第186話 もう十階層?
新連載はじめました!
『王女殿下、まずは拳をお下げください ~転生執事と最強王女の成り上がり~』という作品です。
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しばらく待つと、湖の水位がさらに下がった。
水面から現れた石の足場が、対岸まで続いている。
「すごい! 本当に道ができた!」
ルナが嬉しそうに声を上げた。
「でも、また水が増えるんだよね?」
フェリシアが足場を見つめる。
「うん。だから、渡った先で戻れなくなるようなら、無理せず引き返そう」
「分かった!」
俺は《魔力感知》で湖の中を確認した。
今のところ、近くに魔物の反応はない。
「じゃあ、行ってみようか」
「うん!」
俺たちは石の足場へ向かった。
最初の石に足を乗せる。
濡れているけど、ぐらつく様子はない。
次の石へ移る。
その次も。
足場の間隔はそれほど広くない。
俺たちなら、飛び越えるのも簡単だ。
「ワフ!」
テリーも軽々と石を跳び越えていく。
「キュ!」
ステフは翼を広げ、俺たちの頭上を飛んでいた。
「テリー、落ちないでよ!」
ルナが声をかける。
「ワフ!」
テリーが尻尾を振った。
大丈夫そうだな。
ほどなくして、俺たちは対岸にたどり着いた。
目の前には大きな岩の門がある。
その奥に、下へ続く階段が見えた。
「あっ! 階段だ!」
「本当だね」
フェリシアが地図を確認する。
「ここから二階層みたい」
「じゃあ、先へ進もうか」
「うん!」
◇
二階層。
階段を下りると、広い洞窟が続いていた。
一階層と違い、足元には水溜まりが少ない。
ただ、岩壁は湿っていて、潮の匂いもする。
俺は《魔力感知》を使った。
「……あ、いるね」
「魔物?」
「うん。一体だけ」
少し進むと、通路の真ん中に大きな亀がいた。
甲羅は岩のように分厚く、身体も普通の亀とは比べものにならないほど大きい。
「あれ、シェルタートルかな?」
フェリシアが言った。
「ギルドでもらった資料に載ってたね」
俺が答える。
「すごく硬そう!」
ルナが甲羅を眺めた。
シェルタートルはこちらに気づくと、低い唸り声を上げた。
そして、太い首を伸ばして噛みつこうとしてくる。
「おっと」
俺は横へかわした。
思ったほど速くない。
もう一度頭を突き出してきたところで、竜爪剣を振る。
ザシュッ!
【280P獲得】
シェルタートルが動かなくなった。
「……終わった?」
ルナが聞いた。
「うん」
「早いね!」
「それほど強い魔物じゃないみたいだね」
フェリシアが言う。
俺はシェルタートルを《収納》へ入れた。
「じゃあ、次へ行こうか」
「うん!」
◇
三階層。
今度は天井の高い洞窟だった。
奥から羽ばたく音が聞こえてくる。
「……あ」
ルナが上を見た。
天井に、大きなコウモリが何体もぶら下がっている。
「ケイブバットだね」
フェリシアが言った。
その声に反応したのか、四体のケイブバットが一斉に飛び立った。
「キィィッ!」
鋭い鳴き声が響く。
「私に任せて!」
ルナが弓を構えた。
シュッ!
一体目が落ちる。
続けて二射目。
三射目。
四射目。
次々と矢が飛び、ケイブバットが地面へ落ちていく。
「……よし!」
ルナが弓を下ろした。
「全部倒したね」
俺が言う。
「うん!」
「あんなに動き回ってたのに、よく狙えたね」
フェリシアが感心している。
「これくらいなら大丈夫だよ!」
ルナが嬉しそうに笑った。
さすが《弓聖》だ。
空中を飛び回る魔物でも、まったく問題にならないらしい。
倒したケイブバットを《収納》へ入れ、俺たちは先へ進んだ。
◇
四階層では、アクアスライムが二体現れた。
透明な水の塊のような魔物だ。
地面を這うように移動し、身体の一部を伸ばしてくる。
「何だか変な魔物だね」
ルナが首を傾げる。
「そうだね。でも、魔力の反応はちゃんとあるよ」
俺が言うと、フェリシアが前へ出た。
「ここは私がやるね」
「うん。お願い」
アクアスライムが触手のようなものを伸ばしてくる。
「《魔弾》!」
ドンッ!
