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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第10章 再び南へ

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177/201

第177話 旅の途中

 翌朝。


 結局、昨夜もほとんど眠れなかった。


「……はあ」


 寝台から身体を起こす。


 頭が重い。


 目を閉じれば、また戦場の光景が浮かんでくる。


「《全回復》」


【500P消費しました】


 身体が温かくなる。


 頭の重さが消え、疲れもなくなった。


「……よし」


 立ち上がる。


 今日からセルヴァン王国へ向かう。


 急ぐ必要はない。


 しばらくは戦争から離れて、ゆっくり過ごすつもりだ。


 それで眠れるようになるのかは分からないけど。


 ◇


 朝食を終えた俺たちは、ベルガントの町を出発した。


「ワフ!」


「キュ!」


 テリーとステフは朝から元気だ。


 特にテリーは、街道のあちこちを走り回っている。


「テリー! あんまり遠くに行かないでよ!」


「ワフ!」


 ルナが呼ぶと、すぐに戻ってきた。


「元気だね」


 フェリシアが笑う。


「うん」


「アレンは大丈夫?」


「身体は元気だよ」


「そっか」


 フェリシアはそれ以上聞かなかった。


 しばらく街道を南へ進む。


 以前も通った道だ。


 あの時はフェリシアと二人だった。


 今はルナとテリー、ステフもいる。


「あ、そうだ!」


 ルナが突然振り返った。


「ねえ、二人とも!」


「何?」


「せっかくミラディアを通るんだから、私の村に寄ってもいい?」


「ルナの故郷?」


「うん! 久しぶりに母さんにも会いたいし」


「いいね!」


 フェリシアが頷く。


「アレンは?」


「もちろん。俺もまた行きたいと思ってた」


「本当?」


「うん。泉がどうなったかも気になるしね」


「あれから何もなければいいんだけど」


「きっと大丈夫だよ」


 ルナが嬉しそうに笑った。


「じゃあ決まり!」


「ワフ!」


「キュ!」


「テリーとステフも母さんに紹介しなきゃ!」


「驚くだろうね」


「絶対驚くと思う!」


 ルナは楽しそうだった。


 そういえば、ルナと出会ったのもミラディアだったな。


 あの頃は、まだ戦争なんて考えてもいなかった。


 ◇


 三日目。


 俺たちは街道から東へ入り、森の中を進んでいた。


「こっちだよ!」


 先頭を歩くのはルナだ。


 慣れた様子で木々の間を進んでいく。


 周囲には背の高い木々が並び、頭上を覆う枝の間から陽光が差し込んでいる。


 道の脇には小さな水路があった。


「あ、この道覚えてる」


 フェリシアが言った。


「俺も」


 以前、ルナに案内してもらった道だ。


 丸太と板で作られた橋を渡る。


「あ、見えてきた!」


 ルナが指差した。


 木々の向こうに、いくつもの建物が見える。


 エルフの里だ。


 大きな木の幹にも家が建てられ、その間を吊り橋が結んでいる。


 以前と変わらない景色だった。


「ただいまー!」


 ルナが大きな声を上げる。


 近くにいた村人たちが振り返った。


「あれ? ルナ?」


「ルナじゃないか!」


「帰ってきたのかい?」


「うん!」


 次々と人が集まってくる。


 その中の一人が俺たちを見た。


「あっ! あの時の冒険者さん!」


「お久しぶりです」


「アレンさんとフェリシアさんじゃないか!」


 覚えていてくれたらしい。


「泉の時は本当にありがとうね」


「いえ。皆さん元気そうでよかったです」


 以前、この里では泉の水に毒が混じり、大勢の村人が倒れていた。


 原因は上流にいたポイズンワームだった。


 俺たちは魔物を倒し、毒ゴケによる汚染を解決した。


「あれから泉は大丈夫ですか?」


「ああ。何も問題ないよ」


「よかった」


 少し歩くと、泉が見えてきた。


 澄んだ水が流れている。


 近くでは子供たちが木の桶に水を汲んでいた。


 そのうちの一人が、俺たちに気づいて手を振る。


「……」


 あの時、倒れていた人たちも元気になったんだな。


 少なくとも、ここでは。


「ルナ!」


 声がした。


「母さん!」


 ルナが駆け出した。


 向こうからも一人の女性が歩いてくる。


 マリエルさんだ。


「久しぶり!」


「もう。帰ってくるなら連絡くらいしなさい」


「急に決まったんだもん」


「そうなの?」


「うん!」


 マリエルさんがこちらを見る。


