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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第10章 再び南へ

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第179話 南の海へ

 翌朝。


 宿の一階へ下りると、ルナとフェリシアが先に朝食を食べていた。


「アレン、おはよう!」


「おはよう」


「よく眠れた?」


 フェリシアに聞かれて、少し考える。


「うん。夜中に目は覚めたけど、また眠れたよ」


「よかった」


 俺が席に座ると、ルナが待ちきれない様子で身を乗り出した。


「ねえ! 昨日の話なんだけど!」


「うん?」


「やっぱり海に行こうよ!」


「海か」


「私、一度も見たことないんだもん!」


 ルナの目が輝いている。


「フェリシアは?」


「アンカルジアも気になるけど、私も海を見てみたいな。港町なら珍しい魔道具もありそうだし」


「決まりだね!」


 俺も異論はなかった。


「じゃあ、南へ行こう」


「やった!」


「ワフ!」


「キュ!」


 テリーとステフまで声を上げた。


 とはいえ、どこを目指せば海が見られるのか分からない。


 朝食のあと、宿の主人に尋ねることにした。


 ◇


「南の海を見たいのかい?」


「はい」


「それならシリング公爵領だな。海洋貿易も漁業も盛んだし、塩もたくさん作っている」


「塩って、海で作れるんですか?」


 ルナが驚く。


「ああ。海の水はしょっぱいからな。水を蒸発させて塩を取るんだ」


「へえ!」


「初めて行くなら、南西のミナリアがいい。外国の商船も集まる大きな港町だぞ」


「ミナリア……」


 フェリシアが名前を繰り返す。


「ここからどれくらいですか?」


「歩いて十五日くらいだな」


「十五日かあ」


 ルナが指を折り始めた。


 宿の主人は簡単な地図を広げた。


「今いるバレインはセレド領だ。南下してハーシュハイザー伯爵領を越えれば、シリング公爵領に入る」


「途中に大きな町はありますか?」


「街道沿いに宿場町がある。そうそう、ハーシュハイザー領の西には王都があるぞ。西へ分かれる道を間違えないようにな」


「王都もあるんだね!」


 ルナが地図を覗き込む。


「今回は海だよ」


 主人は笑いながら、ミナリアへ続く道を指でなぞった。


「港に近づくと魚や塩を積んだ荷馬車が増える。道は分かりやすいはずだ」


「ありがとうございます」


 俺たちは旅支度を整え、バレインを出発した。


 ◇


 南へ続く街道は、畑や牧草地の間を通っていた。


「十五日もあったら、ステフもいっぱい飛べるようになるかもね!」


 ルナが言った。


「キュ!」


 ステフが小さな翼を動かし、ふわりと浮かぶ。


 以前から俺の頭より高く飛べるようにはなっていた。


 ただ、遠くまで飛び続けるのはまだ苦手だ。


「海の上も飛べるようになるかな?」


「まずは陸の上で長く飛べるようになってからだね」


 フェリシアが笑う。


「ステフ、あそこの木まで行ける?」


「キュ!」


 ルナが指差すと、ステフは羽ばたきながら飛び出した。


 ところが途中で高度が下がり、草の上にぽすんと着地した。


「惜しい!」


「キュウ……」


「大丈夫だよ。昨日より遠くまで飛べたじゃん!」


 ステフは気を取り直し、また羽を広げた。


「ワフ!」


 今度はテリーが駆け出した。


 ステフが上から追いかける。


「二匹とも元気だなあ」


「仲がいいよね」


 フェリシアが笑った。


 そのまましばらく二匹の追いかけっこが続いた。


 ◇


 旅を始めて数日。


 俺たちはセレド領を抜け、ハーシュハイザー伯爵領に入った。


 道中、また眠れない夜もあった。


 朝になって《全回復》を使ったのは三回。


 一回五百Pだから、合わせて千五百Pだ。


 エルフの里で眠れた夜は嬉しかった。


 でも、まだ戦場のことを思い出してしまう。


 今夜は眠れるだろうか。


 そんなことを考える自分が、少し嫌だった。


 ◇


 六日目の昼過ぎ。


 林に挟まれた街道を歩いていると、前方から怒鳴り声が聞こえた。


「荷物を出せ!」


「勘弁してください! これを取られたら……!」


 俺たちは足を止めた。


 街道の先に荷馬車が三台。


 その周りを、武器を持った男たちが取り囲んでいる。


 盗賊だ。


 数は五人。商隊の人たちは馬車の脇に集められていた。


「アレン」


 フェリシアが俺を見る。


「うん。助けよう」


 そう言ってから、自分の手に目がいった。


 剣を抜けば、あの人たちは簡単に倒せる。


 でも。


「……今回は、誰も斬らない」


「うん」


 ルナがすぐに頷いた。


「私もそうする」


 フェリシアも杖を構える。


「テリーとステフは、無理しないでね」


「ワフ!」


「キュ!」


 俺たちは街道へ出た。


「おい!」


