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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第10章 再び南へ

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第176話 眠れない夜

 その日の夜。


 俺たちはベルガントの町に戻り、宿で夕食を取っていた。


 目の前には肉と野菜の煮込みとパンが並んでいる。


「……」


 腹が減っていないわけじゃない。


 でも、なかなか手が動かなかった。


「アレン」


「何?」


 ルナが俺の皿を見る。


「食べないの?」


「食べてるよ」


「全然減ってないよ」


「……そう?」


 言われて皿を見る。


 確かに、最初とほとんど変わっていない。


「そういえば最近、ずっと食べる量少なくない?」


 フェリシアも俺を見る。


「そうかな」


「うん」


 ルナも頷いた。


「……」


 パンをちぎって口へ運ぶ。


 でも、あまり美味しいとは思えなかった。


「アレン」


「うん?」


「やっぱり、まだ何かある?」


「何かって?」


「この前も手が震えてたでしょ。それに最近ずっと変だよ」


「……」


 フェリシアも何も言わずに俺を見ている。


 誤魔化そうかと思った。


 でも、やめた。


 二人にはずっと心配をかけている。


「……夜、眠れないんだ」


「眠れない?」


 フェリシアが聞き返す。


「うん」


「ずっと?」


「戦いが終わってから、ほとんど」


 ルナの表情が変わった。


「どうして?」


「目を閉じると、思い出すんだ」


 自分の手を見る。


「人を斬った時の感触とか」


 剣が肉に入った時の重さ。


 手に残った感触。


「血とか、倒れた人の顔とかも」


「……」


 ジェリドだけじゃない。


 バスク。


 名前も知らない帝国兵。


 何人斬ったのかも覚えていない。


「魔物を倒した時とは全然違った」


 しばらく誰も話さなかった。


「寝ようとすると、それが頭に出てくる。だから気づいたら朝になってる」


「でも」


 フェリシアが首を傾げる。


「朝になると普通に動いてたよね?」


「……うん」


「寝てないようには見えなかった」


「《全回復》を使ってたから」


「え?」


 二人が同時に俺を見る。


「朝になったら《全回復》を使ってる」


「毎朝?」


 ルナが聞いた。


「うん。ここ三日、ずっと」


「……」


 《全回復》は一回500P。


 三日で1,500P使った。


「使えば、体の疲れはなくなるんだ。寝てなくても体は動く」


 ルナが眉を寄せる。


「でも、それって休めてないよ」


「分かってる」


「《全回復》を使っても、思い出すのは変わらないんでしょ?」


「……うん」


「だったら、体だけ元気にしてるだけだよ」


「……」


 何も言い返せなかった。


 その通りだった。


 《全回復》を使えば、身体の重さも疲労も消える。


 でも夜になれば、また思い出す。


「アレン」


 フェリシアが静かに言った。


「しばらく戦わない方がいいんじゃない?」


「……」


「私もそう思う」


 ルナが続ける。


「戦争から離れようよ」


「戦争から……」


「うん。アレン、もうSランクになったんでしょ?」


「うん」


「お金もたくさんあるし、すぐに次の依頼を受けなくてもいいと思う」


 フェリシアも頷く。


「誰かに急かされてるわけでもないしね」


「……そうだね」


 今までは、いつも次にやることがあった。


 依頼。


 魔物。


 誰かを助けること。


 戦争。


 でも今は違う。


「どこか行く?」


 フェリシアが言った。


「どこか?」


「うん。しばらく戦争から離れられるところ」


「……どこがいいかな」


 フェリシアが少し考える。


「セルヴァンは?」


「セルヴァン?」


「前に行ったでしょ。ドラン帝国とも接してないし、いい国だったじゃない」


「うん」


 ルナも頷いた。


「私もセルヴァンがいいと思う」


「ルナも?」


「自然も多いし、テリーも過ごしやすそう」


「ワフ!」


 足元にいたテリーが鳴く。


「ステフもね」


「キュ!」


 ステフも返事をした。


 セルヴァン。


 以前訪れた時の景色を思い出す。


 緑が多く、穏やかな場所だった。


 少なくとも、ここより戦争からは遠い。


「……セルヴァンか」


「嫌?」


 フェリシアが聞く。


「ううん」


 少し考えてから首を振った。


「行こう」


「本当?」


「うん。しばらく戦争から離れたい」


 口にすると、少しだけ楽になった気がした。


 フェリシアが笑う。


「じゃあ決まりね」


「うん」


 ルナも笑った。


「セルヴァンへ行こう」


「ワフ!」


「キュ!」


 二匹も声を上げる。


 俺はもう一度、目の前の料理を見る。


 スプーンを取って、煮込みを一口食べた。


「どう?」


 ルナが聞く。


「……よくわからない」


「そう。無理して全部食べなくていいからね」


「うん」


 全部は食べられそうにない。


 今夜も眠れないかもしれない。


 そうなれば、明日の朝も《全回復》を使う。


 それでも今は、少しでも戦争から離れてみようと思った。


 次の目的地は決まった。


 セルヴァン王国だ。


【保有:100,100P】

【累計獲得P:552,310P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
個人的な思いではありますが、フェリシアやルナにも、同じようなトラウマはあるのでは?と考えてしまいます。 彼女らの心理的負担も軽くなると良いなぁ、と思いながら読ませていただいております。
リオンのところには行かないのかな? 毎日色々あって楽しいぞ
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