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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第9章 ドラン帝国、サハル王国侵攻

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第164話 勝利の夜

 太陽が西へ沈み始めていた。


「退け!」


「橋を渡れ!」


 ドラン兵たちが次々とセイル大橋へ入っていく。


 こちらも追う。


「押せ!」


「川の向こうまで追い返せ!」


「おおおおおっ!」


 俺もクロードさんと一緒に走った。


 橋までもう少し。


 先頭のドラン兵はすでに向こう岸へ渡っている。


「このまま行きましょう!」


「ああ!」


 さらに走ろうとした時だった。


「止まれ!」


 後ろからスコッティ公爵の声が響いた。


「全軍、追撃中止! 橋は渡るな!」


「え?」


 サハル兵たちが次々と足を止める。


 俺も振り返った。


 スコッティ公爵が馬でこちらへ来る。


「公爵、今ならまだ追えます」


「もう日が暮れる」


 西を見る。


 太陽はかなり低い。


「ここから先はドラン帝国側だ。暗くなってから狭い橋を渡れば、向こう岸で待ち構えられた時に逃げ場がない」


「……確かに」


「今回の目的は、奴らを我が領地から追い出すことだ」


 スコッティ公爵が橋を見る。


 残っていたドラン兵たちも次々と西岸へ消えていく。


「それは達成した」


 やがて、橋の上からドラン兵がいなくなった。


「……」


 一瞬、戦場が静かになる。


 誰かが呟いた。


「追い返した……」


 別の兵士が拳を上げる。


「ドランを追い返したぞ!」


「勝った!」


「奴らを領内から追い出した!」


「うおおおおおおおっ!」


 一斉に歓声が上がった。


 剣や槍が掲げられる。


「やったぞ!」


「勝ったんだ!」


 俺もセイル大橋を見る。


 向こう岸には、まだドラン軍がいる。


 戦争そのものが終わったわけじゃない。


 それでも。


「……追い返したんだ」


「ああ」


 隣にいたクロードさんが頷いた。


「少なくとも、今日は俺たちの勝ちだ」


「はい」


 ようやく肩の力が抜けた。


 ◇


 日が沈む前に、橋の東側へ見張りが配置された。


 負傷者が後方へ運ばれ、戦場に残っていた武器や装備も集められていく。


 気絶している魔物たちもそのままにされることはなく、一か所へ集められていた。


「テリー!」


「アレン!」


 ルナのところへ戻る。


「ワフ!」


 テリーは母親のそばにいた。


 俺を見ると一度だけ鳴き、すぐ母親へ顔を戻す。


「まだ起きない?」


「うん。でも、呼吸は落ち着いてるよ」


「そっか」


 隣にはステフもいた。


「キュ!」


「ずっと見ててくれたんだね。ありがとう」


「キュ!」


 しゃがんでフェンリルを見る。


 さっきまで荒かった呼吸はかなり落ち着いていた。


「薬の効き目も弱くなってるといいけど」


「うん」


 その時。


「……グル」


「あ」


 フェンリルの身体が動いた。


「お母さん!」


「テリー、待って」


 念のため竜爪剣に手を置く。


 ゆっくり目が開いた。


「……」


 赤くない。


 フェンリルが顔を上げる。


 俺を見る。


 ルナを見る。


 そして。


「ワフ!」


 テリーが駆け寄った。


「テリー!」


 でも、フェンリルは襲わなかった。


「……クゥン」


 大きな顔を下げる。


「ワフ!」


 テリーが鼻先へ身体を擦りつけた。


 フェンリルがその顔をゆっくり舐める。


「よかった……」


 ルナが笑った。


「もう大丈夫そうだね」


「うん」


 俺も竜爪剣から手を離した。


 テリーは嬉しそうに母親の周りを動いている。


「ワフ! ワフ!」


「グル……」


 今度の声には敵意がない。


 本当に助けられた。


 そう思ってフェンリルを見る。


「……あれ?」


「どうしたの?」


「ここ」


 首の毛を少し見る。


 擦れたような傷が残っていた。


 脚にも似た跡がある。


「これって……」


「多分、何かで拘束されてた跡だと思う」


「……」


 周囲にいる他の魔物を見る。


 身体に似たような傷を残している魔物もいた。


 捕まえて、薬を使って、戦場へ連れてきた。


「……ひどい」


