第219話 千個の群晶石
翌朝。
俺たちはミナリアの冒険者ギルドへ向かっていた。
昨日は、ドラン帝国から救出されたグランドバイソンのバルドを、無事に飼い主のもとへ送り届けることができた。
「バルド、元気にしてるかな?」
ルナが言った。
「きっと元気だよ」
フェリシアが笑う。
「そうだね」
俺も頷いた。
さて、今日は何をしようかな。
久しぶりにミナリア西ダンジョンへ行ってみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えているうちに、冒険者ギルドへ到着した。
◇
「あっ! アレンさん!」
受付の女性が、俺たちに気づいて手を振った。
「おはようございます!」
「おはようございます! 皆さん、ミナリアに戻っていらしたんですね!」
「はい! 昨日、戻ってきました!」
「そうでしたか! ちょうどよかったです!」
……ちょうどよかった?
「何かあったんですか?」
「実は、皆さんにご相談したい依頼があるんです」
「依頼ですか?」
「はい。ローデン商会のヴィクトル様から、引き続き群晶石の採取依頼をいただいているのですが、実はその後、ほとんど集まっていないんです」
「そうなんですか?」
「はい。群晶石が採れるのは、ミナリア西ダンジョンの深層です。そこまで到達できる冒険者が、そもそも少なくて……」
なるほど。
確かに、大量に取れた第三十七階層にはかなり強い魔物が出現していた。
誰もが簡単に行ける場所じゃない。
「それに、採取できたとしても、一度に持ち帰れる数には限りがあります」
「……ああ、そうか」
俺は頷いた。
俺たちには《収納》がある。
群晶石が何十個あっても、持ち運ぶのに困ることはない。
でも、普通の冒険者は違う。
深層まで何日もかけて移動し、魔物と戦いながら採掘して、重い石を背負って戻ってくる必要がある。
それは大変だろうな。
「現在、ヴィクトル様のご依頼については、以前皆さんが持ち帰ってくださった七十個しか納品できていないんです」
「七十個……」
「はい。希望数量には、まったく届いていなくて……」
「ちなみに、ヴィクトルさんは何個くらい欲しいんですか?」
俺が尋ねると、女性は少し言いにくそうな顔になった。
「……千個です」
「……えっ?」
「千個?」
「せ、千個!?」
ルナが大きな声を上げた。
フェリシアも目を丸くしている。
「そんなに!?」
「はい……」
女性は申し訳なさそうに頷いた。
「研究などに使いたいそうなのですが、今の状況では、いつ達成できるのか見通しも立たないんです」
……千個か。
確かに、かなりの数だな。
以前、俺たちが一度に採取したのは七十七個だった。
あのときは大きな鉱脈を見つけたから、たくさん採れた。
同じような鉱脈が、そう簡単に見つかるとも限らない。
でも……。
「……ねえ、二人とも」
「何?」
「どうしたの?」
「俺たちなら、頑張れば何とかなるかもしれないね」
ルナが答える。
「確かにね。 私達ならいっぱい採れるかも!」
「俺もそう思う!」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
「受付さん! その依頼、俺たちが受けてもいいですか?」
「……えっ!?」
女性が驚いた。
「本当によろしいんですか?」
「はい! 千個全部を集められるかは分かりませんけど、できるだけ頑張ってみます!」
「ありがとうございます!」
女性が嬉しそうに頭を下げた。
「それでしたら、今回も一度に採れた分ずつ納品していただければ大丈夫です」
「そうなんですね!」
「はい。千個というのはヴィクトル様の希望総数です。今回は五十個以上の採取を一件の依頼として受け付け、その都度、達成の処理をいたします」
「なるほど!」
ということは、毎回五十個以上持ち帰れば、依頼を達成できるんだな。
「それから、群晶石の買取価格ですが、前回と同じ品質のものでしたら、一個三十万ジェニーが目安となります」
「三十万ジェニー!」
ルナが目を輝かせた。
「千個だったら、三億ジェニーだよ!」
「……おおっ!」
それはすごい金額だな!
