第214話 王都のギルドが大騒ぎ
王都北ダンジョンを出た俺たちは、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
「それにしても、今日はたくさん倒したね!」
フェリシアが嬉しそうに言った。
「うん。四十八体だからね」
「しかも、二十階層の階層主まで倒しちゃったし!」
ルナも笑った。
「依頼も達成できたし、素材もたくさん集まったし、いい一日だったね」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーとステフも元気よく鳴いた。
俺は《収納》の中身を思い浮かべた。
グレイウルフ。
アイアンボア。
ブラックオーガ。
アーマードオーガ。
そして、鋼角ミノタウロス。
ほかにも、さまざまな魔物が入っている。
これだけあれば、結構な金額になるんじゃないかな?
「アレン、何だか嬉しそうだね」
ルナが俺を見て笑った。
「そう?」
「うん。素材がいくらで売れるか考えてるんでしょ?」
「……まぁね。これまで何回もやってることだけど、楽しみなのは変わらないよ」
「ふふっ。アレンの考えることは分かりやすいね」
フェリシアも笑った。
そんな話をしているうちに、冒険者ギルドへ到着した。
◇
「お帰りなさいませ!」
受付へ向かうと、朝に依頼を受け付けてくれた女性が笑顔で迎えてくれた。
「ただいま戻りました!」
「王都北ダンジョンはいかがでしたか?」
「順調でした! 二十階層まで行けましたよ!」
女性の表情が変わる。
「え? もう二十階層ですか?」
「はい。二十階層までです」
「……はい?」
「階層主も討伐できたので、依頼の報告をお願いします!」
「……階層主?」
女性が手元の依頼書を確認する。
「鋼角ミノタウロスを討伐されたんですか?」
「はい!」
「……え?」
「はい。素材も持ってきました!」
女性は俺たちを順番に見た。
そして、思わずといった様子で呟いた。
「……Sクラスって、そんなに凄いんですか?」
「えっ?」
「いえ、もちろんSクラスの冒険者が非常に優秀なことは存じております。でも、朝に依頼を受けられて、もう二十階層の階層主を討伐されるなんて……」
「地図もありましたし、フェリシアとルナも一緒でしたから!」
「……そういう問題なのでしょうか」
女性が困ったように笑った。
すると、隣の受付にいた男性職員が声をかけてきた。
「何かありましたか?」
「あの、こちらのアレン様たちが、王都北ダンジョンの第二十階層主を討伐されたそうで……」
「おお、さすがSクラスですね」
「今日の朝、依頼を受けられたばかりなんです」
「……今日の朝?」
男性職員の表情が変わった。
「……それは、さすがに早すぎませんか?」
……そうなのかな?
今回は二十階層だから、そこまで難しくなかったんだけど。
「あの、討伐した魔物を確認していただけますか?」
俺が尋ねると、女性は我に返った。
「あっ、そうですね! 失礼いたしました」
女性は書類をまとめ、受付から出てきた。
「それでは、解体場へご案内いたします」
「ありがとうございます!」
俺たちは女性のあとについて、ギルドの奥へ向かった。
◇
解体場には、いくつもの大きな作業台が並んでいた。
奥には荷車が行き来できるほど広い通路があり、その先には素材の保管倉庫が見える。
何人もの職員が、魔物の解体や素材の仕分けを行っていた。
「お疲れ様です。王都北ダンジョンの討伐素材をお持ちいただきました」
受付の女性が声をかける。
大柄な男性職員が顔を上げた。
「おう。どのくらいあるんだ?」
「ええと……」
女性が俺を見る。
「アレン様、何体ほどお持ちでしょうか?」
「四十八体です!」
「……四十八?」
男性職員の手が止まった。
「今、四十八体って言ったか?」
「はい!」
「全部、今日倒した魔物か?」
「そうです!」
男性は俺たちを順番に見た。
それから、解体場を振り返る。
「おい! 奥の保管場所を空けてくれ!」
近くにいた職員たちが振り向いた。
「どうした?」
「大量の魔物が持ち込まれた!」
「どのくらいだ?」
「四十八体だ!」
「四十八!?」
……あれ?
