↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第3章 はじめての戦場

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/201

第25話 戦場へ

 冒険者ギルドの前には、武装した冒険者たちが集まっていた。


 昨日、伯爵邸にいた人数より明らかに少ない。


 やはり参加を見送った者も多いらしい。


 俺とフェリシアも遊撃隊への参加を届け出て、西門へ向かった。


 その途中で、見覚えのある四人を見つけた。


「クロードさん」


「来たか」


 《銀狼》だ。


「クロードさんたちも参加するんですね」


「ああ」


 クロードは俺たちの装備を見てから言った。


「お前たちも行くんだな」


「はい」


「そうか」


 少しだけ間が空く。


「一つだけ言っておく」


「何です?」


「魔物相手と同じだと思うなよ」


「分かっています」


 昨日から何度も考えた。


 今回は魔物を倒す依頼じゃない。


 人間と戦うことになるかもしれない。


 するとクロードが首を横に振った。


「いや。たぶん、まだ分かってない」


「…………」


「俺も最初はそうだった」


 それ以上は言わなかった。


「行くぞ。班分けも西門でやるらしい」


 《銀狼》とともに歩き出す。


 俺とフェリシアも後を追った。


 ◇


 西門の外には、すでに伯爵家の兵士たちが集まっていた。


 馬。


 荷馬車。


 食料や武器を積んだ荷車。


 これまで受けた護衛依頼とは規模が違う。


 冒険者たちが揃ったところで、一人の騎士が前へ出た。


 三十代半ばほど。


 短く刈った黒髪に、日に焼けた顔。


 胸にはベルガント伯爵家の紋章がある。


「ベルガント伯爵家騎士団副団長、ロイド・ハーゼンだ。今回、冒険者遊撃隊の指揮を任されている」


 ロイド副団長は全員を見渡した。


「最初に言っておく。諸君は正規兵ではない。普段のパーティを崩すつもりもない」


 冒険者たちが耳を傾ける。


「俺は冒険者の戦い方すべてを知っているわけではない。細かな判断までこちらから押しつけるつもりもない」


 そこで声を強くした。


「だが、戦場で各自が好き勝手に動けば、味方まで危険にさらす」


 誰も口を挟まない。


「複数のパーティを一つの班として動かす。大まかな任務はこちらから出すが、現場での動きは班長の判断を優先する」


 順番に名前が呼ばれていく。


「第一班。《銀狼》」


「ああ」


 クロードが答えた。


「班長を頼む」


「分かった」


 ロイド副団長が手元の紙を見る。


「第一班は八名だ。《銀狼》の四名に、アレン・ヴァルディス、フェリシア・ロート。それからラウル・ベッカー、エナ・リース」


「はい」


「はい!」


 俺とフェリシアが答える。


 少し離れたところからも二人が前へ出てきた。


 一人は長い槍を背負った男。


 二十代前半くらいだろうか。


 短い赤茶色の髪で、いかにも話好きそうな顔をしている。


 もう一人は腰に二本の短剣を差した女性。


 こちらも二十代前半くらい。


 黒髪を後ろでまとめている。


「ラウルだ。槍使い。よろしくな」


「エナ。斥候」


 ずいぶん簡潔だ。


「アレンです。剣を使います」


「フェリシアです。攻撃魔術師です」


 するとクロードが自分の仲間を示した。


「俺はクロード。剣士だ。あとは――」


「自分で言える」


 大盾を背負った大柄な男が口を挟んだ。


「ボルクだ。見ての通り盾役だ」


 次に杖を持った女性。


「リディア。攻撃魔術師よ」


 最後に白い外套を着た女性が柔らかく笑う。


「セシルです。治癒魔術を使います。よろしくお願いします」


 これで八人。


 クロードが剣士。


 ボルクが盾役。


 リディアが攻撃魔術師。


 セシルが治癒術師。


 ラウルが槍使い。


 エナが斥候。


 そして俺とフェリシア。


「ずいぶん揃ってるな」


 ラウルが班の顔ぶれを見ながら言う。


「前衛も後衛もいるし、治癒術師までいる」


「だから組まれたんじゃない?」


 エナが答えた。


「なるほどな」


 ロイド副団長が馬へ乗った。


「準備はいいか!」


 声が響く。


「出発する!」


 門が開いた。


 兵士たちが先に進む。


 その後を荷馬車。


 さらに俺たち冒険者が続いた。


 門を抜けたところで、一度だけ振り返る。


 高い城壁。