「もちろん、品質によって価格は変わりますけどね」
女性が笑った。
「それでは、よろしくお願いします!」
「はい!」
◇
さっそく俺たちは、ダンジョンへ向かうことにした。
ギルドを出て、人目につかない場所へ移動する。
「じゃあ、みんな。俺に触れてね!」
「うん!」
フェリシアが右腕につかまり、ルナが左腕につかまった。
テリーは俺の脚に身体を寄せ、ステフは肩に乗る。
「ワフ!」
「キュ!」
「それじゃあ、行くよ!」
俺はミナリア西ダンジョンの入口近くに残した魔力印へ意識を集中した。
「《転移》!」
シュンッ!
次の瞬間。
目の前には青い海が広がっていた。
「……着いた!」
フェリシアが笑う。
「本当に便利だね!」
「うん! これで往復四日分の移動がなくなっちゃった!」
ルナも嬉しそうだ。
俺たちは岩陰から出ると、ダンジョンへ向かった。
◇
第三十階層の転移石を経由し、さらに下へ進む。
目指すのは、以前群晶石の鉱脈を発見した第三十七階層だ。
ところが、第三十五階層へ入ったところで、《魔力感知》に反応があった。
「……あっ。魔物がいるね」
「何体?」
ルナが弓を構えた。
「三体だよ!」
通路の奥から、黒い甲殻に覆われた大きな虫のような魔物が現れた。
【ダークビートル】
以前にも戦った魔物だ。
硬い甲殻を持っていて、普通の剣では簡単に傷つけられない。
でも。
「じゃあ、俺がやるね!」
「うん!」
俺は竜爪剣を抜いた。
三体のダークビートルが、こちらへ向かってくる。
先頭の一体が、鋭い前脚を振り上げた。
しかし。
シュンッ!
俺は一気に間合いを詰めた。
前脚をかわし、甲殻の隙間へ剣を突き入れた。
ザシュッ!
ダークビートルが崩れ落ちる。
【魔物を討伐しました】
【3,200P獲得】
よし!
続いて二体目。
横から迫る攻撃をかわし、竜爪剣を振り抜く。
ザンッ!
【魔物を討伐しました】
【3,200P獲得】
そして三体目。
振り下ろされた前脚を弾き、頭部へ剣を突き立てた。
ドサッ!
【魔物を討伐しました】
【3,200P獲得】
俺は三体のダークビートルを《収納》へ入れた。
甲殻もほとんど傷つけていない。
これなら、素材としても高く売れそうだな。
「じゃあ、先へ進もうか!」
「うん!」
◇
その後も、俺たちは何度も魔物と遭遇した。
シャドーウルフの群れが現れたときには、俺とルナで手分けして倒した。
俺が一体を斬り伏せる。
【魔物を討伐しました】
【2,800P獲得】
その隣で、ルナの矢が別の一体を射抜く。
さらに、フェリシアの周囲に八つのオービットが浮かび上がった。
「《魔弾》!」
ドドドドッ!
魔弾が次々とシャドーウルフを撃ち抜いていく。
「やった!」
「すごいね、フェリシア!」
「えへへ!」
テリーとステフも、負けじと戦っている。
こうして一緒に戦えるのは嬉しい。
◇
第三十七階層。
俺たちは、以前群晶石を発見した場所へ到着した。
「ここだったよね!」
ルナが言った。
「うん。でも、前にたくさん採っちゃったから、まだ残ってるかな?」
フェリシアが岩壁を見つめる。
前回採掘した場所には、大きなくぼみが残っていた。
さすがに、同じ場所から何十個も採るのは難しそうだ。
「じゃあ、少し奥を調べてみよう!」
俺は《鑑定》を使った。
岩壁を一つずつ確認していく。
すると。
「……あっ!」
「どうしたの?」
フェリシアが近づいてきた。
「ここにもあるよ!」
岩の奥に、青白い光が見えた。
【群晶石】
「本当だ!」
ルナが声を上げる。
「しかも、奥にも続いてるみたい!」
「うん! 掘ってみようか!」
俺は《収納》から槌とノミを取り出した。
群晶石を傷つけないように、周囲の岩を慎重に削っていく。
カン、カン。
コロンッ。
一つ目の群晶石が出てきた。
「やった!」
さらに奥を削る。
二個。
三個。
四個。
どうやら、小さな鉱脈が続いているようだ。
「おおっ! 結構あるね!」
ルナが目を輝かせた。
「うん! でも、壊さないように気をつけよう!」
俺たちは手分けして採掘を続けた。
途中、別の場所でも群晶石を見つけた。
そこでも《鑑定》を使い、周囲の岩を少しずつ削っていく。
そして夕方。
「……よし! 今日はこのくらいにしようか!」
「うん!」
「結構採れたね!」
俺は《収納》の中を確認した。
今日採取した群晶石は、全部で六十三個。
「六十三個か!」
「すごいじゃん!」
「これなら、千個も夢じゃないかも!」
俺たちは笑い合った。
ちなみに、今日俺が倒した魔物は十八体。
獲得したPは、全部で五万五千二百Pだった。
群晶石も採れて、Pもこんなに増えるなんて!