もう騒ぎになってるぞ。
「こちらへお願いします」
男性に案内され、俺たちは奥の広い保管場所へ移動した。
「ここなら置ける。種類ごとに並べてもらえるか?」
「分かりました!」
俺は職員の指示に従って、《収納》から魔物を取り出していった。
まずはグレイウルフやアイアンボア。
続いて、アーマードリザードやアイアンウルフ。
さらに、ブラックオーガやアーマードオーガ。
職員たちは魔物の種類と数を帳簿に記録しながら、次々と運び込まれる魔物を確認していく。
「……ずいぶん状態がいいな」
大柄な男性職員が、アーマードオーガの傷口を調べながら呟いた。
「鎧の隙間を正確に斬っているのか」
「はい。硬そうだったので、そこを狙いました」
「……それを簡単に言うか」
男性は苦笑した。
さらに魔物を取り出していく。
二十体。
三十体。
そして、四十体。
いつの間にか、解体場にいた職員のほとんどが、俺たちの持ち込んだ魔物の確認に追われていた。
「……本当に四十八体あるんだな」
男性職員が呟く。
「はい! あと一体です!」
「ようやく最後か」
「はい。階層主です!」
「……何?」
男性が顔を上げた。
「階層主って、二十階層のか?」
「はい! 鋼角ミノタウロスです!」
「……ちょっと待て!」
男性が慌てて周囲の職員へ声をかけた。
「おい! もっと広い場所を空けてくれ!」
何人もの職員が集まり、保管場所の中央を片づけ始めた。
「よし。ここなら大丈夫だ」
「ありがとうございます!」
俺は十分な空間があることを確認してから、《収納》を開いた。
「それじゃあ、出しますね!」
ドォン!
巨大な鋼角ミノタウロスの体が現れた。
「……おおっ!」
「本物だ!」
「こいつが二十階層の階層主か!」
職員たちから驚きの声が上がった。
巨大な牛の頭。
筋肉に覆われた体。
そして、鋼鉄のように輝く二本の角。
男性職員は慎重に近づき、その角を確認した。
「……間違いない。鋼角ミノタウロスだ」
「よかった!」
「しかも……角に傷がほとんどないぞ」
男性が驚いたように呟いた。
「こいつの角は非常に硬い。討伐するために角を折ったり、頭を狙ったりする冒険者も多いんだが……」
「そうなんですね」
「見たところ、胴体を一撃で斬られているな」
「はい!」
「……誰が倒したんだ?」
「俺です!」
男性は鋼角ミノタウロスを見た。
それから、俺を見た。
「……これを、一撃で?」
「はい!」
「…………」
男性はしばらく黙っていた。
そして、大きく息を吐いた。
「……Sクラスってのは、やっぱり桁が違うな」
周囲の職員たちも頷いている。
これなら買取価格も期待できそうだ!
◇
すべての魔物を取り出すと、男性職員が帳簿を閉じた。
「よし。四十八体、確かに預かった」
「ありがとうございます!」
「ただな……」
男性は保管場所を見回した。
すでに大量の魔物が並び、職員たちは種類ごとに仕分けを始めている。
「これだけの数となると、全部を解体して、素材の状態を調べるのにはかなり時間がかかる」
「そうですよね」
「すまないが、素材の査定と買取は明日にさせてもらえないか?」
「もちろんです!」
俺はすぐに答えた。
「急いでいませんし、よろしくお願いします!」
「そう言ってもらえると助かる」
男性が笑った。
「これだけ状態のいい魔物ばかりなら、相当な金額になると思うぞ」
「本当ですか!?」
「ああ。特に鋼角ミノタウロスの角は貴重だからな」
「楽しみです!」
俺が答えると、フェリシアとルナも笑った。
「よかったね、アレン!」
「明日が楽しみだね!」
「うん!」
受付の女性が書類を確認した。
「それでは、魔物四十八体を確かにお預かりいたします。素材の査定結果と買取代金は、明日ご案内しますね」
「はい!」
「なお、階層主の討伐と指定素材の納品は確認できましたので、依頼の達成手続きは本日行えます」
「よかった!」
「それでは、受付へ戻りましょう」
俺たちは職員たちにお礼を言って、解体場をあとにした。
◇
受付へ戻ると、女性は依頼書に印を押した。
「王都北ダンジョン、第二十階層主《鋼角ミノタウロス》討伐および素材回収依頼。達成を確認いたしました!」
「ありがとうございます!」
その瞬間。
目の前に、いつもの表示が現れた。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【保有:119,420P】
【累計獲得P:1,176,630P】
おおっ!
