第213話 五百体目
翌朝。
俺たちは、王都の冒険者ギルド本部へやって来た。
「今日はダンジョンの情報を調べるんだよね?」
フェリシアが尋ねた。
「うん。王都の近くにも大きなダンジョンがあるって聞いたからね」
「楽しみだなぁ!」
ルナが嬉しそうに笑った。
俺たちは依頼掲示板へ向かった。
そこには、さまざまな依頼書が貼られていた。
魔物討伐。
商隊の護衛。
危険区域の調査。
そして、ダンジョンに関する依頼もある。
「……あっ!」
俺は一枚の依頼書に目を留めた。
〖王都北ダンジョン〗
〖第二十階層主討伐および素材回収〗
〖推奨:Aクラス以上〗
「ねえ、これどうかな?」
俺が指差すと、フェリシアとルナが依頼書を覗き込んだ。
「二十階層の階層主?」
「うん。ちょうどよさそうじゃない?」
「そうだね。ミナリア西ダンジョンは五十階層まで行ったし」
ルナが頷いた。
「それに、素材回収の依頼もあるんだね」
フェリシアが言った。
「うん。せっかくだし、道中の魔物も回収しようか」
「またギルドの解体場が大変なことになりそうだね」
ルナが笑った。
「……それは、ちょっと心配だけど」
俺たちは依頼書を持って受付へ向かった。
◇
「王都北ダンジョンの第二十階層主討伐ですね?」
「はい!」
受付の女性が依頼書を確認した。
「こちらはAクラス以上を推奨している依頼になりますが……」
女性が俺たちの冒険者証を見る。
「あっ、アレン様でしたか!」
「はい」
「参加条件は問題ありません」
女性は少し笑った。
「ただ、王都北ダンジョンは、途中の通路がかなり入り組んでいます。第二十階層まで到達するだけでも時間がかかりますので、十分に準備してくださいね」
「分かりました」
「それから、二十階層の階層主は《鋼角ミノタウロス》です」
「鋼角ミノタウロス?」
「はい。鋼鉄のように硬い角と、非常に強い腕力を持つ魔物です」
なるほど。
なかなか強そうだな。
「討伐後は、角を素材として回収してください。損傷が少なければ、買取額も高くなります」
「分かりました!」
女性はダンジョンの地図を取り出した。
「こちらが、現在確認されている第一階層から第二十階層までの経路です」
「ありがとうございます!」
俺は地図を受け取った。
これなら、道に迷う心配も少なそうだ。
「それでは、気をつけて行ってらっしゃいませ」
「はい!」
俺たちはギルドを出発した。
◇
王都北ダンジョンは、王都の北門から少し離れた丘陵地帯にあった。
入口には石造りの管理施設が設けられ、武装した冒険者たちが出入りしている。
「ここが王都北ダンジョンかあ」
俺は入口を見上げた。
「結構大きいね!」
フェリシアが言った。
「うん。じゃあ、行こうか」
「もちろん!」
「ワフ!」
「キュ!」
俺たちはダンジョンへ入った。
◇
第一階層。
洞窟のような通路が奥へ続いている。
壁には淡く光る鉱石があり、足元を照らしていた。
「まずは魔物を探そうか」
「うん!」
俺は《魔力感知》を使った。
すると、前方から三つの反応があった。
「……あっ。三体いるね」
「どんな魔物かな?」
ルナが尋ねた。
しばらく進むと、灰色の狼型の魔物が現れた。
「グルルル……!」
三体のグレイウルフだ。
「俺が倒してもいい?」
「うん。どうぞ!」
フェリシアが笑った。
「アレンが戦いたそうな顔をしてるしね」
ルナも笑っている。
「……そうかな?」
「うん!」
まあ、久しぶりに剣を思いきり使いたいのは確かだ。
俺は竜爪剣を抜いた。
三体のグレイウルフが、一斉に飛びかかってくる。
しかし。
「……遅い!」
俺は地面を蹴った。
シュンッ!
一体目の横を通り過ぎる。
ザンッ!
そのまま首を斬った。
すぐに方向を変える。
二体目が振り向くより早く、剣を横へ振った。
ザシュッ!
そして、三体目。
牙をむき出しにして飛びかかってくる。
俺は少し身を沈め、その下をくぐるようにして剣を振り上げた。
ザンッ!
ドサッ! ドサッ! ドサッ!
