第206話 二匹の新しい力
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『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。
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ヴィクトルさんと群晶石について話した翌日。
今日も冒険者ギルドに来ている。
「アレン! あれ見て!」
ルナが依頼掲示板を指差した。
「何かあった?」
「ヴィクトルさんの依頼だよ!」
俺は掲示板に近づいた。
そこには、新しい採取依頼が貼り出されていた。
【群晶石の採取】
【依頼主:ローデン商会】
【採取場所:ミナリア西ダンジョン深層】
【推奨ランク:Aランク以上】
【報酬:採取した群晶石の数量と品質に応じて支払い】
「本当だ。もう依頼が出てるんだね」
「ヴィクトルさん、早速動いたんだね!」
フェリシアも嬉しそうだ。
それにしても、Aランク以上か。
群晶石が採れた三十七階層まで進める冒険者は、あまり多くないんだろう。
「ねえ、アレン。これ、私たちが受けるのはどうかな?」
フェリシアが尋ねた。
「群晶石の採取依頼?」
「うん。ほら、テリーとステフの戦闘訓練もしたいって言ってたでしょ?」
「あっ、そうだったね」
二匹は《共有》によって大幅に強くなった。
でも、まだその力を十分には使いこなせていない。
「ダンジョンなら、採取しながら練習もできると思うよ」
「それはいいね!」
「私も賛成!」
ルナが元気よく手を上げた。
「テリーとステフがどれくらい強くなったのか、見てみたい!」
「ワフ!」
「キュ!」
二匹もやる気満々みたいだ。
「じゃあ、受けようか!」
「うん!」
俺たちは受付へ向かった。
◇
「あ、アレンさん、おはようございます」
受付の女性が声をかけてきた。
「昨日の素材ですが、査定に時間がかかっていますので、もう少々お時間を頂けますでしょうか?」
「はい。それより今日は群晶石の採取依頼を受けたいのですが」
「群晶石の採取依頼ですね。ありがとうございます!」
受付の女性が依頼書を取り出した。
「ローデン商会の方から、できるだけ多く集めたいと伺っています」
「そうなんですね」
「はい。ただ、深層まで探索できる冒険者の方は限られていますので、なかなか受注される方が見つからなそうなんです」
「そうだったんですね」
「だったら、たくさん集めてきていいんだよね?」
ルナが尋ねた。
「はい。もちろん、無理のない範囲でお願いします」
「任せて!」
ルナが胸を張った。
「それから、採取した群晶石は、こちらで買い取っていただけるんですか?」
フェリシアが尋ねた。
「はい。ローデン商会との取り決めに従って、数量と品質を確認したうえで報酬をお支払いします」
「分かりました」
俺は依頼書を受け取った。
よし。
今回の目的は群晶石の採取と、二匹の戦闘訓練だ。
どちらもうまくいくといいな。
◇
それから二日後。
俺たちは再びミナリア西ダンジョンの入口へやって来た。
「また来ちゃったね!」
ルナが笑った。
「うん。でも、今回は五十階層まで行く必要はないからね」
「そうだね。三十七階層に行けばいいんだよね?」
フェリシアが確認する。
「うん。前に群晶石を五個見つけた場所があるから、そこをもう一度調べてみようと思うんだ」
ただ、その前に二匹の訓練をしておきたい。
「テリー、ステフ。今日は二匹にも戦ってもらうよ」
「ワフ!」
「キュ!」
元気な返事が返ってきた。
「でも、危ないと思ったらすぐに下がってね。俺たちも近くで見ているから」
「ワフ!」
「キュ!」
「よし!」
俺たちはダンジョンへ入った。
そして、転移石を使って第三十階層へ移動する。
そこから階段を下り、三十一階層へ向かった。
まずは以前戦ったシャドーウルフを相手に練習してみよう。
◇
三十一階層に入ってしばらくすると、《魔力感知》に反応があった。
「……いるね」
「魔物?」
ルナが弓を構える。
「うん。五体かな」
通路の奥から、黒い毛皮に覆われた狼のような魔物が現れた。
【シャドーウルフ】
暗い場所で素早く動き、群れで襲ってくる。
「テリー、あの魔物と戦ってみる?」
「ワフ!」
テリーが勢いよく頷いた。
「じゃあ、まずは一体だけ狙ってみよう。ほかの魔物は俺たちが警戒しているからね」
「ワフ!」
俺は竜爪剣を抜き、いつでも助けられる位置に立った。
フェリシアとルナも周囲を警戒する。
シャドーウルフの一体が、こちらへ駆け出した。
「テリー、お願い!」
「ワフ!」
シュンッ!
