第207話 一瞬の旅
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん!」
ルナが元気よく頷いた。
「ヴィクトルさん、きっと驚くよ!」
「そうだね。私たちもこんなに採れるとは思わなかったもんね」
フェリシアが笑った。
俺は《収納》に入れた群晶石を思い浮かべた。
七十七個。
予備としていくつか残しても、かなりの数を売ることができそうだ。
「ワフ!」
「キュ!」
テリーとステフも元気いっぱいだ。
今日は二匹とも、ずいぶん頑張ってくれた。
途中で危ない場面もあったけど、戦い方も少しずつ覚えてきたみたいだ。
「じゃあ、三十階層の転移石まで戻ろう」
俺たちは来た道を引き返し始めた。
◇
三十六階層へ向かう途中、《魔力感知》に反応があった。
「……魔物がいるね」
「何体?」
ルナが尋ねる。
「二体だよ」
通路の奥から、黒い甲殻に覆われた魔物が現れた。
【ダークビートル】
またこの魔物か。
今度は二匹に任せてみようかな。
「テリー、ステフ。もう一度戦ってみる?」
「ワフ!」
「キュ!」
二匹が元気よく答えた。
「でも、周りをよく確認してね」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーが地面を蹴った。
シュンッ!
ダークビートルの正面へ向かう。
魔物が前脚を振り上げた。
しかし、テリーはすぐに速度を落とし、横へ回り込んだ。
そして。
ガブッ!
甲殻の隙間に噛みつく。
そのまま身体をひねり、魔物を地面へ叩きつけた。
ドンッ!
ダークビートルが動かなくなる。
「やった!」
ルナが笑った。
でも、テリーはすぐにこちらを振り向かなかった。
もう一体の魔物を確認してから、俺たちのところへ戻ってくる。
「テリー、ちゃんと周りを見てたね!」
「ワフ!」
嬉しそうに尻尾を振った。
一方、ステフは上空を旋回していた。
二体目のダークビートルが前脚を持ち上げる。
ステフは翼を傾け、攻撃が届かない位置へ移動した。
そして、魔物の背後へ回り込む。
「キュウウウッ!」
ボオッ!
短い炎が、甲殻の隙間に命中した。
グギャアッ!
ダークビートルが地面へ崩れ落ちた。
ステフはすぐに炎を止め、上空から周囲を確認する。
ほかに魔物がいないことを確かめてから、俺の肩へ戻ってきた。
「ステフも上手だったよ!」
「キュ!」
得意そうに翼を広げた。
「二匹とも、さっき教えたことを覚えているんだね!」
フェリシアも嬉しそうだ。
「うん。これなら少しずつ安心して任せられそうだね」
俺は二体のダークビートルを《収納》へ入れた。
◇
その後も来た道を進み、三十一階層へ到着した。
そこで、二体のシャドーウルフと遭遇した。
「テリー、ステフ。どうする?」
「ワフ!」
「キュ!」
二匹とも戦うつもりらしい。
「分かった。じゃあ、お願い!」
テリーが地面を蹴り、シャドーウルフの側面へ回り込む。
魔物が振り向いた瞬間、素早く跳びかかった。
ガブッ!
シャドーウルフが地面へ倒れる。
その間に、ステフはもう一体の上空へ移動していた。
敵の動きを確かめながら、高度を保っている。
「キュウウッ!」
ボオッ!
