第21話 百万ジェニーの剣
翌朝。
俺とフェリシアは、壊れた鋼鉄剣を持って武器屋へ向かった。
以前、九万八千ジェニーで鋼鉄剣を買った店だ。
扉を開ける。
「いらっしゃ――おう、兄ちゃんか」
店主が俺を見て笑った。
「鋼鉄剣はどうだ? 前のよりは使いやすかっただろ」
「それなんですけど」
布に包んでいた剣を台の上に置いた。
布を開く。
「……は?」
店主の動きが止まった。
刃はあちこち欠け、刀身はわずかに曲がっている。
根元には細い亀裂まで入っていた。
「お前、何した?」
「アイアンゴーレムを倒しました」
「アイアンゴーレム?」
「十階の階層主です」
店主が俺を見る。
もう一度、剣を見る。
「昨日、討伐されたって話は聞いたが……お前だったのか」
「はい」
「そりゃ、こうもなるか」
店主は剣を持ち上げ、亀裂を確認した。
「完全に寿命だ。これはもう使うな。途中で折れなかったのが運がいいくらいだぞ」
「やっぱりですか」
店主が壁に並ぶ剣へ目を向けた。
「次なら強化鋼剣と言いたいところだが……」
【強化鋼剣 320,000ジェニー】
以前も見た剣だ。
店主は少し考えてから首を横に振った。
「いや、やめとけ」
「強化鋼剣でも駄目ですか?」
「十階の階層主を倒して鋼鉄剣をここまでにした奴に売っても、またすぐ壊されそうだからな」
「じゃあ、どれを?」
「うちで一番いいやつだ」
店主が店の奥にある一本の剣を取り出した。
【炎牙剣 1,280,000ジェニー】
「百二十八万……」
「うちで扱ってる剣じゃ、これが一番高い」
赤みを帯びた刀身。
鍔の中央には、小さな赤い魔石が埋め込まれている。
「炎牙剣だ。刀身そのものが強化鋼剣より頑丈で、魔石も組み込まれてる」
渡された剣を握る。
鋼鉄剣より少し重い。
だが、今の俺にはほとんど気にならない。
「魔力はあるか?」
「あります」
「なら使える。魔石が必要な分の魔力を吸い上げる仕組みだ。柄を握ったまま起動させてみろ」
言われた通りにする。
鍔の魔石が赤く光った。
ボッ。
「おお……」
刀身を炎が包んだ。
「炎を出している間は魔力を消費する。普段は普通の剣として使って、硬い魔物を斬る時だけ使えばいい」
「分かりました」
起動を止める。
炎が消えた。
フェリシアが炎牙剣を見ている。
「アレンさん、前に来た時もこれありましたよね?」
「ありましたね」
「その時は?」
「値札を見て終わりました」
「まだそんなに前じゃないですよね」
「そうですね」
九万八千ジェニーの鋼鉄剣を買った時でさえ、大きな買い物だった。
今は百二十八万ジェニーの剣を買おうとしている。
「これにします」
「即決か?」
「今の俺なら、こっちの方が良さそうなので」
「少なくとも鋼鉄剣とは別物だ。ただ、お前がまたとんでもない勢いで強くなったら知らんぞ」
「その時はまた来ます」
「楽しみに待ってるよ」
代金の百二十八万ジェニーを支払う。
炎牙剣を腰へ差した。
「これで――」
「待て」
店主が言った。
「まだ何か?」
「兄ちゃんだけじゃない」
視線がフェリシアへ向く。
「嬢ちゃん。その防具、前にここで買ったやつだろ?」
「はい」
「三万六千ジェニーのやつだったよな」
「そうですけど……」
「お前もCランクなんだろ?」
「昨日なりました」
「それで十一階から先に行くつもりか?」
フェリシアが自分の防具を見る。
「まだ壊れてませんよ?」
「壊れてるかどうかの話じゃない。今のお前が行く場所に合ってないって言ってるんだ」
店主が防具の並ぶ一角へ向かった。
しばらくして持ってきたのは、黒い革で作られた防具だった。
【黒狼の革鎧 980,000ジェニー】
「九十八万……」
フェリシアの声が少し低くなる。
「高位の黒狼の革を使ってる。普通の革鎧とは強度が違う。それでも金属鎧より軽いから、魔術師でも動きやすい」
「今の防具の二十倍以上ですね……」
「命の値段と思え」
フェリシアが革鎧を持つ。
「試着してみろ」