三体が続けて倒れた。
【グレイウルフ三体を討伐しました】
【45Pを獲得しました】
「相変わらず速いね!」
「ありがとう!」
フェリシアも笑った。
「《剣神》を手に入れてから、ますます動きがよくなったよね」
「うん。自分でもそう思うよ」
剣を振るとき、次にどう動けばいいのかが自然に分かるんだ。
以前より、無駄な動きもずいぶん減った気がする。
俺たちは倒した魔物を《収納》へ入れ、さらに奥へ進んだ。
◇
第二階層から第五階層までも、順調だった。
アーマードリザード。
シャドウバット。
アイアンボア。
さまざまな魔物が現れたけど、今の俺たちにはそれほど脅威ではなかった。
「グオオッ!」
大きな牙を持つアイアンボアが突進してくる。
「よっと!」
俺は横へかわし、そのまま剣を振った。
ザンッ!
魔物が倒れる。
【アイアンボアを討伐しました】
【150Pを獲得しました】
「……また一撃だね」
フェリシアが笑った。
「うん!」
「じゃあ、次もお願いね!」
「任せて!」
俺たちは次々と魔物を倒していった。
テリーとステフも周囲を警戒し、後ろから魔物が来ればすぐに教えてくれる。
フェリシアとルナは、魔物が複数の方向から現れたときに援護してくれた。
おかげで、俺は安心して剣を振るうことができた。
やがて、第五階層の奥にある階段へ到着した。
「……もう五階層まで来たんだね」
ルナが言った。
「うん。地図があるから進みやすいね」
俺たちは第六階層へ進んだ。
◇
第六階層からは、少しずつ魔物が強くなってきた。
アイアンウルフ。
ブラックオーガ。
そして、硬い甲殻を持つ大型の魔物も現れるようになった。
しかし。
「グオオオッ!」
巨大な棍棒を振り上げたブラックオーガ。
俺はその懐へ一気に踏み込んだ。
ザンッ!
振り下ろされるはずだった棍棒が止まる。
ブラックオーガの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちた。
【ブラックオーガを討伐しました】
【800Pを獲得しました】
「……アレン、今のすごいね!」
ルナが言った。
「そう?」
「うん。相手が棍棒を振る前に倒してたよ」
「《剣神》のおかげかな」
「でも、その力を使いこなせるのもアレンの実力だよ」
フェリシアが笑った。
「ありがとう!」
俺たちは次の階層へ進んだ。
◇
第十階層へ到着した。
どうやら他の冒険者が倒したらしく何も出てこなかった。
第十一階層からは、通路の様子が変わった。
それまでの洞窟とは違い、石造りの遺跡のような空間が続いている。
壁には古い模様が刻まれ、ところどころに大きな石柱が並んでいた。
「……へえ。面白いね」
フェリシアが周囲を見回した。
「ダンジョンの中なのに、昔の建物みたい」
「誰かが作ったのかな?」
ルナが尋ねた。
「どうなんだろうね」
俺も壁を見た。
でも、今は探索が目的だ。
「じゃあ、先へ進もうか」
「うん!」
少し進むと、《魔力感知》に反応があった。
「……前に三体いるね」
通路の奥から、大きな斧を持つ魔物が現れた。
ブラックオーガより一回り大きい。
硬そうな鎧まで身につけている。
「……アーマードオーガかな?」
ルナが言った。
「たぶんそうだね」
俺は竜爪剣を構えた。
三体のアーマードオーガが、一斉に向かってくる。
そのうち一体が斧を振り下ろした。
しかし。
キンッ!
俺は刃を受け流し、そのまま横へ回り込んだ。
ザンッ!
一体目が倒れる。
すぐに二体目。
俺は足を踏み込み、鎧の隙間へ剣を振った。
ザシュッ!
そして三体目。
相手が斧を横へ振った瞬間、俺はその懐へ入り込んだ。
ザンッ!
ドサドサドサッ!
三体が続けて倒れた。
「……すごい!」
フェリシアが声を上げた。
「鎧の隙間だけを狙ったんだね!」
「アレン、剣の使い方が本当に上手くなったよね」
「ありがとう!」
俺は倒した三体を《収納》へ入れた。
◇
第十二階層。
第十三階層。
第十四階層。
そして、第十五階層。
俺たちは次々と魔物を倒しながら進んでいった。
魔物によっては硬い甲殻を持っていたり、素早く動いたりする。
でも、《魔力感知》で位置を把握し、《剣神》の力で動きを見極めれば、ほとんど苦戦しなかった。
「……アレン、次は左から!」
「分かった!」
ルナの声に合わせて振り向く。
ザンッ!
魔物が倒れる。
「右にも一体いるよ!」
フェリシアが声をかけた。
「ありがとう!」
俺はすぐに方向を変えた。
シュンッ!
剣が閃く。
ザシュッ!