百P増えた!
「それでは、依頼達成報酬をお渡しいたします」
女性が続けた。
「今回の報酬は、百五十万ジェニーです」
「ありがとうございます!」
「三名様で分配されますか?」
「はい! 三等分でお願いします!」
「かしこまりました。お一人五十万ジェニーずつですね」
女性は報酬を三人分に分け、用意してくれた。
「はい、こちらです」
「ありがとうございます!」
俺たちはそれぞれの報酬を受け取った。
よし!
今日はPも稼げたし、依頼報酬ももらえた。
あとは明日の素材買取だな。
「それにしても……」
受付の女性が少し笑った。
「アレン様たちは、本当にすごいですね」
「そんなことないですよ!」
「いえ。朝に受注された依頼を、今日のうちに達成されるとは思っておりませんでした」
女性は記録を確認した。
「しかも、道中の魔物四十七体と階層主一体、合計四十八体の討伐ですから」
「今の俺たちには、ちょうどいいダンジョンだったみたいです!」
「……二十階層のダンジョンが、ちょうどいい……」
女性は苦笑した。
そのとき。
「……なあ、あんたたち」
後ろから声がした。
振り向くと、一人の男性冒険者が立っていた。
「あっ!」
俺は思わず声を上げた。
「この前の!」
「ああ。その節は世話になったな」
男性は、旧第三水門の地下水路で助けた冒険者の一人だった。
まだ少し体に包帯が巻かれているけど、元気そうだ。
「もう大丈夫なんですか?」
「ああ。おかげさまでな」
男性が笑った。
「今日はギルドに報告をしに来たんだが、すごい話が聞こえてきたからよ」
「すごい話?」
「二十階層主を一日で倒したって話だよ」
「ああ、はい!」
「……本当にやったのか」
男性が呆れたように笑った。
「まあ、あの地下水路での戦いを見たら、納得するしかないな」
近くにいた冒険者が男性へ尋ねた。
「知り合いなのか?」
「ああ。命の恩人だよ」
「命の恩人?」
「この前、旧第三水門で俺たちが行方不明になった事件があっただろ?」
「ああ。救出されたって聞いたぞ」
「助けてくれたのが、この三人だ」
「……この三人が?」
男性が頷いた。
「巨大蜘蛛の群れに襲われて、俺たちは動けなくなっていたんだ。それをあっという間に片づけてくれた」
「へえ……!」
周囲の冒険者たちが俺たちを見る。
「しかも、誰一人見捨てなかったんだ」
男性が続けた。
「おかげで、俺たちは全員帰ってこられた」
「……そうだったんですね」
受付の女性が、少し驚いたように言った。
「いえ、俺一人で助けたわけじゃありませんから!」
俺は慌てて答えた。
「フェリシアとルナもいましたし、テリーとステフも頑張ってくれました!」
「ワフ!」
「キュ!」
二匹が元気よく鳴いた。
男性は笑った。
「そうだったな。みんなに礼を言わせてくれ」
「いえいえ!」
フェリシアが笑った。
「無事に戻れてよかったです!」
ルナも頷いた。
「皆さんも、怪我をしっかり治してくださいね」
「ああ。ありがとう」
男性はもう一度頭を下げ、仲間のところへ戻っていった。
◇
俺たちが帰ろうとすると、近くで冒険者たちが話している声が聞こえてきた。
「……あの三人、ミナリア西ダンジョンの五十階層まで踏破したっていう冒険者じゃないか?」
「そうなのか?」
「ああ。昨日、ギルドで聞いたんだ」
「Sクラスの剣士に、Aクラスの魔術師と弓使い……」
「それに、従魔が二匹か」
「……もしかして、《掃除屋》って呼ばれてる連中か?」
……あれ?
