第171話 勝利の代償
「武器を捨てろ!」
スコッティ公爵の声が戦場に響いた。
「降伏する者には手を出すな!」
「はっ!」
ジェリドを失ったドラン軍は、完全に崩れていた。
「殿下が討たれた!」
「もう駄目だ!」
「退け!」
「どこへ退くんだ!」
前にはサハル軍。
後ろには俺たち。
もう逃げ道もない。
一人のドラン兵が剣を落とした。
「……降伏する」
また一人が槍を捨てる。
「俺もだ!」
次々と武器が地面へ落ちていった。
まだ戦おうとする兵士もいた。
逃げ出す兵士もいる。
でも、もう軍として動いていない。
「勝った……」
誰かが呟いた。
「勝ったぞ!」
別の場所から声が上がる。
「ドラン軍を破った!」
「サハルの勝利だ!」
「うおおおおおおおっ!」
歓声が広がった。
剣を掲げる騎士。
隣の兵士と抱き合う人。
地面に座り込み、泣いている人もいる。
「……」
俺はその光景を見ていた。
勝った。
ドラン軍の侵攻を止めた。
ジェリドも倒した。
これ以上、戦わなくていい。
それなのに。
「……」
何も感じなかった。
◇
「アレン!」
フェリシアが走ってきた。
「終わったね」
「……うん」
「アレン?」
顔を上げる。
「何?」
「どうしたの?」
「ちょっと疲れたみたい」
ルナも俺の顔を覗き込む。
「顔色悪いよ」
「そう?」
自分の手を見る。
「……」
赤い。
血が付いていた。
俺の血じゃない。
服で拭く。
でも、うまく取れない。
もう一度拭いた。
「アレン」
フェリシアの声。
「大丈夫」
そう答えて、手を下ろした。
周りでは負傷者が運ばれている。
「こっちだ!」
「まだ息がある!」
「治療できる人を!」
そのすぐ隣には動かない人たち。
サハル兵。
ドラン兵。
どちらもいた。
「……」
目を逸らした。
◇
戦場の整理が始まった。
「捕虜を集めろ!」
「負傷者を優先しろ!」
「水を持ってこい!」
生き残った兵士たちが忙しく動いている。
そこから少し離れたところでは、スコッティ公爵たちが話していた。
「アレン」
「はい」
呼ばれて近づく。
「よくやってくれた」
スコッティ公爵が言った。
「ジェリドを討てなければ、まだ多くの犠牲が出ていた」
「……はい」
「お前のおかげで勝てた」
「ありがとうございます」
それだけ答えた。
嬉しいはずだった。
褒められた。
戦争にも勝った。
なのに。
「……」
「疲れているのか?」
「少し」
「今日はもう休め」
「はい」
その場を離れる。
途中、足が止まった。
ジェリドが倒れている。
「……」
目を開いたまま。
もう動かない。
『あ』
「っ」
最後の声が頭の中で聞こえた。
すぐに目を逸らした。
◇
夜。
野営地には、あちこちで火が焚かれていた。
「勝ったぞ!」
「乾杯!」
「生きて帰れる!」
兵士たちの声が聞こえる。
笑い声。
泣き声。
歌っている人までいる。
俺は一人でテントの中にいた。
目の前に食事が置いてある。
「……」
一口だけ口に入れた。
噛む。
飲み込もうとする。
「……」
喉を通らない。
皿を置いた。
水だけ飲む。
横になり、目を閉じた。
『止めろ!』
「……」
『将軍を守れ!』
目を開ける。
暗いテント。
誰もいない。
「……」
もう一度、目を閉じる。
『あ』
「っ!」
目を開けた。
ジェリド。
さっきの顔。
目を見開いていた。
竜爪剣を振った。
硬い鎧を斬った。
【30,000P獲得】
「……はあ」
身体を起こす。
心臓が速い。
手を見る。
「……」
血なんて付いてない。
もう洗った。
それなのに、まだ赤く見える気がする。
目を閉じる。
今度は違う男だった。
『将軍はお逃げください!』
【480P獲得】
次。
【260P獲得】
次。
【305P獲得】
バスク。
『使えるものを戦争に使った。それだけだ』
【420P獲得】
「……やめろ」
声が出た。
静かなテント。
返事はない。
「……」
ステータスを開いた。
【保有:102,000P】
十万を超えている。
昔なら、きっと嬉しかった。
何を買おう。
どの能力を強くしよう。
そう考えた。
「……」
このPのうち。
どれくらいが人を殺して手に入れたPなんだろう。
すぐに画面を閉じた。
見ていられなかった。
◇
しばらく横になった。
でも眠れない。
身体が重い。
頭も痛い。
「……あ」
思い出した。
前にも使った。
「《全回復》」
【500P消費しました】
身体が温かくなる。
頭痛が消えた。
重かった身体も軽くなる。
疲れもなくなった。
「……」
腕を動かす。
身体はいつも通り。
どこも痛くない。
『あ』
「っ……」
またジェリドの顔が浮かんだ。
【30,000P獲得】
「……」
手を見る。
震えていた。
握る。
開く。
もう一度握る。
止まらない。
「……何で」
身体は治った。
疲れも消えた。
なのに、目を閉じるのが怖い。
また誰かが出てきそうで。
眠るのが怖い。
「……」
テントの外から歓声が聞こえる。
「サハルの勝利だ!」
「勝ったぞ!」
俺たちは勝った。
これで戦争は終わる。
もう大勢の人が戦わなくて済む。
それは良かったはずなのに。
「……」
何も感じない。
横になる。
目は閉じなかった。
暗い天井を見続ける。
外の声が少しずつ減っていく。
焚き火の音も遠くなる。
夜が深くなり、朝が近づいても眠ることはできなかった。
【保有:101,500P】
【累計獲得P:552,210P】
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