第190話 動かない魔物
新連載はじめました!
『王女殿下、まずは拳をお下げください ~転生執事と最強王女の成り上がり~』という作品です。
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目の前にある大きな岩。
その表面が、わずかに動いた。
「……あれ?」
俺は目を凝らした。
すると、岩の下から何かが伸びてきた。
太くて短い脚だ。
「アレン?」
ルナが不思議そうに俺を見る。
「あの岩、魔物みたいだよ」
「えっ?」
「《魔力感知》でも反応があるし、今、脚が見えたんだ」
「本当!?」
ルナが岩を見つめる。
俺は《鑑定》を使った。
「《鑑定》」
【ロックミミック】
【岩に擬態する魔物】
【硬い外殻で身を守り、近づいた獲物を襲う】
【移動時には外殻の下から脚を伸ばす】
「ロックミミックっていう魔物みたいだね」
「へえ! 岩に化けてるんだ!」
ルナが目を輝かせる。
「普通の冒険者なら、気づかずに近づいちゃいそうだね」
フェリシアが言った。
「そうだね」
俺は《魔力感知》で周囲を確認した。
同じような反応が、ほかにも四つある。
どれも動く様子はない。
「全部で五体いるみたい」
「でも、どれが魔物なのか全然分からないよ!」
ルナが岩場を見回す。
「そうだよね。俺も《魔力感知》がなかったら分からなかったと思う」
「すごい擬態だね」
フェリシアが感心したように呟いた。
◇
「じゃあ、倒してみようか」
「うん!」
俺は一番近くにあるロックミミックへ近づいた。
表面はごつごつしていて、色も周囲の岩と変わらない。
これが魔物だというのだから不思議だ。
あと数歩というところまで近づいたときだった。
ガタッ!
岩の下から四本の脚が伸びた。
「おっ!」
ロックミミックが身体を持ち上げる。
そして、そのまま突っ込んできた。
「アレン!」
「大丈夫!」
俺は横へかわした。
ロックミミックが勢い余って岩壁へぶつかる。
ゴンッ!
硬そうな音が響いた。
「思ったより速いね!」
ルナが驚いている。
「うん。でも、動きは単純みたいだ」
ロックミミックが方向を変えた。
再びこちらへ向かってくる。
俺は竜爪剣を構えた。
脚を伸ばした瞬間、その付け根へ剣を振る。
ザシュッ!
ロックミミックの身体が大きく傾いた。
続けて、外殻の下へ刃を突き入れる。
【550P獲得】
動かなくなった。
「やった!」
ルナが声を上げる。
「外側は硬いけど、下の方はそうでもないんだね」
「そうみたい」
俺は倒したロックミミックを見下ろした。
岩のような外殻には、ほとんど傷がついていない。
でも、脚の付け根や身体の下側は比較的柔らかかった。
なるほど。
そこを狙えば簡単に倒せそうだ。
◇
「ねえ、アレン」
フェリシアが声をかけてきた。
「何?」
「今の魔物、動くときに身体が持ち上がってたよね?」
「うん」
「そのときなら、硬い外側を攻撃しなくてもよさそうだね」
「そうだね。下の方を狙えばいいと思う」
フェリシアが周囲を見回した。
「でも、ほかの魔物は全然動かないね」
確かにそうだ。
すぐ近くで仲間が倒されたのに、残る四体は岩に擬態したままだ。
「近づかないと動かないのかな?」
ルナが首を傾げる。
「そうかもしれないね」
俺が答えると、フェリシアが少し考え込んだ。
「だったら、遠くから動かせないかな?」
「遠くから?」
「うん。ルナの矢を当ててみるのはどう?」
「なるほど」
確かに、試してみる価値はありそうだ。
「ルナ、お願いできる?」
「もちろん!」
ルナが弓を構えた。
◇
シュッ!
矢がロックミミックの外殻に命中した。
カンッ!
乾いた音が洞窟に響く。
しかし、魔物は動かなかった。
「あれ?」
ルナが首を傾げる。
「全然反応しないね」
「もう一度、別の場所を狙ってみる?」
フェリシアが言った。
「うん!」
ルナが少し狙いを下げた。
シュッ!
今度は外殻の端に命中した。
カツンッ!
岩がわずかに揺れた。
でも、脚を伸ばす様子はない。
「うーん。駄目みたい」
ルナが残念そうに弓を下ろした。
「そっか……」
フェリシアも考え込む。
「やっぱり、近づかないと襲ってこないのかな?」
「その可能性は高そうだね」
俺は頷いた。
遠くからの攻撃には反応せず、獲物が近づくのを待っている。
そういう習性なのかもしれない。
「じゃあ、俺が近づいて動かそうか」
「うん。でも、ちょっと待って」
フェリシアが俺を見た。
「さっきの魔物、脚を伸ばした瞬間に下の部分が見えたよね?」
「うん」
「だったら、アレンが近づいて、私たちがそこを狙うのはどうかな?」
「それなら、うまくいきそうだね」
「本当?」
「うん。やってみよう」
フェリシアがほっとしたように笑った。
最初の方法はうまくいかなかったけど、今度はどうだろう。
◇
俺たちは次のロックミミックへ向かった。
さっきよりも少し大きな岩だ。
「じゃあ、行くよ」
「うん!」
俺はゆっくりと近づいた。
五歩。
四歩。
三歩。
ガタッ!
ロックミミックが突然、身体を持ち上げた。
「今!」
シュッ!
ルナの矢が脚の付け根に命中する。
グラッ!
魔物の身体が傾いた。
「《魔弾》!」
ドンッ!
