第199話 久しぶりの苦戦
新連載もよろしくお願いします!
『平民出身の転生執事、最強王女を育成する』という作品です。
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金色のスライムが、再び跳び上がった。
シュンッ!
「アレン、左!」
ルナの声に反応して、俺は横へ跳んだ。
直後、金色の影がすぐ脇を通り過ぎる。
ドゴォン!
背後の岩壁が砕けた。
危なかった。
あの速度でまともにぶつかられたら、かなり痛そうだ。
「フェリシア、オービットで動きを止められそう?」
「やってみる!」
フェリシアは四つのオービットを広間の四方へ散らした。
そのうち一つを、ゴールドスライムの進行方向へ移動させる。
ドンッ!
魔弾が放たれた。
しかし、スライムは突然方向を変え、魔弾をかわした。
さらに二つ目のオービットが魔弾を放つ。
これも当たらない。
「……難しいね」
フェリシアが呟いた。
確かに、あの速さでは狙いを定めることすら難しい。
俺は《魔力感知》で動きを追いながら、ゴールドスライムを観察した。
床。
壁。
天井。
金色の身体が、次々と場所を変えていく。
しかも、跳ね返るたびに方向が変わる。
「アレン!」
今度はルナの矢が飛んだ。
しかし、これもかわされた。
「うーん。全然当たらない」
「そうだね。でも……」
俺はスライムの動きを見つめた。
何か、気になることがある。
速いのは確かなんだけど、ずっと同じ速度で動いているわけじゃない。
壁にぶつかったとき。
床に着地したとき。
ほんの一瞬だけ、動きが止まるんだ。
「ルナ、あいつが壁にぶつかる瞬間って分かる?」
「うん。風の動きで、ある程度は分かるよ!」
「じゃあ、次にどこへ飛ぶか教えてくれる?」
「任せて!」
ルナが弓を構え直した。
俺も竜爪剣を握り直す。
まずは、あの速さに慣れないとね。
◇
ゴールドスライムが右の岩壁へ向かった。
「アレン、次は左上!」
ルナが叫んだ。
俺は視線を向ける。
金色の影が壁から跳ね返り、左上へ飛んだ。
本当だ。
ルナの予測が当たっている。
なら、次は。
「ルナ、もう一回お願い!」
「うん!」
スライムが天井へぶつかる。
「下! アレンの方へ来るよ!」
俺は剣を構えた。
来る。
今度は、ちゃんと見えている。
「はあっ!」
ガキンッ!
竜爪剣が金色の身体に命中した。
しかし、また弾かれた。
「……やっぱり硬いな」
攻撃を当てることはできた。
でも、これでは倒せない。
その直後、スライムが再び俺へ向かってきた。
俺は横へ跳んだ。
ところが、着地したところで足元の岩が崩れた。
「……っ!」
わずかに体勢が崩れる。
その隙を逃さず、金色のスライムが跳ね返ってきた。
ドンッ!
「ぐっ!」
今度は剣で受け止めたけど、勢いを殺しきれなかった。
俺は後ろへ押され、岩壁の近くまで滑った。
左腕に痛みが走る。
見ると、壁に擦れたところから少し血が出ていた。
「アレン!」
フェリシアが声を上げた。
「大丈夫! かすり傷だよ!」
俺はすぐに剣を構え直した。
この程度なら戦える。
だけど、同じ攻撃を何度も受けるのはよくないな。
◇
「ねえ、アレン」
フェリシアが声をかけてきた。
「何?」
「さっき、剣が当たったときなんだけど……」
「うん」
「スライムの身体が、少しだけ変わった気がするの」
「変わった?」
「うん。壁にぶつかってから跳ね返るとき、身体が潰れて、また元に戻るでしょ?」
「ああ、確かに」
「そのときだけ、金色の表面が少し柔らかそうに見えたんだ」
俺はゴールドスライムを見つめた。
そういえば、壁にぶつかったときは身体が少し平たくなっていたな。
普段は金属みたいに硬いのに。
……もしかして。
俺は改めて《鑑定》した。
【ゴールドスライム】
【金色の硬質な身体を持つ魔物】
【極めて素早く移動する】
【高速移動中は身体の表面が硬化する】
「あっ!」
なるほど!
