第191話 巨大な影の正体
新連載はじめました!
『王女殿下、まずは拳をお下げください ~転生執事と最強王女の成り上がり~』という作品です。
お手すきの際に是非!
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湖の中央から、黒い物体がゆっくりと持ち上がっていく。
「……大きい!」
ルナが目を見開いた。
水面から現れたのは、巨大な岩の塊のようなものだった。
高さは十メートル以上ありそうだ。
その表面は黒く、ごつごつしている。
でも、よく見ると少し変だった。
「……あれ?」
俺は目を凝らした。
表面が、細かく動いている。
まるで無数の何かが、身体の上を這い回っているみたいだ。
「アレン、あれ何?」
「ちょっと待ってね」
俺は《鑑定》を使った。
「《鑑定》」
【スウォームロック】
【小型の岩石型魔物】
【多数の個体が集合し、巨大な身体を形成する】
【分離して行動することもできる】
「……へえ」
「どうしたの?」
「あれ、一体の魔物じゃないみたいだよ」
「えっ?」
「小さな魔物がたくさん集まって、大きな身体を作ってるんだって」
「本当!?」
ルナが巨大な影を見上げる。
「じゃあ、あれ全部が魔物なの?」
「そういうことみたい」
フェリシアも興味深そうに見つめている。
「だから表面が動いてるんだね」
「うん。よく見ると、一つ一つが小さな岩みたいだ」
こんな魔物もいるんだな。
◇
スウォームロックが岸へ向かって動き始めた。
ザバァ……。
水面に大きな波が広がる。
巨大な身体を構成する小さな岩が、互いにぶつかりながら動いている。
「こっちに来るよ!」
ルナが弓を構えた。
「うん。少し離れていよう」
俺たちは湖から距離を取った。
テリーも俺たちの横に立ち、スウォームロックを見つめている。
「グルル……」
ステフは俺の肩から飛び立った。
「キュ!」
「ステフも気をつけてね」
スウォームロックが岸へ近づいた。
巨大な身体の下半分は、まだ水の中にある。
すると、その一部が盛り上がった。
次の瞬間。
ドンッ!
黒い塊が、こちらへ飛んできた。
「おっと!」
俺は横へ跳んだ。
ドガンッ!
黒い塊が岩場にぶつかり、ばらばらになった。
……いや。
砕けたと思ったものが、地面の上で動いている。
拳ほどの大きさの黒い岩だった。
その下から、小さな脚が伸びている。
「うわっ! 動いてる!」
ルナが驚く。
「一つ一つが魔物なんだよね!」
黒い岩が俺の足元へ近づいてきた。
俺は竜爪剣を振り下ろす。
ザシュッ!
【30P獲得】
小さな魔物が動かなくなった。
「……なるほど」
一体ずつなら、それほど強くないみたいだな。
◇
すると、巨大なスウォームロックの身体から、さらに黒い岩が飛んできた。
ドンッ!
ドドンッ!
岩場に落ちた黒い塊が、次々と動き始める。
「いっぱい出てきた!」
ルナが弓を構えた。
でも、俺は思わず笑った。
「これなら、Pをたくさん稼げそうだね」
「えっ?」
「一体倒すと30Pもらえるんだ」
「じゃあ、十体倒せば300Pだね!」
ルナが嬉しそうに言った。
「そういうこと!」
俺は竜爪剣を構え直した。
小型のスウォームロックたちが、地面を跳ねるように近づいてくる。
まずは先頭の一体。
ザシュッ!
【30P獲得】
続けて二体目。
三体目。
四体目。
竜爪剣を振るたび、黒い岩が砕けていく。
【30P獲得】
【30P獲得】
【30P獲得】
なるほど。
この大きさなら、まとめて倒せそうだ。
俺は一歩踏み込んだ。
そして、横一列に並んだ五体へ向けて剣を振り抜く。
ザンッ!