フェリシアの魔弾が、露出した身体に直撃した。
ロックミミックは、そのまま地面へ倒れた。
「やった!」
ルナが嬉しそうに笑う。
「うまくいったね!」
フェリシアも笑った。
「うん。二人ともありがとう」
俺は頷いた。
こうすれば、わざわざ硬い外殻を壊す必要がない。
なかなか効率的だな。
そのときだった。
「ワフ!」
テリーが短く吠えた。
「どうしたの?」
テリーは少し離れた場所にある岩を見つめている。
俺も《魔力感知》を使った。
……ああ、なるほど。
「あそこにもいるね」
「えっ?」
ルナがテリーの視線を追う。
「テリーも分かったの?」
「ワフ!」
テリーが尻尾を振った。
「すごいね!」
ルナが嬉しそうに頭を撫でる。
テリーは気持ちよさそうに目を細めた。
魔物の気配でも感じ取ったのかな。
頼もしい仲間だ。
◇
残るロックミミックは三体。
俺たちはテリーが見つめていた魔物へ向かった。
「今度は私が先に狙うね!」
ルナが弓を構えた。
「うん。お願い」
俺が近づくと、ロックミミックが脚を伸ばした。
ガタッ!
その瞬間。
シュッ!
矢が脚の付け根に命中する。
魔物が大きく傾いた。
そこへ俺が踏み込む。
ザンッ!
【550P獲得】
よし。
これで三体目だ。
次の一体は、フェリシアの《魔弾》で仕留めた。
そして最後の一体へ向かったときだった。
「キュ!」
ステフが俺の肩から飛び立った。
「どうしたの、ステフ?」
ステフはロックミミックの上を小さく旋回している。
すると、魔物がわずかに身体を揺らした。
「あっ!」
ルナが声を上げる。
「ステフに反応してる!」
どうやら、頭上を動くステフが気になるらしい。
ロックミミックが少しずつ脚を伸ばし始めた。
「今だ」
俺は竜爪剣を構えた。
魔物が身体を持ち上げる。
その隙に踏み込んだ。
ザシュッ!
【550P獲得】
ロックミミックが動かなくなった。
「終わったね!」
ルナが弓を下ろした。
「うん。これで五体全部だね」
俺は《魔力感知》を使った。
近くに魔物の反応はない。
「全部倒せたみたい」
「やった!」
ステフが俺の肩へ戻ってきた。
「キュ!」
「ステフもありがとう」
頭を撫でてやると、嬉しそうに鳴いた。
◇
「それにしても、変わった魔物だったね」
ルナが倒れたロックミミックを眺めている。
「そうだね。見た目は岩なのに、あんなに素早く動くなんて」
フェリシアが答えた。
「でも、弱いところが分かれば簡単だったね!」
「うん。フェリシアが考えてくれたおかげだよ」
俺が言うと、フェリシアが少し驚いた顔をした。
「私?」
「うん。遠くから動かそうっていうのは、面白い考えだったと思う」
「でも、失敗しちゃったよ?」
「そうだけど、そのあと別の方法を考えてくれたでしょ?」
「……そうかな?」
フェリシアが少し照れたように笑った。
「私も、脚が出てくるところを狙いやすかったよ!」
ルナが嬉しそうに言う。
「ありがとう」
フェリシアが微笑んだ。
俺は二人を見た。
強い魔物を力で倒すだけなら、今の俺たちには難しくない。
でも、相手の特徴を知って、戦いやすい方法を考えるのも大切だ。
それに、今回のように自分では思いつかない方法が見つかることもある。
こういうところも、仲間と冒険する楽しさなんだろうな。
◇
俺は倒したロックミミックを《収納》へ入れた。
外殻は岩のように硬い。
素材として使えるかもしれないし、ギルドで聞いてみよう。
「じゃあ、先へ進もうか」
「うん!」
俺たちは十四階層の奥へ向かった。
岩だらけの洞窟が続いている。
でも、さっきの魔物の正体が分かった今では、不気味さも少し薄れていた。
しばらく歩くと、大きな石の門が見えてきた。
「あっ! 階段だ!」
ルナが指差す。
「十五階層だね」
フェリシアが地図を確認した。
「ようやく今日の目標まで来たね」
「そうだね」
俺は頷いた。
十階層から先も順調だった。
途中で変わった魔物に出会ったり、道を探したりしたけど、まだまだ余裕がある。
「ねえ、アレン」
ルナが階段を見つめる。
「十五階層には、どんな魔物がいるのかな?」
「どうだろうね」
フェリシアが笑った。
「でも、十五階層まで行ったら、一度戻るか考えるんだったよね?」
「うん。そのつもりだよ」
俺は頷いた。
無理をして進む必要はない。
十階層の転移石も登録してあるし、帰ろうと思えば帰れる。
「じゃあ、行ってみよう!」
ルナが元気よく言った。
「うん!」
俺たちは階段を下り始めた。
◇
十五階層。
階段を下りると、これまでとは違う景色が広がっていた。
「……わあ」
ルナが足を止める。
目の前には、巨大な空間が広がっている。
天井は高く、遠くまで続く岩壁には青白い光が点々と輝いていた。
「綺麗だね……」
フェリシアが呟いた。
「うん。でも、何だろう?」
湖の中央に、何かが見える。
水面から突き出した、大きな黒い岩のようなものだ。
俺は《魔力感知》を使った。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「湖の中に、大きな反応がある」
「魔物?」
「うん。しかも……」
俺は湖の中央を見つめた。
水面から出ている黒い物体が、ゆっくりと動いた。
ザバァ……。
水面に大きな波紋が広がる。
「……えっ?」
ルナが目を見開いた。
黒い物体が、さらに持ち上がっていく。
どうやら、あれも魔物らしい。
でも、十四階層のロックミミックとは比べものにならない大きさだ。
俺は思わず笑った。
「……これは、ちょっと面白そうだね」
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