第193話 不思議な魔石
新連載はじめました!
『王女殿下、まずは拳をお下げください ~転生執事と最強王女の成り上がり~』という作品です。
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翌朝。
俺たちは、冒険者ギルドを訪れていた。
昨日預けた魔物の素材の査定結果を聞くためだ。
「あっ、皆さん! おはようございます!」
受付の女性が笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます。昨日の素材はどうでしたか?」
「はい。査定、終わりました」
女性は手元の書類を確認した。
「買取金額は、全部で四百八十六万ジェニーになります!」
「結構な金額になったね」
「そうだね」
フェリシアが頷く。
「じゃあ、三人で百六十二万ジェニーずつだね!」
ルナも嬉しそうだ。
「それから、昨日お預かりした群晶石についても、ご報告があります」
「ああ、あの魔石だね」
「はい。調べてみたところ、これまでにほとんど採取された記録がない、とても珍しい魔石だと分かりました」
「そんなに珍しいの?」
ルナが身を乗り出す。
「はい。ただ、何に使えるのかは、まだよく分かっていないそうなんです」
「そうなんだ」
「一つだけ、不思議な性質が確認できたそうでして……」
「どんな?」
「どうやら、人間の魔力を通すことができるようなんです」
「魔力を通す?」
フェリシアが聞き返した。
「はい。魔力を流すと、石の内側の光が強くなるそうです。ただ、それ以上のことは分かっていません」
「へえ……」
フェリシアが興味深そうに呟いた。
魔力を通せる魔石か。
いったい、何に使えるんだろう。
「それで、こちらの群晶石ですが、研究用として三十万ジェニーで買い取らせていただけないでしょうか?」
「三十万ジェニー?」
「はい。まだ用途が分かっていませんので、現時点ではこの金額になります」
なるほど。
珍しくても、何に使えるか分からなければ、値段をつけるのも難しいんだろうな。
「二人とも、どうかな?」
「いいよ!」
「私も賛成だよ」
ルナとフェリシアが頷く。
「じゃあ、お願いします」
「ありがとうございます!」
こうして、群晶石の買取も成立した。
魔物の素材と合わせれば、全部で五百十六万ジェニー。
三人で分ければ、一人百七十二万ジェニーだ。
「それから、アレンさん」
「はい?」
「もし今後も群晶石を見つけられたら、ぜひお持ちいただけませんか?」
「また買い取ってくれるんですか?」
「もちろんです。研究を進めるためにも、できれば複数確保したいそうでして」
「分かりました。見つけたら持ってきますね」
「ありがとうございます!」
女性が嬉しそうに頭を下げた。
◇
買取代金を受け取った俺たちは、依頼掲示板へ向かった。
「ねえ、アレン! 今日もダンジョンに行こうよ!」
「うん。そのつもりだよ」
「じゃあ、これなんてどう?」
ルナが一枚の依頼書を指差した。
ミナリア西ダンジョンの二十階層に関する依頼だ。
【ミナリア西ダンジョン】
【依頼:第二十階層の階層主討伐、および指定素材の採集】
【対象ランク:A以上】
【報酬:1,500,000ジェニー】
「二十階層か」
「昨日は十五階層まで行ったもんね!」
ルナが楽しそうに言う。
「ちょうどいいかもしれないね」
フェリシアも依頼書を覗き込んだ。
「でも、十六階層から先は初めてだよね」
「うん。どんな魔物がいるか確かめながら進もう」
俺たちは依頼書を持って、再び受付へ向かった。
「こちらの依頼ですね」
受付の女性が書類を確認する。
「二十階層の階層主は、アビスクラーケンという魔物です」
「クラーケン?」
ルナが首を傾げた。
「はい。巨大なイカのような姿をしていて、複数の触腕で攻撃してきます。水中へ潜ることもあるため、注意が必要です」
「へえ!」
「二十階層の階層主にふさわしい強力な魔物です」
女性は続けた。