……えっ?
テリーの姿が、一瞬で見えなくなった。
次の瞬間。
ドンッ!
シャドーウルフの身体が横へ吹き飛んだ。
岩壁にぶつかり、そのまま地面へ落ちる。
「……速い!」
俺は目を丸くした。
《共有》によってテリーの敏捷が大幅に上がったことは知っていた。
でも、実際に動いているところを見ると、想像以上だ。
ところが。
「ワフッ!?」
テリーは勢い余って、そのまま地面を滑ってしまった。
ザザザッ!
慌てて前脚を踏ん張り、ようやく止まる。
「テリー、大丈夫?」
「ワフ!」
元気に振り向いた。
怪我はしていないみたいだ。
「速すぎて止まれなかったんだね!」
ルナが笑った。
「そうみたいだね」
テリーは少し恥ずかしそうに尻尾を振った。
「でも、すごい速さだったよ。次は少し手前で減速してみようか」
「ワフ!」
そのときだった。
「……テリー! 後ろ!」
ルナが叫んだ。
別のシャドーウルフが、岩陰から飛び出してきた。
テリーはまだ俺たちの方を向いている。
背後に迫る魔物には気づいていない!
シャドーウルフが大きく口を開いた。
鋭い牙が、テリーの首元へ迫る。
まずい!
俺が地面を蹴ろうとした瞬間。
ヒュンッ!
一本の矢が、テリーのすぐ横を通り過ぎた。
ドスッ!
矢はシャドーウルフの首に突き刺さった。
グギャッ!
魔物が地面へ倒れ込む。
「テリー!」
ルナが駆け寄った。
「大丈夫!?」
「ワフ……」
テリーは少し驚いた様子で、倒れた魔物を見つめている。
それから、ルナの顔を見上げた。
「ワフ!」
「よかったあ!」
ルナがテリーを抱きしめた。
「もう!敵がいるのに、こっちばっか見ちゃ駄目だよ!」
「ワフ……」
テリーが申し訳なさそうに耳を伏せた。
「でも、最初の攻撃はすごかったよ!」
ルナが笑顔で頭を撫でた。
「次は周りにも気をつけようね!」
「ワフ!」
テリーが元気よく答えた。
俺もほっと息を吐いた。
「ルナ、ありがとう。よく間に合ったね」
「うん! 《風読み》で魔物の動きが分かったんだ!」
「そうだったんだ」
やっぱり、ルナも強くなったな。
それにしても、テリーは速く動けるようになったけど、まだ戦い方を覚えている途中だ。
敵を倒したあとも、周囲への警戒を忘れないこと。
それも教えていかないといけないな。
◇
「じゃあ、もう一度やってみようか」
「ワフ!」
テリーが元気よく頷いた。
残るシャドーウルフたちは、俺たちを警戒しながら距離を取っている。
そのうちの一体が、低い唸り声を上げて近づいてきた。
「テリー、今度は周りも見ながらね」
「ワフ!」
テリーが地面を蹴った。
シュンッ!
今度は、さっきより少し速度を落としている。
シャドーウルフの手前で素早く方向を変え、横へ回り込んだ。
魔物が振り向く。
しかし、もう遅い。
ガブッ!
テリーが首元に噛みついた。
ドサッ!
