第174話 Sランク
数日後。
俺たちはサハル王都へ到着した。
「大きいね」
ルナが前を見る。
「うん」
高い城壁。
その向こうには、たくさんの建物が並んでいる。
さらに奥には大きな王宮。
「ワフ!」
「キュ!」
テリーとステフも一緒だ。
そして、その後ろには。
「……」
大きなフェンリル。
テリーのお母さんもいる。
もう普通に歩けるくらいまで回復していた。
◇
「止まれ!」
王宮の門へ近づいたところで、衛兵がこちらを見た。
「……ん?」
一人の顔が固まる。
「フェ、フェンリル!?」
「え?」
「フェンリルだ!」
衛兵たちが一斉に槍を構えた。
「待ってください!」
ルナが慌てて前へ出る。
「敵じゃありません!」
「だが!」
「テリーのお母さんです!」
「テリー?」
「この子です」
「ワフ!」
衛兵がテリーを見る。
次に、その何倍も大きな母親を見る。
「いや、そう言われても……」
「ですよね」
俺もそう思う。
「グル……」
「お、おい!」
母フェンリルが動いただけで、衛兵たちが一歩下がった。
「大丈夫です」
「本当か?」
「はい」
今度は迷わず答えた。
そこへ王宮の騎士が走ってくる。
「アレン・ヴァルディス殿ですね?」
「はい」
「話は伺っております」
騎士が俺たちを確認する。
そして、やっぱり母フェンリルのところで止まった。
「……こちらも報告にあったフェンリルですか?」
「はい。薬で操られていたんです」
「なるほど」
少し考える。
「申し訳ありませんが、王宮内へ入れることはできません」
「分かりました」
「騎士団の訓練場に隣接した庭を使ってください。そこなら問題ありません」
「ありがとうございます」
ルナがテリーたちを見る。
「ここで待っててね」
「ワフ!」
「グル」
「キュ!」
ステフもテリーの横へ移動した。
「ステフも残るの?」
「キュ!」
「そっか」
三匹なら寂しくないだろう。
「じゃあ、行ってくるね」
「ワフ!」
俺とフェリシア、ルナの三人で王宮へ入った。
◇
長い廊下を歩く。
「緊張する?」
フェリシアが聞く。
「少し」
「私はかなり緊張してる」
「私も」
ルナも小さく頷いた。
やがて、大きな扉の前へ着く。
「アレン・ヴァルディス殿」
「はい」
「フェリシア・ロート殿」
「はい」
「ルナ・アルヴェイン殿」
「はい」
「お入りください」
扉が開く。
「……」
広い。
奥には国王。
その周囲には重臣や軍人たちが並んでいる。
三人で前へ進み、指定された場所で止まった。
「アレン・ヴァルディス」
「はい」
「フェリシア・ロート」
「はい」
「ルナ・アルヴェイン」
「はい」
国王が俺たちを見る。
「まずは三人とも、よく帰ってきてくれた」
「ありがとうございます」
三人で頭を下げる。
「今回のドラン帝国による侵攻では、多くの者が命を落とした。ドレイモンド公爵も、その一人だ」
「……」
「だが、帝国軍の侵攻は退けられた」
国王の視線が俺たちへ向く。
「その勝利に、三人が大きく貢献したと報告を受けている」
一人の役人が前へ出た。
「ルナ・アルヴェイン殿」
「はい!」
「スコッティ公爵軍撤退時における負傷者への治療支援。遠距離からの敵指揮官及び魔法士への攻撃。また、トンプソン大橋攻略において敵伝令を阻止」
ルナが小さく頭を下げる。
「フェリシア・ロート殿」
「はい」
「敵軍による大規模な矢の攻撃を迎撃。帝国魔法部隊からの攻撃を複数回阻止。撤退戦及び反攻作戦においても前線を支援」
「はい」
「そして、アレン・ヴァルディス殿」
「はい」
「スコッティ公爵軍救援。帝国軍中央突破。バスク将軍討伐。トンプソン大橋攻略」
そこまで読み上げて。
一度、間が空いた。
「さらに、ドラン帝国第十三皇子――《雷帝》ジェリド討伐」
「……」
一瞬。
あの顔が浮かんだ。
『あ』
「……」
手に力が入る。