「あら! アレンさん、フェリシアさんも!」


「お久しぶりです」


「また来てくださったのね」


「はい」


「本当に嬉しいわ」


 マリエルさんが笑う。


 すると、足元でテリーが鳴いた。


「ワフ!」


「あら?」


「キュ!」


「まあ。この子たちは?」


「私たちの仲間だよ!」


 ルナが得意そうに答える。


「こっちがテリーで、こっちがステフ!」


「可愛いわね」


「テリーはフェンリルなんだよ!」


「……フェンリル?」


 マリエルさんの表情が固まった。


「ルナ。フェンリルって、あのフェンリル?」


「そうだよ!」


「……本当に?」


「ワフ!」


 テリーが元気よく鳴く。


 マリエルさんはしばらくテリーを見つめていた。


「……驚いたわ。フェンリルを連れて旅をしているなんて」


「それだけじゃないよ!」


「え?」


「ステフはグリーンドラゴンの子供なんだ!」


「……え?」


「キュ!」


 ステフが小さな翼を広げる。


「……ドラゴン?」


「うん!」


「ちょ、ちょっと待って、ルナ」


 マリエルさんが額に手を当てた。


「フェンリルに、グリーンドラゴン?」


「そうだよ!」


「……」


 マリエルさんが俺を見る。


「アレンさん。本当なの?」


「はい」


「……まあ」


 言葉を失ってしまった。


 そこへ近くにいた村人がやって来る。


「どうしたんだい?」


「この子たち、フェンリルとグリーンドラゴンなんですって」


「……は?」


 村人が二匹を見る。


「ワフ!」


「キュ!」


「……」


 しばらく沈黙が続いた。


「ルナ」


「何?」


「あなたたち、一体どんな旅をしてきたの?」


「いろいろあったよ!」


 ルナが嬉しそうに笑う。


「まだあるよ! アレン、Sランクになったんだから!」


「……え?」


 マリエルさんが再び俺を見る。


「Sランク?」


「はい。一応」


「一応じゃないでしょ!」


 ルナが笑う。


「私もAランクになったの!」


 マリエルさんは大きく息を吐いた。


「……もう、何から驚けばいいのか分からないわ」


 フェリシアが笑った。


「私たちも、いろいろありましたから」


「そうみたいね」


 マリエルさんが苦笑する。


「でも、みんな無事でよかったわ」


 ◇


 その日の夕方。


 俺たちはマリエルさんの家で夕食をご馳走になっていた。


 室内には以前と同じように乾燥させた薬草が吊るされ、木と香草の匂いが漂っている。


 食卓には野菜やキノコの煮込み、焼いた肉、パンが並んでいた。


「母さん、これ美味しい!」


「よかったわ」


「久しぶりに食べた!」


 ルナは嬉しそうに食べている。


 フェリシアも料理を褒めていた。


 村長のエルマーさんも顔を出してくれた。


「アレン殿。またお会いできて嬉しいです」


「こちらこそ」


「泉のことでは本当にお世話になりました」


「いえ。皆さん元気そうで安心しました」


「あれから一度も問題は起きておりません。おかげさまで、以前と変わらない暮らしが戻りました」


「それはよかったです」


 エルマーさんが笑う。


 俺もスプーンを手に取った。


「……」


 一口食べる。


 でも、あまり味が分からなかった。


「アレンさん?」


 マリエルさんが俺を見る。


「はい?」


「あまり食べていないわね」


「あ……すみません」


「謝らなくていいのよ」


 マリエルさんが優しく笑う。


「食欲がないの?」


「……少し」


「そう。無理して食べなくても大丈夫よ」


「ありがとうございます」


 スプーンを置く。


 マリエルさんはそれ以上聞かなかった。


 ただ、ルナが少し心配そうに俺を見る。


「母さん」


「何?」


「アレン、最近あんまり眠れてないんだ」


「眠れていない?」


「うん。戦争から帰ってきてから、ずっと」


 マリエルさんの表情が変わった。


「戦争に行っていたの?」


「……はい」


「そうだったの」


「はい」


「大変だったわね」


「……」


 何と答えればいいのか分からなかった。


「今日はゆっくりしていってね」


「ありがとうございます」


 マリエルさんはそう言って、食事を続けた。


 ◇


 その夜。


「……」


 やっぱり眠れなかった。


 寝台に横になって目を閉じる。


 すると、またあの光景が浮かんでくる。


 ジェリド。


 バスク。


 名前も知らない兵士たち。


 剣を振った時の感触。


 倒れた人の顔。


 それに、あの数字。


 人を倒すたびに表示されていたP。


「……っ」


 目を開ける。


 静かな部屋。


 ここは戦場じゃない。


