第198話 金色のスライム
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翌朝。
俺たちはミナリアの冒険者ギルドを訪れていた。
「あっ、アレンさん! おはようございます!」
受付の女性が声をかけてきた。
「おはようございます。昨日の素材の査定は終わりましたか?」
「はい。すべて完了しております」
「ありがとうございます」
女性は一枚の書類を取り出した。
「それでは、買取金額をお伝えしますね」
「はい」
「今回の魔物素材の買取総額は、二千百六十万ジェニーとなりました」
「おおっ!」
俺は思わず声を上げた。
「すごい金額だね!」
ルナも嬉しそうだ。
「うん。昨日はたくさん倒したもんね」
フェリシアが頷く。
「アビスクラーケンやデスヒドラなど、珍しい魔物の素材も含まれていましたので」
受付の女性が説明してくれた。
「三名様で均等に分配されますか?」
「はい。お願いします」
「それでは、お一人七百二十万ジェニーです」
俺たちはそれぞれお金を受け取り、《収納》にしまった。
今回の探索でずいぶん稼ぐことができたな。
◇
「そういえば、アレンさん」
受付の女性が声をかけてきた。
「本日もダンジョンへ行かれますか?」
「はい。続きを探索しようと思っています」
「それでしたら、ちょうどよい依頼がございます」
女性は新しい依頼書を取り出した。
【ミナリア西ダンジョン深層調査】
【対象:第二十六階層以降の未調査区域】
【依頼内容:階層構造、出現魔物、採取可能な資源の調査】
【推奨ランク:Aランク以上】
【報酬:3,000,000ジェニー】
「おおっ!」
俺は依頼書を見つめた。
「昨日行ったところですね」
「はい。皆様からの報告を受け、今朝から正式に募集を始めた依頼です」
受付の女性が頷く。
「ただ、現在ミナリアを拠点としているほかの冒険者は、Bランクまでの方しかいらっしゃいません」
「そうなんですね」
「ですから、今のところ受注できるのは皆様だけなんです」
「私たち、ちょうど続きを調べに行くところだったよね!」
ルナが言った。
「うん。受けておこうか」
フェリシアも頷く。
「それじゃあ、この依頼をお願いします」
「ありがとうございます!」
女性は嬉しそうに依頼書へ記入した。
「新しい魔物や採取できる素材など、分かったことがあればぜひ教えてください」
「はい。分かりました」
これで今日の探索にも目的ができた。
◇
ギルドを出たあと、俺たちは街で買い物をすることにした。
「ねえ、アレン」
ルナが声をかけてきた。
「何?」
「お昼ご飯、どうする?」
「いつもどおり、パンとか干し肉を持っていこうか」
「うーん……」
ルナが少し考え込んだ。
「ねえ、アレンとフェリシアって《収納》があるよね?」
「うん」
「だったら、お店のお料理をそのまま持っていけないかな?」
「あっ、そうか!」
確かに、俺もフェリシアも《収納》を使える。
今までは日持ちするものを持っていったけど、別に干し肉じゃないといけないわけじゃない。
「フェリシア、どう思う?」
「いいと思うよ。でも、温かい料理を入れたら、どうなるのかな?」
「試してみようか」
「うん!」
ルナが嬉しそうに頷いた。
俺たちは近くの料理店へ向かった。
◇
店に入ると、焼いた肉のいい匂いがした。
「わあ、おいしそう!」
ルナが店内を見回す。
俺たちは持ち帰り用の料理をいくつか注文した。
焼いた肉と野菜の煮込み。
焼きたてのパンに、魚料理。
それから甘いお菓子も少し。