少しして、黒狼の革鎧を身につけたフェリシアが戻ってきた。
黒い革が身体に沿っている。
以前の防具より厚みはあるが、動きを邪魔しているようには見えない。
フェリシアが腕を回す。
その場で軽く身体をひねった。
「思ったより動きやすいです」
「そのための防具だ」
フェリシアが値札をもう一度見る。
「九十八万か……」
「昨日、一人五十九万ジェニー稼いだでしょう」
俺が言う。
「二日分近いですよ?」
「俺の剣はもっと高いですよ」
「アレンさんを基準にすると、感覚がおかしくなりそうです」
そう言いながらも、フェリシアはもう一度革鎧を確認した。
「……買います」
「それがいい」
フェリシアが代金を支払う。
店主は頷いたあと、今度は棚から一本のナイフを取り出した。
「それと、これも持っとけ」
「ナイフ?」
【魔銀のナイフ 220,000ジェニー】
銀色の短い刃。
派手な装飾はない。
「魔術師でも、敵に懐へ入られることはある。魔法が間に合わない時に何も持ってないのは危険だ」
フェリシアがナイフを受け取る。
「魔銀って?」
「普通の鋼より軽くて魔力を通しやすい金属だ。魔物の素材を切るのにも使える」
「二十二万……」
「嫌ならもっと安いのもあるぞ」
フェリシアは少し考えた。
それから腰のあたりへナイフを当て、抜きやすさを確かめる。
「これも買います」
「いいの?」
「近づかれた時に何もできないのは、前から少し怖かったので」
フェリシアが自分の金で二十二万ジェニーを支払った。
革鎧と合わせて百二十万ジェニー。
「私も百万ジェニー超えちゃいました」
「俺とあまり変わらないですね」
「昨日まで三万六千ジェニーの防具だったのに……」
「それだけ進む場所が変わったってことですよ」
古い防具は予備として持ち帰ることにした。
店主が俺たち二人を見る。
「これで十一階へ行くなら、少なくとも装備だけは前よりましだ」
「ありがとうございます」
店を出る。
フェリシアが俺の腰を見る。
「アレンさん」
「はい?」
「早く試したそうですね」
「分かります?」
「すごく」
「じゃあ行きますか?」
「十一階?」
「はい」
フェリシアが笑った。
「私もそう言うと思ってました」
◇
冒険者ギルドへ寄り、Cランク用の掲示板を見る。
昨日までは受けられなかった依頼が並んでいる。
その中から一枚を選んだ。
【スチールリザード 二体討伐】
【対象:ベルガント西部ダンジョン第十一階層】
【報酬:220,000ジェニー】
受付へ持っていく。
いつもの受付嬢が依頼書を見た。
「……もう十一階ですか?」
「新しい装備も買ったので」
受付嬢が炎牙剣と、フェリシアの黒狼の革鎧を見る。
「昨日Cランクになったばかりですよ?」
「難しそうなら戻ります」
「その言葉、最近毎日のように聞いている気がします」
受付嬢が苦笑した。
「十一階からは、十階までとはまた魔物が変わります。気をつけてください」
「分かりました」
◇
ダンジョン一階。
入口近くにある転移石へ向かう。
二人で石へ触れた。
青白い光が広がる。
一瞬、視界が真っ白になった。
次に目を開けると、十階の転移石が置かれた小部屋だった。
「……本当に一瞬ですね」
フェリシアが周囲を見る。
「これは楽です」
「昨日まで一階から歩いてたのが馬鹿らしくなりますね」
「それは言いすぎです」
小部屋を出る。
十一階へ続く階段へ向かった。
「行きましょう」
「はい」
二人で下りる。
◇
十一階は、十階までより岩肌の色が濃かった。
通路には金属のような光沢を持つ鉱石が、ところどころ露出している。
少し進んだところで、岩陰から大きなトカゲが姿を現した。
「スチールリザードです」
全身を銀灰色の鱗が覆っている。
グランドリザードより少し小さい。
だが、鱗は明らかに硬そうだ。
「グルルル……」
スチールリザードが地面を蹴った。
「俺がやります」
炎牙剣を抜く。
まずは炎を使わない。
今まで鋼鉄剣を振っていた時と同じ感覚で踏み込み、横から剣を振った。
ザンッ!
