第215話 ダイヤモンドの指輪
翌朝。
俺たちは朝食を食べようと、王都の市場へやって来た。
「わあ! 今日も賑やかだね!」
フェリシアが、楽しそうに周囲を見回した。
「うん! あっ、あのお店、おいしそう!」
ルナが指差したのは、お米に肉を乗っけた料理を売っている屋台だった。
香辛料と肉の香ばしい匂いが漂ってくる。
「じゃあ、あそこで食べようか!」
「賛成!」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーとステフも嬉しそうだ。
俺たちは人数分屋台で買い、近くのベンチで朝食をとることにした。
◇
「さて、そろそろギルドへ行こうか」
「……あっ!」
突然、ルナが立ち止まった。
「どうしたの?」
「ねえ、あのお店、見てもいい?」
ルナが指差したのは、小さな宝飾店だった。
店先の飾り棚には、指輪や首飾りが並んでいる。
その中でも、ひときわ美しく輝いている指輪があった。
「……わあ!」
ルナが目を輝かせた。
「すっごくきれい!」
俺たちも近づいてみる。
銀色の台座に、透明な宝石がはめ込まれていた。
俺達が宝石をのぞいていると、店の奥から男性が出てきた。
「おお、お目が高い! そちらはアンカルジア王国産のダイヤモンドでございます!」
「へえ!」
「最近、貴族の方々の間で大変人気がありましてね」
「そうなんですか?」
「ええ。特に、婚約の際に男性から女性へダイヤモンドの指輪を贈ることが流行しているのです」
「……婚約?」
ルナが、もう一度指輪を見つめた。
「はい。永遠の愛を誓う贈り物として、選ばれる方が増えているんですよ」
「へえ……。素敵だね」
フェリシアも、興味深そうに指輪を眺めている。
「ダイヤモンドって、こんなにきれいなんだね」
「そうだね!」
俺も頷いた。
「……いいなあ」
ルナが、小さくつぶやいた。
「ルナも欲しいの?」
「……えっ!?」
ルナが、慌てて俺を見た。
「そ、そういうわけじゃないよ! ただ、きれいだなって!」
「そっか!」
俺が笑うと、フェリシアも指輪を見つめながら言った。
「でも、婚約指輪かあ……」
「そういえば、二人もいつか結婚したりするのかな?」
「「えっ!?」」
二人が同時にこちらを向いた。
……あれ?
何か変なことを言ったかな?
「い、いきなり何を言うの、アレン!」
「そ、そうだよ!」
「ご、ごめん! 何となく思っただけだよ!」
二人は顔を見合わせ、それから小さく笑った。
……。
結婚かあ。
今は三人で冒険するのが楽しいけど、いつかはそれぞれの人生を歩む日が来るのかもしれない。
そう考えると、少しだけ寂しい気もするな。
「……きれいだったね!」
ルナが、もう一度指輪を見た。
「うん。でも、そろそろギルドに行かなくちゃ!」
フェリシアが言った。
「あっ、そうだった!」
俺たちは店主にお礼を言い、宝飾店をあとにした。
◇
冒険者ギルドに到着すると、昨日の受付の女性が笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます!」
「おはようございます! 昨日の素材の査定は終わりましたか?」
「はい! ちょうどご案内できるところです!」
よかった!
