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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第10章 再び南へ

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203/212

第203話 第50階層の階層主

新連載もよろしくお願いします!

『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。

お手すきの際に是非!

https://ncode.syosetu.com/n5173mx/1からご覧いただけます。

 四十九階層で少し休憩したあと、俺たちは五十階層へ向かう階段を下り始めた。


「いよいよ五十階層だね!」


 ルナが嬉しそうに言った。


「うん。ここまで来られるなんてね」


「このダンジョン、何階層まで続いているんだろう?」


「どうだろう。まだまだ続くかもしれないね」


 俺は竜爪剣の柄に手を添えた。


 さっき手に入れた《剣神》。


 四十九階層では、その力を十分に実感できた。


 フェリシアの《魔神》も、ルナの《弓神》もすごかった。


 でも、まだ手に入れたばかりだ。


 これからどんな魔物が現れるのか、楽しみだな。


「ワフ!」


「キュ!」


 後ろからテリーとステフが元気よく鳴いた。


「二匹とも、今日は見学だからね」


「ワフ……」


 テリーが少し残念そうな顔をする。


「今度、浅い階層で一緒に練習しようね」


「ワフ!」


「キュ!」


 二匹とも嬉しそうだ。


 よし。


 それじゃあ、行こうか。


 ◇


 階段を下りきった俺は、思わず足を止めた。


「……広い!」


 目の前には、とてつもなく大きな空間が広がっていた。


 天井は見上げるほど高く、奥の壁が霞んで見えるほどだ。


 幅も相当ある。


 しかも、床も壁も、黒っぽい岩でできていた。


「すごいね……」


 ルナが辺りを見回す。


「こんなに大きな広間、初めて見たよ!」


「うん。それに、岩もかなり頑丈そう」


 フェリシアが近くの壁を見つめた。


 確かに、岩壁にはほとんど継ぎ目がない。


 床も分厚い一枚岩のようで、天井まで伸びる太い岩柱が何本も立っている。


 これだけ広くて頑丈なら、巨大な魔物が暴れても簡単には崩れないだろう。


「フェリシア、ここなら八つのオービットも思い切り使えそうだね」


「うん!でも、今度は洞窟を壊さないようにするよ」


「そうだね」


 四十九階層では、危うく天井を崩してしまうところだった。


 今回は気をつけよう。


 俺は《魔力感知》を使った。


 ……ん?


 広間の奥から、巨大な魔力の反応がある。


「二人とも、何かいるよ」


「魔物?」


「うん。相当強そうだ」


 俺たちは慎重に進んだ。


 すると。


 ズシン……。


 地面が揺れた。


 ズシン……。


 もう一度。


「……何の音?」


 ルナが弓を構えた。


 次の瞬間。


 グルルルル……!


 広間の奥から、低い唸り声が響いた。


 そして、巨大な影がゆっくりと姿を現した。


「……うわっ!」


 とんでもなく大きな四足歩行の魔物だった。


 全長は十二メートルくらいあるだろうか。


 全身が黒い岩石のような装甲で覆われ、頭には二本の太い角が生えている。


 鋭い牙。


 岩を踏み砕きそうな太い四肢。


 そして、紫色に輝く眼。


 俺はすぐに《鑑定》を使った。


【アビスベヒーモス】


【極めて高い攻撃力と防御力を持つ巨大魔獣。強固な装甲で全身を覆い、強力な魔力弾を操る】


「アビスベヒーモスだって……」


「強そう!」


 ルナが目を輝かせた。


「うん。でも、今の私たちなら戦えると思う」


 フェリシアも落ち着いている。


 そのとき。


 グオオオオオッ!


 アビスベヒーモスが咆哮した。


 空気がビリビリと震える。


「……来るよ!」


 俺は竜爪剣を抜いた。


「テリー!ステフ!階段の奥で待っていて!」


「ワフ!」


「キュ!」


 二匹が急いで後ろへ下がった。


 よし。


 まずは相手の強さを確かめよう。


「二人とも、援護をお願い!」


「任せて!」


「うん!」


 俺は地面を蹴った。


 ズシン!


 アビスベヒーモスが巨大な前脚を振り上げる。


 速い!