やっぱりダンジョンっていいな!
◇
その日の夕方。
俺たちはミナリアの冒険者ギルドへ戻ってきた。
「あっ、アレンさん! お帰りなさい!」
「ただいまです!」
「本日は、どちらへ?」
「ミナリア西ダンジョンに行ってきました!」
「……えっ?」
受付の女性が首を傾げた。
「西ダンジョンですか?」
「はい!」
「……今朝、こちらにいらっしゃいましたよね?」
「そうですね!」
「それで、もう戻ってこられたんですか?」
「はい! 《転移》を使ったので!」
「……転移?」
女性はしばらく俺たちを見つめていた。
そして、小さく息を吐いた。
「……アレンさんのお話を聞くと、本当に毎回驚かされますね」
「あはは……」
「それで、群晶石は採れましたか?」
「はい! 六十三個です!」
「……六十三個!?」
女性が目を見開いた。
「い、一日でですか!?」
「はい!」
「……すごいですね」
俺たちは解体場へ案内され、群晶石を並べた。
さらに、倒した魔物も《収納》から取り出していく。
ダークビートル。
シャドーウルフ。
次々と並べていくと、職員たちが集まってきた。
「……アレンさん、これは全部?」
「はい! 今日倒した魔物です!」
「……二十四体も?」
「はい!」
女性が額に手を当てた。
「……また解体場がいっぱいになってしまいますね」
……あれ?
何だか、申し訳ないな。
「すみません。たくさん持ってきちゃって……」
「いえ! とんでもありません!」
女性は慌てて首を振った。
「深層の魔物は素材の価値も高いので、ギルドとしては大変ありがたいんです!」
「それならよかったです!」
俺も笑った。
職員たちが素材の確認を始める。
群晶石六十三個については、品質に問題がないことを確認してもらえた。
「これで、本日の採取依頼は達成となります!」
その瞬間。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
よし!
「魔物の素材については、明日までに査定を終わらせておきますね」
「よろしくお願いします!」
「群晶石の買取代金も、明日まとめてお支払いします」
「ありがとうございます!」
◇
翌朝。
俺たちは再びギルドへ向かった。
「アレンさん! おはようございます!」
「おはようございます!」
「昨日の査定が終わりましたよ!」
「本当ですか!?」
「はい。まず、魔物の素材二十四体分ですが、合計四百八十万ジェニーになりました!」
「おおっ!」
「すごい!」
ルナが嬉しそうに声を上げた。
「それから、群晶石六十三個は、すべて一個三十万ジェニーでの買取となりました」
「ということは……?」
「千八百九十万ジェニーです!」
「……おおっ!」
合計すると、二千三百七十万ジェニーか!
三人で分けても、一人七百九十万ジェニーになる。
「すごいね!」
「うん! たった一日の探索で、こんなに稼げちゃった!」
フェリシアも嬉しそうだ。
「それでは、三名様で均等に分配いたしますね」
「お願いします!」
俺たちはそれぞれお金を受け取り、《収納》にしまった。
……やっぱり、《転移》ってすごいな。
今までは往復するだけで四日もかかっていたのに。
今は毎日ダンジョンへ行けるんだから!