魔弾が一体の中心に命中した。
水の塊が弾け飛ぶ。
もう一体が横から近づいてきた。
「《魔弾》!」
こちらも一撃だった。
「終わりだね」
フェリシアが杖を下ろした。
「すごい!」
ルナが手を叩く。
「二体とも一発だったね!」
「うん。思ったより柔らかかったよ」
フェリシアが笑った。
魔物の種類は違っても、この辺りの階層なら俺たちには問題なさそうだ。
◇
五階層。
今度は地面のあちこちに水路があった。
俺たちが細い橋を渡ろうとしたときだ。
《魔力感知》に反応があった。
「水の中にいる」
「えっ?」
ルナが水路を覗き込む。
次の瞬間。
バシャッ!
水面から、細長い魔物が飛び出してきた。
巨大なウナギのような身体。
岩のように硬そうな皮膚。
ロックイールだ。
「うわっ!」
ルナが驚く。
ロックイールは大きな口を開き、こちらへ飛びかかってきた。
俺は一歩踏み込んだ。
竜爪剣を横に振る。
ザンッ!
【360P獲得】
ロックイールが橋の上へ落ちた。
「……あっさりだね」
フェリシアが笑う。
「うん。びっくりしたけどね」
「アレン、全然驚いてなかったじゃん!」
ルナが言った。
「《魔力感知》で分かってたからね」
「そっか!」
俺はロックイールを《収納》に入れた。
これで五階層か。
思っていたより順調だな。
◇
六階層では、シーリザードが三体現れた。
青緑色の鱗を持つ、大きなトカゲ型の魔物だ。
鋭い爪を立てて、岩場を走ってくる。
「じゃあ、私たちで倒そうか」
フェリシアが言った。
「うん!」
ルナが頷く。
一体目はルナの矢が頭部を射抜いた。
二体目にはフェリシアの《魔弾》が命中する。
三体目は大きく跳び上がったものの、着地する前にフェリシアの二発目が直撃した。
あっという間だった。
「終わったよ!」
ルナが振り返る。
「ありがとう。二人とも強いね」
俺が言うと、フェリシアが笑った。
「アレンに言われてもね」
「そう?」
「そうだよ!」
ルナまで笑い出した。
まあ、確かにそうかもしれない。
◇
七階層では、三体のハープーンフィッシュが現れた。
細長い身体に、槍のように鋭く伸びた口先。
水場から勢いよく飛び出し、そのまま獲物に突き刺さるように攻撃してくる魔物だ。
「三体いるね」
フェリシアが杖を構える。
「じゃあ、一人一体ずつにしようか」
俺が言うと、ルナが笑った。
「いいね!」
ハープーンフィッシュが一斉に飛び出した。
シュッ!
ルナの矢が一体目を射抜く。
「《魔弾》!」
フェリシアが二体目を撃ち落とした。
残る一体は俺へ向かってきた。
鋭い口先が迫る。
でも、俺の方が速い。
身体を横へずらし、すれ違いざまに竜爪剣を振り抜いた。
【380P獲得】
三体とも地面に倒れた。
「終わり!」
ルナが嬉しそうに言った。
「うん。楽勝だったね」
フェリシアも頷く。
俺は三体を《収納》した。
魔物の種類は増えてきたけど、戦闘に時間はかかっていない。
この調子なら、十階層まで一気に進めそうだ。
◇
八階層。
シェルタートルが二体現れた。
一体は俺が倒し、もう一体はルナとフェリシアが協力して仕留めた。
【280P獲得】
九階層では、再びロックイールが現れた。
今度は浅い水溜まりから飛び出してきたけど、俺が竜爪剣で斬り倒す。
【360P獲得】
倒した魔物は、すべて《収納》へ入れた。
「結構いろんな魔物がいたね!」
ルナが楽しそうに言った。
「そうだね。でも、もう九階層まで来ちゃった」
フェリシアが下へ続く階段を見つめる。
「早かったね」
俺も頷いた。
ここまで、ほとんど苦労していない。
それに、三人ともまだ元気だ。
「じゃあ、十階層へ行こうか」
「うん!」
◇
十階層。
階段を下りると、これまでよりも広い洞窟が現れた。
天井は高く、奥には大きな水場が広がっている。
岩壁には青白い鉱物が埋まっていて、薄暗い洞窟を照らしていた。
「……広いね」
ルナが辺りを見回した。
「階層主がいるのかな?」
フェリシアが言う。
俺は《魔力感知》を使った。
「……いるね」
「本当?」
「うん。水の中に大きな反応がある」
そのときだった。
ゴボゴボゴボ……。
水面が大きく揺れ始めた。
何か巨大なものが、水の下で動いている。
「来るよ!」
俺が声をかけた直後。
ザバァァッ!