赤い炎がシャドーウルフを捉えた。
魔物が地面を転がり、やがて動かなくなる。
「やったあ!」
ルナが両手を上げた。
「二匹とも、もう一人前みたいだね!」
「うん。でも、まだ練習は必要だと思うよ」
俺が言うと、テリーとステフがこちらへ駆け寄ってきた。
「ワフ!」
「キュ!」
「よく頑張ったね!」
二匹の頭を撫でる。
嬉しそうだ。
俺たちは倒した魔物を回収し、三十階層へ向かった。
◇
三十階層の転移石が見えてきた。
「やっと着いたね!」
ルナが言った。
「うん。ここからなら入口まで一瞬だね」
フェリシアが頷く。
……一瞬か。
そういえば。
「……あっ!」
「どうしたの、アレン?」
ルナが振り向いた。
「そういえば、《会員》で《転移》っていうスキルが買えたんだった!」
「《転移》?」
フェリシアが首を傾げた。
「うん。オリハルコン会員になったときに、購入できるスキルの中にあったんだ」
「それって、好きな場所へ移動できるの?」
「どうなんだろう。ちょっと確認してみるね」
俺は《会員》を開いた。
【オリハルコン会員】
【保有:353,220P】
固有スキルの一覧を開く。
そこには、以前から気になっていたスキルがあった。
【《転移》 300,000P】
……三十万Pか。
高いなあ。
でも、今なら買える。
「アレン、どう?」
「買えるみたい。でも、三十万Pも必要なんだ」
「三十万!?」
ルナが驚いた。
「かなり高いね!」
「うん。でも、移動時間を短くできるなら便利だと思うんだ」
フェリシアが頷いた。
「そうだね。ミナリアからここまでだって、歩いて二日かかったもんね」
「そうなんだよ」
これからも、いろいろな場所へ冒険に行くことになる。
そのたびに何日も歩くのは大変だ。
もし《転移》が使えたら、移動にかかる時間を大幅に減らせるかもしれない。
「ちょっと、使い方を調べてみるね」
俺は《転移》の詳細を開いた。
【《転移》】
【自分の魔力印を残した場所へ移動できる】
【転移先の魔力印を感知し、そこへ魔力を流すことで発動】
【術者に触れている者も一緒に転移可能】
……なるほど。
あらかじめ魔力印を残しておく必要があるんだな。
でも、一度訪れた場所へ簡単に戻れるなら、十分便利だ。
「どうだった?」
フェリシアが尋ねた。
「自分の魔力印を残した場所へ移動できるみたい。それに、俺に触れていれば、みんなも一緒に転移できるんだって」
「本当!?」
ルナが目を輝かせた。
「じゃあ、私たちも一瞬で移動できるの!?」
「うん。そうみたいだね」
「それは便利だね!」
フェリシアも嬉しそうだ。
俺はもう一度《会員》の表示を見た。
三十万P。
購入すれば、残りは五万Pほどになる。
かなり減ってしまうけど……。
今後の冒険を考えれば、それだけの価値はありそうだ。
「よし。買ってみよう!」
俺は《転移》を選択した。
【《転移》を購入しますか?】
【必要:300,000P】
迷わず、購入することに。
【《転移》を購入しました】
【300,000Pを使用しました】
【保有:53,220P】
「買えた!」
「やったね!」
ルナが喜んだ。
「でも、どうやって使うの?」
「まずは魔力印を残さないといけないみたい」
フェリシアが少し考えた。
「じゃあ、ダンジョンの入口に残しておくと便利だね」
「そうだね!」
ここから入口までは転移石で戻れる。
そのあと、入口に魔力印を残せばいい。
「じゃあ、行ってみようか!」
「うん!」
俺たちは転移石に触れた。
シュンッ!
次の瞬間、見慣れたダンジョンの入口へ戻ってきた。
◇
ダンジョンの外へ出ると、青い海が広がっていた。
「ここに魔力印を残すんだね?」
ルナが尋ねた。
「うん。でも、入口のすぐ前はやめておこうかな」
「どうして?」
「ほかの冒険者がいたら危ないからね」
転移した先に人が立っていたら、どうなるか分からない。
人目につく場所で突然現れるのも、騒ぎになりそうだ。
「少し離れた場所を探そう」
俺たちは入口から少し歩き、岩壁の陰にある平らな場所を見つけた。
周囲に人はいない。
足元もしっかりしている。
「ここなら大丈夫そうだね」
フェリシアが言った。
「うん。じゃあ、試してみる」
俺は目を閉じた。
足元に魔力を集中させる。
そこへ、自分の魔力を少しずつ残していく。
しばらくすると、地面に自分の魔力が固定されたような感覚があった。
「……できたかな?」
俺は少し離れてから、《魔力感知》を使った。
……あっ!
確かに、さっきの場所から俺の魔力を感じる。
「できたみたい!」
「本当?」
「うん。ちゃんと魔力が残ってるよ」
「じゃあ、次はミナリアだね!」
ルナが言った。
「そうだね」
でも、ミナリアにはまだ魔力印を残していない。
今回は歩いて帰るしかないな。
「じゃあ、出発しようか!」
「うん!」
こうして、俺たちは再び海沿いの街道を歩き始めた。
◇
二日後。
俺たちはミナリアへ戻ってきた。
「着いたあ!」
ルナが両手を伸ばした。
「やっぱり二日も歩くと疲れるね!」
「そうだね」
俺も笑った。
でも、これからは《転移》が使えるかもしれない。
「まずは魔力印を残しておこうか」
「どこにする?」
フェリシアが尋ねた。
「人が少ないところがいいと思うんだ」
大通りには、荷馬車や商人、冒険者たちが行き交っている。
ここで突然転移したら、大騒ぎになってしまうだろう。
それに、人や荷物にぶつかる危険もある。
「路地裏を探してみよう」
俺たちは大通りから外れ、人通りの少ない場所へ向かった。
しばらく歩くと、使われていない倉庫の裏に、少し開けた場所があった。
周囲の建物からも見えにくい。
「ここならよさそうだね」
フェリシアが周囲を確認する。
「うん。誰もいないみたい」
俺は足元に魔力を集中させた。
さっきと同じように、地面へ自分の魔力を残していく。
……よし。
「じゃあ、ちゃんと残っているか確認してみるね」
俺は《魔力感知》を使った。
まず、足元から自分の魔力を感じる。
そして。
……あっ!