シャドーウルフが倒れた。
その直後。
テリーはすぐに飛び退き、残る魔物たちへ顔を向けた。
「……あっ!」
俺は思わず笑った。
「今度はちゃんと周りを見てるね!」
「ワフ!」
テリーが嬉しそうに尻尾を振った。
「やったね、テリー!」
ルナも笑っている。
残る二体は、仲間が倒されたのを見ると、通路の奥へ逃げていった。
「よし。テリーの練習は成功だね」
「ワフ!」
テリーはルナのところへ駆け寄り、嬉しそうに飛び跳ねた。
「ふふふ。よく頑張ったね!」
ルナが頭を撫でる。
さっきは少し危なかったけど、ちゃんと教訓を活かせたみたいだ。
よかった。
◇
「次はステフだね」
俺が言うと、ステフが小さな翼を広げた。
「キュ!」
ふわっ。
緑色の身体が、軽々と浮かび上がる。
そして。
シュンッ!
ステフは一気に天井近くまで上昇した。
「わあ! 速い!」
ルナが見上げた。
ステフは翼を傾けると、通路の上空を大きく旋回した。
右へ。
左へ。
岩壁に近づくと、身体をひねって滑らかに方向を変える。
そして、ほとんど速度を落とさず、俺たちの頭上へ戻ってきた。
「ステフ、飛ぶのがもっと上手になったね!」
俺が言うと、ステフが嬉しそうに鳴いた。
「キュ!」
以前から空を飛ぶことはできていた。
でも、《共有》で身体能力が上がったおかげか、今は以前よりずっと速く、自由に飛べるみたいだ。
「それじゃあ、今度は炎を試してみようか」
「キュ!」
以前は小さな炎だったけど、今は魔力も大幅に増えている。
どれくらい強くなったんだろう?
俺たちは通路の少し広い場所へ移動した。
そこには、先ほど倒した魔物が残していった黒い岩が転がっていた。
「ステフ、まずはあの岩を狙ってみて」
「キュ!」
ステフは上空を旋回しながら、大きく息を吸った。
小さな口の奥に、赤い光が灯る。
「キュウウウッ!」
ボオオッ!
勢いよく炎が噴き出した。
……すごい!
以前の小さな炎とは比べものにならない。
赤々とした炎が、空中から斜め下へ伸びていく。
ゴオッ!
岩の表面が炎に包まれた。
しばらくして炎が消えると、表面には黒い焦げ跡が残っていた。
「ステフ! すごいよ!」
ルナが嬉しそうに声を上げた。
「キュ!」
ステフは得意そうに鳴くと、もう一度大きく旋回した。
そのまま俺の肩へ降りてくる。
「よくできたね!」
俺はステフの頭を撫でた。
「キュ!」
嬉しそうだ。
でも、今の炎はかなり強かったな。
「ステフ、炎を使うときは周りに仲間がいないか、ちゃんと確認しようね」
「キュ!」
「それに、ダンジョンの中だから、燃やしてはいけないものにも気をつけよう」
「キュ!」
ちゃんと分かってくれたみたいだ。
ただ、ステフの飛行と炎を組み合わせた戦い方は、まだ試していない。
次に魔物が現れたら、実戦で練習してみよう。
テリーが倒したシャドーウルフを《収納》で回収した。
◇
その後も何度か魔物と遭遇したけど、無理に戦わず、俺たちは三十二階層以降を進んでいった。
今回は深層の探索が目的ではないので、以前通った道を選ぶ。
やがて、三十七階層へ到着した。
「着いたね!」
ルナが周囲を見回した。
「うん。前に群晶石を見つけたのは、この階層だったよね」
フェリシアも岩壁を見つめている。
「確か、あの辺りだったと思うよ」
俺は以前採掘した場所へ向かった。
壁には、群晶石を取り出したときの跡が残っている。
「あっ、ここだ!」
ルナが指差した。
「そうそう。前は五個見つけたんだよね」
「うん。今回はもっと調べてみよう」
俺は《鑑定》を使った。
「《鑑定》」
周囲の岩壁を一つずつ確認していく。
すると。
「……あっ!」
「どうしたの?」
フェリシアが近づいてきた。
「ここにもあるよ」
岩の隙間に、青白い光が見えた。
【群晶石】
「本当だ!」
