第185話 ミナリア西ダンジョン
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翌朝。
俺たちは冒険者ギルドを訪れていた。
「あった! アレン、これ!」
ルナが掲示板の前で手を振っている。
「ダンジョンの依頼?」
「うん!」
俺とフェリシアも近づき、依頼書を覗き込んだ。
【Bランク依頼】
【ミナリア西ダンジョンの調査】
【調査内容:中層へ続く通路および魔物の生息状況】
「ミナリア西ダンジョンか……」
「ここから西にあるんだね!」
ルナが地図を指差した。
「海沿いのダンジョンみたいだよ」
フェリシアが言う。
「へえ。どんなところなんだろう」
「面白そう! 行ってみようよ!」
「うん。そうしようか」
久しぶりのダンジョン探索だ。
俺もちょっと楽しみだな。
俺たちは依頼書を持って受付へ向かった。
◇
「ミナリア西ダンジョンの調査ですね」
受付の女性が依頼書を確認した。
「はい。詳しい話を聞かせてもらえますか?」
「もちろんです」
女性は地図を広げた。
「ミナリア西ダンジョンは、ここから西へ徒歩で二日ほどの場所にあります。海沿いの岩壁に入口がある洞窟型のダンジョンです」
「海の近くなんですね」
「ええ。実は、内部の一部が海とつながっているんですよ」
「中にも海があるの?」
ルナが興味深そうに聞いた。
「大きな水場もあるそうです。ただ、気をつけていただきたいことがありまして……」
女性が地図の一部を指差した。
「このダンジョンでは、潮の満ち引きによって通路の水位が変わるんです」
「潮の満ち引き?」
フェリシアが聞き返す。
「はい。満潮になると、水没してしまう通路もあります。行きは通れても、帰りには通れなくなることがあるんですよ」
「それは危ないですね」
「ええ。ですから、魔物だけでなく水位の変化にも注意してください」
なるほど。
今まで探索してきたダンジョンとは、少し勝手が違いそうだ。
「今回の依頼では、中層へ続く通路の状態と、出現する魔物の種類を確認していただきます」
「分かりました」
「こちらが現在の地図です。過去の調査記録もお渡ししますね」
地図には、いくつもの通路が描かれていた。
ただし、奥へ進むほど書き込みが少なくなっている。
「奥の方は、まだ調べられていないんですか?」
「調査記録はあるのですが、水位によって通れる場所が変わるので、十分に確認できていないところもあるんです」
「そうなんですね」
「危険だと思ったら、無理に進まないでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
俺は地図と記録用紙を受け取り、《収納》にしまった。
「ねえ、どんな魔物が出るの?」
ルナが聞いた。
「甲殻を持つ魔物が多いそうですよ。カニに似たものもいるそうです」
「大きなカニ!?」
ルナの目が輝く。
「はい。素材もそれなりの値段で買い取れます」
「へえ!」
どんな魔物なんだろう。
新しいダンジョンに行くとなると、やっぱりわくわくするな。
◇
ギルドを出た俺たちは、必要なものを確認した。
「食料は?」
「《収納》に入ってるよ」
「水も?」
「うん。十分ある」
「じゃあ、準備は大丈夫そうだね!」
ルナが笑った。
以前のダンジョン探索で使っていた道具も、ほとんど《収納》に入ったままだ。
ランタンに縄、野営道具。
必要なものは揃っている。
「じゃあ、出発しようか」
「うん!」
「ワフ!」
「キュ!」
テリーとステフも元気よく鳴いた。
俺たちはミナリアを出て、西へ向かった。
◇
海沿いの街道を進む。
片側には丘が続き、反対側には青い海が広がっていた。
潮風が気持ちいい。
「ねえ、アレン!」
「何?」
「久しぶりのダンジョンだね!」
「そうだね」
「どんな魔物がいるのかな!」
ルナが楽しそうに言う。
「カニみたいな魔物がいるって言ってたね」
フェリシアが答えた。
「大きいのかなあ?」
「普通のカニよりは大きそうだね」
俺が言うと、ルナが笑った。
「楽しみ!」
ルナは本当に冒険が好きなんだな。
もちろん、俺も楽しみだ。
まだ知らない場所へ行き、初めて見る魔物と出会う。
考えてみれば、ダンジョン探索にはそういう面白さがあった。
道中では、テリーが周囲の様子を確かめながら歩いていた。
ステフはときどき翼を広げ、俺たちの頭上を飛んでいる。
夕方には街道沿いの宿場へ到着した。
そこで一泊し、翌朝また西へ向かう。
そして、二日目の午後。
「あっ!」
ルナが前方を指差した。
「あれじゃない!?」
海沿いの岩壁に、大きな洞窟が口を開けていた。
入口の周辺には、数人の冒険者が集まっている。
「たぶん、そうだね」
俺たちは洞窟へ近づいた。
◇
ミナリア西ダンジョン。
入口は思っていた以上に大きかった。
海に面した岩壁にぽっかりと穴が開いており、奥は薄暗い。
どこからか波の音が響いてくる。
「すごいね……」