ずっと西の方にも、もう一つ反応があった。
さっきダンジョンの入口近くに残した魔力印だ!
「……すごい!」
「どうしたの?」
ルナが俺を見た。
「二つとも感じるんだ!」
「二つ?」
「うん。ここに残した魔力印と、ダンジョンの入口に残した魔力印!」
「ええっ!?」
ルナが目を丸くした。
「そんな遠くの魔力まで分かるの!?」
「うん。自分の魔力だからなのかな。場所がはっきり分かるんだ」
フェリシアも驚いている。
「じゃあ、本当に転移できるかもしれないね!」
「そうだね」
俺は二人を見た。
「ねえ、一回試してみない?」
「《転移》を?」
「うん。ここからダンジョンまで!」
「やってみたい!」
ルナがすぐに答えた。
「私も!」
フェリシアも嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、みんな俺に触れてね」
ルナが俺の左腕につかまる。
フェリシアは右腕へ。
テリーは俺の脚に身体を寄せ、ステフは抱き上げた。
「ワフ?」
「キュ?」
二匹とも何が始まるのか分からないみたいだ。
「じゃあ、行くよ」
「うん!」
俺は目を閉じた。
遠くに感じる自分の魔力印。
ダンジョンの入口近くに残した魔力だ。
そこへ意識を集中する。
そして、魔力を流した。
次の瞬間。
ふっと、足元の感覚が消えた。
一瞬だけ、身体が宙に浮いたような不思議な感覚がする。
そして。
トンッ。
足の裏に、硬い地面の感触が戻ってきた。
「……えっ?」
俺は目を開けた。
目の前には、青い海。
潮の香りを含んだ風。
そして、見覚えのある岩壁。
「……ここって」
フェリシアが周囲を見回した。
「ミナリア西ダンジョン!?」
「……着いた?」
ルナが呆然としている。
「うん。着いたみたいだね」
「えええっ!?」
ルナが大きな声を上げた。
「本当に一瞬だったよ!?」
「そうだね!」
俺も思わず笑った。
さっきまでミナリアにいたのに。
今はダンジョンの入口近くにいる。
歩けば二日もかかる場所なのに!
「……すごいね」
フェリシアが驚いたように呟いた。
「本当に移動できちゃったんだ」
「うん!」
「ワフ!?」
「キュッ!?」
テリーとステフも驚いている。
テリーは周囲をきょろきょろと見回し、ステフは俺の腕の中で何度も首を傾げた。
「二匹とも、びっくりしたよね!」
ルナが笑った。
「ワフ!」
「キュ!」
……それにしても。
三十万Pは高かったけど、これは本当に便利だな。
「ねえ、アレン!」
「何?」
「もう一回やろう!」
ルナが目を輝かせた。
「今度はミナリアに戻るんでしょ?」
「そうだね」
俺は《魔力感知》を使った。
遠くに、ミナリアで残した魔力印を感じる。
「ちゃんと向こうの魔力印も分かるよ」
「じゃあ、帰ろう!」
「うん。でも、その前に周りに誰もいないか確認しようね」
俺たちは岩陰へ戻り、近くに人がいないことを確認した。
「じゃあ、もう一度!」
ルナとフェリシアが俺につかまる。
テリーとステフも、さっきと同じように身体を寄せた。
俺はミナリアの魔力印へ意識を集中した。
「《転移》!」
ふっ。
景色が切り替わる。
次の瞬間。
目の前には、さっきの倉庫の壁があった。
足元は石畳だ。
「……戻ってきた!」
ルナが声を上げた。
「本当だね!」
フェリシアも嬉しそうだ。
俺は周囲を確認した。
幸い、誰もいない。
ちゃんと同じ場所に戻れたんだ。
「これなら、またダンジョンへ行くときも一瞬だね!」
ルナが笑う。
「そうだね。もう二日も歩かなくていいんだ!」
「それに、いろいろな街に魔力印を残しておけば、もっと便利になるかもしれないね」
フェリシアが言った。
「うん。でも、人が入ってこない安全な場所を選ばないとね」
それにしても、本当にすごいスキルを買えたな。
これからの冒険が、ずっと楽になりそうだ。
◇
その後、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
「あっ、アレンさん! 皆さん、お帰りなさい!」
いつもの受付の女性が声をかけてきた。
「こんにちは。群晶石の採取依頼の報告に来ました」
「ありがとうございます! 無事に採取できましたか?」
「はい。たくさん採れたんだよ!」