ルナが目を輝かせた。
「まだ残ってたんだね!」
「うん。取り出してみようか」
俺は《収納》から採掘用の道具を取り出した。
小さな槌と、岩を削るためのノミだ。
群晶石を傷つけないように、周囲の岩を少しずつ削っていく。
カン、カン。
しばらくすると、一つ目の群晶石が取り出せた。
「よし!」
「やったね!」
ルナが嬉しそうに言った。
ところが。
「……あれ?」
俺は岩壁を見つめた。
群晶石を取り出した場所の奥に、まだ青白い光が見える。
「……もう一個ある?」
俺はもう一度《鑑定》した。
【群晶石】
「本当だ。奥にもあるみたい!」
「えっ!?」
フェリシアが顔を近づけた。
「じゃあ、もっと削ってみようか」
「うん!」
俺は慎重に周囲の岩を削った。
すると。
カラッ。
二つ目の群晶石が姿を現した。
さらに、その奥にも青白い光が見える。
「アレン! まだあるよ!」
ルナが声を上げた。
「本当だね!」
どうやら、岩壁の奥にいくつもの群晶石が埋まっているらしい。
俺たちは協力して採掘を進めた。
採掘した群晶石が、少しずつ増えていく。
「……すごいね!」
フェリシアが驚いている。
「前は取り出しやすいところだけだったけど、奥にはこんなに埋まっていたんだね」
「うん。ここは群晶石の大きな鉱脈なのかもしれない」
俺も嬉しくなってきた。
ヴィクトルさん、きっと喜んでくれるだろう。
◇
採掘を続けていたときだった。
「……ん?」
俺は手を止めた。
《魔力感知》に反応がある。
「二人とも、魔物が近づいてきたよ」
「何体?」
ルナが弓を構えた。
「三体かな」
通路の奥から、黒い甲殻を持つ大きな虫のような魔物が現れた。
【ダークビートル】
以前も戦ったことのある魔物だ。
硬い甲殻で身体を守っている。
今の俺たちなら問題ないと思うけど、群晶石を採掘している場所で戦うのは避けたい。
「みんな、少し離れよう。ここで魔法を使ったら、群晶石が傷つくかもしれないからね」
「分かった!」
フェリシアが頷いた。
俺たちは採掘道具を片づけ、少し広い通路へ移動した。
ダークビートルがこちらを追ってくる。
「テリー、ステフ。もう一度やってみる?」
「ワフ!」
「キュ!」
二匹が元気よく答えた。
「じゃあ、テリーは右の魔物。ステフは左の魔物をお願い!」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーが地面を蹴った。
シュンッ!
今度は最初から速度を調整している。
ダークビートルの正面へ向かうと見せかけて、素早く横へ回り込んだ。
魔物が身体を向ける。
しかし、テリーはその動きに合わせて、さらに横へ。
そして。
ガブッ!
硬い甲殻の隙間に噛みついた。
ドンッ!
そのまま身体をひねり、魔物を地面へ叩きつける。
ダークビートルが動かなくなった。
「やった!」
ルナが笑った。
「テリー、今度は周りも見てたね!」
「ワフ!」
テリーが尻尾を振った。
次はステフだ。
ステフはすでに上空へ飛び上がっていた。
翼を広げ、ダークビートルの頭上を旋回している。
魔物が前脚を持ち上げる。
しかし、ステフはその攻撃が届かない高さを保っていた。
……うまいな。
ちゃんと相手との距離を考えながら飛んでいるみたいだ。
ステフが空中で向きを変えた。
そして、大きく息を吸う。
「キュウウウッ!」
ボオオッ!
赤い炎が、ダークビートルへ向かって伸びた。
ゴオッ!
魔物の身体が炎に包まれる。
硬い甲殻が熱せられ、黒い煙が上がった。
ステフは炎を吐き終えると、素早く横へ移動した。
ダークビートルが苦し紛れに前脚を振り上げる。
しかし、その攻撃は空を切った。
「ステフ、いいよ!」
フェリシアが声をかけた。
ステフは得意そうに鳴きながら、もう一度大きく旋回した。
……ん?