「じゃあ、今日も行こうか!」
「うん!」
「いっぱい採ろう!」
◇
それから三日間。
俺たちは毎日、ミナリア西ダンジョンへ通い続けた。
朝、《転移》で入口へ移動する。
転移石を使って深層へ向かい、群晶石を探す。
見つけた鉱脈を採掘し、遭遇した魔物を討伐する。
魔物の素材も群晶石も、《収納》に入れて持ち帰る。
そして夕方には、ミナリアのギルドへ戻ってくる。
そんな生活が続いた。
二日目。
「今日は八十二個採れたよ!」
「……八十二個ですか!?」
受付の女性が目を丸くした。
「昨日より増えてるじゃないですか!」
「新しい鉱脈を見つけたんです!」
「……すごいですね」
この日、俺が倒した魔物は二十三体。
そして、群晶石の採取依頼達成で、さらに百Pを獲得した。
魔物の素材も三十一体分を預けた。
翌日、その買取金額は六百万ジェニーになった。
さらに、群晶石八十二個の買取代金が二千四百六十万ジェニー。
魔物の素材六百万ジェニーと合わせると、三千六十万ジェニーだ!
三人で分けると、一人千二十万ジェニーになる。
……おおっ!
たった一日の探索で、一人千万ジェニー以上も稼げちゃった!
やっぱり、群晶石ってすごいな!
◇
三日目。
「今日は七十五個です!」
「……七十五個ですね。承知しました」
……おっ?
受付の女性が、昨日ほど驚かなくなっている。
この日は、俺が十六体の魔物を討伐した。
採取依頼達成の百Pも加算された。
魔物の素材二十三体分も預けたけど、今回は査定結果が翌日になるそうだ。
そして四日目。
「ただいま戻りました!」
「あっ、アレンさん! お帰りなさい!」
女性が笑顔で迎えてくれた。
「今日は七十個くらいでしょうか?」
「いえ! 今日は六十七個でした!」
「……あら。今日は少なかったんですね」
「……えっ?」
俺は思わず聞き返した。
「六十七個でも、少ないんですか!?」
「……あっ!」
女性が慌てて口元を押さえた。
「も、申し訳ありません! 皆さんが毎日あまりにもたくさん持ってこられるので、つい……!」
「あはは!」
フェリシアが笑い出した。
「受付さん、すっかり慣れちゃったんだね!」
「そうみたいだね!」
ルナも笑っている。
普通の冒険者なら、一個持って帰るのも大変な魔石なんだけどなあ。
すると。
「今日も魔物が大量に届いています!」
解体場から職員の声が聞こえた。
「はい! いつもの場所にお願いします!」
「分かりました!」
……おお。
解体場の職員さんたちも、ずいぶん手際がよくなったみたいだな。
以前は魔物を出すたびに大騒ぎになっていたのに。
「アレンさん」
「はい?」
「実は、皆さんが毎日いらっしゃるので、最近は解体場の作業予定も調整しているんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。おかげさまで、作業の効率もずいぶんよくなりました」
女性が笑った。
「ただ……」
「ただ?」
「できれば、明日も同じくらいの時間にお越しいただけると助かります」
「分かりました!」
◇
「それでは、現在の納品数を確認しますね」
女性が書類を広げた。
「初日が六十三個、二日目が八十二個、三日目が七十五個、そして本日が六十七個……」
さらさらと数字を書き込んでいく。
「今回、皆さんが採取してくださったのは、合計二百八十七個です!」
「おおっ!」
「結構集まったね!」
フェリシアが嬉しそうに笑った。
「はい! 以前の七十個と合わせまして、現在の納品数は三百五十七個となりました!」
「三百五十七個か!」
「千個まで、残り六百四十三個です!」
……まだまだあるな。
でも、四日間で二百八十七個も採れたんだ。
この調子なら、頑張れば集められるかもしれない。
「それから、昨日お預かりした素材の査定も終わっています」
「本当ですか?」
「はい。二十三体分で、四百二十万ジェニーです!」
「おおっ!」
「群晶石七十五個の買取代金は、二千二百五十万ジェニーになります」
ということは、昨日の分だけで二千六百七十万ジェニーか!