ルナが嬉しそうに答えた。
「それはよかったです! 何個くらいでしょうか?」
「七十個です」
「……え?」
受付の女性が固まった。
「な、七十個?」
「はい」
「七個ではなくて?」
「七十個だよ!」
ルナが笑った。
「…………」
女性はしばらく俺たちを見つめていた。
そして、小さく息を吐いた。
「……アレンさんたちには、毎回驚かされますね」
「すみません」
「いえ! むしろありがとうございます!」
女性が笑った。
「それでは、数量と品質を確認させてください」
「はい」
「少し数が多いので、解体場で確認しましょうか」
「お願いします」
◇
解体場へ移動した俺たちは、用意された大きな作業台の前に立った。
「それでは、こちらへお願いします」
「はい」
俺は《収納》を開いた。
シュンッ!
青白く輝く群晶石が、作業台の上に現れる。
一個、二個と並べていく。
十個。
二十個。
三十個。
さらに四十個。
やがて、作業台の上には七十個の群晶石が並んだ。
「……本当に七十個あるんですね」
受付の女性が呆然としている。
「はい。全部で七十個です」
「前回、五個採れた場所をもう一度調べたら、大きな鉱脈が見つかったんだよ!」
ルナが説明した。
「なるほど……」
女性は群晶石を一つずつ確認し始めた。
「ヴィクトルさんも喜んでくださるといいですね」
「きっと喜ばれると思いますよ」
女性も微笑んだ。
「それから、魔物の素材も買い取っていただけますか?」
俺が尋ねた。
「もちろんです。今回は何体くらいでしょうか?」
「十体です」
「……十体?」
「はい。シャドーウルフとダークビートルです」
女性は少しだけ目を閉じた。
「……分かりました。どうぞ」
……あれ?
何だか、前より落ち着いているな。
俺は《収納》から魔物を取り出し始めた。
まず、シャドーウルフ。
続いてダークビートル。
次々と並べていく。
シュンッ!
シュンッ!
やがて、解体場の床に十体の魔物が並んだ。
「……今回も、すごい量ですね」
「そうでしょうか?」
「はい。普通の冒険者の方でしたら、これだけ持ち帰るのも大変ですよ」
女性が苦笑した。
「でも、先日のアビスベヒーモスを見せていただいたあとですから……」
そうだった。
「少しだけ慣れてきました」
女性が笑った。
「それならよかったです」
俺も笑い返した。
◇
「おや? アレンじゃないか!」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、ヴィクトルさんが解体場の入口に立っていた。
「ヴィクトルさん!」
「久しぶり……というほどでもないか」
ヴィクトルさんが笑った。
「群晶石の採取依頼が進んでいるか、確認しに来たんだ」
「ちょうど今、納品していたところです」
「本当か!」
ヴィクトルさんが作業台へ近づいた。
そして。
「……ん?」
群晶石の山を見て、足を止めた。
「……ちょっと待ってくれ」
「どうしました?」
「これ、全部群晶石か?」
「はい」
「何個あるんだ?」
「七十個です」
「……七十?」
ヴィクトルさんが俺の顔を見た。
「七十個!?」
「はい」
「……ははは!」
ヴィクトルさんが笑い出した。
「いやあ、参ったな!」
「え?」
「俺は確かに、できるだけ多く欲しいと言ったけどな」
ヴィクトルさんが群晶石を手に取った。
「まさか、一度で七十個も集めてくれるとは思わなかったよ!」
「大きな鉱脈を見つけたんです」
「そうなのか!」
ヴィクトルさんは嬉しそうに頷いた。
「これだけあれば、いろいろな研究ができるな!」
そして、俺たちを見た。
「アレン。七十個全部、俺に買わせてもらえないか?」
「はい。そのつもりで持ってきました」
「本当か! ありがとう!」
ヴィクトルさんの表情が明るくなった。
「もちろん、ギルドを通して正式に買い取るよ。値段についても、きちんと相談させてもらう」
「よろしくお願いします」
「フェリシアも、これだけ売って大丈夫なのか?」
「はい。予備として七個残してありますので」
「そうか。それならよかった」
ヴィクトルさんは満足そうに頷いた。
「それにしても、こんなにたくさんの群晶石を一度に持ち帰れるなんてな……」
そう言って、今度は床に並んだ魔物を見た。
