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第3話 初めての報酬

「……さて」


 目の前の表示を消し、倒れたゴブリンを見る。


 初めて魔物を倒した。


 しかも、そのおかげでPまで増えた。


 気になることはいくらでもある。


 だが、まずやることがある。


「討伐証明は耳だったな」


 ゴブリンのような魔物は、討伐した証拠として右耳を冒険者ギルドへ持ち込めば、報奨金を受け取れる。


 冒険者になるなら覚えておくべき基本知識として、受付でも説明を受けていた。


 小刀を抜く。


 近づくと、草に落ちた血の匂いがまだ残っていた。


「…………」


 さすがに少し抵抗はある。


 魔物とはいえ、ついさっきまで動いていた生き物だ。


 それでも。


「これも仕事か」


 右耳を切り取り、持っていた布に包んだ。


 これで討伐証明はいい。


 残るのは死体だ。


「このまま放っておくわけにもいかないな」


 血の臭いを放置すれば、獣や別の魔物を引き寄せる可能性がある。


 ここは冒険者たちが薬草採取に訪れる場所だ。


 誰かが襲われる原因を残したくはない。


 近くに落ちていた太い枝と平たい石を使い、地面を掘る。


「結構、大変だな……」


 しばらくかかって、ようやくゴブリンの身体を埋められる程度の穴ができた。


 死体を入れ、土をかぶせる。


「これでいいか」


 立ち上がって手についた土を払った。


 冒険者になったばかりだ。


 まだ知らないことは多い。


 でも、少しずつ覚えていけばいい。


「……まずは依頼を終わらせないとな」


 薬草はまだ七株。


 残り三株だ。


 ◇


 少し歩いたところで一株。


 さらに二株。


「よし」


 これで十株。


 一株ずつ確認する。


 葉の形。


 茎の色。


 中心に咲く白い花。


 似た毒草は混じっていない。


 問題ないだろう。


 薬草を袋へ入れ、俺は町へ戻ることにした。


 帰り道。


「…………」


 歩きながら、自分の足を見る。


 やっぱり速い。


 《敏捷強化》を買ってから、かなり時間が経っている。


 それでも効果は消えていない。


 能力情報を確認する。


【名前:アレン・ヴァルディス】


【筋力:20】


【耐久:20】


【敏捷:30】


【魔力:18】


【一般成人基準:10】


「敏捷三十……」


 元々は二十。


 それが《敏捷強化》を一度買ったことで三十になった。


 しかも。


 もう一度買うこともできる。


 今の保有Pは百三十。


 三十Pあれば一回強化できるから。


「四回買えるのか」


 敏捷強化を四回。


 そうすれば三十から七十。


「…………」


 一般成人の基準が十。


 七十まで上げたら、どうなるんだ?