 あれだけ大きな身体なのに、想像以上の速さだ。


 でも。


 ……見える!


 前脚がどこへ落ちるのか。


 次にどう動くのか。


 自然と分かる。


 俺はわずかに横へ動いた。


 ドゴォン!


 前脚が地面に叩きつけられ、黒い岩の床が砕けた。


 ……すごい威力だな。


 まともに受けたら危ない。


 俺はそのまま魔物の横へ回り込んだ。


「はあっ!」


 ザンッ!


 竜爪剣を振り抜く。


 ガキィン!


「……硬い!」


 黒い装甲に傷はついたものの、ほとんど斬れていない。


 アビスベヒーモスがこちらを振り向いた。


 巨大な角が迫ってくる。


 俺はその動きを見切り、後ろへ跳んだ。


 ブオンッ!


 角が目の前を通り過ぎる。


 なるほど。


 動きは読めるけど、あの装甲をどうにかしないといけないな。


「アレン!」


 フェリシアの声がした。


「《魔弾》!」


 ドンッ!


 青白い魔弾がアビスベヒーモスの横腹に命中した。


 しかし、爆煙が晴れても、魔物は平然としていた。


「普通の魔弾じゃ駄目みたい!」


「かなり頑丈だね!」


 続いてルナが矢を放った。


 ヒュンッ!


 ガキン!


 矢は装甲に弾かれた。


 でも、ルナはすぐに次の矢をつがえた。


「じゃあ、ここ!」


 ヒュンッ!


 今度の矢は前脚の関節に突き刺さった。


 グルルッ!


 アビスベヒーモスがわずかに体勢を崩す。


「アレン!関節なら通るよ!」


「ありがとう!」


 なるほど。


 どれだけ硬い装甲でも、関節までは完全に覆えないんだな。


 そのとき。


 アビスベヒーモスが大きく頭を持ち上げた。


 二本の角が紫色に輝き始める。


「……何か来る!」


 次の瞬間。


 シュシュシュシュッ!


 角の周囲から、紫色の魔力弾が次々と飛び出した。


 十発。


 二十発。


 ……まだ増える!?


 あっという間に三十発近い魔力弾が、広間いっぱいに広がった。


 しかも、それぞれが別の角度から俺たちへ向かってくる。


「フェリシア!」


「任せて!」


 ふわっ。


 八つのオービットが浮かび上がる。


「アレン!ルナ!私の近くへ!」


 俺たちは急いでフェリシアのそばへ移動した。


 フェリシアが両手を広げる。


 シュンッ!


 八つのオービットが、一斉に散った。


 二つは正面。


 二つは左右。


 さらに二つが頭上へ。


 残る二つは、俺たちの背後へ回り込んだ。


 八つの青白い光が、俺たちを包み込むように配置された。


「……いくよ!」


 フェリシアが右手を振った。


「《魔弾》!」


 ドドドドッ!


 正面のオービットから、青白い魔弾が放たれた。


 迫っていた紫色の魔力弾に命中する。


 ドォン!


 空中で爆発が起こった。


 しかし、敵の魔力弾はまだまだ残っている。


 今度は右から五発。


 さらに左からも六発。


 その瞬間。


 シュシュッ!


 左右のオービットが一斉に向きを変えた。


 ドドドドドッ!


 青白い魔弾が連続して放たれ、紫色の光を次々と撃ち落とす。


「わあっ!」


 ルナが声を上げた。


 しかし、アビスベヒーモスの攻撃はそれだけではなかった。


 上空から、さらに魔力弾が降ってくる。


「上!」


 俺が叫ぶより早く、頭上の二つのオービットが動いた。


 青白い光が交差する。


 ドォン!


 ドォン!


 次々と爆発が起こった。


 まるで、俺たちの周囲に光の防壁ができたみたいだ。


 しかも、オービットは一か所に留まらない。


 右から攻撃が来れば、右へ。


 上から来れば、頭上へ。


 八つの石が目まぐるしく飛び回り、敵の魔力弾を迎撃していく。


 だが、その防御網を二発の魔力弾がすり抜けた。


「フェリシア!」


「大丈夫!」


 フェリシアが左手を引いた。


 シュンッ!