フェリシアが洞窟を見上げた。
「本当に海のすぐ近くだ!」
ルナも興味津々だ。
入口の脇では、何人かの冒険者が装備を整えていた。
俺たちも少し離れた場所で地図を広げる。
「まずは浅いところから調べようか」
「うん!」
「水位が変わる場所には気をつけようね」
フェリシアが言った。
「そうだね。帰り道が塞がれないようにしないと」
俺は地図をしまった。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
テリーとステフを連れ、俺たちは洞窟へ入った。
◇
中へ入ると、ひんやりとした空気が肌に触れた。
足元には濡れた岩が続き、壁のあちこちから水が滴っている。
奥からは波の音が聞こえていた。
「何だか不思議な感じだね」
ルナが辺りを見回す。
「普通の洞窟とは違うね」
フェリシアが答えた。
岩壁には水が流れた跡があり、ところどころに小さな貝殻も落ちている。
本当に海とつながっているんだな。
俺は《魔力感知》を使った。
……あ。
少し先に反応がある。
一つだけ。
「この先に魔物がいるみたい」
「もう?」
ルナの目が輝いた。
「うん。気をつけて進もう」
俺たちは通路を進んだ。
しばらくすると、少し広い場所に出た。
足元には浅い水溜まりがいくつもできている。
そして、岩陰から何かが動く音が聞こえた。
ガサッ。
「……あ!」
ルナが声を上げる。
現れたのは、大きなカニだった。
いや、普通のカニとは大きさが違う。
甲羅の幅だけでも一メートルほどあり、両側には巨大なハサミがついている。
灰青色の甲羅は、まるで岩のようにごつごつしていた。
「うわ、大きい!」
ルナが驚く。
「あれがシオガラガニかな?」
フェリシアが杖を構えた。
「たぶんね」
俺は魔物の動きを観察した。
シオガラガニは身体を横に動かしながら、こちらを警戒している。
大きなハサミを持ち上げた。
「甲羅が硬そうだね」
フェリシアが言う。
「うん。でも、関節の部分なら攻撃が通りそうだ」
「じゃあ、私が狙うね!」
ルナが弓を構える。
「私はハサミを抑えるよ」
フェリシアも準備を整えた。
「分かった。じゃあ、お願い」
俺は竜爪剣を抜いた。
◇
「ギシャアッ!」
シオガラガニが動いた。
横向きのまま岩場を駆け、大きなハサミを振り上げる。
見た目よりも素早い。
「《魔弾》!」
フェリシアが魔弾を放った。
ドンッ!
魔弾がハサミに命中し、振り下ろされるはずだった腕が横へ弾かれる。
シオガラガニの脚の付け根が露わになった。
ルナが矢を放つ。
シュッ!
矢は硬い甲羅を避け、脚の関節に正確に突き刺さった。
「ギシャッ!?」
魔物の身体が傾く。
さすがルナだ。
あの小さな隙間を、迷わず射抜くんだから。
「アレン!」
「うん!」
俺は地面を蹴った。
一瞬でシオガラガニとの距離を詰める。
魔物が残ったハサミを振り上げた。
でも、その動きは俺にはゆっくりと見えた。
ハサミが振り下ろされるより早く、懐へ潜り込む。
そして、竜爪剣を一閃。
ザシュッ!
【220P獲得】
シオガラガニの身体が崩れ落ちた。
「……よし」
俺は剣を収めた。
「やった!」
ルナが嬉しそうに笑う。
「やっぱりアレンは速いね!」
「二人が動きを止めてくれたからだよ」
「でも、私たちが攻撃したあと、もう倒してたよ?」
フェリシアが笑った。
「そうかな?」
「そうだよ!」
ルナが頷く。
まあ、俺も以前よりずっと速く動けるようになっている。
最近は、その力を当たり前のように使っているけど。
「それにしても、すごい甲羅だね」
フェリシアが倒れた魔物を眺めた。
「うん。かなり硬そうだ」
「でも、関節はちゃんと狙えたよ!」
ルナが得意そうに胸を張る。
「さすがだね」
俺はシオガラガニに近づいた。
この甲羅も、素材として売れるんだろうな。
「《収納》」
魔物の身体が消えた。
「じゃあ、先へ進もうか」
「うん!」
◇
俺たちは地図を確認しながら、さらに奥へ進んだ。
途中には、いくつもの分かれ道があった。
壁には水が流れた跡が残り、足元が濡れている場所も多い。
「この先、二つに分かれてるみたいだね」
フェリシアが地図を覗き込んだ。
「うん。片方は水が溜まっている通路みたい」
やがて分岐点に到着した。
左側は地面が低くなっており、奥の方まで水が溜まっていた。
一方、右側は高い岩場の通路になっている。
「どっちに行く?」
ルナが聞く。
「ちょっと待って」
フェリシアが左側の通路を指差した。
「あそこの水、動いてない?」
「……あ」
確かに、水面がゆっくりと揺れていた。
壁をよく見ると、俺の腰よりも高い位置に、水が届いた跡が残っている。
「満潮になると、ここまで水が来るのかな」
「そうかもしれないね」
フェリシアが頷いた。
「今は通れても、帰りに水没してたら困るよね」
「じゃあ、右に行こう!」
ルナが岩場の通路を指差した。
「うん。そっちにしようか」
俺は地図を広げ、左側の通路に印をつけた。