 門を行き交う人。


 その向こうには、いつものベルガントがある。


 次に戻ってくるときも、この街が今と同じ姿であればいい。


 前を向いた。


 俺たちは西へ向かった。


 ◇


 一日目。


 街道の様子は、普段とそれほど変わらなかった。


 ベルガントへ向かう商人。


 荷馬車。


 農作物を運ぶ人たち。


 俺たちの一団を見て驚く者はいるが、それだけだ。


 第一班はまとまって街道を歩いていた。


「そういやさ」


 少し前を歩いていたラウルが振り返る。


「アレン、お前いくつ?」


「十五です」


「……十五?」


 足を止めそうな勢いで振り返った。


「はい」


「十五って、十五歳?」


「他に何があるの」


 エナが横から言う。


「いや、分かってるけど!」


 ラウルが俺を見る。


「ちょっと待て。今年、授与の儀を受けたばっかりってことか?」


「そうです」


「それでCランク?」


「最近上がりました」


「最近って……」


 ラウルが頭を抱える。


「俺、Cランクになるまで四年かかったんだけど」


「比べるから落ち込む」


「エナ、お前はもう少し相棒を慰めろよ」


「事実だから」


 思わず笑ってしまった。


 そこへボルクも顔を向ける。


「本当に十五なのか?」


「はい」


「その剣を持ってるから、もっと上だと思ってたぞ」


 俺の腰にある炎牙剣を見ている。


「それ、相当いい剣だろ?」


「最近買いました」


「いくらだ?」


「百二十八万ジェニーです」


「…………」


 ボルクが黙った。


 ラウルまで黙る。


「なんです?」


「最近の十五歳は百万ジェニーの剣を買うのか?」


「アレンを十五歳の基準にしない方がいい」


 エナが言った。


「俺もそう思う」


 クロードまで加わった。


「フェリシアは?」


 ラウルが今度は隣へ視線を向ける。


「私は十六です」


「十六!?」


「はい」


「二人とも若すぎるだろ!」


 今度はセシルの表情が少し曇った。


「……十五歳と十六歳で、戦場ですか」


 さっきまでの軽い空気が少し変わる。


「二人とも」


 セシルが俺たちを見る。


「本当に、自分で参加を決めたんですよね?」


「はい」


「はい」


 フェリシアも答えた。


 セシルはそれでも心配そうだった。


「Cランクなのは分かっています。でも……戦場は別です」


「俺もそう思う」


 ボルクが言った。


「強い弱い以前に、十五だからな」


 ラウルも今度はふざけなかった。


「今ならまだ戻れるだろ?」


「…………」


 誰かに馬鹿にされているわけではない。


 本気で心配している。


 それは分かった。


 クロードも俺を見る。


「アレン」


「はい」


「参加は強制じゃない。今から戻ったって誰も責めない」


 少し前なら。


 誰かにそう言われれば、迷ったかもしれない。


 でも、今は違う。


「戻りません」


 はっきり答えた。


 ラウルが俺を見る。


「即答か」


「はい」


「怖くないのか?」


「怖いです」


 避けずに答える。


「人間と本気で戦ったことはありません。昨日からずっと考えてます」


「だったら――」


「でも」


 ラウルの言葉を止めた。


「ここへ来ると決めたのは俺です」


 全員がこちらを見る。


「誰かに行けと言われたわけじゃありません」


 父に決められたわけでもない。


 カイルに追い立てられたわけでもない。


 今度は俺が決めた。


「ベルガントを戦場にしたくない。そのために俺にできることがあるなら、俺はやります」


「…………」


「だから、戻りません」


 しばらく誰も何も言わなかった。


 やがてクロードが口を開く。


「なら、一つ覚えておけ」


「はい」


「自分で選んだことと、死んでもいいってことは別だ」


「…………」


「行くと決めたなら、生きてベルガントへ帰るんだ」


 クロードを見る。


「はい」


 今度も迷わなかった。


 隣を見る。


 フェリシアも小さく頷いていた。


「まあ」


 ボルクが大きな手で自分の盾を叩く。


「簡単に死なせるつもりもないけどな」


「そうそう」


 ラウルも笑う。


「十五歳を死なせて帰ったら、俺たちが寝覚め悪いし」


「十六歳もです」


 フェリシアが言う。


「あ、そうだった」


「忘れないでください」


「悪い悪い」


 空気が少し軽くなった。