 背後にいた二つのオービットが、すさまじい速さで前方へ飛んだ。


 そして、俺たちの目の前で急停止する。


「そこっ!」


 ドンッ! ドンッ!


 二発の青白い魔弾が放たれた。


 ドガァン!


 紫色の魔力弾が、目の前で砕け散った。


「……おおっ!」


 八つのオービットが作り出す、光の防壁。


 ただ守るだけじゃない。


 迫ってくる攻撃を見極め、必要な場所へオービットを移動させて迎撃しているんだ。


 これなら、どの方向から攻撃されても対応できる。


 最後の魔力弾が空中で爆発した。


 フェリシアが小さく息を吐く。


「ふう……。全部防げたね!」


「すごかったよ、フェリシア!」


 ルナが嬉しそうに言った。


「ありがとう!でも、八つを同時に動かすのは、まだ少し大変かな」


「魔力は大丈夫?」


 俺が尋ねると、フェリシアは頷いた。


「うん。さすがに結構使ったけど、まだまだ余裕はあるよ!」


 それならよかった。


 それにしても、攻撃だけじゃなく、防御までできるなんて。


 オービットには、まだまだ可能性がありそうだな。


 ◇


 グオオオオッ!


 アビスベヒーモスが再び咆哮した。


 自分の魔力弾がすべて防がれたことに、怒っているみたいだ。


 巨大な前脚を踏み鳴らし、こちらへ突進してくる。


 ズシン!ズシン!


 岩の床に亀裂が走る。


「アレン!今度は私がやってみる!」


 ルナが弓を構えた。


「お願い!」


 ヒュンッ!


 一射目。


 矢はアビスベヒーモスの右前脚の関節へ飛んだ。


 ドスッ!


 命中。


 さらに。


 ヒュンッ!


 二射目は左前脚の関節へ。


 グルルッ!


 巨大な魔物が体勢を崩した。


 それでも、突進は止まらない。


 ルナは落ち着いて三本目の矢をつがえた。


 相手の動きを読んでいるのだろうか。


 弓の向きが、魔物の進む方向よりも少し先を向いた。


「……そこ!」


 ヒュンッ!


 放たれた矢が、アビスベヒーモスの右眼のすぐそばへ突き刺さった。


 グギャアアッ!


 魔物が大きく頭を振った。


 その勢いで突進の方向が変わり、俺たちの横を通り過ぎていく。


 ドゴォン!


 巨体が岩柱にぶつかった。


 だが、岩柱は表面が少し砕けただけだった。


 ……やっぱり、この広間は相当頑丈だな。


「やった!」


 ルナが笑顔を見せた。


「全部狙ったところに当たってたね!」


「えへへ!《風読み》で動きを読んで、《弓神》で狙うと、すごく当てやすいんだ!」


 なるほど。


 二つの能力がうまく組み合わさっているんだな。


 しかも、矢を放つまでの時間も短い。


 ルナも本当に強くなった。


「アレン!」


 今度はフェリシアが声をかけてきた。


「そろそろ、私も本気で攻撃してみたい!」


「八つのオービット?」


「うん!それに、私からの魔弾も一緒に使ってみる!」


「……おおっ!」


 八つのオービットからの魔弾。


 さらにフェリシア自身が放つ五連の魔弾。


 合わせて十三発か!


「やってみよう!でも、素材が残るように気をつけてね!」


「うん!」


 フェリシアが一歩前へ出た。


 八つのオービットが、彼女の周囲をゆっくりと回り始める。


 青白い光が、次第に強くなっていった。


「……いくよ!」


 シュンッ!


 最初の一つが飛び出した。


 それを追うように、残る七つも一斉に加速する。


 シュシュシュシュッ!