また一体。
……うん。
気持ちよく剣を振れるな。
昔は一体倒すだけでも必死だった魔物たちを、今はこれほど簡単に倒せる。
本当に強くなったんだな。
第十六階層からは、さらに魔物が強くなった。
巨大な剣を持つオーガ。
硬い鱗に覆われた大型のトカゲ。
そして、長い角を持つ牛型の魔物も現れた。
しかし、今の俺には十分対応できる相手だった。
「グオオオッ!」
牛型の魔物が突進してくる。
俺はその横へ跳んだ。
そして、竜爪剣を振り下ろす。
ザンッ!
巨大な角が一本、地面へ落ちた。
魔物が体勢を崩す。
その隙に、もう一撃。
ザシュッ!
◇
やがて、第十九階層の奥に到着した。
「……ふう」
俺は小さく息を吐いた。
「さすがに、ちょっと疲れたかな」
「そりゃそうだよ!」
ルナが笑った。
「ここまで、ほとんどアレン一人で倒してるんだから」
「そうだね」
フェリシアも頷いた。
「でも、すごい数になったんじゃない?」
「うん。かなり倒したと思うよ」
俺たちは少し休憩し、水を飲んだ。
テリーとステフにも水を飲ませる。
「ワフ!」
「キュ!」
二匹とも元気いっぱいだ。
「じゃあ、最後の階層へ行こうか」
「うん!」
「行こう!」
俺たちは第二十階層へ続く階段を下りた。
◇
第二十階層。
そこには、巨大な扉があった。
分厚い石で作られていて、表面には牛の頭のような模様が刻まれている。
「……ここが階層主の部屋かな?」
フェリシアが尋ねた。
「そうみたいだね」
俺は扉へ手をかけた。
ゴゴゴゴ……。
重い音を立てながら、扉が開いていく。
その先には、広い石造りの部屋があった。
そして、中央には巨大な魔物が立っていた。
「……うわあ」
俺は思わず声を漏らした。
牛の頭。
人間のような大きな体。
両手には、巨大な戦斧を握っている。
頭には、鋼鉄のように輝く二本の角が生えていた。
「……あれが鋼角ミノタウロスか」
ルナが呟いた。
「大きいね!」
フェリシアも驚いている。
魔物は俺たちに気づくと、大きな咆哮を上げた。
「ブオオオオオッ!」
ビリビリと空気が震える。
……なるほど。
かなり力が強そうだな。
「俺がやってもいい?」
俺が尋ねると、フェリシアが笑った。
「もちろん!」
「アレンなら大丈夫だと思うよ」
ルナも頷いた。
「ありがとう!」
俺は竜爪剣を構えた。
鋼角ミノタウロスが巨大な戦斧を振り上げる。
その瞬間。
俺は地面を蹴った。
シュンッ!
一気に間合いを詰める。
魔物の目が、こちらを捉えた。
しかし、もう遅い。
《剣神》。
俺は竜爪剣へ魔力を流し、横薙ぎに振るった。
ザンッ!
鋼角ミノタウロスの体を、剣が一気に斬り抜けた。
「……ブ……?」
魔物の動きが止まる。
握っていた戦斧が、床へ落ちた。
ガランッ!
そして。
ドォォン!
巨大な体が、その場に崩れ落ちた。
「……やった!」
フェリシアが声を上げた。
「一撃だったね!」
ルナも驚いたように笑った。
「本当に、あっという間だったね!」
「うん!」
俺は竜爪剣を鞘へ戻した。
そのときだった。
【鋼角ミノタウロスを討伐しました】
【7,000P獲得】
おおっ!
七千Pももらえた!
今日の獲得Pは、これで六万六千Pだな。
そう思った瞬間。
ポーン!
聞き慣れない音が響いた。
「……えっ?」
俺の目の前に、新しい表示が現れた。
【累計魔物討伐数が500体に到達しました】
「……五百体?」
俺は思わず声を上げた。
「どうしたの、アレン?」
フェリシアが尋ねた。
「何か、見たことのない表示が出てきたんだ!」
「表示?」
「うん。魔物の討伐数が五百体になったって!」
「五百体!?」
ルナが驚いた。
「そんなに倒してたんだ!」
「俺も知らなかったよ!」
どうやら、《会員》は今までに倒した魔物の数も数えていたらしい。
しかも、その下に新しい文字が現れた。
【特別達成条件を満たしました】
【会員ランク:オリハルコン】
【累計魔物討伐数:500体】
【オリハルコン会員限定スキルが解放されました】
「……えっ!?」
限定スキル!?
俺は慌てて表示を確認した。
すると、今まで見たことのなかった三つのスキルが並んでいた。
【《譲渡》 100,000P】
【《共有》状態の能力・スキルを譲渡できる】
【《利息》 100,000P】
【保有Pが年間3%増加する】
【《変化》 100,000P】
【他の人物や種族の姿に変身できる。有効時間:1時間】
「……うわあ!」
思わず声が出た。
何だこれ!?