店員が蓋つきの容器に入れてくれたところで、俺は一つを《収納》へしまった。
「入ったね!」
「うん。問題なさそうだよ」
「じゃあ、ダンジョンで取り出すのが楽しみだね!」
ルナが笑った。
そうだな。
収納できることは分かったけど、料理の温かさがどれくらい保たれるかは、実際に確かめてみよう。
俺たちは料理を受け取り、店を出た。
◇
「ねえ、アレン」
今度はフェリシアが声をかけてきた。
「何?」
「《収納》に料理が入るなら、ベッドも入るんじゃないかな?」
「ベッド?」
「うん。今後、ダンジョンで何日も探索することになったら、寝る場所が必要でしょ?」
「あっ、なるほど」
今までなら野営用の寝具を持ち歩くことになるけど、《収納》があるなら大きなベッドも運べるかもしれない。
「それなら、ふかふかのベッドがいいな!」
ルナが嬉しそうに言った。
「そうだね。お金もあるし、いいものを買おうか」
「やったー!」
俺たちは家具店へ向かった。
店にはさまざまなベッドが並んでいた。
ルナが一台のベッドに腰を下ろす。
「わあ、これ、すごく気持ちいいよ!」
フェリシアも隣のベッドを確かめた。
「本当だね。こっちも寝心地がいいよ」
俺もいくつか試してみた。
せっかくだから、しっかり休めるものを選びたい。
店員に勧めてもらったのは、丈夫な木枠と厚い寝具を組み合わせた上質なベッドだった。
「これ、よさそうだね」
「うん。私もこれがいい!」
「私も同じものにしようかな」
俺たちは三人分のベッドと寝具を購入した。
さらに、野営用の天幕や敷物も買っておく。
ダンジョンの中で使うなら、寝心地だけじゃなく、安全にも気をつけないとね。
「じゃあ、収納してみようか」
店員の許可をもらい、俺はベッドを一台ずつ《収納》へしまった。
どれも問題なく入った。
「これなら、長く探索するときも安心だね!」
フェリシアが言った。
「うん。安全な場所を見つけられたら、ゆっくり休めそうだよ」
「早く使ってみたいな!」
ルナが笑った。
俺も少し楽しみになってきた。
それから、俺たちはミナリア西ダンジョンへ向かった。
◇
入口で冒険者証を見せ、ダンジョンの中へ入る。
「今日は三十階層から始めようか」
俺が言うと、ルナが頷いた。
「うん。昨日の続きだね!」
俺たちは転移石へ向かった。
転移先には、これまでに到達した階層が表示されている。
その中から三十階層を選ぶと、淡い光が足元に広がった。
次の瞬間、俺たちは見覚えのある広間に立っていた。
「着いたね!」
ルナが辺りを見回す。
昨日倒したデスヒドラの姿はない。
広間の奥には、大きな扉が開いたままになっていた。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
俺たちは扉を抜け、下へ続く階段を進んだ。
◇
三十一階層に入ると、すぐに魔物が現れた。
黒い毛皮に覆われた狼のような魔物だ。
俺は《鑑定》した。
【シャドーウルフ】
【暗い場所で素早く動き、群れで獲物を襲う魔物】
「八体いるね」
フェリシアが言った。
「うん。じゃあ、お願いできる?」
「任せて!」
フェリシアは四つのオービットを取り出した。
ただし、今日はすぐに《魔弾》を撃たなかった。
オービットを魔物の左右へ移動させ、逃げ道を塞いでいく。
シャドーウルフたちは俺たちを囲もうとしたけど、オービットが進路に回り込むたび、動きを変えていた。
「アレン、今だよ!」
ルナの矢が先頭の一体に命中する。
「うん!」
俺は竜爪剣を振り下ろした。
ザシュッ!