 八つのオービットが、広い空間を縦横無尽に飛び回った。


 一つは天井近くへ。


 二つは左右から大きく回り込む。


 三つは魔物の背後へ。


 残る二つは低空を滑るように移動した。


 八つの青白い光が、アビスベヒーモスを取り囲んだ。


 グルルル……。


 魔物が頭を振り、周囲を見回す。


 しかし、八つのオービットは止まらない。


 右へ向かったかと思えば、次の瞬間には左へ。


 上昇したかと思えば、急降下する。


 まるで八つの石が、それぞれ意思を持っているかのようだ。


 フェリシアが両手を前へ出した。


 すると、彼女の前にも五つの青白い光が現れた。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 四つ。


 五つ。


 五つの魔力弾が、扇状に並んで浮かんでいる。


 その光が、徐々に強くなっていく。


「……十三発!」


 ルナが呟いた。


 八つのオービット。


 そして、五つの魔力弾。


 すべてがアビスベヒーモスへ向けられていた。


 フェリシアが大きく息を吸う。


「……全部、同じタイミングで!」


 八つのオービットが一斉に停止した。


 その瞬間、俺は気づいた。


 八つの石は、ただ魔物を囲んでいるわけじゃない。


 それぞれが、左肩の装甲を狙える位置に移動していたんだ。


 しかも、フェリシア自身の五連の魔弾も、同じ場所を向いている。


 ……まさか。


 十三発を、ほぼ同時に命中させるつもりなのか!?


「《魔弾》!」


 フェリシアの声が響いた。


 次の瞬間。


 遠くに配置されたオービットから、青白い光が放たれた。


 ドンッ!


 続いて左右のオービットが輝く。


 ドドンッ!


 さらに背後と頭上。


 次々と魔弾が飛び出していく。


 飛距離に合わせて、発射のタイミングをずらしているんだ!


 八方向から放たれた魔弾が、アビスベヒーモスへ迫る。


 正面。


 左右。


 背後。


 頭上。


 そして地面すれすれ。


 青白い光が、巨大な魔物を包囲するように収束していく。


 その瞬間。


「魔弾!」


 フェリシアが両手を突き出した。


 ドドドドドッ!


 五発の魔弾が、凄まじい勢いで飛び出した。


 先に放たれた八発を追うように、青白い光が空間を切り裂いていく。


 十三発。


 すべてが、同じ一点を目指していた。


 アビスベヒーモスが前脚を踏ん張った。


 黒い装甲が紫色に輝く。


 しかし、もう遅い。


 十三の光が、ほぼ同時に左肩へ到達した。


 ドガァァァァァァン!!


 耳をつんざくような轟音が響いた。


「うわっ!」


 俺は思わず腕で顔をかばった。


 爆発の中心から、青白い光が一気に広がる。


 巨大な衝撃波が地面を走り、砂埃を巻き上げた。


 アビスベヒーモスの黒い装甲に、無数の亀裂が走る。


 そして。


 バキバキバキィッ!


 分厚い装甲が、内側から弾け飛んだ。


 黒い破片が四方へ飛び散る。


 グオオオオオッ!


 アビスベヒーモスが絶叫した。


 十二メートルもの巨体が、衝撃で横へ押し出されていく。


 太い四肢が地面を削り、黒い岩の床に長い溝を作った。


 それでも勢いは止まらない。


 ズズズズッ!


 巨体が数メートルも滑り、ついに左前脚を折った。


 ドォォン!