女性は帳簿を開いた。
「お預かりした魔物四十八体ですが、どれも素材の状態が非常によかったそうです」
「本当ですか!?」
「特に鋼角ミノタウロスの角は、傷がほとんどありませんでした。解体担当者も驚いていましたよ」
「よかった!」
「それでは、買取金額をご案内いたします」
女性が、書類をこちらへ向けた。
「今回の買取総額は、四百八十万ジェニーです!」
「……四百八十万か」
「思ったより高かったね」
フェリシアも頷く。
ルナも嬉しそうに笑った。
「三名様で均等に分配されますか?」
「はい! 三等分でお願いします!」
「かしこまりました。お一人百六十万ジェニーですね」
女性は、用意していた現金を三人分に分けてくれた。
「ありがとうございます!」
俺たちは、それぞれの取り分を受け取った。
「アレン、私の分も《収納》に入れてもらっていい?」
「もちろん!」
俺はルナの分の現金も、《収納》にしまった。
◇
「さて、次はどうしようか?」
俺たちは、依頼掲示板の前に移動した。
「せっかく王都に来たんだし、ほかの依頼も見てみたいな!」
「そうだね!」
討伐依頼。
護衛依頼。
素材採集。
さまざまな依頼書が並んでいる。
その中で、一枚の依頼書が目に留まった。
「……あれ?」
「どうしたの、アレン?」
「これ、ダイヤモンドの輸送だって!」
「ダイヤモンド!?」
ルナが、すぐに近づいてきた。
依頼書には、こう書かれていた。
【ダイヤモンド輸送隊の護衛】
【依頼条件:Bランク以上】
【輸送区間:アンカルジア王国からアルスレイン王国】
【依頼内容:商隊の護衛】
「さっき見た宝石だね!」
「うん! 何だか面白そうじゃない?」
俺たちは、受付で詳しい話を聞くことにした。
「こちらの依頼ですか?」
受付の女性が、依頼書を確認した。
「はい。アンカルジア王国で採掘されたダイヤモンドを、西のアルスレイン王国まで運ぶ隊商の護衛ですね」
「どうしてBランク以上なんですか?」
「それは、積荷が非常に高価だからです」
女性は、少し真剣な表情になった。
「ダイヤモンドは、現在確認されている産地がアンカルジア王国の山に限られているため、希少価値が高い宝石なんです」
「へえ!」
「しかも、最近は貴族の間で婚約指輪として人気が高まっています。高値で取引されるので、輸送中に盗賊から狙われる危険もあるんですよ」
「……盗賊?」
ルナが、俺を見た。
「アレン。これって、盗賊と戦うことになるかもしれないんだよね?」
「うん。そうみたいだね」
……。
魔物との戦いなら、何の問題もない。
でも、人間が相手となれば話は別だ。
できれば、誰かの命を奪うような戦いは避けたい。
「……私、別の依頼でもいいと思うな」
ルナが、静かに言った。
「盗賊が襲ってきたら、きっと戦わなきゃいけないでしょ? アレンは、そういうの好きじゃないと思うから」
……。
ルナは、俺のことを考えてくれているんだ。
「ありがとう、ルナ」
「……うん!」
ルナが、少し嬉しそうに笑った。
「それに、私も……」
今度は、フェリシアが口を開いた。
「どうしたの?」
「アンカルジアからセルヴァンを通る時って、ルーフェン帝国の国境に近いところを通るんですよね?」
「はい。区間によっては、帝国の国境に比較的近い場所を通ることになります」
受付の女性が答えた。
「……そっか」
フェリシアは、少し表情を曇らせた。
「私、あまりルーフェン帝国の近くには行きたくないかな……」
……。
フェリシアには、そう思うだけの事情がある。
無理をさせる必要なんてない。
「わかった! じゃあ、この依頼はやめておこう!」
「……いいの?」
「もちろん! ほかにも依頼はいっぱいあるしね!」
俺が笑うと、フェリシアもほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう、アレン」
「ううん!」
俺は依頼書を元の場所へ戻した。
◇
「それじゃあ、次は何にしようか?」
依頼掲示板を眺めながら考える。
すると、ルナが口を開いた。
「ねえ、アレン。昨日のダンジョンはどうかな?」
「王都北ダンジョン?」
「うん! 昨日は二十階層までだったでしょ?」
「あっ、そうだね!」
そういえば、まだその先へは行っていない。
「受付の人に聞いてみようか!」
俺たちは、もう一度受付へ向かった。
「あの、王都北ダンジョンって、二十階層より先にも行けるんですよね?」
「はい。第二十階層の奥には、さらに下へ続く道が確認されています」
「やっぱり!」
「ただ、二十一階層以降は情報が限られております。昨日お渡しした地図も、二十階層までのものでしたから」
「なるほど!」
それなら、まだ探索する楽しみがありそうだ。
「フェリシア、ルナ。どうする?」
「私は賛成!」
「私も! もっと奥まで行ってみたい!」
「よし! 決まりだね!」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーとステフも元気よく鳴いた。
……うん。
やっぱり、みんなで冒険するのは楽しいな。
朝は婚約指輪を見て、少しだけ将来のことを考えた。
いつかは、それぞれの道を選ぶ日が来るのかもしれない。
でも、今はこうして一緒に冒険できる。
俺は、この時間を大切にしたいと思った。
「じゃあ、準備して出発しようか!」
「うん!」
「楽しみだね!」
俺たちは笑いながら、次の冒険の準備を始めた。
【保有:119,420P】
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