第217話 四人への贈り物
王都北ダンジョン、第三十一階層。
俺たちは三十階層主の地裂ベヒモスを倒したあと、そのまま探索を続けていた。
「アレン、前に四体いるよ!」
ルナの声に合わせて《魔力感知》を使う。
確かに、曲がり角の向こうから四つの反応が近づいていた。
「よし、俺が倒すね!」
「うん! 後ろは任せて!」
現れたのは、黒い甲殻に覆われた大型の魔物だった。
鋭い鎌のような前脚を振り上げ、こちらへ迫ってくる。
「そこっ!」
ザンッ!
一体目を斬り伏せ、そのまま二体目の懐へ飛び込む。
ザシュッ!
左右から挟み込もうとした残りの二体には、フェリシアのオービットが魔弾を放った。
ドンッ! ドンッ!
魔物たちが体勢を崩す。
「ありがとう!」
ザンッ! ザシュッ!
【黒鎌マンティス四体を討伐しました】
【16,000P獲得】
「おおっ! 一気に一万六千P!」
「いい感じだね!」
フェリシアが笑う。
よし。この調子なら、目標にも届きそうだ!
◇
第三十二階層から先も、俺たちは順調に進んだ。
天井から飛び出す岩喰いワーム。
通路を塞ぐほど大きな鉄殻ガニ。
岩陰から群れで襲いかかってくる魔物たち。
どれもこれまでの階層より強い。
でも、今の俺たちには頼もしい仲間がいる。
「アレン、右から来るよ!」
「了解!」
ルナの《風読み》が、敵の動きを先に教えてくれる。
「そっちは任せて!」
フェリシアの八つのオービットが、俺の死角へ回ろうとする魔物を牽制する。
テリーは《シャドウステップ》で背後を警戒し、ステフは高い場所を見渡していた。
「ワフ!」
「キュッ!」
みんなが危険を見つけ、俺が魔物を倒す。
無駄のない連携だった。
◇
第三十六階層からは、通路の幅が広くなり、床には黒い結晶が目立つようになった。
硬い甲殻を持つ魔物が増えたけれど、剣を通す隙間は必ずある。
「はあっ!」
ザンッ!
巨大な岩鎧ムカデが倒れる。
【岩鎧ムカデを討伐しました】
【4,800P獲得】
「アレン、次は奥に二体!」
「任せて!」
ザシュッ! ザンッ!
第二十九階層までとは違い、魔物の数も増えていた。
それでも、俺たちの勢いは止まらない。
第三十九階層を抜けたとき、三十一階層からの討伐数は三十五体になっていた。
「次は階層主だよね!」
「うん。頑張ろう!」
俺たちは、目の前にそびえる大きな石の扉へ近づいた。
◇
第四十階層。
扉の向こうには、黒い結晶が突き出した巨大な地下空間があった。
床は平らではなく、所々に深い亀裂が走っている。
そして、中央にいたのは――。
「……サソリ?」
大きなハサミを持つ、巨大な黒いサソリだった。
甲殻は黒い水晶のように光り、頭上には長い尾が持ち上がっている。
俺は《鑑定》を使った。
【黒晶スコーピオン】
【王都北ダンジョン・第四十階層主】
「みんな、気をつけて! 大きなハサミと尻尾で攻撃してくる!」
その瞬間、黒晶スコーピオンが床を蹴った。
ガガガッ!
八本の脚が岩を削り、巨体が一気に距離を詰めてくる。
「速い!」
「アレン、右へ!」
ルナの声で身をかわす。
鋭いハサミが目の前の岩を砕いた。
バキンッ!
さらに、頭上から毒針が突き下ろされる。
「危ない!」
フェリシアのオービットが、尾の付け根へ魔弾を集中させた。
ドドンッ!
尾の軌道がわずかにそれ、毒針が地面へ突き刺さった。
「助かった!」
だが、黒晶スコーピオンの甲殻は硬そうだ。
真正面から斬るより、関節の隙間を狙った方がいい。
「ルナ、次の動きは?」
「左のハサミが来る! そのあと、尻尾!」
「わかった!」
テリーが影から飛び出し、サソリの注意を引く。
「ワフッ!」
ステフも空中から鳴いて、魔物の視線を動かした。
「キュッ!」
その隙に、フェリシアが八つのオービットを左右へ展開する。
「アレン、道を作るよ!」
魔弾が足元を打ち、巨大なハサミを一瞬だけ止めた。
「ありがとう!」
俺は地面を蹴った。
魔物の動きははっきりと見える。
狙うのは、甲殻の下に隠れた腹部。
「はああっ!」
竜爪剣を一気に振り抜いた。
ザンッ!