 巨大な肩が地面に落ちる。


 砂煙が、天井近くまで立ち上った。


「…………」


 なんだ、今の威力は。


 四十九階層で見せた八つのオービットだけでも、とんでもなかった。


 それなのに、今回はフェリシアの放つ魔弾まで加わっている。


 しかも、十三発がほぼ同時に命中した。


 あれだけ頑丈だった装甲を、まとめて砕いてしまった。


 やがて砂煙が薄くなった。


 アビスベヒーモスは、まだ生きていた。


 しかし、左肩の装甲は大きく砕け、下の肉が露出している。


 あれほど巨大だった魔物が、片膝をつくように身体を低くしていた。


「……やりすぎちゃった?」


 フェリシアが少し心配そうに言った。


「フェリシア、すごかったよ!」


「でも、素材は残ってるかな?」


「うん。大丈夫そうだよ」


「よかったあ……」


 フェリシアが胸を撫で下ろした。


 ルナも目を輝かせている。


「フェリシア、格好よかったよ!」


「ありがとう!」


 フェリシアは嬉しそうに笑ったあと、少し肩を落とした。


「でも、さすがに魔力を使ったね。十三発を同じ場所に当てるのって、思ったより大変だったな」


「そうなんだ」


「うん。でも、次はもっと上手にできると思う!」


 それなら、まだまだ強くなれそうだな。


 俺はふと天井を見上げた。


 あれだけの爆発が起きたのに、岩壁にも天井にも大きな損傷はない。


 床には亀裂が走り、岩柱の表面も削れているけど、広間全体はびくともしていなかった。


 やっぱり、ここは特別に頑丈な場所なんだな。


 ◇


 グルルルル……。


 低い唸り声が聞こえた。


 アビスベヒーモスが、ゆっくりと身体を持ち上げようとしている。


「……まだ動けるんだ」


 ルナが驚いた。


「さすが階層主だね」


 俺は竜爪剣を構え直した。


 左肩の装甲は、ほとんど残っていない。


 首の付け根にも、大きな隙間ができている。


 これなら、俺の剣も通るはずだ。


「二人とも、最後は俺がやってみてもいい?」


「もちろん!」


「お願い、アレン!」


「ありがとう!」


 俺は地面を蹴った。


 アビスベヒーモスが頭を持ち上げ、二本の角を紫色に輝かせる。


 ……また魔力弾か!


 しかし。


「そうはさせないよ!」


 フェリシアが右手を振った。


 シュンッ!


 八つのオービットが再び動き始める。


 今度は魔物の頭の周囲へ集まった。


 ドンッ!ドンッ!


 左右から魔弾が命中する。


 グオッ!


 アビスベヒーモスが頭を振った。


 角に集まりかけていた魔力が散っていく。


 その隙に、俺は一気に距離を詰めた。


 しかし、巨大な前脚が振り上げられる。


 その瞬間。


「そこっ!」


 ヒュンッ!


 ルナの矢が、前脚の関節に命中した。


 グギャッ!


 アビスベヒーモスの身体が傾く。


 さらに、ルナは続けてもう一本の矢を放った。


 ヒュンッ!


 今度は首の近くに突き刺さる。


 魔物が痛みに頭を下げた。


「アレン!今よ!」


「ありがとう!」


 俺はその瞬間を逃さなかった。


 地面を強く蹴り、魔物の左側へ踏み込む。


 砕けた装甲。


 首の付け根にできた隙間。


 そこが、はっきりと見えた。


 ……いける!


 俺は竜爪剣を構えた。


 今なら分かる。


 どの角度で刃を入れればいいのか。


 どこへ力を込めればいいのか。


 そして、どのタイミングで踏み込めばいいのか。


 考えるよりも先に、身体が動いていた。


 アビスベヒーモスが最後の抵抗とばかりに頭を振る。


 巨大な角が迫った。


 俺はわずかに身体をひねった。


 角が肩先をかすめるように通り過ぎる。


 その勢いを利用して、さらに一歩踏み込んだ。


 普通なら、剣を振れるような体勢じゃない。


 でも、不思議と無理なく動ける。


 俺は竜爪剣を下から斜めに振り上げた。


「はあああっ!」


 ザシュッ!


 刃が、砕けた装甲の隙間へ滑り込んだ。


 そのまま手首を返す。


 刃の角度をわずかに変え、硬い装甲を避けながら奥へ通していく。


 そして。


「これで……終わりだ!」


 ザシュウッ!


 竜爪剣を一気に振り抜いた。


 グオオオオオッ!


 アビスベヒーモスが大きく身体を震わせた。


 そして。


 ズズズズ……。


 巨大な身体が、ゆっくりと傾いていく。


 ドゴォォォン!


 地面が大きく揺れた。


 砂埃が舞い上がる。


 俺は竜爪剣を構えたまま、倒れた魔物を見つめた。


 ……動かない。


 そのとき。


【80,000P獲得】


「……えっ!?」


 俺は思わず表示を見直した。


 八万P!?


 すごい!