五体の身体が、一斉に砕け散った。
P獲得の通知が次々と現れる。
よし。
最初の一体も含めて、これで十体だ。
全部で300P。
なかなか悪くないな。
「アレン、楽しそうだね!」
ルナが笑う。
「うん。こうやって少しずつ増えるのも面白いからね」
◇
俺たちが小型魔物を倒している間に、巨大なスウォームロックが岸まで近づいていた。
その身体からは、まだ無数の小型魔物が動いている。
「……すごい数だね」
フェリシアが呟いた。
「うん。全部倒すのは大変そうだね」
俺は《魔力感知》を使った。
巨大な身体から、たくさんの反応がある。
一つ一つは小さい。
でも、数が多すぎる。
「じゃあ、大きい方もやってみようか」
俺は地面を蹴った。
一気に距離を詰め、竜爪剣を振る。
ザンッ!
巨大な身体の一部が大きく崩れた。
黒い小型魔物が、ばらばらと水面へ落ちていく。
「すごい!」
ルナが声を上げた。
でも……。
「あれ?」
散らばった魔物たちが動き始めた。
一つ。
二つ。
次々と湖の中央へ向かっていく。
そして、再び巨大な身体にくっついていった。
「元に戻ってる!」
ルナが驚いている。
「本当だね」
フェリシアも目を丸くした。
さっき斬った場所が、少しずつ埋まっていく。
どうやら、ばらばらにしただけでは駄目らしい。
でも、斬った中には、動かなくなった個体もいる。
せっかくだし、もう少しPを稼いでおこうかな。
◇
俺は岸に上がってきた小型魔物たちへ向かった。
今度は、まとめて倒すことにする。
右から五体。
左から四体。
さらに後ろから三体。
合わせて十二体だ。
「アレン、後ろにもいるよ!」
ルナが教えてくれる。
「うん。分かってる!」
俺は竜爪剣を振り抜いた。
ザンッ!
まずは右の五体。
続けて身体をひねり、左の四体を斬る。
さらに振り向きざまに、残る三体をまとめて斬り払った。
ザシュッ!
小型魔物たちが砕け散る。
【30P獲得】
同じ通知が次々と現れた。
《魔力感知》で確認すると、今斬った十二体の反応はすべて消えていた。
「……よし!」
これで新たに360P。
さっきの300Pと合わせれば、660Pだ。
「アレン、すごい!」
ルナが嬉しそうに笑った。
「でも、まだまだいるね!」
「うん。かなりの数が集まってるみたいだ」
俺は巨大なスウォームロックを見上げた。
あれだけ倒したのに、ほとんど小さくなっていない。
いったい何体いるんだろう。
◇
「ねえ、アレン」
フェリシアが声をかけてきた。
「何?」
「あの小さな魔物たち、どうして同じ場所に戻っていくんだろう?」
「同じ場所?」
「うん。さっき散らばったときも、みんな湖の中央へ向かってたでしょ?」
言われてみれば、確かにそうだ。
俺は《魔力感知》を使った。
巨大な身体からは、無数の小さな魔力反応が感じられる。
でも、その奥に……。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「一つだけ、大きな反応がある」
「大きな反応?」
「うん。ほかの魔物より、ずっと強いみたいだ」
俺は巨大な身体の中心付近を見つめた。
そこには、ひときわ大きな黒い岩があった。
周囲の小型魔物たちは、その岩を取り囲むように集まっている。
「もしかして、あれが原因なのかな?」
フェリシアが呟く。
「ちょっと調べてみるね」
俺はその岩に意識を向け、《鑑定》を使った。
「《鑑定》」
【スウォームロック・コア】
【スウォームロックの群れを統率する特殊個体】
【周囲の個体を集め、巨大な身体を維持する】
「……なるほど」
「何だったの?」
ルナが聞いた。
「あの大きな岩が、ほかの魔物たちを集めてるみたい」
「へえ!」
「コアっていう特殊な個体なんだって」
フェリシアが頷いた。
「じゃあ、あれを倒せば、集まれなくなるかもしれないね」
「うん。試してみようか」
「分かった!」
◇
俺たちは湖の近くに立った。
巨大なスウォームロックは、すでに岸辺まで来ている。
水中にあった身体の大部分も持ち上がり、黒い岩の塊が目の前にそびえていた。
その中心にあるコアは、無数の小型魔物に覆われている。
「まずは、あの外側を崩さないといけないね」
フェリシアが杖を構えた。
「私がやってみる」
「うん。お願い」
「《魔弾》!」
ドンッ!