 そのまま歩き続ける。


 さっきまで名前しか知らなかった相手だった。


 でも。


 少しずつ、第一班の彼らのことを知り始めていた。


 ◇


 夕方。


 街道沿いの宿場へ着いた。


 伯爵家の兵士たちは野営し、冒険者たちも宿や野営地に分かれて休む。


 第一班は同じ場所で食事を取ることになった。


 硬いパン。


 干し肉。


 温かいスープ。


「食えるときに食っとけ」


 ボルクが大きなパンをちぎりながら言った。


「前線に入ったら、飯の時間を選べるとは限らん」


「経験あるんですか?」


 俺が尋ねる。


「小競り合い程度ならな」


 ボルクがクロードを見る。


「《銀狼》は何度か国境近くの仕事を受けてる」


「戦争も?」


「ここまで大きいのは初めてだ」


 クロードが答えた。


 そこでラウルが炎牙剣を見た。


「しかし、本当に百二十八万か……」


「まだ気にしてるの?」


 エナが呆れる。


「気になるだろ。俺の槍、十八万だぞ」


「十分使えてる」


「そうだけどさ」


 リディアがフェリシアへ顔を向けた。


「フェリシアだったわね」


「はい」


「攻撃魔術師って言ってたけど、何を使うの?」


「《魔弾》です」


「魔弾?」


 リディアが少し意外そうな顔をした。


「珍しいわね」


「そうですか?」


「使える人はいるけど、主力にしてる魔術師はあまり見ないわ」


「一発の威力は高くありませんから」


 フェリシアはそう言ってから続けた。


「でも、連射と狙った場所へ当てるのは得意です」


「へえ」


 以前なら。


 フェリシアは自分の《魔弾》を説明するとき、もっと自信がなかった。


 今は違う。


 ちゃんと自分の魔法の長所を話している。


「面白そうね」


 リディアが少し笑う。


「実戦で見るのを楽しみにしてる」


「はい」


「俺も魔弾ってのは見たことあるぞ」


 ラウルが入ってくる。


「小さい光がポンって飛ぶやつだろ?」


「だいたい合ってます」


「戦場で使えるのか?」


「ラウル」


 エナが言った。


「また余計なこと言ってる」


「いや、純粋な疑問だって!」


 フェリシアが少し笑った。


「使えると思います」


「おっ」


「たぶん、ラウルさんが想像してるものとは少し違いますけど」


「何それ。気になるんだけど」


「見れば分かります」


 リディアが笑った。


「言うじゃない」


 俺も笑う。


 昨日までほとんど知らなかった人たちと、同じ鍋のスープを食べている。


 戦場へ向かっているとは思えないくらい、普通の時間だった。


 ◇


 二日目。


 再び西へ向かった。


 昼を過ぎたころ。


「あれ……」


 フェリシアが前を見る。


「どうしました?」


「向こうから来る馬車、多くないですか?」


 言われて気づいた。


 一台。


 また一台。


 少し間を空けて、さらに二台。


 どれも西からベルガント方面へ向かっている。


「商人じゃない」


 エナが最初に気づいた。


 近づいてきた荷馬車を見る。


 荷台に乗っていたのは商品ではなかった。


 老人。


 女性。


 子供。


 その周りに大量の荷物。


 木箱。


 鍋。


 椅子。


 毛布。


 生活に使う物が、無理やり積み込まれていた。


「避難してるのか……」


 ラウルの声が低くなる。


 次の馬車も同じだった。


 その後ろを、家畜を連れた家族が歩いている。


「…………」


 昨日までよく喋っていたラウルも、何も言わなくなった。


 西へ進むほど、東へ向かう人の数が増えていく。


 馬車の荷台に座っていた老人が、こちらへ声をかけた。


「お前さんたち、西へ行くのか?」


「はい」


「そうか……」


 老人は俺たちの武器を見る。


「気をつけろよ」


 それだけ言って、馬車はベルガントの方へ進んでいった。


 俺たちもまた、西へ歩く。


 ◇


 三日目。


 街道の様子は、さらに変わっていた。


 商人の馬車はほとんど見なくなった。


 ベルガント方面へ向かう人ばかりになっている。


 家財を積んだ荷車。


 馬に乗った親子。


 徒歩で移動する老人たち。


 道の脇で休んでいる家族もいた。


 反対に西へ進むのは、兵士や武装した者ばかりだ。


「ベルガントを出た時とは全然違いますね」


 フェリシアが言った。


「はい」


 前から一台の荷馬車が来る。


 俺たちの横を通り過ぎようとして、ゆっくり速度を落とした。