 四十階層のゴールドスライムを倒したときは、三万Pだった。


 それを大きく上回っている。


「アレン、どうしたの?」


 ルナが駆け寄ってきた。


「八万Pも手に入ったんだ!」


「ええっ!そんなに!?」


「うん!びっくりしたよ!」


 フェリシアも笑顔を見せた。


「それだけ強い魔物だったんだね!」


「そうみたい。でも、三人で戦ったら、思ったよりうまく倒せたね」


「うん!」


 ルナが嬉しそうに頷く。


 今回は、三人の力をうまく合わせることができた。


 フェリシアの魔弾が硬い装甲を砕き、ルナの矢が魔物の動きを止めてくれた。


 そして、俺の《剣神》でとどめを刺すことができた。


 三人とも、本当に強くなったんだな。


 ◇


 俺は倒れたアビスベヒーモスを見上げた。


 全長十二メートルほどの巨大な魔物だ。


 黒い装甲も、太い角も、かなり珍しい素材になりそうだな。


「これも持ち帰ろうか」


「うん! きっと高く売れるよ!」


 ルナが嬉しそうに言った。


「装甲も頑丈そうだし、何かに使えるかもしれないね」


 フェリシアも興味津々だ。


 俺はアビスベヒーモスに手を触れた。


「《収納》」


 シュンッ!


 巨大な身体が、一瞬で消えた。


 よし。


 これで回収完了だ。


 さて。


 この先は、どこへ続いているんだろう?


 俺は広間の奥を見た。


 しかし、階段らしきものは見当たらない。


「……あれ?」


「どうしたの、アレン?」


「いや、次の階層へ行く階段がないなと思って」


 ルナとフェリシアも辺りを見回した。


「本当だね」


「もしかして、どこかに隠されているのかな?」


 そのとき。


 ピロンッ!


 突然、目の前に表示が現れた。


【第50階層の階層主を討伐しました】


【ミナリア西ダンジョンを踏破しました】


「……えっ?」


 俺は表示を見つめた。


 ……踏破?


 ということは。


「二人とも! このダンジョン、五十階層が最後だったみたいだよ!」


「ええっ!?」


 ルナが目を丸くした。


「そうなの!?」


「うん。ダンジョンを踏破したって表示が出てる!」


「じゃあ、私たち……」


 フェリシアが広間を見渡した。


「最後まで来ちゃったんだね!」


「そうみたい!」


 俺は笑った。


 まだ先があると思っていたけど、ここが最深部だったんだな。


「やったああ!」


 ルナが両手を上げた。


「ダンジョンクリアだね!」


「うん!」


 フェリシアも嬉しそうだ。


「三人で最後まで来られたね!」


「そうだね!」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。


 そのとき。


 ゴゴゴゴ……。


 広間の奥から、低い音が響いた。


「……何?」


 俺たちはそちらを見た。


 いつもの転移石が姿を現した。


「これで地上に戻れそうだね!」


「やったあ!」


 ルナが喜んだ。


「じゃあ、テリーとステフも呼ぼうか」


「うん!」


 俺たちは階段の奥で待っていた二匹を呼んだ。


「テリー!ステフ!終わったよ!」


「ワフ!」


「キュ!」


 二匹が元気よく駆け寄ってきた。


「二匹とも、お待たせ」


 俺は頭を撫でた。


「次は、二匹も安全なところで練習しようね」


「ワフ!」


「キュ!」


 二匹とも嬉しそうだ。


 俺は最後に《会員》の表示を開いた。


 今回獲得したのは、八万P。


 かなり大きいな。


 それに、五十階層まで踏破できた。


 フェリシアもルナも、新しい力を十分に発揮してくれた。


 今回の探索は、大成功だったと思う。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか!」


「うん!」


「帰ったら、おいしいものを食べたいな!」


 ルナが嬉しそうに言った。


「そしたら、お祝いしようか」


「やったあ!」


 フェリシアも笑った。


「私も楽しみ!」


 俺たちはテリーとステフを連れて、転移石に触れた。


 そして。


 シュンッ!


 俺たちの身体が光に包まれた。


 こうして、ミナリア西ダンジョンの探索は終わった。


 それにしても、五十階層まであるダンジョンだったなんて。


 ギルドの人たちは、どこまで知っているんだろう?


 帰ったら、報告しないと。


【保有:353,220P】

【累計獲得P:1,110,430P】

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― 新着の感想 ―
竜爪剣は長持ちだけども、そろそろ負担が大きすぎないか?
こんだけ強そうな敵がいるなら……これは踏破の記録はしばらく主人公たちだけのものになりそうですねぇ
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