受付の女性は書類を確認した。
「今回の四日間のうち、すでに査定が終わっている前三日分だけでも、合計八千百万ジェニーになります!」
「……八千百万!?」
ルナが目を丸くした。
「すごい金額だね!」
「はい。三名様で均等に分配すると、お一人二千七百万ジェニーです!」
……おおっ!
まだ四日目の査定が終わっていないのに、もう一人二千七百万ジェニーも稼げたのか!
やっぱり、群晶石ってすごいな!
「しかも、本日の群晶石六十七個と魔物三十体分は、まだ査定中です」
「じゃあ、もっと増えるんですね!」
フェリシアが嬉しそうに言った。
「はい!」
女性も笑った。
「それでは、本日の群晶石六十七個についても、採取依頼達成として処理いたしますね」
その瞬間。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
よし!
今日は魔物を二十一体倒して、六万四千四百P獲得している。
そこに依頼達成の百Pだ。
俺は《会員》を開いた。
【オリハルコン会員】
【保有:261,320P】
【累計獲得P:1,718,530P】
……おおっ!
二十六万Pを超えてる!
少し前に四十万Pを使って《譲渡》したばかりなのに、もうこんなに貯まったんだな。
やっぱり、深層の魔物は獲得Pも多い。
「ねえ、アレン!」
ルナが声をかけてきた。
「何?」
「明日もダンジョンへ行く?」
「もちろん!」
「やったあ!」
「でも、少しだけ休憩してもいいかもしれないね!」
フェリシアが笑う。
「そうだね! 今日は美味しいものでも食べようか!」
「賛成!」
「ワフ!」
「キュ!」
俺たちは笑いながら、ギルドをあとにした。
◇
その日の夜。
俺たちは宿の食堂で夕食を食べていた。
「それにしても、ヴィクトルさんはどうして千個も群晶石が欲しいんだろうね?」
俺が尋ねると、フェリシアが顔を上げた。
「私も、それが気になってた!」
「千個って、相当な数だよね」
ルナが言った。
「うん。もしかして、何か新しい使い道を見つけたのかな?」
「……あっ!」
フェリシアが目を輝かせた。
「それ、あるかもしれない!」
「そう思う?」
「うん! だって、群晶石って不思議な魔石でしょう?」
「そうだね!」
「私はオービットとして使ってるけど、それ以外にも何かできるんじゃないかなって!」
フェリシアは少し考え込んだ。
「……ねえ、アレン」
「何?」
「前に、ヴィクトルさんと一緒に木片を運んでみたでしょう?」
「ああ、群晶石に紐を結びつけたときだね!」
「うん。あれって、もっと重いものでもできるのかな?」
「……確かに!」
群晶石が小さなものを運べることは、あのとき分かった。
でも、どのくらいの重さまで運べるのかは調べていない。
「それに、群晶石って一つひとつ大きさも違うでしょう?」
「うん」
「だったら、大きな群晶石と小さな群晶石では、運べるものの重さも違うのかなって」
……なるほど。
そんなこと、考えたこともなかったな。
「フェリシア、面白いことを考えるね!」
「そ、そうかな?」
「うん! 俺なんて、どうやったら上手に戦えるかしか考えてなかったよ!」
「私も最初はそうだったんだけど……」
フェリシアが少し照れくさそうに笑った。
「ヴィクトルさんと話してから、いろいろ気になっちゃって」
「へえ!」
「魔力の量を変えたらどうなるのかとか、群晶石をいくつも組み合わせたらどうなるのかとか……」
「面白そう!」
ルナが身を乗り出した。
「ねえ、フェリシア! じゃあ群晶石があれば、重い荷物も運べるようになるのかな?」
「……あっ!」
フェリシアが目を丸くした。
「そうだよね! 戦うためだけじゃなくて、荷物を運ぶのにも使えるかもしれない!」
「そうなったら便利だよね!」
「うん!」
フェリシアは嬉しそうに頷いた。
「……でも、本当にできるのかな?」
そう言って、少し考え込んだ。