 荷台にいた少年がこちらを見ている。


 十歳くらいだろうか。


 俺の腰の剣へ視線を向けた。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「冒険者?」


「そうだよ」


「帝国の兵隊と戦うの?」


「うん。そのために西へ向かってるんだ」


 少年が自分の膝を握った。


「僕たち、家に帰れる?」


 すぐには答えられなかった。


 俺には分からない。


 絶対に帰れるなんて言えない。


「帰れるようにするために、行くんだ」


 少年が俺を見る。


「ケガしないでね」


 小さく頷いた。


 馬車が再び動き始める。


 少年はしばらくこちらを見ていた。


 やがて見えなくなった。


「…………」


 誰もすぐには口を開かなかった。


 しばらくして、ボルクが俺の肩を軽く叩いた。


 何も言わない。


 俺も何も言わなかった。


「アレンさん」


「はい」


 フェリシアが杖を少し強く握る。


「昨日より、ちょっと怖くなりました」


「俺もです」


「…………」


「でも、行きましょう」


「はい」


 俺たちはまた歩き出した。


 今度は八人で。


 ◇


 その日の夕方。


 街道の先に、大きな木柵と無数の天幕が見えてきた。


「あれがスコッティ公爵領東部の集結拠点だ」


 クロードが言った。


「もうスコッティ領なんですね」


「ああ。ただ、ここはまだ東側だ。国境までは何日かかかる」


 ようやくスコッティ公爵領へ入ったところらしい。


 近づくにつれて、その規模が分かってくる。


 何十もの天幕。


 並べられた荷車。


 大量の馬。


 武器を持った兵士たち。


 休むことなく行き交う伝令。


 これまで見てきた宿場とは、まるで違う。


 さらに奥へ視線を向けた。


「怪我人……」


 フェリシアの声が小さくなる。


 腕に包帯を巻いた兵士。


 頭を布で覆った男。


 二人に肩を借りながら歩いている兵士もいる。


「前線から後送されてきた負傷兵だろうな」


 クロードが言った。


 国境はまだ何日も先。


 それでも、そこで傷ついた人間がここまで運ばれてきている。


「…………」


 昨日。


 クロードは言った。


 魔物相手と同じだと思うな、と。


 まだ、その意味を全部理解したとは思えない。


 それでも。


 ベルガントを出た時より、少しだけ分かってきた気がした。


 俺たちは木柵を抜ける。


 ロイド副団長が馬を止めた。


「今日はここで休む!」


 兵士と冒険者たちへ声を張る。


「明日、スコッティ公爵軍の担当者と合流する! 以後は彼らと連携しながら任務に当たってもらう!」


 そして西を見る。


「ここから先へ進むほど、状況は悪くなると思え!」


 誰も冗談を言わない。


 そのときだった。


 カッ、カッ、カッ、カッ!


 西から激しい馬蹄の音が聞こえた。


 一騎。


 ものすごい勢いでこちらへ向かってくる。


「道を開けろ!」


 馬に乗った兵士が叫んだ。


「前線からの急報だ!」


 門番たちが慌てて道を開ける。


 馬が集結拠点へ飛び込んできた。


 乗っている男は泥だらけだった。


 左肩の布には血が滲んでいる。


 ロイド副団長が馬を寄せた。


「何があった!」


「帝国軍が再び国境を越えました!」


 周囲の兵士たちが一斉に動きを止める。


「規模は!」


「先遣隊だけでも千を超えています!」


「千……」


 フェリシアが息を呑んだ。


「さらに後方に帝国軍本隊を確認! 現在も国境へ向けて進軍中です!」


「本隊……」


 ラウルからも、さっきまでの軽い調子は消えていた。


 集結拠点が一気に騒がしくなる。


 命令が飛ぶ。


 兵士が走る。


 伝令が別の天幕へ駆けていく。


 馬が次々と動き出した。


 俺は西の空を見る。


 まだ戦場は見えない。


 国境までも距離がある。


 それでも戦争は、もう目の前まで来ていた。


 累計獲得P=25,300P



最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
きちんとした防具を装備して戦に行きたいよなぁ。でも魔法が存在する世界だと戦場も散兵陣とかになっててアーマーもフルじゃなくて騎兵鎧みたいな方向になってそうだ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。