 分かっている。


 それでも、もう一度目を閉じる気にはなれなかった。


「……」


 起き上がる。


 少し外の空気を吸おう。


 家を出ると、夜の森は静かだった。


 遠くから虫の声が聞こえる。


 少し歩くと、泉が見えてきた。


「……」


 水の流れる音を聞きながら、近くの石に腰を下ろす。


 昼間は子供たちが水を汲んでいた場所だ。


 今は誰もいない。


 しばらく泉を眺めていると、後ろから声がした。


「アレンさん?」


 振り返る。


「マリエルさん」


「あら、やっぱりここにいたのね」


「……すみません。勝手に外へ出て」


「いいのよ。眠れなかった?」


「……はい」


「そう」


 マリエルさんは俺の隣に腰を下ろした。


「ここ、静かでしょう?」


「はい」


「私も時々来るのよ」


「そうなんですか」


「ええ。水の音を聞いていると落ち着くの」


 しばらく二人で泉を眺めた。


「ルナから少し聞いたわ」


「……はい」


「戦争で、たくさんの人と戦ったんですってね」


「はい」


「そう……」


 俺は自分の手を見る。


「……俺、人をたくさん殺したんです」


 マリエルさんは黙って聞いていた。


「魔物は何度も倒してきました。でも、人間は違いました」


「……」


「剣を振った時の感触が、まだ残ってるんです」


「そうなのね」


「夜になると、思い出してしまって」


 マリエルさんは何も言わなかった。


「何人斬ったのかも覚えていません」


 言葉にすると、胸が苦しくなった。


「敵だったんです。倒さないと、こっちが殺される。仲間も危なかった」


「ええ」


「だから、戦いました」


「……」


「でも、あの人たちにも家族がいたんだろうなって」


 泉を見る。


「俺が殺した人にも、帰りを待ってる人がいたのかもしれない」


「……そうね」


「それを考えると、どうしていいのか分からなくなるんです」


 マリエルさんはすぐには答えなかった。


 水の流れる音だけが聞こえる。


「アレンさん」


「はい」


「私は戦争に行ったことがないから、あなたの気持ちが全部分かるとは言えないわ」


「……はい」


「でも、つらかったのね」


「……はい」


 それだけ答えるのが精一杯だった。


「今も、思い出すの?」


「はい。目を閉じると」


「そう……」


 マリエルさんが泉を見た。


「あの泉を覚えているでしょう?」


「はい」


「あなたたちが助けてくれた泉よ」


「……」


「今も毎日、村のみんなが水を汲んでいるわ」


 昼間の子供たちを思い出す。


「あなたたちのおかげで、みんな元気に暮らしているの」


「でも……」


「うん?」


「それと、人を殺したことは別だと思うんです」


 マリエルさんが俺を見た。


「……そうね」


 少しだけ驚いた。


「私もそう思うわ」


「……」


「誰かを助けたから、ほかのことを忘れていいなんて言えないもの」


 マリエルさんが微笑む。


「ただね、あなたが助けてくれた人たちも、ここで暮らしているの。それは覚えていてほしいわ」


「……はい」


「それに、アレンさん」


「はい?」


「ここでは何もしなくていいのよ」


「……何も?」


「ええ。誰かを助けようとしなくてもいいし、強い冒険者でいる必要もないわ」


「……」


「疲れたら休んで、お腹が空いたらご飯を食べて。それでいいの」


 そんなことを言われたのは、いつ以来だろう。


 冒険者になってから、ずっと何かをしてきた。


 依頼を受けて。


 魔物を倒して。


 誰かを助けて。


 そして戦争にも行った。


「以前は私たちが助けてもらったんだから、今度はあなたが私たちを頼ってもいいのよ」


「……」


 何も言えなかった。


 マリエルさんはそれ以上何も言わず、俺と一緒に泉を眺めていた。


 ◇


「アレン!」


 しばらくすると、聞き慣れた声がした。


「ルナ?」


「こんなところにいた!」


 ルナが走ってくる。


 後ろにはフェリシアもいた。


「部屋にいなかったから心配したよ」


「ごめん」


「また眠れないの?」


「……うん」


「そっか」


 ルナが隣に座る。


 フェリシアも反対側に腰を下ろした。


「ワフ!」


「キュ!」


 テリーとステフもやって来る。


 テリーは俺の足元で丸くなった。


「みんな来ちゃったわね」


 マリエルさんが笑う。


「母さんもいたんだ」


「ええ。アレンさんとお話ししていたの」


「そっか」


 ルナが泉を見る。


「懐かしいなあ。小さい頃、よくここに来たんだよね」


「そうね」


 マリエルさんが頷く。


「特に怖い夢を見た夜は、よくここに来ていたわ」