「それから、今回は討伐だけでなく、墨袋を傷つけずに回収していただく必要があります」
「墨袋?」
「はい。特殊な薬品の材料になるそうで、依頼主が必要としているんです」
「なるほど」
俺は頷いた。
ただ倒せばいいわけじゃないんだな。
「墨袋を壊しちゃうと、依頼は達成できないんですか?」
フェリシアが尋ねた。
「はい。今回の依頼は討伐と墨袋の回収、両方が達成条件です」
「じゃあ、攻撃する場所には気をつけないとね」
「そうだね」
俺たちは顔を見合わせた。
まあ、実際に戦ってみないと分からない部分もあるだろう。
「あ、そういえば」
俺はふと気になったことを尋ねた。
「このダンジョンって、何階層まであるんですか?」
「実は、まだ分かっていないんです」
「そうなんですね」
「はい。これまでに冒険者が到達したのは、二十五階層までです」
「二十五階層!」
ルナの目が輝いた。
「じゃあ、その先は?」
「二十六階層以降へ到達したという記録は、今のところありません」
「へえ……」
誰も到達していない階層か。
それは、ちょっと気になるな。
「ねえ、アレン!私、その先にも行ってみたい!」
「うん。面白そうだね」
「どんな魔物がいるんだろうね?」
フェリシアも興味深そうだ。
十五階層には、あんなに変わった魔物がいた。
もっと深い階層には、さらに珍しい魔物がいるかもしれない。
それに、強い魔物がいれば、Pもたくさん稼げそうだ。
「でも、まずは二十階層の依頼を達成しようか」
「うん!」
「そうだね」
三人の意見は一致した。
「それでは、こちらの依頼を受注されますか?」
「お願いします」
「承知しました!」
こうして俺たちは、二十階層の階層主討伐と素材採集の依頼を受けることになった。
◇
ミナリア西ダンジョンへ到着した俺たちは、一階層の転移石を使って十階層へ移動した。
そこから十一階層へ進む。
「昨日通ったところだね!」
ルナが周囲を見回す。
「うん。水位が変わるところには気をつけよう」
フェリシアが言った。
昨日は水が増えているせいで、通れない場所もあった。
でも、今日はそのことを知っている。
水路の様子を確認しながら進めば、問題なさそうだ。
俺は《魔力感知》で周囲を探った。
魔物の反応はある。
俺たちは《隠密》も使いながら、奥へ向かった。
◇
十二階層、十三階層、十四階層。
昨日の経験があるおかげで、探索は順調に進んだ。
そして、十五階層。
「あっ!」
大きな空洞へ出たところで、ルナが声を上げた。
「アレン!あそこ!」
視線の先には、広い湖があった。
その水面近くを、巨大な黒い影が動いている。
「またいたね」
フェリシアが言った。
「うん。スウォームロックだ」
昨日戦った、無数の小さな岩の魔物が集まった集合体。
俺は《魔力感知》で中心部を探った。
あった。
強い魔力の反応。
スウォームロック・コアだ。
「昨日と同じ方法でいこうか」
「うん!」
「分かった!」
フェリシアが《魔弾》を放つ。
ドンッ!
巨大な身体の一部が崩れ、小さな岩の魔物がばらばらになった。
ルナが矢を放ち、こちらへ近づく個体を撃ち落とす。
俺は竜爪剣を構えた。
今回は、中心に何があるか分かっている。
再び集まり始めた岩の隙間へ踏み込み、コアを守る岩を斬り崩した。
「ルナ!」
「うん!」
俺が身体を横へずらすと、ルナの矢がコアを捉えた。
バキッ!
コアが砕けた瞬間、周囲の岩が一斉に崩れ落ちる。
昨日と同じだ。
集合体を維持できなくなったらしい。
「やったね!」
ルナが嬉しそうに言った。
「うん」
俺は崩れた岩の中から、小さな魔石を拾い上げた。
黒い表面の内側で、青白い光が揺れている。
群晶石だ。
「また手に入ったね」
「そうだね」
フェリシアが魔石を見つめた。
そのときだった。
「ねえ、アレン」
「何?」
「その石、少し借りてもいい?」
「もちろん」
俺は群晶石をフェリシアへ渡した。
◇
フェリシアは、手のひらに載せた群晶石をじっと見つめていた。
「どうしたの?」