高速移動中は身体を硬くしているんだ。
それなら、動きが止まった瞬間はどうなんだろう?
「フェリシア、いいことに気づいたね!」
「えっ?」
「このスライム、高速で動いているときは身体が硬くなるみたいなんだ」
「そうなの?」
「うん。だから、壁にぶつかって次に跳ぶまでの一瞬を狙えば、剣が通るかもしれない」
「なるほど!」
ルナが頷いた。
「じゃあ、その瞬間に攻撃すればいいんだね!」
「うん。でも、かなり短い時間だから……」
俺は広間を見回した。
床にも壁にも、スライムがぶつかった跡がいくつも残っている。
そのうち、入口から少し離れた岩壁には、大きな窪みができていた。
あそこなら。
「二人とも、ちょっと手伝ってくれる?」
「もちろん!」
「うん!」
俺は考えた作戦を説明した。
◇
まず、フェリシアが四つのオービットを動かした。
二つは広間の右側。
残りの二つは左側。
金色のスライムは、相変わらず壁や天井を跳ね回っている。
「ルナ、次はどっち?」
「右だよ!」
「分かった!」
俺は右側へ走った。
スライムが壁にぶつかる。
その瞬間、フェリシアが進行方向の少し先へ魔弾を放った。
ドンッ!
魔弾は当たらない。
でも、スライムは進む方向を変えた。
よし。
狙いどおりだ。
続いて、別のオービットが左側へ移動する。
ドンッ!
また魔弾が床に命中する。
しかし、スライムはその場所を避けるように跳ね返った。
フェリシアは魔弾を連射せず、必要な瞬間にだけ撃っている。
俺が駆け寄る側の進路だけを、少しずつ空けてくれていた。
俺はさっき見つけた岩壁の窪みへ向かった。
「ルナ、お願い!」
「うん!」
ルナが弓を引いた。
ヒュンッ!
矢がスライムの進路を横切る。
金色の影が方向を変える。
その先には、フェリシアのオービットがあった。
ドンッ!
魔弾が床を叩く。
スライムは再び跳ね返った。
そして。
「アレン! 次、あの壁だよ!」
ルナが叫んだ。
俺は窪みのある岩壁へ視線を向けた。
金色のスライムが一直線に飛んでくる。
速い。
でも、今度は行き先が分かっている。
俺は壁の横で剣を構え、待ち受けた。
ドンッ!
スライムが窪みにぶつかった。
身体が平たく潰れ、金色の表面がわずかに波打つ。
今だ!
「はああっ!」
俺は竜爪剣を突き出した。
ザシュッ!
今度は弾かれなかった。
刃が金色の身体へ深く食い込む。
「よし!」
スライムが大きく震えた。
それでも、まだ跳ね返ろうとしている。
俺は剣を握る手に力を込めた。
「これで!」
さらに刃を押し込む。
次の瞬間、スライムの身体から力が抜けた。
金色の塊が、ゆっくりと床へ落ちる。
そして、動かなくなった。
【30,000P獲得】
「……えっ?」
俺は目の前に現れた表示を見つめた。
三万P?
