「……なるほど」


「何て書いてあるんですか?」


 俺が聞く。


「こいつらの仕事が分かった」


「村を襲うことじゃないんですか?」


「それもあるだろう。だが、それだけじゃない」


 クロードさんが地図へ指を置く。


「道を調べていた」


「道?」


「ああ」


 その指が西から東へ伸びる街道をなぞる。


「大人数が通れるか」


「荷馬車が通れるか」


「橋は使えるか」


 一つずつ確認していく。


「帝国軍本隊を通す道を探してる」


「…………」


 風が吹いた。


 地図の端がぱたぱたと揺れる。


 さっきまで街道を揺らしていた蹄の音は、もう聞こえない。


 その代わり遠くで鳥の声がした。


「まずいな」


 クロードさんが地図を押さえる。


「拠点へ戻るぞ」


「村は?」


「先に確認する。無事なら警告して避難を始めさせる」


「はい」


「それから、この情報を持ち帰る」


 クロードさんが西を見る。


 逃げた十一騎の姿はもうない。


 ただ、あいつらの向こうにはもっと大きな帝国軍がいる。


 累計獲得P=26,295P



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― 新着の感想 ―
馬は絶対殺さないマンばっかか?w 馬の顔に魔弾当てれば全員倒せるやろ?w
と、すると既に前線になっていた領は落ちており、敵は予定より踏み出す選択肢を取れる状況にあって、物資の出血を抑えながら戦争を継続したい程度には欲をかいている?斥候の務まる騎兵を食い続ければ、そいつらを抱…
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