 一人の盗賊がこちらを振り返る。


「何だ、お前ら!」


「その人たちを放してください」


「はあ? 何言ってやがる!」


 男が剣を抜いた。


 その刃を見た瞬間、戦場の光景が頭をよぎった。


 血のついた剣。


 倒れた兵士。


「アレン!」


 ルナの声で我に返る。


 盗賊が走ってきた。


 俺は剣を抜かなかった。


 振り下ろされた刃を横へかわし、男の手首を掴む。


「うわっ!」


 腕をひねると、剣が地面に落ちた。


 足を払って倒し、そのまま地面に押さえつける。


「動かないでください」


「ぐっ……!」


 すぐに次の男が向かってくる。


「《魔弾》!」


 フェリシアの魔弾が男の足元に着弾した。


「うおっ!」


 男がひるんだところへ、テリーが飛び出す。


「ワフッ!」


「なっ、何だ!?」


 テリーは勢いよく男の横へ回り込み、逃げ道を塞いだ。


 男が反対側へ向き直る。


 その隙に俺が近づき、武器を奪った。


「よし、テリー!」


「ワフ!」


 テリーが尻尾を振る。


 上手い。


 ただ走り回っているわけじゃない。相手の動きを見て、行く手を塞いでいる。


 その時、馬車の向こうから悲鳴が聞こえた。


「助けて!」


 商人の一人が、盗賊に刃物を突きつけられていた。


「近づくな!」


 盗賊が叫ぶ。


 俺が動けば、商人が傷つくかもしれない。


 どうする。


「キュッ!」


 頭上で声がした。


 ステフだ。


 馬車の上を越えて、盗賊の背後まで飛んでいる。


 いつもよりずっと長い距離だ。


「何だ!?」


 盗賊が上を見た。


「キュウウッ!」


 ぼっ。


 小さな炎が、男の足元の土を焦がした。


「うわっ!」


 男が思わず後ろへ飛び退く。


 商人から刃物が離れた。


 今だ。


 俺は一気に距離を詰める。


 男の腕を掴んで刃物を奪い、地面へ押さえつけた。


「離せっ!」


「暴れないでください!」


 残った二人は逃げようとしたが、ルナの放った矢が前方の地面に突き刺さった。


「次は止まって!」


「ひっ!」


 足を止めた二人を、俺とフェリシアで取り押さえた。


 ◇


 盗賊五人を縄で縛り、商隊の人たちの無事を確かめる。


 怪我をしている人はいたが、命に関わるほどではなかった。


「ありがとうございます!」


 商隊を率いていた男が、何度も頭を下げる。


「本当に助かりました。もう駄目かと思いましたよ」


「皆さん無事でよかったです」


「それに……盗賊たちも、生きてるんですね」


「はい。あとは衛兵に引き渡しましょう」


 盗賊たちは縛られたまま、おとなしくしていた。


 その姿を見て、胸の奥が少し軽くなった。


 俺は自分の手を見る。


 さっきまで戦っていた。


 でも、血はついていない。


 人を助けた。


 誰も殺さずに。


「アレン?」


 フェリシアが近づいてきた。


「大丈夫?」


「……うん」


 もう一度、盗賊たちを見る。


 全員、生きている。


「剣を抜かなくても、助けられたね」


 俺が言うと、フェリシアが頷いた。


「うん」


 ルナもやって来た。


「テリーもステフも頑張ったよ!」


「ワフ!」


「キュ!」


「本当に助かった。ありがとう」


 二匹の頭を撫でる。


 ステフは得意そうに翼を広げ、テリーは尻尾を大きく振った。


 その後、商隊と一緒に近くの宿場町へ向かい、盗賊たちを衛兵に引き渡した。


 ◇


 その夜。


 宿の寝台に横になる。


 目を閉じると、昼間の盗賊たちの顔が浮かんできた。


 剣を持って向かってきた男。


 商人に刃物を突きつけていた男。


 戦場のことも、少し思い出した。


「……」


 だけど今日は、そこから先が違った。


 テリーが盗賊の行く手を塞いだこと。


 ステフが馬車を越えて飛んだこと。


 ルナとフェリシアが、俺に合わせて戦ってくれたこと。


 そして、無事に帰っていった商隊の人たち。


「……守れたんだな」


 人と戦うことになっても、必ず殺さなければならないわけじゃない。


 もちろん、いつでも今日のようにできるとは限らない。


 それでも、こういう戦い方もある。


 俺は自分の手を眺め、それから目を閉じた。


 ◇


「……ん?」


 翌朝。


 窓から光が差し込んでいた。


 眠れた。


 しかも、夜中に目が覚めた記憶もない。


「……よし」


 身体を起こす。


 今日は《全回復》を使わなくても大丈夫そうだ。


 朝食の席でそのことを話すと、二人とも嬉しそうに笑った。


「よかったね、アレン!」


「うん」


「じゃあ、今日も海を目指して出発しようか」


 フェリシアが言う。


「そうだね」


 俺たちはまた南へ歩き始めた。


 ◇


 旅の九日目。


 街道は西と南に分かれていた。


「西へ行くと王都だって」


 道標を読んだフェリシアが言う。


「セルヴァンの王都かあ」


 ルナが西の道を見る。


「ちょっと行ってみたいね」