俺の《魔力感知》に、別の反応があった。
もう一体のダークビートルだ。
でも、姿が見えない。
……上か!
「ステフ! 危ない!」
俺が叫んだ瞬間。
天井近くの岩陰から、三体目のダークビートルが飛び出した。
岩壁に張りついていたらしい。
ステフは目の前の魔物に集中していて、背後から迫る敵に気づいていない。
ダークビートルが大きな前脚を振り下ろした。
ステフの小さな身体に、鋭い脚先が迫る。
……間に合え!
俺は地面を蹴った。
《剣神》の力で、どこへ踏み込めばいいのかが自然と分かる。
飛び上がりながら、竜爪剣を横へ振り抜いた。
ガキィン!
ダークビートルの前脚を弾き飛ばす。
そして、そのまま左手を伸ばした。
「ステフ!」
「キュッ!?」
俺はステフを抱き寄せ、空中で身体をひねった。
ドンッ!
着地すると同時に、後ろへ跳ぶ。
次の瞬間、俺たちがいた場所へダークビートルが落ちてきた。
ズシン!
「……ふう!」
危なかった。
あと少し遅れていたら、ステフが攻撃を受けていたかもしれない。
「ステフ、大丈夫?」
「キュ……」
ステフは俺の腕の中で、小さく鳴いた。
びっくりしたみたいだ。
「大丈夫。もう安全だよ」
俺が頭を撫でると、ステフは少しずつ落ち着いてきた。
その間にも、ダークビートルがこちらへ向かってくる。
「アレン! 任せて!」
ルナが弓を構えた。
ヒュンッ!
矢が魔物の脚の関節に突き刺さった。
グギャッ!
ダークビートルが体勢を崩す。
「フェリシア!」
「うん!」
フェリシアが魔力を込めた。
「《魔弾》!」
ドンッ!
魔弾がダークビートルの横腹に命中した。
魔物の身体が大きく跳ね、岩壁へぶつかる。
そのまま動かなくなった。
よし。
これで残るのは、ステフが攻撃していた一体だけだ。
俺は腕の中のステフを見た。
「ステフ、もう大丈夫?」
「キュ!」
ステフが元気よく鳴いた。
そして、俺の腕から飛び立った。
「無理しなくてもいいんだよ?」
「キュ!」
どうやら、もう一度挑戦したいみたいだ。
「分かった。でも、今度は周りも見ながらね」
「キュ!」
ステフが翼を広げた。
そして、ダークビートルの上空へ飛び上がる。
今度はすぐに炎を吐かず、相手の動きを確かめながら旋回している。
右へ。
左へ。
さらに、少し高度を上げた。
ダークビートルが前脚を振り上げる。
しかし、ステフは素早く横へ移動し、攻撃をかわした。
そして、相手の背後へ回り込む。
「キュウウウッ!」
ボオッ!
短い炎が、甲殻の隙間へ命中した。
グギャアッ!
ダークビートルが地面へ崩れ落ちる。
……やった!