魔弾がスウォームロックの身体に命中した。
黒い岩が大きく弾け飛ぶ。
でも、すぐに周囲の小型魔物たちが集まり始めた。
「……早いね」
フェリシアが驚く。
「うん。でも、少しの間なら隙間ができるみたい」
俺は竜爪剣を構えた。
「フェリシア、もう一度お願いできる?」
「うん!」
「そのあと、俺が中まで斬り込むよ」
「分かった!」
ルナも弓を構える。
「私はどうすればいい?」
「コアが見えたら、狙ってくれる?」
「うん! 任せて!」
これで準備はできた。
そのとき、スウォームロックの身体から、また黒い塊が飛び出してきた。
ドドドッ!
今度は八体の小型魔物が、俺たちの前に落ちてきた。
「……あっ!」
ルナが弓を向ける。
「大丈夫。ここは俺がやるよ」
せっかくPをもらえるんだ。
倒しておこう。
俺は八体へ向かって駆け出した。
竜爪剣を左右に振り、近づいてくる小型魔物を次々と斬り倒す。
最後の一体を倒すと、P獲得の通知が八回続いた。
これでさらに240P。
今日、この階層で獲得したPは900Pになった。
なかなかいい感じだ。
「アレン、準備できたよ!」
フェリシアが声をかけてきた。
「うん。じゃあ、お願い!」
◇
「《魔弾》!」
ドンッ!
フェリシアの魔弾が、巨大な身体に命中した。
黒い岩が散らばる。
その瞬間、俺は地面を蹴った。
一気に距離を詰める。
そして、竜爪剣を大きく振り抜いた。
ザンッ!
巨大な身体の一部が、さらに崩れた。
黒い小型魔物が、ばらばらと落ちていく。
でも、すぐに集まり始める。
早いな。
俺は剣を振り、コアの前を塞ごうとする小型魔物たちを弾き飛ばした。
その奥に、ひときわ大きな黒い岩が見えた。
「ルナ!」
「うん! 見えてる!」
ルナが弓を引き絞った。
だが、コアの周囲には小型魔物が集まり始めている。
もう少しで隠れてしまいそうだ。
俺はもう一度竜爪剣を振る。
ザンッ!
コアまで一直線に隙間ができた。
シュッ!
ルナの矢が放たれた。
矢は集まりかけた小型魔物の隙間を抜けていく。
そして。
ガキィンッ!
コアの中心へ命中した。
バキッ!
次の瞬間、コアの表面に大きな亀裂が走った。
さらに亀裂が広がっていく。
バキバキバキッ!
コアが砕け散った。
「やった!」
ルナが声を上げる。
すると、巨大なスウォームロックの身体が大きく揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴ……。
黒い岩が、次々と崩れ落ちていく。
湖の中央にそびえていた巨大な身体が、あっという間に崩壊していった。
「……すごい」
フェリシアが呟いた。
「本当に崩れちゃったね」
「うん!」
ルナが嬉しそうに笑う。
◇
やがて、湖の水面が静かになった。
巨大な身体を作っていた小型魔物たちは、ばらばらになって泳いでいる。
その多くは、湖の奥へ逃げていった。
「全部倒したわけじゃないんだね」
ルナが言った。
「そうだね。でも、もう集まれないみたいだ」
俺は《魔力感知》で確認した。
さっきまであった大きな反応は消えている。
コアは確かに倒せたらしい。
「フェリシアのおかげだね」
俺が言うと、フェリシアが首を傾げた。
「私?」
「うん。魔物たちが同じ場所へ戻っていくって気づいたでしょ?」
「でも、アレンが見つけたんだよ?」
「そうだけど、フェリシアが言ってくれなかったら、気づくのが遅れたと思う」
「そうかな?」
フェリシアが少し照れたように笑った。
「それに、ルナの矢もすごかったね!」
「ちゃんと当たってよかった!」
ルナが嬉しそうに笑う。
さすが《弓聖》だな。
あんな小さな隙間を通して、正確にコアを射抜くなんて。
俺には真似できない。
それにしても、かなりPを稼げたな。
小型魔物を三十体倒して、900P。
こうやって数を積み重ねていくのも悪くない。
◇
「さて……」
俺は湖を見回した。