 考えただけでも試してみたくなる。


「いや」


 首を振った。


 Pについて分かっていることは、まだ少ない。


 魔物を倒せば増えることは分かった。


 だが、いつでも都合よく魔物に出会えるとは限らない。


 それに《回復》には五十P必要だ。


「使えるからって、全部使う必要はないな」


 必要なときに使える分は残しておく。


 その方がいい。


 俺は表示を消し、町へ向かった。


 ◇


 冒険者ギルドへ戻ったころには、昼を少し過ぎていた。


 朝よりも人は少ない。


 受付には、俺の登録を担当してくれた女性がいた。


「あ、アレンさん」


「戻りました」


「お疲れさまでした。薬草は採れましたか?」


「はい」


 袋を差し出す。


 受付嬢が中から薬草を取り出し、一株ずつ確認していく。


「一、二、三……」


 やがて十株すべてを確認した。


「はい。問題ありません」


「よかった」


「状態も綺麗ですね。似た毒草も混じっていません」


「見分け方は知っていたので」


「薬草の知識もあるんですか?」


「多少は。家で教わりました」


「なるほど」


 受付嬢が納得したように頷く。


 ヴァルディス家を追い出された。


 でも、そこで学んだことまで失ったわけじゃない。


「それでは、薬草採取の依頼は達成です。報酬は五千ジェニーになります」


「五千ジェニー……」


 昨日までなら、そこまで気にする額ではなかった。


 でも今は違う。


 これからは自分で稼いで生活しなければならない。


「あ、それと」


 俺は荷物から布包みを取り出した。


「途中でゴブリンを一体倒しました」


「ゴブリンですか?」


「討伐証明もあります」


 布を開く。


 中にある右耳を見て、受付嬢が確認した。


「確かにゴブリンですね」


「依頼を受けてなくても報酬は出るんですか?」


「はい。ゴブリンは人を襲う魔物ですから。正式な討伐依頼を受けていなくても、討伐証明を持ち込めば報奨金が支払われます」


「そうなんですね」


「ゴブリン一体なら三千ジェニーです」


 受付嬢が計算する。


「薬草採取が五千ジェニー。ゴブリンの討伐報奨金が三千ジェニーですので――」


 硬貨の入った袋を差し出した。


「合わせて八千ジェニーです」


「八千……」


 袋を受け取る。


 ずしりとした感触。


 昨夜泊まった安宿は一泊三千ジェニーだった。


 食事代も必要になる。


 八千ジェニーは大金ではない。


 毎日働かなければ、すぐになくなる額だ。


「…………」


「どうしました?」


「いや……」


 袋を見つめる。


 これは父からもらった金じゃない。


 ヴァルディス家の金でもない。


 自分で依頼を受けて、自分で薬草を集めて、ゴブリンと戦って、自分で稼いだ金だ。


「これが……俺が稼いだ金か」


自分の力で生きていくために手にした、最初の金だ。


「それでは、これで依頼達成となります」


 受付嬢が言った。


 その瞬間。


【依頼達成を確認しました】


「……!」


 目の前に文字が浮かぶ。


【Fランク依頼《薬草採取》を達成しました】


【20P獲得】


「…………」


 さらに表示が続いた。


【初回依頼達成ボーナス】


【100P獲得】


【保有:250P】


「二百五十……」


 思わず声が漏れた。


「どうしました?」


「あ、いえ。何でもありません」


 受付嬢には見えていない。


 俺は表示へ意識を戻す。


 間違いない。


 百三十だった保有Pが二百五十になっている。


「依頼でも増えるのか……」


 魔物を倒す。


 Pが増える。


 依頼を達成する。


 それでもPが増える。


「…………」


 考えてみれば。


 これは冒険者ととんでもなく相性がいいんじゃないか?


 依頼でジェニーとPを稼ぐ。


 魔物を倒せば、さらにPと討伐報酬。


 そのPで強くなれば、もっと上の依頼へ行ける。


「……なるほど」


 冒険者と《会員》。


 とんでもなく相性がいい。


 思わず口元が緩む。


 家を追い出されたから。


 食べていくために冒険者になった。


 最初は、それだけだった。


 でも、冒険者を続ければ俺はもっと強くなれる。


「アレンさん?」


「あ、すみません」


「次の依頼も受けていきますか?」


「はい。そのつもりです」


「でしたら、少しお待ちください」


 受付嬢が依頼書を探し始める。


 その間に俺は少し離れ、人の少ない場所で《会員》を開いた。


【会員ランク:ブロンズ】


【保有:250P】


【筋力強化 30P】


【耐久強化 30P】


【敏捷強化 30P】


【回復 50P】


「二百五十……」


 かなり使える。


 敏捷だけを何度も上げることもできる。


 筋力だけを上げることもできる。


 だが今の能力は。


【筋力:20】


【耐久:20】


【敏捷:30】


【魔力:18】


「まずはバランスかな」


 ガレスとの戦いを思い出す。


 速く動けても、力が足りなければ攻撃は通らない。


 耐久が低ければ、一撃を受けたときに危険だ。


「筋力強化を一回」


【筋力強化を購入しますか?】


【必要:30P】


【保有:250P】


「買う」


【30Pを使用しました】


【保有:220P】


【筋力:20 → 30】


「……おお」


 身体の奥から力が湧く。


 拳を握るだけでも、今までとの違いが分かる。


「次は耐久だ」


【耐久強化を購入しますか?】


【必要:30P】


【保有:220P】


「買う」


【30Pを使用しました】


【保有:190P】


【耐久:20 → 30】


 もう一度、能力情報を確認する。


【筋力:30】


【耐久:30】


【敏捷:30】


【魔力:18】


【一般成人基準:10】


「三十、三十、三十」


 魔力以外は三十になった。


 一般成人の基準が十。


 それに比べれば、かなり高い数字だ。


 しかも、まだ百九十P残っている。


 その気になれば、ここからさらに何度でも強化できる。


「でも、今日はこれくらいにしておこう」


 何が起こるか分からない。


 少なくとも《回復》をいつでも使えるだけのPは残しておきたい。


 表示を消した、そのときだった。


「お願いします。もう一度だけ探してもらえませんか?」


「……?」


 少し離れた受付から声が聞こえた。


 女の子の声だ。


 見ると杖を胸の前で握った少女が、別の受付嬢と話していた。


 銀色の髪が、俯くたびに頬へ落ちる。


 俺より少し年上だろうか。


 冒険者らしい服を着ている。


「フェリシアさん」


 受付嬢が困ったような表情を浮かべた。


「お気持ちは分かります。でも、今回の依頼を一人で受けるのは危険です」


「分かっています」


「でしたら……」


「だから、パーティを紹介してほしいんです」


 フェリシアと呼ばれた少女が杖を握りしめた。


「もう三組に断られました」


「…………」


「でも、私は攻撃魔術師です。ちゃんと戦えます」


「フェリシアさんの実力を疑っているわけではありません」


「じゃあ、どうして……」


 受付嬢が答えに困る。


 フェリシアが俯いた。


「……火力が足りないから、ですよね」


「…………」


「分かってます」


 声が少し小さくなる。


「攻撃魔術師を入れるなら、もっと強い魔法を使える人の方がいいって」


「…………」


 俺は思わず彼女を見る。


 昨日の自分と少しだけ重なった。


 どんな人間なのかではなく、持っている能力だけで価値を決められる。


「でも」


 フェリシアが顔を上げた。


「私だって、もっと上の依頼を受けたいんです」


 受付嬢が困ったように息を吐く。


「せめて前衛の方と組めればいいんですが……」


「前衛……」


 俺は自分の腰を見る。


 剣がある。


 それに、ちょうど俺も次の依頼を探していたところだ。


「…………」


 俺はフェリシアの方へ歩いた。


「あの」


「……?」


 フェリシアが振り向く。


「はい?」


「俺でよければ」


 一度、息を吸う。


「一緒に依頼を受けませんか?」


「……え?」


 フェリシアが大きく目を見開いた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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