「……調べてみたいな」
「じゃあ、今度ヴィクトルさんに会ったら、いろいろ聞いてみようよ」
「うん!」
フェリシアが笑顔になった。
◇
夕食を終えたあと。
俺たちは宿の部屋へ戻った。
すると。
「ねえ、アレン! ルナ! ちょっと見てて!」
フェリシアが声をかけてきた。
「何?」
「さっき話してたこと、少し試してみたいの!」
「……群晶石のこと?」
「うん!」
フェリシアは《収納》から小さな布袋を二つ取り出した。
さらに、同じくらいの大きさの石をいくつか並べる。
「何をするの?」
ルナが不思議そうに尋ねた。
「群晶石が、どのくらい重いものを運べるのか調べてみたいんだ!」
「なるほど!」
フェリシアは、一つの布袋に小石を一個入れた。
そして、オービットの一つに結びつける。
「まずは、これ!」
フェリシアが魔力を流した。
ふわっ。
群晶石が布袋と一緒に浮き上がった。
「おおっ!」
「やった!」
ルナが拍手した。
「じゃあ、次は……」
フェリシアは布袋を下ろすと、中の小石を二個に増やした。
そして、もう一度魔力を流す。
ふわっ。
今度も浮いた。
でも。
「……あれ?」
フェリシアが首を傾げた。
「どうしたの?」
「うーん。さっきより、ちょっと動かしにくいような……」
「そうなの?」
「うん。でも、気のせいかもしれない」
フェリシアは群晶石をテーブルへ戻した。
「同じくらい魔力を流したつもりだけど、本当に同じだったか分からないし……」
……なるほど。
「じゃあ、もっと重くしてみる?」
俺が尋ねると、フェリシアは嬉しそうに頷いた。
「うん! でも、その前に、小石の重さもちゃんと揃えた方がいいかも!」
「……どういうこと?」
「だって、一個目の石と二個目の石で重さが違ったら、正しく比べられないでしょう?」
「……ああ、確かに!」
「それに、大きな群晶石でも試してみたいし、魔力の量も変えてみたいの!」
「へえ!」
「あと、同じ重さのものを二つの群晶石で一緒に運んだら、どうなるのかなって……」
フェリシアはそこで言葉を止めた。
そして、少し恥ずかしそうに笑った。
「ごめんね。何だか、いろいろ気になっちゃって」
「いいんじゃない?」
俺は笑った。
「フェリシア、楽しそうだし」
「……うん!」
彼女が元気よく頷いた。
……そっか。
フェリシアは、いつの間にか魔石そのものに興味を持ち始めたんだな。
「ねえ、フェリシア」
「何?」
「いつか、自分で魔石の研究をしてみたら?」
「……えっ?」
フェリシアが目を丸くした。
「け、研究!?」
「うん! 何だか向いてる気がするよ!」
「そ、そうかな……?」
「うん!」
すると、ルナも笑顔になった。
「私もそう思う! フェリシア、さっきからずっと楽しそうだもん!」
フェリシアは照れくさそうに笑った。
「うん……。ちょっとやってみたいかも」
「いいね!」
「うん」
フェリシアは、もう一度群晶石を見つめた。
「ヴィクトルさんにも、聞いてみたいな」
「じゃあ、千個集まったら会いに行こうよ!」
「うん!」
「そのためにも、明日も頑張らなくちゃね!」
ルナが元気よく言った。
「あはは! そうだね!」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
……よし。
千個までは、まだ六百四十三個もある。
でも、俺たちならきっと何とかなるだろう。
「じゃあ、明日もいっぱい採ろう!」
「うん!」
「頑張ろうね!」
「ワフ!」
「キュ!」
こうして俺たちは、翌日もミナリア西ダンジョンへ向かうことにした。
それにしても。
千個もの群晶石を集めて、ヴィクトルさんはいったい何をするつもりなんだろう?
気になるな。
でも、今は群晶石を集めることが先だ。
ヴィクトルさんに会ったときに、聞いてみよう。
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