間違いない。
一体で三万Pも獲得したんだ。
「やったー!」
ルナが駆け寄ってきた。
「倒せたね!」
「うん!」
フェリシアも嬉しそうに笑った。
「アレン、どうしたの?」
「ああ、ちょっと驚いてて」
「何に?」
「このスライム、三万Pだったんだよ」
「ええっ!?」
ルナが目を丸くした。
「一体で!?」
「うん」
「すごいね!」
フェリシアも驚いている。
これだけ手強い相手だったし、特別な魔物だったのかもしれないな。
◇
「それにしても、今回は結構大変だったね」
ルナが言った。
「うん。久しぶりに苦戦したね」
俺は頷いた。
「剣が当たっても弾かれるなんて、なかなかないからね」
「私の矢も全然当たらなかったもん」
「でも、最後はちゃんと動きを読めたよね」
フェリシアが言った。
「うん。フェリシアが身体の変化に気づいてくれたおかげだよ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
二人が笑い合う。
今回も三人で協力したから勝てたんだと思う。
「あっ、アレン!」
ルナが俺の左腕を指差した。
「怪我してるよ!」
「ああ、さっき壁で擦っちゃったんだ」
袖が少し破れ、腕に細い傷ができていた。
血はもうほとんど出ていない。
「大丈夫?痛くない?」
「うん。平気だよ」
フェリシアも心配そうに近づいてきた。
「でも、ポーション使った方がいいよ」
「そうだね」
俺は《収納》からポーションを一本取り出した。
蓋を開け、中身を飲んだ。
すると、腕の痛みが引き、傷口も塞がっていく。
「よし。もう大丈夫そう」
俺は腕を動かしてみた。
痛みはない。
「よかった!」
ルナが安心したように笑った。
「次は気をつけてね」
「うん。ありがとう」
ポーションを使うのも久しぶりだな。
最近はほとんど怪我をしていなかったから。
俺は空になった瓶を《収納》へしまった。
◇
「それじゃあ、これも回収しておこうか」
俺は床に残ったゴールドスライムを見た。
倒されたあとも、金色の身体はそのまま残っている。
「これ、売ったら高そうだね!」
ルナが言った。
「どうだろう。でも、珍しい魔物だしね」
俺はゴールドスライムを《収納》へしまった。
そのときだった。
ゴゴゴゴ……。
「……あっ!」
フェリシアが広間の奥を指差した。
岩壁がゆっくりと動き、大きな扉が姿を現した。
そして、その扉が開き始める。
扉の向こうには、下へ続く階段があった。
さらに、広間の片隅には淡く光る転移石がある。
「あっ、転移石だね」
「うん。登録しておこうか」
俺たちは転移石へ近づき、順番に触れた。
【第四十階層が転移先に登録されました】
これで、次に来るときは四十階層から探索できる。
◇
「それで、どうする?」
俺は二人に尋ねた。
「今日はここまでにする?」
「私はまだ元気だよ!」
ルナが答えた。
「フェリシアは?」
「うん。魔力もまだ余裕があるよ」
フェリシアが頷く。
俺もポーションのおかげで怪我は治っている。
体力もまだ十分残っていた。
「じゃあ、もう少し進んでみようか」
「うん!」
俺たちは四十一階層へ向かった。
◇
四十一階層では、黒い甲殻に覆われた大きな魔物が現れた。
俺は《鑑定》した。
【アーマービートル】
【分厚い甲殻と強靭な脚を持つ大型の魔物】
「じゃあ、いつもどおりにいこうか」
「任せて!」
ルナが弓を構えた。
フェリシアのオービットが魔物の進路へ回り込む。
さっきのゴールドスライムと違い、動きはそれほど速くない。
俺は一体の突進をかわし、脚の付け根へ竜爪剣を振り下ろした。
ザシュッ!