俺たちは思わず顔を見合わせた。
「また言われてるね」
フェリシアが小声で尋ねた。
「うん」
俺も小さく答えた。
「結構、広まってたんだね」
ルナが笑った。
「……でも、掃除屋って、何だか変わった名前だよね」
フェリシアが苦笑した。
「魔物をどんどん倒すから、だったっけ?」
「そうみたいだね」
昨日はそれぞれの異名を聞いたけど、今日は《掃除屋》かあ。
いつの間にか、いろいろな場所で俺たちのことを知っている人が増えているんだな。
……不思議な感じだ。
「でも、私は《掃除屋》って名前も結構好きだよ」
ルナが笑った。
「えっ、そうなの?」
「うん。三人まとめて呼ばれる名前だからね」
「……あっ、そっか!」
フェリシアも笑顔になった。
「それなら、私も悪くないと思う!」
「うん!」
俺も頷いた。
《戦場の死神》なんて呼ばれるより、ずっといいな。
俺たちは三人で冒険してきた。
だから、三人一緒の名前があるのは、少し嬉しい。
もちろん、テリーとステフも一緒だけどね。
「ワフ!」
「キュ!」
二匹も元気に鳴いた。
「ふふっ。じゃあ、五人の《掃除屋》だね!」
フェリシアが笑った。
「そうだね!」
俺たちも笑った。
◇
ギルドを出ると、外は夕方になっていた。
石畳の通りには、仕事を終えた人々が行き交っている。
俺は今日、五百体目の魔物を倒したときに現れた新しいスキルを思い出した。
《譲渡》。
《共有》状態の能力やスキルを、相手に譲ることができるというものだ。
もし、これが思ったとおりの能力なら……。
「……アレン?」
フェリシアが俺を見た。
「どうしたの?」
「あっ、ちょっと考え事をしてたんだ」
「何を?」
「今日解放された新しいスキルのことだよ」
「ああ! 《譲渡》《利息》《変化》だっけ?」
「うん」
ルナも振り向いた。
「どれか買うことにしたの?」
「まだ決めてないけど、気になってるんだ」
「そうなんだ。どれが一番、気になってるの?」
「うーん。《譲渡》かな。皆、今は俺の《共有》で使えている力もあるでしょ?」
「うん」
「もし、その力を本当に自分のものにできるなら、すごいことだと思うんだ」
フェリシアが少し考えた。
「……確かにそうだね」
「でも、アレンの能力が減っちゃったりしないのかな?」
ルナが尋ねた。
「それが、まだ分からないんだよね」
俺は《譲渡》の説明を思い出した。
《共有》状態の能力・スキルを譲渡できる。
書かれていたのは、それだけだった。
譲渡したら、俺の能力はどうなるんだろう?
相手は、その力をずっと使えるようになるのかな?
それに、一度に何人まで譲渡できるんだろう?
……うーん。
分からないことが多いな。
「だったら、買う前にちゃんと確認した方がいいんじゃない?」
フェリシアが言った。
「そうだね」
ルナも頷いた。
「十万Pもするんだし、慌てなくていいと思うよ」
「うん。俺もそう思う!」
俺たちは宿へ向かって歩き始めた。
……《譲渡》か。
これまで俺は、《会員》でいろいろな能力を買ってきた。
強くなりたくて。
もっと冒険したくて。
そして、仲間たちを守れるようになりたくて。
でも、今度のスキルは少し違う。
俺が強くなるためではなく、みんなが自分の力で何かをできるようになるスキルなのかもしれない。
今は、こうして一緒に旅をするのが楽しい。
これからも、まだまだいろいろな場所へ行ってみたい。
でも、みんなには、それぞれのやりたいこともあるだろう。
もし、そのときに俺の《共有》がなくても困らないようにできるなら……。
……うん。
これは、ちゃんと調べてみたいな。
「アレン! 何か食べて帰ろうよ!」
フェリシアが振り返った。
「いいね!」
「今日はたくさん動いたから、お腹が空いた」
ルナも笑った。
「ワフ!」
「キュ!」
二匹も嬉しそうだ。
「じゃあ、昨日のお米が食べられるお店に行ってみる?」
俺が尋ねると、フェリシアが目を輝かせた。
「行きたい!」
「私も賛成!」
「よし、決まりだね!」
俺たちは笑いながら、夕暮れの王都を歩いていった。
【保有:119,420P】
【累計獲得P:1,176,630P】
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