「でも、海が先でしょ?」


「もちろん!」


 ルナは迷わず南を指差した。


 俺たちは笑いながら南の道へ進んだ。


 十日目にはシリング公爵領へ入った。


 街道には魚や塩を積んだ荷馬車が増え、宿場町でも干物を売る店が目につくようになった。


 ある日、休憩中にステフが翼を広げた。


「キュ!」


 ふわりと浮かび、街道脇の畑の上を進んでいく。


 前なら、あの辺りで一度着地していた。


 でも、今日は違った。


「……あれ?」


 ステフはそのまま遠くの木まで飛び、くるりと向きを変えた。


「キュウ!」


 羽ばたきながら、こちらへ戻ってくる。


「すごい!」


 ルナが手を振った。


「ステフ! 戻ってこられたね!」


「キュ!」


 ステフは俺たちの前に降り立ち、得意そうに胸を張った。


「これなら海の上も少しは飛べるかもね」


 フェリシアが笑う。


「でも、岸から離れすぎないようにしないと」


「うん!」


 テリーも負けじと走り出した。


「ワフ!」


「テリーもすごかったよね。盗賊の動きをちゃんと見てたもん」


 ルナに褒められ、テリーは嬉しそうに尻尾を振った。


 二匹とも少しずつ成長している。


 そういえば、盗賊に襲われた商隊を助けた夜から、俺は《全回復》を一度も使っていない。


 戦場の記憶が消えたわけじゃない。


 それでも夜には眠れる。


 今は、それが嬉しかった。


 ◇


 十五日目。


 俺たちはミナリアへ向かう街道を歩いていた。


「もうすぐなんでしょ?」


 ルナが何度目かの質問をする。


「今日中には着くはずだよ」


 フェリシアが答えた。


 街道は緩やかな丘へ続いている。


 坂を登るにつれて、いつもとは違う匂いがしてきた。


「……何だろう?」


 ルナが鼻を動かす。


「海の匂いじゃない?」


「海って匂いがするの?」


「私も初めてだから、分からないけど」


 フェリシアが笑う。


 丘の上に着いた。


「……あ」


 ルナが立ち止まる。


 俺も足を止めた。


 目の前に青い水が広がっていた。


 どこまでも。


 遠くには空と水の境目があるだけだ。


「……これが海?」


 俺が呟くと、ルナが大きく息を吸った。


「海だー!」


「ワフ!」


「キュ!」


 テリーが跳ね、ステフがふわりと浮かび上がった。


「すごいね……」


 フェリシアも海を見つめている。


 陽光を受けて、水面がきらきらと輝いていた。


 丘の下には大きな町がある。


 港には何隻もの船が停まり、その向こうにも小さな帆が見えた。


「あれがミナリアかな?」


「きっとそうだね」


「早く行こうよ!」


 ルナが歩き出しかける。


「ちょっと待って」


「どうしたの?」


「もう少し、ここから見ていたいな」


 俺が言うと、ルナは振り返った。


「……うん!」


 三人で並んで海を見る。


 しばらくして、ステフが風に乗るように羽ばたいた。


 俺たちの頭上を一回りして、すぐそばへ戻ってくる。


「キュ!」


「ステフも嬉しいのかな?」


「そうかもね」


 ルナが笑った。


 十五日かけて、ここまで来た。


 誰かを倒すためじゃない。


 ただ、海を見てみたかった。


「……来てよかった」


「まだ町にも入ってないよ?」


 フェリシアが笑う。


「それもそうだね」


「じゃあ行こう! 魚も食べたいし!」


「ルナはそればっかりだね」


「だって楽しみなんだもん!」


 俺たちは丘を下り始めた。


 港からは人々の声と、船の帆が風を受ける音が聞こえてくる。


 見たことのないものが、まだまだたくさんありそうだ。


「アレン、早く!」


「うん!」


 俺も二人と二匹の後を追った。


 丘を下りきると、ミナリアの城門が見えてきた。


 衛兵に身分を示し、入町の手続きを済ませる。


 門の向こうには港まで続く大通りが伸びていた。


「明日は海のすぐそばまで行こうね!」


「うん。船も見たいな」


 フェリシアが頷く。


「じゃあ、まずは宿を探そうか」


「お魚が美味しいところがいい!」


「宿の話だよ、ルナ」


 俺たちは笑いながら、初めての港町へ足を踏み入れた。


【保有:95,100P】

【累計獲得P:552,310P】



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― 新着の感想 ―
PTSDは廃人になってもおかしくないですから、ゆっくり療養することですね その割に不殺とはいえ盗賊制圧しに行くというのはだいぶ症状が軽く感じられます...フェリシアとルナに任せてアレンは血を見た事で震…
アレン君は正義感が強くてやさしいところもあるけど盗賊は極刑、死罪だよね ジェリドを倒してから【P】が7000減ってるよ全回復に使ったんでしょ?クロードさんのような人が今以上に強くなればSランクも納得で…
何なんだろう?アレン基準で良いことがあった日は眠れるのかな?
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