「……母さん?」


「私が探しに来ると、いつも泣いていたのよ」


「ちょっと!」


 ルナが慌てる。


「そんな話しなくていいから!」


「あら、本当のことでしょう?」


「そうだけど!」


 フェリシアが笑った。


「ルナにもそんな頃があったんだ」


「フェリシアまで!」


「可愛いね」


「もう!」


 思わず笑ってしまった。


「アレンまで笑わないでよ!」


「ごめん」


 ルナが頬を膨らませる。


「そういえば、森で迷子になったこともあったわね」


「母さん!?」


「あの時も大変だったのよ。村のみんなで探して」


「もういいってば!」


 マリエルさんが笑う。


 フェリシアも笑っていた。


 俺も、また笑ってしまった。


 それからしばらく、昔のルナの話が続いた。


 初めて弓を持った時のこと。


 母親に叱られて、泉のそばに隠れたこと。


 村の外へ行きたいと言い出した時のこと。


「母さん! もうやめて!」


 ルナが何度も抗議する。


 そのたびにフェリシアが笑う。


 俺も笑った。


 久しぶりに、何も考えずに笑った気がした。


 ◇


 夜も更けた頃。


 俺たちはマリエルさんの家へ戻った。


「おやすみ、アレン」


「おやすみ」


 ルナたちと別れ、部屋へ入る。


 寝台に横になる。


「……」


 目を閉じる。


 また、戦場の光景が浮かんだ。


 倒れた兵士。


 血のついた剣。


「……」


 やっぱり駄目か。


 そう思った。


 でも、少しすると別のことを思い出した。


 昼間の泉。


 水を汲んでいた子供たち。


 嬉しそうに母親へ駆け寄るルナ。


 昔の話で笑ったフェリシア。


 足元で眠っていたテリー。


「……」


 ここは戦場じゃない。


 エルフの里だ。


 窓の外からは、水の流れる音が聞こえていた。


 マリエルさんの言葉を思い出す。


 ここでは何もしなくていい。


「……そうか」


 もう今日は、何もしなくていいんだ。


 水の音を聞いているうちに、少しずつ身体の力が抜けていった。


 ◇


「……ん?」


 目を開ける。


 窓から光が差し込んでいた。


「……朝?」


 身体を起こす。


 外を見る。


 もう日が昇っている。


「……あれ?」


 いつものように、夜が明けるまで起きていた記憶がない。


 昨日は寝台に横になって、それから……。


「……眠れた?」


 しばらく考える。


 いつの間にか眠っていたらしい。


 身体には少し疲れが残っていた。


 でも、いつもの朝とは違う。


 頭が重くない。


「……はは」


 思わず笑ってしまった。


 久しぶりに、まとまって眠れた。


 《全回復》を使わなくても起きられる。


「……よかった」


 小さく呟く。


 ただ眠れただけなのに、何だか嬉しかった。


 ◇


 食堂へ行くと、ルナとフェリシアが朝食を食べていた。


「あ、アレン!」


「おはよう」


「おはよう!」


 ルナが俺を見る。


「……あれ?」


「何?」


「何か、今日ちょっと違わない?」


「そう?」


「うん。顔色がいい」


 フェリシアも顔を上げた。


「本当だね」


「……実は」


「うん?」


「昨日、眠れたんだ」


「……え?」


 ルナが目を丸くする。


「本当に!?」


「うん。いつの間にか寝てた」


「よかった!」


 ルナが笑顔になる。


 フェリシアも嬉しそうだった。


「よかったね、アレン」


「うん」


「《全回復》は?」


「今日は使ってない」


「本当に?」


「うん」


「そっか……」


 ルナがほっとしたように笑った。


 ずっと心配をかけていたんだな。


「おはよう、みんな」


 そこへマリエルさんが入ってきた。


「母さん!」


「何?」


「アレン、昨日眠れたんだって!」


「あら!」


 マリエルさんが俺を見る。


「それはよかったわね」


「はい」


「今日は朝ご飯、食べられそう?」


「……はい」


 席に座る。


 パンを手に取って、一口食べた。


「……あ」


「どうしたの?」


 ルナが聞く。


「美味しい」


「え?」


「パン、美味しいよ」


 ルナが少し驚いた顔をしたあと、笑った。


「そりゃそうだよ!」


「……うん」


 俺も笑う。


 マリエルさんが煮込みを運んでくる。


「こっちも食べてみて」


「はい」


 一口食べる。


 野菜の甘みと香草の香りが口に広がった。


「美味しいです」


「よかったわ」


 マリエルさんが微笑む。


 俺はもう一口食べた。


 昨日はほとんど食べられなかったのに、今日は食べられそうだ。