今までのスキルとは、ずいぶん違うぞ!
「アレン、何があったの?」
ルナが心配そうに尋ねてきた。
「あっ、ごめん! 新しいスキルが三つも出てきたんだ!」
「三つ!?」
「うん。しかも、オリハルコン会員限定なんだって!」
「へえ!」
フェリシアが目を輝かせた。
「どんなスキルなの?」
「ええとね……」
俺はまず、《譲渡》について説明した。
「《共有》している能力やスキルを、誰かに譲れるみたいなんだ」
「……譲れる?」
フェリシアが首を傾げた。
「それって、どういうこと?」
「まだ詳しくは分からないけど、今まで《共有》していた力を、相手のものにできるってことなのかな?」
「……そんなこともできるんだ」
ルナが驚いた。
「うん。すごいよね!」
もし本当にそうなら、かなり便利そうだ。
ただ、譲渡したあとに俺の能力がどうなるのかも気になるな。
購入する前に、もう少し確認しておきたい。
「それから、二つ目は《利息》だよ」
「利息?」
「うん。保有Pが一年間で三%増えるんだって」
「……何もしなくても?」
フェリシアが目を丸くした。
「たぶん、そういうことだと思う」
「へえ! 面白いね!」
ルナも興味深そうだ。
「Pをたくさん持っていれば、増える量も大きくなるんだね」
「うん!」
なるほど。
長い目で見たら、結構便利かもしれないな。
「それで、三つ目が《変化》」
「変化?」
「他の人や、別の種族の姿になれるみたい」
「……えっ!?」
フェリシアが驚いた。
「そんなこともできるの!?」
「うん。ただし、一時間だけらしいけどね」
「面白そう!」
ルナが笑った。
「じゃあ、アレンがドラゴンの姿になることもできるのかな?」
「……どうなんだろう?」
俺はステフを見た。
「キュ?」
ステフが不思議そうに首を傾げた。
「ふふっ。もしできたら、ステフも驚くだろうね」
フェリシアが笑った。
「そうだね!」
俺も笑った。
……それにしても、すごいスキルばかりだな。
俺はもう一度、《会員》を確認した。
【保有:119,320P】
【累計獲得P:1,176,530P】
おおっ!
十万Pを超えてる!
つまり、今なら新しいスキルを一つ買えるんだ。
「……どうしようかな」
「買うの?」
フェリシアが尋ねた。
「うーん。まだ迷ってる」
どれも面白そうだけど、十万Pはかなり大きい。
特に《譲渡》は、仕組みをちゃんと確かめてから使いたいな。
「じゃあ、今日は考えておいたら?」
ルナが言った。
「そうだね。慌てて買う必要もないし」
「うん!」
俺は《会員》の表示を閉じた。
◇
「さて、階層主も倒したし、素材を回収しようか」
「うん!」
俺たちは倒れた鋼角ミノタウロスへ近づいた。
改めて見ると、かなり大きいな。
二本の角も立派だ。
「これなら、いい素材になりそうだね」
フェリシアが言った。
「うん。体もあまり傷つけてないし」
「一撃だったもんね」
ルナが笑った。
俺は鋼角ミノタウロスへ手を伸ばした。
「《収納》!」
巨大な魔物の体が消えた。
よし。
これで依頼の討伐対象も回収できた。
「それにしても、今日はたくさん倒したね」
フェリシアが言った。
「うん。素材もかなりあるよ」
「何体くらい?」
「ええと……」
俺は今日の戦いを思い返した。
第一階層から第五階層までで十二体。
第六階層から第十階層までで十三体。
第十一階層から第十五階層までで十二体。
第十六階層から第十九階層までで十体。
そして、第二十階層の階層主が一体。
「……全部で四十八体だね!」
「四十八体!?」
フェリシアが驚いた。
「そんなに倒したの!?」
「うん!」
ルナが笑った。
「王都のギルドでも、解体場の人がびっくりしそうだね」
「……また怒られないかな?」
俺が言うと、二人とも笑った。
「大丈夫だよ! ちゃんと素材を持ち帰るのも依頼のうちなんだから!」
「そうだね!」
俺たちは部屋の奥にある転移石を確認した。
これで入口へ戻れそうだ。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーとステフも元気よく答えた。
俺たちは転移石に触れ、王都北ダンジョンの入口へ戻った。
……それにしても、累計五百体かあ。
気づけば、そんなに魔物を倒していたんだな。
そして、新しく解放された三つのスキル。
《譲渡》
《利息》
《変化》
どれも今までとは違った使い道がありそうだ。
特に、《譲渡》は気になるな。
もしかしたら、仲間たちに今まで以上の力を渡せるかもしれない。
【保有:119,320P】
【累計獲得P:1,176,530P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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