「アレン?」
フェリシアの小さな声。
「大丈夫」
前を見る。
国王が俺を見ていた。
「アレン」
「はい」
「お前がジェリド皇子を討たなければ、北部ではさらに大きな被害が出ていたであろう」
「……はい」
「三人とも、よくやってくれた」
「ありがとうございます」
「よって、王国より今回の戦功に対する報奨を与える」
役人が再び紙を見る。
「アレン・ヴァルディス殿。五千万ジェニー」
「……五千万?」
思わず聞き返した。
周囲から小さな笑いが起きる。
「不満か?」
国王が聞く。
「いえ! 逆です!」
「そうか」
国王が少し笑った。
「フェリシア・ロート殿。二千万ジェニー」
「ありがとうございます」
「ルナ・アルヴェイン殿。一千五百万ジェニー」
「……そんなに?」
「ルナ」
「あっ、すみません!」
また周囲から笑いが起きる。
「三人とも」
国王の声が少し低くなった。
「これは命を懸けたことへの代価ではない」
「……」
「命に値段など付けられん」
国王が俺たちを見る。
「王国を守った功績に対する、我々からの感謝だ」
「ありがとうございます」
今度は素直に頭を下げることができた。
◇
「さて」
国王が言う。
「王国からの話は以上だ」
「?」
「だが今日は、もう一人、お前たちに会うために来た者がいる」
扉が開いた。
一人の男が入ってくる。
六十歳くらいだろうか。
大柄な男だ。
短い髪には白いものが混じっている。
貴族のような派手な服装ではない。
それなのに男が歩いてくると自然と周囲が道を空けた。
「え……」
フェリシアが小さく声を漏らす。
「知ってる人?」
「アレン、本当に知らないの?」
「うん」
「嘘でしょ……」
男が俺たちの前まで来た。
「初めましてだな」
「はい」
「レオルド・グランツだ」
「レオルド……」
「冒険者ギルド総本部の総長を務めている」
「……え?」
総長?
「アルスレイン、セルヴァン、サハルをはじめ、各国の冒険者ギルドを統括している」
「すごい人?」
「すごい人!」
フェリシアが即答した。
「そうなの?」
「何で知らないのよ!」
「すみません」
レオルドさんが笑った。
「構わん」
「え?」
「冒険者が俺の顔を知っている必要はない」
「そうなんですか?」
「依頼の内容と、帰る場所さえ知っていれば十分だ」
「……」
なんか。
ちょっと好きかもしれない。
「さて」
レオルドさんが俺たちを見る。
「まずは冒険者として、一つ仕事を終わらせてもらう」
「仕事?」
一枚の紙を取り出す。
「お前たちが受注した緊急依頼」
そして読み上げた。
「《スコッティ公爵領東部・避難民誘導及び護衛》」
「あ」
そうだった。
元々、俺たちはこの依頼を受けていた。
「本来の目的は、帝国軍との戦闘ではない」
「はい」
「領民を安全な場所へ避難させること」
「はい」
「その目的は達成された」
レオルドさんが書類を閉じる。
「よって、冒険者ギルドは本依頼を正式に達成と認定する」
その瞬間。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
「……!」
表示が出た。
依頼達成。
人を倒した時とは違う表示。
「……」
ほんの少し肩の力が抜けた。
「三人には通常の依頼報酬に加え、今回の働きに対する特別加算を支払う」
「いくらですか?」
フェリシアが聞く。
「一人一千万ジェニー」
「……え?」
三人とも黙った。
「一千万?」
「ああ」
「一人?」
「ああ」
「三人合わせてじゃなくて?」
「ああ」
「……」
フェリシアが俺を見る。
「すごいね」
「うん」
「今回、そればっかりね」
「だって、すごいから」
レオルドさんが少し笑った。
「当然だ。当初の想定を遥かに超える危険に晒されたうえ、それ以上の成果を上げた」
王国からの報奨と合わせれば。
俺は六千万ジェニー。