水位が変わる場所は、ちゃんと記録しておこう。
今回の依頼は調査だ。
魔物を倒すだけじゃなく、こういう情報も大切なんだろう。
右側の通路は、地面が周囲より高くなっていた。
足元は乾いており、壁にも水が届いた跡は見当たらない。
「こっちなら、帰りも通れそうだね」
フェリシアが言った。
「うん。念のため、途中でも確認しながら進もう」
俺たちはさらに奥へ向かった。
◇
岩場の通路を進んでいく。
足元には大小の石が転がり、ところどころに段差があった。
テリーは器用に岩を越えていく。
「ワフ!」
「テリー、速いね!」
ルナが笑った。
ステフも小さく翼を広げ、低い位置を飛んでいる。
「キュ!」
「ステフ、あまり先へ行かないでね」
フェリシアが声をかけた。
しばらく進んだところで、ルナが足を止めた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「風が来てる」
ルナが顔を上げる。
俺も足を止めた。
確かに、奥からひんやりした風が流れてくる。
「広い場所につながってるのかも」
ルナが言った。
「そうなの?」
「うん。さっきまでとは風の流れが違うんだ」
俺も耳を澄ませた。
……水の音がする。
でも、入口の近くで聞いたものとは違う。
もっと広い場所で、水が動いているような音だ。
「行ってみようか」
「うん!」
俺たちは慎重に進んだ。
やがて、通路の先に青白い光が見えてきた。
「……何だろう?」
ルナが足を速める。
「ルナ、気をつけて」
「うん!」
俺たちは光の方へ向かった。
そして、通路を抜けた。
「…………!」
思わず足が止まった。
目の前に、巨大な空間が広がっていた。
天井は高く、無数の鍾乳石が垂れ下がっている。
岩壁のあちこちには、青白く光る鉱物が埋まっていた。
その光が、広い空間を淡く照らしている。
そして、その下には……。
「……すごい」
思わず声が漏れた。
巨大な湖が広がっていた。
青白い光を映した水面が、遠くまで続いている。
ときおり小さな波が岩壁にぶつかり、静かな音を響かせていた。
「これ……海なの?」
ルナが目を丸くする。
「海につながっているのかもしれないね」
フェリシアが言った。
確かに、潮の匂いがする。
海の水が、こんな地下深くまで入り込んでいるのか。
「すごいね……」
フェリシアも感心している。
「うん」
俺たちはしばらく湖を眺めていた。
青白い光が水面に揺れ、天井の鍾乳石がその上に影を落としている。
地上では、こんな景色は見られないだろう。
「ねえ、アレン!」
ルナが遠くを指差した。
「あそこ!」
湖の対岸に、大きな岩の門のようなものが見えた。
その奥は暗く、さらに通路が続いているらしい。
「あっちにも行けるのかな?」
「どうだろう」
俺は地図を取り出した。
現在地を確かめる。
「この辺りから、中層へ続くみたいだね」
「じゃあ、あの門の向こうかな?」
「その可能性はあるね」
フェリシアが湖を見つめた。
「でも、どうやって渡るんだろう?」
確かに。
湖は広く、対岸まではかなり距離がある。
泳いで渡るのは避けたいところだ。
すると、ルナが首を傾げた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「さっきより、水が減ってない?」
「えっ?」
俺も水面を見た。
よく見ると、岸辺にあった水の線が少しずつ下がっている。
しばらく待つ。
すると、湖の中央付近に何かが見えてきた。
「あっ!」
ルナが指差す。
「石が出てきた!」
水面から、大きな平たい石が姿を現した。
一つ。
二つ。
さらにその向こうにも。
まるで、対岸へ向かって並んでいるようだ。
「……なるほど」
フェリシアが呟いた。
「潮が引くと、道が現れるんだね」
「そうみたいだ」
俺は周囲を見渡した。
石の並ぶ先には、対岸の岩の門がある。
これなら、水位が十分に下がれば歩いて渡れるかもしれない。
「すごい!」
ルナの目が輝いた。
「ダンジョンの中なのに、時間によって道ができるんだ!」
「面白いね」
フェリシアも笑った。
「でも、帰りに水が増えるかもしれないから、渡る前にちゃんと確認しようね」
「うん。そうだね」
俺も頷いた。
幸い、ここまでは水に沈まない高い通路を通ってきた。
帰り道は確保できている。
あとは、湖を渡れる時間を確かめればいい。
俺は地図に石の並ぶ位置を書き込んだ。
水位が変わるにつれて、さらに石が現れてくる。
「ねえ、アレン!」
ルナが嬉しそうに笑った。
「向こうまで行ってみようよ!」
「うん。安全に渡れるのを確認したらね」
「やった!」
俺も湖の向こうにある門を見つめた。
あの先には、何が待っているんだろう。
久しぶりのダンジョン探索。
やっぱり、冒険って面白いな。
【保有:96,400P】
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