 全部食べ終える頃には、少し物足りなくなっていた。


「……あの」


「何?」


「もう少し、いただいてもいいですか?」


 マリエルさんが嬉しそうに笑った。


「もちろんよ」


 ◇


 その日の昼前。


 俺たちはエルフの里を出ることになった。


 村の入口にはマリエルさんとエルマーさん、それから何人もの村人が集まっていた。


「またいつでもいらっしゃい」


「ありがとうございます」


「ルナも、たまには帰ってくるのよ」


「うん!」


「ちゃんと食べること。それから、危ないことはしないこと」


「母さん!」


 ルナが笑う。


「もう子供じゃないんだから!」


「親からすれば、いつまでも子供なのよ」


「もう……」


 以前、ルナがこの里を旅立った時も、こんなやり取りをしていたな。


 フェリシアが小さく笑う。


「また来ようね、ルナ」


「うん!」


 マリエルさんが俺を見る。


「アレンさん」


「はい」


「無理はしないでね」


「……はい」


「また眠れなくなったら、いつでもいらっしゃい」


「ありがとうございます」


「何も特別なことはできないけれど、お話くらいは聞けるから」


「……はい」


 頭を下げる。


「本当に、お世話になりました」


「こちらこそ」


 マリエルさんが微笑んだ。


「元気でね」


「はい」


 俺たちは村人たちに見送られ、森の中を歩き始めた。


「ワフ!」


「キュ!」


 二匹も元気に鳴く。


 途中で一度振り返る。


 マリエルさんたちが、まだ手を振っていた。


「……」


 また来よう。


 そう思った。


 ◇


 それから、俺たちはミラディアを南へ進んだ。


 途中の町に泊まりながら、急がずに旅を続ける。


 ダンジョンにも寄らず、依頼も受けなかった。


 今は急いで向かわなければならない場所もない。


 夜になると、まだ戦場の光景を思い出すことはあった。


 眠れない夜もあった。


 そのたびに翌朝、《全回復》を使った。


 エルフの里を出てから、使ったのは四回。


 でも、使わずに済んだ朝もあった。


 少しずつだが、眠れるようになってきた。


 もちろん、人を斬った記憶が消えたわけじゃない。


 あの時の感触も、まだ覚えている。


 それでも、以前とは少し違う。


 眠れる夜がある。


 それだけで、随分と気持ちが楽になった。


 ルナとフェリシアも、無理に何かを聞いてくることはなかった。


 ただ、いつも一緒にいてくれた。


 ◇


 ベルガントを出発してから十五日目。


 俺たちは大きな河の前に立っていた。


「着いたね!」


 フェリシアが言った。


 ラグナ河だ。


 この河を渡れば、セルヴァン王国。


 以前もここを通った。


「懐かしいね」


 ルナが笑う。


「うん」


「ワフ!」


「キュ!」


 テリーとステフも元気だ。


 渡し船に乗り、河を渡る。


 対岸にはセルヴァン王国の町が見えていた。


「アレン」


 フェリシアが隣に来る。


「何?」


「これからどうする?」


「……そうだね」


 少し考える。


 前に来た時は、冒険者として依頼を受けることばかり考えていた。


 でも、今は違う。


「とりあえず、ゆっくりしようか」


「うん!」


 フェリシアが笑う。


「私も賛成!」


 ルナも頷いた。


「テリーとステフも、いろんなところに連れて行きたいしね」


「ワフ!」


「キュ!」


 船が対岸へ近づいていく。


 しばらくして、セルヴァン王国へ入国した。


「……」


 空を見上げる。


 青い空。


 穏やかな風。


 遠くには緑の山々が見える。


 戦争から離れるために来た国。


 ここで何をするかは、まだ決めていない。


 それでいいと思った。


 今は、ただゆっくり過ごしたい。


「行こう、アレン!」


 ルナが呼ぶ。


「うん!」


 俺は二人と二匹の後を追って歩き始めた。


 今夜も眠れるかどうかは分からない。


 でも、少しだけ楽しみだった。


 明日の朝、どんな気分で目を覚ますのか。


 そんなことを考えられるようになったのは、久しぶりだった。


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― 新着の感想 ―
戦争は殺し合いだからね…
短期間に強くなりすぎた?しかも人外のような強さだし経験と精神面が追いついてないのかもね 戦争と人殺しの切り替えも出来ない脆い精神は兵士としての訓練を受けてないから仕方ないのかな強さだけでSランクになっ…
こういうまったりした話も好きです! 執筆頑張ってください!
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