【2,300P獲得】
続けて二体目。
【2,300P獲得】
ほかのシャドーウルフも次々と襲いかかってきたけど、ルナとフェリシアの援護があれば問題ない。
俺は八体すべてを仕留めた。
「うん。いい感じだね」
フェリシアが四つのオービットを手元へ戻した。
「魔弾をあまり撃たなくても、結構役に立てそう」
「うん。すごく助かったよ」
俺も頷いた。
魔力の消費を抑えながら戦えるなら、長い探索でも安心だ。
◇
その後も、魔物との戦闘が続いた。
三十二階層では、岩のように硬い皮膚を持つ大型の魔物が現れた。
フェリシアがオービットで動きを制限し、ルナが矢で牽制する。
その隙に俺が踏み込み、竜爪剣で仕留めていった。
さらに三十三階層。
ここでも魔物を倒しながら進み、俺たちは順調に階層を下りていった。
◇
「ねえ、そろそろお昼にしない?」
三十三階層を抜けたところで、ルナが言った。
「あっ、そうだね」
俺も少しお腹が空いていた。
《魔力感知》で周囲を確認すると、近くには魔物の反応がない。
俺たちは広めの場所を見つけ、休憩することにした。
「じゃあ、市場で買った料理を出してみようか」
「うん!」
俺は《収納》から料理を取り出した。
蓋つきの容器を開ける。
すると、温かい湯気が立ち上った。
「わあっ!」
ルナが目を輝かせる。
「まだ温かい!」
「本当だね」
フェリシアも驚いている。
結構、時間が経っているのに、料理は温かいままだった。
「《収納》の中だと、冷めないのかな?」
「そうかもしれないね。でも、もっと長い時間だとどうなるんだろう?」
そこまではまだ分からない。
でも、これなら旅の途中の食事も美味しい食事ができそうだ。
俺たちは料理を取り分けた。
「いただきます!」
ルナが焼いた肉を口に運ぶ。
「おいしい!」
フェリシアも煮込み料理を食べて、嬉しそうに頷いた。
「ダンジョンの中で、こんな料理が食べられるなんてね」
「うん。これなら、食事の楽しみも増えそうだよ」
俺もパンをちぎり、肉と一緒に食べた。
やっぱり、干し肉よりずっといい。
「次は別のお店の料理も買おうよ!」
ルナが言った。
「いいね」
こうやっていろいろ工夫するのも、冒険の楽しみの一つかもしれない。
なんで今まで気が付かなかったんだろう。
◇
昼食を終えた俺たちは、探索を再開した。
三十四階層。
三十五階層。
三十六階層。
魔物の数は増えていったけど、三人の連携もよくなってきた。
ルナや俺が魔物の動きを察知し、フェリシアは四つのオービットを俺の周囲へ配置する。
俺は襲いかかってくる魔物を次々と斬り倒していった。
フェリシアは、オービットを俺の死角へ回す練習もしていた。
背後に魔物が近づけば、そこへ一つを移動させる。
左右から同時に襲われれば、それぞれの進路へ回り込ませる。
魔弾を撃たなくても、相手の動きを制限できるのは便利だ。
俺も安心して前の魔物に集中できる。
「フェリシア、だいぶ慣れてきたね」
「うん。四つを動かすのが、前より自然になってきた気がする」
「そうなんだ。よかったね」
俺たちはその後も戦闘を重ね、三十七階層へ進んだ。
◇
「あれ?アレン、見て!」
ルナが岩壁を指差した。
壁の一部が、微かに青白く光っている。
「……あっ」
俺は近づいて《鑑定》した。
【群晶石】
「やっぱり群晶石だね」
「二十六階層だけじゃないんだ!」
ルナが言った。
「そうだね。深い階層には、ほかにも埋まっているのかもしれない」
俺は周囲の岩壁を調べてみた。
少し離れた場所にも、群晶石が見つかった。
「また持って帰ろうよ」
「うん。取り出しやすいものだけにしようか」
俺たちは《鑑定》で位置を確認しながら、岩壁を慎重に削った。
今回手に入ったのは五個だ。
「また研究用に持っていけるね」
フェリシアが言った。
「うん。前回もギルドの人が喜んでくれたしね」
俺は五個の群晶石を《収納》へしまった。
これだけ何度も見つかるなら、ミナリア西ダンジョンの深層は、群晶石の産地なのかもしれないな。
◇
三十八階層と三十九階層でも、俺たちは多くの魔物と戦った。
中には、素早い魔物や硬い甲殻を持つ魔物もいたけど、ここまで来ると三人とも戦い方に慣れている。
ルナが魔物の動きを読み、フェリシアがオービットで援護する。
俺は竜爪剣を振るい、次々と魔物を倒していった。
何度も戦闘を繰り返しているのに、今日はまだそれほど疲れていない。
フェリシアも魔力の使い方を工夫しているから、昨日ほど消耗していないみたいだ。
やがて、通路の奥に階段が現れた。
「あっ、また階段があるよ!」
ルナが指差す。
「次は四十階層だね」
俺が言うと、フェリシアが頷いた。
「階層主がいるかもしれないね」
「どうする?今日はここまでにする?」
俺が尋ねると、ルナが首を横に振った。
「私はまだ元気だよ!」
「私も大丈夫。魔力もまだ余裕があるから」
フェリシアも答えた。
俺もそれほど疲れていない。
「じゃあ、四十階層まで行ってみようか」
「うん!」
俺たちは階段を下りていった。
◇
四十階層は、大きな広間になっていた。
床も壁も、滑らかな岩でできている。
広間の中央には、一体の魔物がいた。
「あれ?」
ルナが首を傾げた。
「……スライム?」
そこにいたのは、金色に輝くスライムだった。
大きさは、それほどでもない。
これまでの階層主と比べれば、ずいぶん小さい。
俺は《鑑定》した。
【ゴールドスライム】
【金色の硬質な身体を持つ魔物】
【極めて素早く移動する】
「ゴールドスライムか……」
「きれいな色だね」
ルナが言った。
「うん。でも、階層主みたいだから気をつけよう」
俺は竜爪剣を構えた。
ゴールドスライムは、広間の中央でゆっくりと身体を揺らしている。
そのとき。
シュンッ!