【3,200P獲得】
続けて二体目。
【3,200P獲得】
硬い甲殻を持っているけど、関節の隙間を狙えば剣が通る。
俺は次々と魔物を倒していった。
八体で二万五千六百P。
やっぱり、深い階層はPが多いな。
◇
その後も、俺たちは探索を続けた。
四十二階層では、大きな角を持つグランドバイソンの群れが現れた。
集団で突進してくる魔物だったけど、ルナが動きを察知し、フェリシアがオービットで隊列を崩してくれた。
俺はその隙に踏み込み、七体を倒した。
さらに四十三階層。
今度は岩のような身体を持つストーンガードが現れた。
硬い相手だったけど、動きは遅い。
俺たちは落ち着いて六体を討伐した。
ここまでで、またかなりPが増えたな。
◇
四十三階層の戦闘を終えたところで、ルナが大きく伸びをした。
「ふう!いっぱい倒したね!」
「うん。今日はこの辺りまでにしようか」
俺が言うと、フェリシアが頷いた。
「そうだね。さすがに少し疲れてきたかも」
「じゃあ、四十階層の転移石まで戻る?」
ルナが尋ねた。
「うーん……」
俺は少し考えた。
そういえば、今日買ったベッドがある。
「ねえ、せっかくだから、ここで休んでみない?」
「えっ、ダンジョンの中で?」
「うん。安全に休めそうな場所があればだけどね」
「いいね!」
ルナが目を輝かせた。
「私もベッドを使ってみたいな」
フェリシアも笑った。
「じゃあ、場所を探そうか」
◇
俺たちは周囲を調べ、通路から少し外れたところに広い空洞を見つけた。
入口は一つだけ。
その奥は行き止まりになっている。
これなら、四方から魔物に囲まれる心配は少なそうだ。
俺は《魔力感知》で周囲を確認した。
近くに魔物の反応はない。
「ここなら、少し休めそうだね」
フェリシアが言った。
「うん。でも、魔物が来ないとは限らないからね」
俺はテリーとステフを見た。
「二匹とも、周りの様子を見ていてくれる?」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーは入口の方へ向かい、鼻を動かしながら周囲を確認し始めた。
ステフも飛び上がり、入口付近の岩棚に止まった。
「ありがとう。何か来たら教えてね」
「ワフ!」
とはいえ、二匹だけに任せるつもりはない。
俺も《魔力感知》を使い、定期的に周囲を確認することにした。
◇
「じゃあ、ベッドを出そうか」
「うん!」
俺は《収納》から、今日購入したベッドを取り出した。
ドサッ。
立派なベッドが、洞窟の床に現れる。
続けて二台目。
三台目。
「わあっ!」
ルナが嬉しそうに声を上げた。
「本当にダンジョンの中にベッドが並んじゃった!」
「ちょっと不思議な光景だね」
フェリシアも笑った。
俺は敷物を広げ、ベッドを並べ直した。
買ったばかりの寝具も取り出して、それぞれのベッドに置いていく。
「できたよ」
「やったー!」
ルナが早速ベッドに腰を下ろした。
「ふかふか!」
そのまま、ぽすんと仰向けになる。
「これ、最高だね!」
「ルナ、気持ちよさそうだね」
フェリシアも自分のベッドに腰かけた。
「うん。やっぱり買ってよかったね」
俺もベッドの端に座ってみた。
柔らかい。
さっきまで硬い岩の上を歩いていたから、余計に気持ちよく感じるな。
こんな場所でも、ちゃんとしたベッドで休めるんだ。
《収納》って、本当に便利だな。
「ねえ、アレン」
ルナが寝転がったまま顔を向けた。
「何?」
「これからは、ずっとこうやって冒険できるのかな?」
「そうだね。安全な場所さえ見つかれば、できると思うよ」
「えへへ。楽しみ!」
フェリシアも微笑んだ。
「食事もおいしくなったし、寝る場所も快適になったね」
「うん。あとは安全に休めるように気をつけないとね」
俺は入口の方を見た。
テリーとステフが、しっかり周囲を警戒してくれている。
見張りについては、三人で交代する必要もあるだろう。
でも、今は少し休んでもよさそうだ。
「じゃあ、しばらく休憩しようか」
「うん!」
ルナが気持ちよさそうに伸びをした。
今日はゴールドスライムに苦戦したけど、たくさんPを獲得できた。
それに、ダンジョンの中でもこんなに快適に過ごせることが分かった。
これからの探索が、ますます楽しみになってきたな。
【保有:420,220P】
【累計獲得P:877,430P】
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