ルナが聞く。
「今朝、ギルドで聞いたことを思い出したの」
「魔力を通せるって話?」
「うん」
フェリシアが頷いた。
「ちょっと試してみてもいいかな?」
「いいよ」
俺が答えると、フェリシアは群晶石を両手で包んだ。
「……じゃあ、少しだけ」
静かに目を閉じる。
魔力を流しているんだろう。
しばらくすると、石の内側の青白い光が強くなった。
「あっ、光った!」
ルナが声を上げる。
「うん。ちゃんと魔力が通ってる」
フェリシアが目を開いた。
「分かるの?」
「うん。自分の魔力が、石の中へ入っていく感じがするの」
「へえ……」
俺には、そこまで細かい感覚は分からないな。
フェリシアは石を見つめたまま、少し首を傾げた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「何だか、動かせそうな気がする」
「動かす?」
「うん。魔力を少し変えてみるね」
フェリシアが集中する。
すると。
ふわっ。
群晶石が、手のひらからわずかに浮き上がった。
「えっ!?」
ルナが目を丸くした。
俺も驚いた。
「フェリシア!浮いてるよ!」
「うん!」
フェリシア自身も驚いている。
だが、群晶石は落ちない。
彼女の手の上で、静かに浮かんでいた。
「……右」
フェリシアが小さく呟く。
すると、群晶石が右へ動いた。
「左」
今度は左。
「上……」
群晶石が、さらに高く浮かぶ。
「すごーい!」
ルナが飛び跳ねた。
「フェリシアの言うとおりに動いてる!」
「うん。何だか、不思議な感じ」
フェリシアが嬉しそうに笑う。
俺も思わず群晶石を見つめた。
石が、フェリシアの意思に従って動いている。
こんな魔石があるのか。
「ねえ、私もやってみたい!」
ルナが手を上げた。
「うん。いいよ」
フェリシアが群晶石を手元へ戻し、ルナに渡した。
ルナも魔力を通してみる。
青白い光が、少し強くなった。
「おっ!光った!」
「うん。魔力は通ってるね」
「じゃあ、浮けー!」
ルナが群晶石を見つめる。
……。
石は動かない。
「あれ?」
もう一度。
「浮けー!」
やっぱり動かない。
「うーん。駄目だ!」
ルナが笑った。
「アレンもやってみて!」
「うん」
今度は俺が群晶石を受け取った。
魔力を通すと、確かに光が強くなる。
でも、そこからどうすればいいんだ?
上へ動かそうと意識してみる。
……動かない。
魔力の量を変えてみても、光の強さが変わるだけだった。
「難しいね、これ」
「そうなの?」
フェリシアが不思議そうに聞いてきた。
「うん。魔力は通せるけど、どうやって動かせばいいか分からないよ」
「そっか……」
フェリシアは再び群晶石を受け取った。
すると、すぐに石が浮かび上がる。
右へ。
左へ。
そして、彼女の周りをゆっくり回り始めた。
「……すごいな」
思わず呟いてしまった。
俺もルナも、魔力を通すところまではできた。
でも、自由に動かせるのはフェリシアだけだ。
魔力量だけの問題じゃないんだろう。
フェリシアの魔力操作が、抜群に優れているからこそできることなのかもしれない。
◇
フェリシアは群晶石を自分の前に浮かべたまま、何かを考えていた。
「……ねえ、アレン」
「何?」
「これ、私の魔力が入っているんだよね」
「そうみたいだね」
「それで、私の魔力を動かすと、石も動くんだよね」
「うん」
フェリシアが少し考える。
「だったら……この石の中にある魔力で、魔法も使えないかな?」
「魔法?」
俺は群晶石を見た。
なるほど。
確かに、あの石の中にはフェリシアの魔力が流れている。
それを利用して魔法を発動できるなら……。
「試してみようよ!」
ルナが嬉しそうに言った。
「うん。ただ、少し離れていてね」
フェリシアが群晶石を空洞の奥へ移動させた。
周囲に魔物がいないことを確認する。
そして、離れた岩へ石を向けた。
「……《魔弾》」
ドンッ!
青白い光が走った。
群晶石から放たれた魔弾が、岩へ命中する。
ガンッ!