黒い巨体の動きが止まる。
「……ギ……!」
次の瞬間、巨大なサソリは横へ崩れ落ちた。
ドォン!
【黒晶スコーピオンを討伐しました】
【42,000P獲得】
「やった!」
「すごい! また一撃だったね!」
俺は倒れた階層主を《収納》に入れた。
そして、すぐに《会員》を開く。
【保有:422,020P】
【累計獲得P:1,479,230P】
「……四十二万P!」
「目標達成だね!」
ルナが両手を上げた。
「これで四人に渡せるんだね!」
「うん!」
俺は、みんなを見回した。
ここまで手伝ってくれたからこそ、届いた数字だ。
「ありがとう! みんなのおかげだよ!」
◇
第四十階層の奥にあった転移石に触れ、俺たちは地上へ戻ってきた。
ダンジョンの外には、夕方の光が差していた。
「……ふう! 今日もたくさん倒したね!」
「うん。でも、アレン。今日はもう一つやることがあるんでしょ?」
ルナに言われて、俺は頷いた。
「そうだね。ちょっと静かな場所へ行こうか」
俺たちは、ダンジョンから少し離れた木陰へ移動した。
「みんな。《譲渡》を使ってみたいんだ」
俺は《会員》の表示を開いた。
【《譲渡》 対象者一名につき100,000P】
【《共有》中の能力・付与済みスキルをすべて対象者へ譲渡します】
【譲渡後、対象者は能力・スキルを独立して使用できます】
【対象者への《共有》が解除され、会員本人の負担分は返却されます】
「……十万Pって、一人につきだったんだね」
フェリシアが驚いた。
「うん。四人だから、全部で四十万P。でも、今なら足りるよ!」
「本当にいいの? 四十二万Pも貯めたのに……」
「もちろん!」
俺は笑った。
「みんなが自分の力で冒険できるようになるなら、すごく嬉しいから!」
まず、フェリシアへ手を向ける。
「フェリシア、いい?」
「……うん!」
【対象:フェリシア】
【100,000Pを消費しました】
【《共有》能力・付与済みスキルの譲渡が完了しました】
フェリシアが、自分の手を見つめた。
八つのオービットが、ふわりと背後に現れる。
俺はすでに彼女への《共有》を終えている。それなのに、オービットは動いていた。
……本当に、フェリシア自身の力になったんだ。
次にルナ。
「ルナも、いい?」
「もちろん!」
【対象:ルナ】
【100,000Pを消費しました】
【《共有》能力・付与済みスキルの譲渡が完了しました】
「……わあ。ちゃんと使える!」
ルナが弓を握り、目を輝かせた。
そして、テリーとステフにも一体ずつ《譲渡》する。
【対象:テリー】
【100,000Pを消費しました】
【《共有》能力・付与済みスキルの譲渡が完了しました】
【対象:ステフ】
【100,000Pを消費しました】
【《共有》能力・付与済みスキルの譲渡が完了しました】
「ワフ!」
「キュ!」
二匹とも、何かが変わったと感じたのか、嬉しそうに鳴いた。
すると、俺の目の前に新しい表示が現れた。
【共有対象者:0名】
【会員本人負担率:4% → 0%】
体が、ふっと軽くなる。
今までみんなに力を分けていた分が、戻ってきた!
「アレン、どうしたの?」
「俺の能力も戻ったみたい!」
「ええっ!? じゃあ、もっと強くなったってこと?」
「うん! そういうこと!」
俺は、最後にポイントを確認した。
【保有:22,020P】
【累計獲得P:1,479,230P】
四十万Pも使ったけど、後悔はない。
むしろ、こんなに嬉しい買い物は初めてかもしれない。
「ねえ、アレン」
ルナが笑った。
「これで、アレンと離れた場所にいても、自分の力で戦えるんだよね?」
「うん!」
「でも、私はまだアレンと一緒に冒険したいな! 行ってみたい場所、いっぱいあるもん!」
「俺もだよ!」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーとステフも元気よく鳴いた。
フェリシアは、何も言わなかった。
ただ、自分の手のひらを見つめてから、俺たちへ小さく微笑んだ。
……うん。
俺たちは、これからも一緒に冒険できる。
そして、いつか別々の道を選ぶことがあっても、みんなには自分の力がある。
それが、今は何より嬉しかった。
【保有:22,020P】
【累計獲得P:1,479,230P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
賛否両論あると思いますが、アレンにはアレンなりの考えがあるのだと思います。