フェリシアは三千万。
ルナは二千五百万。
「そんなにもらっていいんですか?」
ルナが聞く。
「働きに対して報酬を払う。それがギルドだ」
「……はい」
「遠慮するな」
「ありがとうございます」
◇
「そして」
レオルドさんが続ける。
「今回の依頼を含むこれまでの活動実績をもとに、冒険者ランクの再審査も行った」
「ランク?」
「ああ」
レオルドさんが俺たちを見る。
「今回、昇格者は二名だ」
「二人?」
「まず」
ルナを見る。
「ルナ・アルヴェイン」
「は、はい!」
「現Bランク」
「はい」
「これまでの依頼実績。治療能力。長距離狙撃。そして今回の戦時依頼における功績」
「……」
「総合的に審査した結果、本日付でAランクへ昇格する」
「……」
ルナが固まった。
「ルナ?」
「A?」
「ああ」
「私が?」
「そうだ」
新しい冒険者証が渡される。
ルナが両手で受け取った。
そこに書かれた文字を見る。
「……Aランク」
「やったね!ルナ!」
フェリシアが嬉しそうに言う。
「うん……」
少しずつルナの顔が笑顔になる。
「やった」
「おめでとう」
「ありがとう」
「そして、もう一人」
レオルドさんが俺を見る。
「アレン・ヴァルディス」
「はい」
さっきまでとは少し空気が変わった。
「現Aランク」
「はい」
レオルドさんが手元の書類を見る。
これまで倒してきた相手の名前が読み上げられる。
「各地における高難度依頼」
「……はい」
「救助実績」
「はい」
「ドラン帝国との戦闘」
「はい」
「バスク将軍討伐」
そして。
「《雷帝》ジェリド討伐」
「……」
また胸の奥が少し重くなる。
でも、目は逸らさなかった。
「戦闘能力」
レオルドさんが言う。
「依頼実績」
「はい」
「判断力」
「はい」
「救助実績。そして冒険者ギルド及び各国からの信用」
一度言葉を止める。
「総本部で審査した」
「……」
「結果は全会一致だった」
「え?」
レオルドさんが新しい冒険者証を取り出す。
「アレン・ヴァルディス」
「はい」
「本日付で、お前をSランク冒険者として認定する」
「……」
差し出された冒険者証を受け取った。
【アレン・ヴァルディス】
【冒険者ランク:S】
「……」
S。
「……Sランク」
「ああ」
レオルドさんが頷く。
「お前は今日からSランクだ」
「……」
最初は、ただ生きていくために冒険者になった。
依頼を受けた。
少しずつランクが上がった。
仲間ができた。
強い魔物とも戦った。
そして、いつかSランクになりたいと思うようになった。
「……」
冒険者証を見る。
「……嬉しいです」
自然に言葉が出た。
「そうか」
レオルドさんが笑う。
「なら、胸を張って受け取れ」
「はい!」
冒険者証を握った。
◇
王宮を出る。
「ワフ!」
「キュ!」
庭で待っていたテリーとステフが走ってきた。
「ただいま」
「ワフ!」
「キュ!」
その後ろには母フェンリル。
「グル」
「お待たせ」
ルナがテリーの頭を撫でる。
「見て」
新しい冒険者証を見せる。
【冒険者ランク:A】
「ワフ!」
「Aになったんだよ」
「ワフッ!」
「アレンは?」
「……」
自分の冒険者証を見る。
【冒険者ランク:S】
「やったね」
フェリシアが言う。
「ずっと目標にしてたでしょ?」
「うん」
「目標、達成だね」
「……うん」
もう一度、Sの文字を見る。
英雄と言われても、まだ自分のことだとは思えない。
戦争に勝ったと言われても心から喜ぶことはできなかった。
でも、これは。
「……やった」
少しだけ笑った。
「うん」
「ワフ!」
「キュ!」
ずっと目指していたSランク。
ようやく手が届いた。
【保有:101,600P】
【累計獲得P:552,310P】
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