「ええっ!?」
ルナが大きな声を上げた。
「今、あの石から出たよね!?」
「……うん!」
フェリシアも目を丸くしている。
俺も驚いた。
フェリシア自身がいる場所ではなく、離れたところに浮かぶ群晶石から魔法が発射された。
「すごいね、フェリシア!」
「うん……。これ、いろんなことができるかもしれない」
フェリシアの顔が輝いた。
◇
その後も、フェリシアはいろいろ試していた。
群晶石を高い位置へ移動させたり、岩の陰へ回り込ませたり。
自分の前に戻してから、また別の方向へ飛ばす。
どんな動きにも、すぐに対応できている。
「すごいね! まるで従魔みたい!」
ルナが言った。
「従魔?」
「うん! フェリシアの言うことをちゃんと聞いてるもん!」
フェリシアが笑った。
「そう言われると、そんな感じかも」
テリーが俺たちの方を見た。
「ワフ!」
「キュ!」
ステフも鳴いた。
「あはは! テリーたちも気になるみたいだね!」
ルナが楽しそうに笑う。
そのとき、フェリシアが小さく呟いた。
「……これ、もう一つあったらどうなるんだろう?」
「もう一つ?」
「うん。二つ同時に動かせるのかなって」
なるほど。
もし複数の群晶石を操れるなら、いろんな方向から魔法を撃てるようになる。
「それなら、探してみようか」
「いいの?」
「もちろん。さっきみたいなスウォームロックが、ほかにもいるかもしれないしね」
「やった!」
ルナが嬉しそうに声を上げた。
俺はもう一度《魔力感知》を使った。
広い空洞の向こう側。
いくつもの魔力の反応が集まっている。
その中心には、少し強い反応があった。
「……あっ」
「どうしたの?」
「向こうにも、似たような反応があるよ」
「本当!?」
ルナが目を輝かせる。
「じゃあ、行ってみよう!」
◇
しばらく進むと、再びスウォームロックが現れた。
さっきより小さいけど、周囲の岩を集めながらこちらへ向かってくる。
「またいたね!」
ルナが弓を構える。
「うん。あの中にもコアがあるみたいだ」
俺がそう言うと、フェリシアが頷いた。
「じゃあ、さっきと同じようにいこうか」
「うん!」
三人で協力して集合体を崩し、中心のコアを露出させる。
最後はルナの矢がコアを射抜いた。
バキッ!
小さな岩の魔物たちが、ばらばらと崩れ落ちる。
そして、その中から群晶石が現れた。
「あった!」
ルナが嬉しそうに拾い上げる。
「これで二つだね!」
「うん!」
フェリシアが二つの群晶石を手に取った。
「じゃあ、試してみるね」
両方の石へ魔力を流す。
青白い光が強くなった。
そして。
ふわっ。
二つの群晶石が同時に浮き上がった。
「おおっ!」
俺は思わず声を上げた。
フェリシアが右の石を右へ、左の石を左へ動かす。
それぞれが別の方向へ飛んでいった。
「すごい二つとも動いてる!」
ルナが大喜びしている。
フェリシアは、さらに二つの石を自分の周囲で回転させた。
動きは滑らかだ。
どちらか一方が遅れたり、動きを間違えたりすることもない。
「……これ、できるね」
フェリシアが嬉しそうに笑った。
すごいな。
一つでも俺には難しかったのに、フェリシアは二つを同時に操っている。
しかも、それぞれ違う動きをさせているんだ。
《共有》によって魔力量が増えているのは確かだ。
《魔聖》もある。
だけど、今回の能力を使いこなせるのは、それだけが理由じゃない。
フェリシア自身の魔力操作が、ずば抜けて優れているんだろう。
……これ、フェリシアじゃなかったら、できないんじゃないかな。
「ねえ、フェリシア!」
ルナが声をかけた。
「何?」
「その子たち、名前をつけないの?」
「名前?」
「うん! 従魔みたいだし!」
フェリシアは少し考えた。
そして、宙を飛ぶ二つの群晶石を見つめる。
「……じゃあ、《オービット》っていうのはどうかな?」
「オービット?」
「うん。私の周りを飛び回るから」
「いいね!」
ルナが笑う。
「僕もいいと思うよ」
フェリシアが嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、今日から《オービット》だね」
◇
「そういえば、フェリシア」
「何?」
「使わないときはどうするの?」
「そうだね……」
フェリシアは二つのオービットを手元へ戻した。
「《収納》に入れておけばいいかな」
そう言うと、二つの群晶石が消えた。
「それなら持ち運びも簡単だね!」
ルナが笑った。
「うん。必要なときに出せばいいしね」
フェリシアも笑う。
それにしても、面白い魔石を見つけたな。
フェリシアが使えば、離れた場所から魔法を撃てる。
しかも、複数の石を同時に動かせる。
これからどんな戦い方ができるようになるんだろう。
「じゃあ、そろそろ先へ進もうか」
「うん!」
ルナが元気よく答えた。
フェリシアも頷く。
「次に魔物が出たら、《オービット》も試してみたいな」
「いいね!」
俺は笑った。
「あと他にも群晶石を集めよう」
今日の目的は、二十階層の階層主討伐と素材採集。
だけど、その前に、とんでもなく面白いものを見つけてしまった。
フェリシアの新しい力が、これからどんな活躍をするのか。
俺も楽しみだ。
【保有:107,210P】
【累計獲得P:564,420P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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