水面から巨大な魔物が姿を現した。
「……うわあ!」
ルナが見上げる。
長い首。
太い胴体。
全身を覆う青黒い鱗。
巨大な海蛇のような魔物だった。
水面から出ている部分だけでも、かなりの大きさがある。
全長は十メートルを超えていそうだ。
俺は《鑑定》を使った。
「《鑑定》」
【タイドサーペント】
【巨大な水棲魔物。強靭な鱗と尾を持つ】
【尾による打撃と高圧の水流で攻撃する】
「尾と水流で攻撃してくるみたいだよ」
「分かった!」
ルナが弓を構えた。
俺も竜爪剣を抜いた。
◇
「グオオオオッ!」
タイドサーペントが咆哮した。
そして、巨大な尾を水面から振り上げる。
「ルナ!」
「うん!」
尾が勢いよく横へ振られた。
ブオンッ!
近くの岩にぶつかり、大きな亀裂が入る。
すごい威力だ。
普通の冒険者なら、まともに受ければ大怪我をするだろう。
その尾が、ルナへ向かってきた。
「よっと!」
ルナは身体を少し横へ向け、空いた手で尾を受け止めた。
ドンッ!
「……あれ?」
ルナが首を傾げる。
巨大な尾は、それ以上動かなかった。
「思ったより軽いね?」
……いや、軽くはないと思うけど。
ルナは尾をぐっと押し返した。
「えいっ!」
タイドサーペントの身体が大きく揺れた。
「グオッ!?」
魔物が驚いたように頭を振る。
「ルナ、大丈夫?」
フェリシアが聞いた。
「うん! 全然平気!」
ルナは笑っている。
すると、タイドサーペントがフェリシアへ向き直った。
大きく口を開ける。
「……あ」
俺が声をかけようとした瞬間。
ゴオオッ!
口から激しい水流が放たれた。
フェリシアは片腕を上げて顔を庇い、そのまま水流を受け止める。
バシャアッ!
水が岩場に飛び散った。
「フェリシア!」
「……大丈夫」
水流が収まる。
フェリシアはその場に立ったままだった。
怪我をした様子もない。
ただし……。
「服が濡れちゃった……」
フェリシアが困った顔をしていた。
「大丈夫?」
「うん。痛くもないよ。でも、ちょっと気持ち悪い……」
「それは嫌だね」
ルナが苦笑する。
「もう。あとで着替えないと」
フェリシアが濡れた髪を払った。
階層主の攻撃なのに、気にしているのは服が濡れたことだけか。
「グルルルル……!」
タイドサーペントが俺を見た。
どうやら、今度はこっちへ来るらしい。
「アレン!」
「うん。大丈夫だよ」
タイドサーペントが大きく口を開けた。
そして、そのまま突っ込んでくる。
巨大な頭部が迫る。
俺は竜爪剣を持ったまま、空いた手を前へ出した。
ドンッ!