「ステフ、よくできたね!」
「キュ!」
ステフが嬉しそうに鳴いた。
俺は近づいてきたステフを抱き上げた。
「でも、さっきは本当に危なかったよ。炎を吐くときも、ほかの魔物がいないか気をつけようね」
「キュ……」
「飛ぶのはすごく上手になったよ。あとは戦いながら周りを見る練習だね」
「キュ!」
ステフが頷いた。
フェリシアも笑顔で近づいてきた。
「二匹とも、ずいぶん強くなったね」
「うん。でも、まだ経験が足りないんだと思う」
テリーは背後からの攻撃に気づかず、ステフも別の魔物に襲われそうになった。
二匹とも、身体能力はかなり高い。
でも、戦闘では強さだけじゃなく、周りをよく見ることも大切だ。
「これから少しずつ練習していこうね」
「ワフ!」
「キュ!」
元気な返事が返ってきた。
◇
魔物を《収納》に回収すると、俺たちは採掘場所へ戻った。
幸い、群晶石には何の被害もなかった。
「よかった。続きができるね!」
「うん!」
それから数時間、俺たちは交代で岩壁を削り続けた。
群晶石を傷つけないように、周囲の岩を少しずつ取り除いていく。
時には大きな岩を外さなければならず、思った以上に時間がかかった。
それでも、掘り進めるたびに新しい群晶石が現れた。
「また見つけた!」
ルナが嬉しそうに声を上げた。
「本当だ。こっちにもあるよ」
フェリシアも別の場所を指差した。
俺は《鑑定》で確認してから、周囲の岩を削っていく。
カン、カン。
コロンッ。
新しい群晶石が一つ、また一つと増えていった。
どうやら、この岩壁の奥には大きな鉱脈が広がっているらしい。
「それにしても、こんな場所に鉱脈があったなんてね」
フェリシアが言った。
「うん。前は気づかなかったよ」
「ヴィクトルさん、きっと喜んでくれるね!」
ルナが笑った。
「そうだね」
その間、テリーとステフは周囲を見張ってくれていた。
「ワフ!」
「キュ!」
二匹とも頼もしくなったな。
ただ、採掘を始めてからかなり時間が経っている。
あまり長く作業を続けて、疲れすぎてもよくない。
「そろそろ、この辺りで終わりにしようか」
「うん!」
俺たちは掘り出した群晶石を一か所へ集めた。
青白い石が積み重なり、小さな山ができている。
「……こんなに採れちゃった!」
ルナが目を丸くした。
「本当にすごい量だね!」
フェリシアも驚いている。
俺は群晶石を数えてみた。
「えっと……七十四、七十五……」
さらに二つ。
「……七十七個!」
「ええっ!?」
ルナが声を上げた。
「そんなに採れたの!?」
「うん。七十七個だね」
「すごいね!」
フェリシアが嬉しそうに笑った。
前にこの階層で採掘したのは五個だった。
それが今回は七十七個。
「これならヴィクトルさんも驚くと思うよ!」
ルナが言った。
「研究もたくさんできそうだね」
フェリシアも楽しそうだ。
俺は群晶石を《収納》へしまった。
これで採取依頼は十分達成できそうだ。
それに、テリーとステフの戦闘訓練もできた。
途中で少し危ない場面もあったけど、二匹ともいろいろなことを覚えてくれたみたいだ。
今回の探索は、大成功だな。
◇
「テリー、ステフ。今日はよく頑張ったね」
俺は二匹の頭を撫でた。
「ワフ!」
「キュ!」
どちらも嬉しそうだ。
「二匹とも、もっと戦いたいみたいだよ!」
ルナが笑った。
「そうみたいだね。でも、今日はここまでにしようか」
「ワフ……」
「キュ……」
ちょっと残念そうだ。
「また練習しようね。今度はもっといろいろな戦い方を試してみよう」
「ワフ!」
「キュ!」
すぐに元気になった。
フェリシアが二匹を見つめて微笑んだ。
「これからは、戦うときも頼りにできそうだね」
「うん。でも、まだ小さいから無理はさせないようにしよう」
「そうだね」
俺はテリーとステフを見た。
テリーは地上を素早く走り、ステフは空から炎を吐く。
二匹の戦い方は、まったく違う。
それに、今日の戦闘ではルナがテリーを助け、俺がステフを助けた。
どれだけ強くなっても、一人で全部できるわけじゃない。
仲間がいれば、危ないときには助け合えるんだ。
「これで、みんなで冒険できるね!」
ルナが嬉しそうに言った。
「うん!」
フェリシアも頷いた。
俺は二匹の頭をもう一度撫でた。
「じゃあ、これからもよろしくね。テリー、ステフ」
「ワフ!」
「キュ!」
元気な声が、ダンジョンに響いた。
さて。
次はミナリアへ戻って、ヴィクトルさんに群晶石を届けよう。
七十七個もあると知ったら、どんな顔をするだろう?
ちょっと楽しみだな。
【保有:353,220P】
【累計獲得P:1,110,430P】
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