コアが砕けたあたりに、黒い欠片がいくつか落ちている。
その一つが、淡い青色の光を放っていた。
「……あれ?」
俺は近づいた。
水際に落ちていたのは、握り拳ほどの大きさの石だった。
黒い表面の内側で、青白い光がゆっくりと揺れている。
「綺麗だね!」
ルナが覗き込んだ。
「何だろう?」
「ちょっと調べてみるね」
俺は《鑑定》を使った。
「《鑑定》」
【群晶石】
【スウォームロック・コアが残す希少な魔石】
【周囲の魔力に反応して微弱な光を放つ】
「群晶石っていうみたい」
「群晶石?」
「うん。珍しい魔石らしいよ」
フェリシアが興味深そうに見つめた。
「魔石なら、ギルドで買い取ってもらえるかもしれないね」
「そうだね」
俺は群晶石を《収納》へ入れた。
どれくらいの価値があるんだろう。
ちょっと楽しみだな。
◇
俺たちは湖の周囲を進んだ。
巨大なスウォームロックがいた場所は、もう静かになっている。
小型魔物たちも、こちらへ近づいてくる様子はなかった。
しばらく歩くと、湖の奥に大きな石の門が見えてきた。
「あっ! 階段だ!」
ルナが嬉しそうに指差した。
「十六階層へ続いてるのかな?」
フェリシアが地図を確認する。
「うん。そうみたい」
「じゃあ、行ってみる?」
ルナが期待に満ちた顔で俺を見る。
俺は少し考えた。
まだ疲れてはいない。
でも、十五階層まで来たら、一度戻るか考える約束だった。
「今日はここまでにしようか」
「えっ?」
「この先も気になるけど、もう十五階層まで来たしね」
「そっかあ」
ルナが少し残念そうな顔をした。
すると、フェリシアが笑った。
「また来ればいいんだよ」
「……そっか!」
ルナが顔を上げる。
「そうだよね!また来ればいいんだ!」
「うん」
俺も笑った。
「それに、今日は珍しい魔物にも会えたし、素材もたくさん手に入ったからね」
「そうだね!」
◇
俺たちは来た道を引き返した。
十四階層。
十三階層。
十二階層。
そして十一階層。
途中で魔物を見かけたけど、《隠密》のおかげで襲ってこなかったので、そのまま通り過ぎた。
水位が下がるのを待ってから通路を抜け、十階層へ戻った。
「あっ! 転移石だ!」
ルナが嬉しそうに声を上げる。
俺たちは以前登録した転移石のある小部屋へ入った。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
転移石が青白く輝く。
次の瞬間、周囲の景色が変わった。
見慣れた一階層の洞窟だ。
「帰ってきたね!」
ルナが大きく伸びをした。
「今日はずいぶん進んだね」
フェリシアも笑う。
「うん。十五階層まで行けるとは思ってなかったよ」
俺も頷いた。
魔物をたくさん倒したし、珍しい素材も手に入った。
それに、ルミナタートルみたいな不思議な魔物にも出会えた。
なかなか充実した探索だったな。
「ねえ、アレン」
ルナが声をかけてきた。
「何?」
「あの亀、また会えるかな?」
「どうだろうね。でも、あそこに行けば会えるかもしれないよ」
ルナが嬉しそうに笑った。
そういえば、ルミナタートルがいた場所は、ギルドの地図にも詳しく載っていなかった。
あの亀は、ほかの冒険者に見つかっても大丈夫なんだろうか。
少し気になるな。
ギルドに戻ったら、報告する内容も考えないといけないかもしれない。
◇
俺たちは出口へ向かった。
今日の探索で手に入れた素材も、そろそろ売却したい。
それに、群晶石がどれくらいの価値を持つのかも気になる。
ギルドで聞いてみようかな。
こうして、俺たちの今日のダンジョン探索は終わった。
【保有:107,110P】
【累計獲得P:564,320P】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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