頭部を片手で受け止める。
「グオッ!?」
タイドサーペントの動きが止まった。
大きな身体が、まだ前へ進もうとしている。
でも、俺はほとんど動かされなかった。
「……うん」
これくらいなら問題ないな。
「アレン、すごい!」
ルナが笑った。
「やっぱりアレンは私たちより強いね」
フェリシアも感心している。
「そうかな?」
「そうだよ!」
ルナが頷く。
俺はタイドサーペントの頭を押し返した。
巨大な身体が水場の方へ後退する。
タイドサーペントは驚いたように首を振った。
フェリシアが杖を構える。
「《魔弾》!」
ドンッ!
強力な魔弾がタイドサーペントの胴体に命中した。
硬い鱗が砕け、巨大な身体が大きく揺れる。
「グオオッ!」
「ルナ!」
「うん!」
ルナが弓を引いた。
放たれた矢が、鱗の砕けた場所へ正確に突き刺さる。
「ギャアアッ!」
タイドサーペントが身体をよじった。
その隙に、俺は地面を蹴った。
一気に距離を詰める。
タイドサーペントが頭を振り下ろしてきた。
でも、遅い。
俺はその横をすり抜け、竜爪剣を振り上げた。
ザンッ!
刃が太い首を斬り抜く。
タイドサーペントの動きが止まった。
次の瞬間。
ズズゥンッ!
巨大な身体が岩場へ倒れた。
【階層主討伐を確認しました】
【3,000P獲得】
「……よし」
俺は剣を下ろした。
「やった!」
ルナが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「階層主もあっさりだったね!」
「そうだね」
フェリシアも杖を下ろした。
以前は、十階層の階層主と戦うだけでも大変だった。
でも、今はほとんど疲れてすらいない。
「ねえ、アレン」
「何?」
「この魔物も持って帰るの?」
ルナが巨大なタイドサーペントを指差した。
「もちろん」
こんなに大きな魔物なら、素材も高く売れそうだ。
俺は身体に手を触れた。
「《収納》」
タイドサーペントが消えた。
よし。
これで十階層の階層主も討伐できた。
◇
ゴゴゴゴゴ……。
「……あっ!」
ルナが広間の奥を見た。
何もなかった石壁が、ゆっくりと左右へ動いている。
「あれ!」
「うん。前にも見たね」
フェリシアが笑った。
壁の奥に、小さな部屋が現れた。
中央には、青白く光る大きな石が置かれている。
「転移石だ!」
ルナが嬉しそうに言った。
「やっぱり、ここにもあるんだね」
俺たちは小部屋へ入った。
俺が転移石へ触れる。
青白い光が強くなり、やがて元に戻った。
続いてフェリシア。
そしてルナも触れる。
「これで登録できたかな?」
ルナが聞いた。
「うん。前と同じなら、次から一階層と十階層を直接行き来できるはずだよ」
「便利だね!」
「本当だね」
フェリシアが頷く。
これで帰りも楽になる。
十階層まで歩いて戻る必要がないのはありがたい。
◇
「さて……」
俺は二人を見た。
「どうしようか?」
「戻る?」
服を着替えたフェリシアが聞く。
「それとも、もう少し進んでみる?」
ルナが即答した。
「私はまだ行けるよ!」
「私も大丈夫」
フェリシアが頷く。
「アレンは?」
「俺もまだまだ余裕があるよ」
十階層まで来たけど、思っていたほど時間はかかっていない。
魔物もたくさん倒したけど、ほとんど苦労しなかった。
それに、三人とも疲れていない。
テリーだって元気いっぱいだ。
「ワフ!」
「キュ!」
ステフも翼をぱたぱたと動かした。
「でも、ここから先は魔物も強くなるんだよね?」
ルナが聞く。
「そうだと思う」
「じゃあ、もっと面白くなりそう!」
ルナが目を輝かせた。
フェリシアも笑う。
「じゃあ、もう少し進んでみようか」
「うん」
俺も頷いた。
「せっかく来たんだしね」
「やった!」
ルナが嬉しそうに声を上げる。
俺たちは小部屋を出た。
広間の反対側には、さらに下へ続く階段がある。
十一階層。
ここから先には、どんな魔物がいるんだろう。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
俺たちは階段へ向かった。
まだまだ、冒険は続きそうだ。
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