「……こっちも全部、アレンたちが倒したのか?」
「はい。テリーとステフも頑張ってくれたんです」
「ワフ!」
「キュ!」
二匹が元気よく鳴いた。
「ははは。そうか。二匹とも立派な冒険者だな!」
ヴィクトルさんが笑った。
◇
その後、受付の女性が品質確認のために別の職員を呼びに行った。
その間、ヴィクトルさんが俺の近くへやって来た。
「それにしても、アレンの《収納》はすごいな」
「ありがとうございます」
「これだけの魔物や石を、簡単に運べるんだからな」
「そうですね。俺もいつも助かっています」
ヴィクトルさんは少し声を落とした。
「……そういえば、前に話した俺の親友も、似たような魔法を使えるんだ」
「リオンさんですか?」
「ああ。亜空間収納っていう魔法なんだけどな」
「へえ……」
「荷車何台分もの荷物でも運べるんだ。最初に見たときは驚いたよ」
「それは便利ですね!」
「ああ。俺にも使えたら、商売がずいぶん楽になるんだけどなあ」
ヴィクトルさんが苦笑した。
「残念ながら、俺は使えないんだ」
「そうなんですね」
「だから、こうして運んでくれる冒険者がいると本当に助かるよ」
そして、ヴィクトルさんは人差し指を立てた。
「ただ、リオンの魔法については内緒にしておいてくれよ。あいつも、あまり人前では使わないようにしているから」
「分かりました」
「うん。ありがとう」
ヴィクトルさんが笑った。
それにしても、リオンさんか。
男爵なのに、そんな珍しい魔法まで使えるなんて。
どんな人なんだろうな。
◇
しばらくして、受付の女性が戻ってきた。
「アレンさん、お待たせしました」
「はい」
「群晶石七十個の数量は確認できました。魔物の素材についても、これから査定いたします」
「ありがとうございます」
「ただ、今回もかなりの量ですので……」
女性が申し訳なさそうに頭を下げた。
「先日お預かりした査定分と合わせて、明日まとめてお支払いする形でもよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「ありがとうございます!」
ヴィクトルさんも頷いた。
「群晶石の七十個は、ローデン商会ですべて買い取らせてもらう。ギルドを通して手続きを進めてくれ」
「承知しました」
女性は記録用紙に書き込んだ。
「それから、深層調査の報酬についても、明日まとめてご案内できるようにいたします」
「よろしくお願いします」
「はい!」
女性は笑顔で書類を確認した。
「では、群晶石七十個の納品を確認しました。採取依頼、達成です!」
その瞬間。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【保有:53,320P】
【累計獲得P:1,110,530P】
よし!
百P獲得だ。
《転移》を買ったから、保有Pはかなり減ってしまった。
でも、これからの移動時間を考えると、買ってよかったと思う。
「ねえ、アレン!」
ルナが俺の袖を引っ張った。
「何?」
「明日は、いくらもらえるのかな?」
「そうだね。群晶石も七十個あるし、魔物の素材もたくさんあるからね」
「楽しみ!」
ルナが嬉しそうに笑った。
フェリシアも頷く。
「それに、アビスベヒーモスの査定もあるんだよね」
「そうだったね」
あの巨大な魔物、いったいいくらになるんだろう?
「俺も楽しみだな!」
ヴィクトルさんが笑った。
「群晶石の研究も、これから本格的に始められそうだ」
「そうですね」
「また何か分かったら、連絡するよ」
「ありがとうございます」
俺たちはヴィクトルさんと別れ、ギルドを出た。
今日もいろいろあったな。
テリーとステフは、また一段と強くなった。
群晶石も七十個売ることができた。
それに、何より《転移》を使えるようになった。
これからは、訪れた場所に魔力印を残しておけば、何日もかかる道のりを一瞬で移動できる。
今までより、ずっとたくさんの場所へ冒険に行けるかもしれない。
「アレン! 早く帰ろう!」
ルナが振り向いた。
「うん!」
俺はフェリシアと顔を見合わせて笑った。
さて。
明日の査定結果も楽しみだけど、その次はどこへ冒険に行こうかな?
【保有:53,320P】
【累計獲得P:1,110,530P】