「……え?」
刃が止まらない。
硬そうな銀灰色の鱗を切り裂き、そのまま胴へ深く入った。
「グギャアッ!」
スチールリザードが地面を転がる。
俺の方が少し驚いた。
「思ったより斬れますね」
「思ったより、どころじゃないと思います」
起き上がろうとしたところへ近づき、首へ一撃。
今度も硬い鱗ごと刃が入った。
スチールリザードが動かなくなる。
【800P獲得】
【累計獲得P:18,800P】
【保有:9,090P】
炎牙剣を見る。
刃こぼれ一つない。
「……全然違いますね」
「百二十八万ジェニーですからね」
「高いだけあります」
魔石と鱗を回収し、さらに奥へ進んだ。
◇
二体目のスチールリザードを見つけた。
「今度は炎、使ってみます?」
「そのつもりです」
炎牙剣を構える。
柄の魔石を起動させた。
ボッ!
赤い炎が刀身を包む。
「グルアアッ!」
スチールリザードが突っ込んでくる。
横へかわす。
すれ違いざまに剣を振った。
ジュッ!
炎をまとった刃が硬い鱗へ入る。
「グギャッ!」
一体目よりさらに深い。
傷口の周囲から煙が上がる。
スチールリザードが振り返る。
その前に追いついた。
炎をまとわせたまま、首へ剣を振る。
ザンッ!
巨体が崩れ落ちた。
【800P獲得】
【累計獲得P:19,600P】
【保有:9,890P】
「炎を使うとさらに違いますね」
「魔力は使いますけど、硬い相手には便利そうです」
炎を消す。
俺たちは二体目の素材も回収した。
依頼対象はこれで終わりだ。
「もう少し見ていきます?」
「はい。でも今日は十一階の様子を見るくらいにしましょう」
「そうですね」
さらに奥へ進んだ。
しばらくして、岩陰から二匹の小型魔物が飛び出してくる。
大きな鼠に似ている。
前歯だけが刃のように長い。
「ブレードラットです!」
二匹が左右へ分かれた。
一匹が俺。
もう一匹がフェリシアへ向かう。
「《魔弾》!」
フェリシアが一匹の進路をずらす。
俺は目の前の一匹を炎牙剣で斬った。
【100P獲得】
すぐに向きを変える。
もう一匹がフェリシアへ飛びかかった。
フェリシアが横へかわす。
黒狼の革鎧を身につけていても、動きは鈍っていない。
「お願いします!」
一気に距離を詰める。
一撃。
【100P獲得】
【累計獲得P:19,800P】
【保有:10,090P】
「今ので二百Pですね」
「今日はここまでにしましょうか」
「はい」
十一階でも戦える。
新しい装備も問題ない。
俺たちは十階へ戻り、転移石を使った。
一瞬で一階へ戻る。
◇
ギルドへ戻り、スチールリザード二体分の討伐証明を出す。
「確認しました。依頼達成です」
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【本日の獲得P:1,900P】
【累計獲得P:19,900P】
【保有:10,190P】
その数字を見て、足が止まった。
「アレンさん?」
「貯まりました」
「もしかして……」
「はい」
依頼報酬の二十二万ジェニーを受け取る。
スチールリザード二体とブレードラットの素材も買い取ってもらった。
査定額は五十八万ジェニー。
合わせて八十万ジェニー。
二人で分ければ、一人四十万ジェニーだ。
◇
夜。
《銀麦亭》の俺の部屋。
フェリシアにも来てもらった。
《会員》を開く。
【保有ポイント:10,190P】
固有スキル購入を選ぶ。
【《付与》 10,000P】
「買えるんですね」
「はい」
ずっと、このためにPを貯めてきた。
俺は《付与》の文字へ指を伸ばした。
累計獲得P=19,900P
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