「……え?」
金色の姿が、突然消えた。
「アレン、右!」
ルナが叫んだ。
俺は反射的に横へ跳ぶ。
ドンッ!
すぐ横の岩壁に、金色の何かが衝突した。
岩が砕け、小さな破片が飛び散る。
「速い!」
ルナが驚く。
スライムは壁から跳ね返ると、今度は天井へ飛んだ。
そのまま、ほとんど止まることなく方向を変える。
床。
壁。
天井。
金色の影が、広間のあちこちを飛び回っていた。
俺は《魔力感知》で位置を追った。
反応は分かる。
でも、次にどこへ移動するのかまでは読めない。
「フェリシア、狙えそう?」
「やってみる!」
四つのオービットが広がった。
フェリシアはスライムの進路へ一つを移動させる。
そして、魔弾を放った。
ドンッ!
だが、スライムは直前で方向を変えた。
魔弾が床に命中する。
「……外れた」
フェリシアが呟いた。
今度は二つのオービットを別々の方向へ回す。
しかし、スライムはその間を一瞬で通り抜けてしまった。
「じゃあ、私が!」
ルナが弓を引いた。
ヒュンッ!
矢が飛ぶ。
しかし、金色のスライムは壁を蹴るように方向を変え、矢をかわした。
続けてもう一本。
今度はスライムの進む先を狙う。
だが、これも当たらない。
「……速すぎるね」
ルナが弓を構え直した。
確かに、これは厄介だ。
俺はスライムの動きを見つめた。
壁から壁へ跳ねるたびに、移動する方向が変わる。
しかも、速度がほとんど落ちない。
普通のスライムとは、ずいぶん違うな。
そのとき、スライムが俺の正面へ飛んできた。
「……来た!」
俺は竜爪剣を振るった。
ガキンッ!
刃が金色の身体に当たった。
だが。
「……硬い!」
剣が弾かれた。
スライムはほとんど勢いを失わず、再び壁へ跳ね返る。
今度は、さっきより高い位置へ飛んだ。
そして、天井から俺へ向かって落ちてくる。
「アレン、上!」
ルナが叫んだ。
俺はすぐに後ろへ跳ぶ。
ドゴォン!
スライムが地面に衝突し、岩が砕けた。
すごい威力だ。
これをまともに受けたら危ないな。
だが、次の瞬間だった。
金色のスライムが、地面を弾くように飛び上がった。
俺の目の前で、突然進路を変える。
「……っ!」
剣を構え直したときには、もう目の前まで迫っていた。
ドンッ!
「ぐっ!」
硬い身体が、俺にぶつかった。
強い衝撃が走る。
俺は後ろへ押し飛ばされ、数歩下がって踏みとどまった。
「アレン!」
ルナが声を上げる。
「大丈夫!」
俺はすぐに姿勢を立て直した。
胸のあたりに鈍い痛みが残っている。
大きな怪我ではなさそうだけど、かなり強い衝撃だった。
スライムは再び広間の中央へ戻っていた。
金色の身体をゆっくり揺らしている。
「アレン、怪我は?」
フェリシアが心配そうに尋ねた。
「うん。大丈夫。でも、結構強いね」
俺はゴールドスライムを見つめた。
魔力の反応を追っても、動きが速すぎる。
ルナの矢も、フェリシアの魔弾も当たらない。
ようやく剣が当たっても、硬い身体に弾かれてしまった。
しかも、あの速さで体当たりしてくる。
これは、今までとは違う戦い方が必要そうだな。
「……どうしようかな」
俺は竜爪剣を構え直した。
そのとき、金色のスライムが再び跳び上がった。
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