 ルナが呟いた。


「うん」


 また腹の奥が熱くなる。


 でも、クロードさんに言われたことを思い出した。


 冷静さを失うな。


 息を吐く。


「アレン?」


「大丈夫」


 ドランが何をしていたのか。


 それは後でちゃんと確かめよう。


 ◇


「アレン!」


「はい?」


 声をかけられて振り返る。


 鎧を着た男性がこちらへ歩いてきた。


 スコッティ公爵も一緒だ。


 ベルガント伯爵だ


「話は聞いたぞ!大活躍だったみたいじゃないか!」


「ありがとうございます」


「前線から戻ってきた兵たちが皆、同じ話をする」


「同じ話?」


「アレンとクロードが中央を崩したとな」


「……」


「敵の魔法を撃ち落とした魔法使い、遠距離から魔法士を仕留めた弓使いも話題になっていたぞ」


 ベルガント伯爵が少しだけ笑う。


「君たちに来てもらって良かった」


 スコッティ公爵が俺を見る。


「お前たちがいなければ今日ここまで押し返すことはできなかった」


「……はい」


「改めて礼を言う。助かった」


「俺たちも、皆さんがいなければ戦えませんでした」


 スコッティ公爵が頷いた。


「そうだな」


 ◇


 完全に日が沈んだ。


 セイル川から少し東へ離れた場所に野営地が作られている。


 いくつもの火が焚かれ、兵士たちは食事を取り、負傷者は治療を受けていた。


 大きな天幕の中。


 机の上に地図が広げられている。


 スコッティ公爵。


 ベルガント伯爵。


 王国騎士団の指揮官たち。


 クロードさん。


 俺もそこにいた。


「ドラン軍は現在、西岸で部隊を立て直している」


 スコッティ公爵が地図を指す。


「こちらから今夜、橋を渡ることはしない」


 ベルガント伯爵も頷く。


「兵はかなり疲弊しています。負傷者の処置も必要です」


「ああ。今夜は休ませる。ただし橋の監視は続けろ。夜襲にも備える」


「承知しました」


「明朝、敵の動きを見てから次を決める」


 俺は地図を見る。


「向こうまで追いかけないんですか?」


「今はな」


 スコッティ公爵が俺を見る。


「敵を押し返した直後ほど慎重にならなければならん」


「どうしてですか?」


「勝ったと思って追いすぎれば隊列が伸びる。そこを反撃されれば、今度はこちらが崩れる」


「あ……」


「勝っている時ほど、次の一手を間違えるなということだ」


「なるほど……」


 その時。


「失礼します!」


 天幕の外から大きな声がした。


「入れ」


 一人の騎士が入ってくる。


 泥だらけだった。


 かなり急いできたらしい。


「北部から急報です!」


「北部?」


 スコッティ公爵の表情が変わった。


「言え」


「ドレイモンド公爵領の戦線が……崩壊しました」


「何?」


 天幕の空気が変わる。


「崩壊?」


 ベルガント伯爵が身を乗り出した。


「はい。ドレイモンド公爵軍は壊滅状態です」


「公爵は?」


「……討ち取られた模様です」


「なっ……」


 誰も声を出さない。


 ドレイモンド公爵。


 北部でドラン軍を迎え撃っていた公爵だ。


「確かな情報か?」


「戦場が混乱しており、正式な確認はまだです。ただし、複数の部隊から同じ報告が届いています」


「……そうか」


 スコッティ公爵が地図の北側を見る。


「援軍はどうした?」


「すでに各領から入っています」


「それでも崩れたのか?」


「はい」


 騎士が続ける。


「ヴァルディス侯爵家の部隊も、ドレイモンド公爵領へ増援として入っています」


「え?」


 思わず声が出た。


「ヴァルディス侯爵家?」


「はい」


 父上だ。


 今。


 北にいる。


「父上も……」


 ベルガント伯爵が騎士を見る。


「そこまで兵力差があるのか?」


「兵の数だけが原因ではありません」


「では何だ?」


 騎士の表情が強張る。


「敵軍を率いているのは、ドラン帝国第十三皇子ジェリドです」


「第十三皇子……」


 スコッティ公爵が名前を繰り返す。


「皇子本人が前線に出ているのか?」


「はい」


「それほどの男なのか?」


 騎士が一瞬黙った。


「……異常です」


「異常?」


「騎士が何人で囲んでも止められません。ジェリド皇子が前へ出るたび、こちらの部隊が崩されています」


「……」


「ドレイモンド公爵軍が壊滅した最大の原因も、ジェリド皇子だと」


 誰も喋らなかった。


 こっちでは俺たちがドラン軍を追い返した。


 でも、同じ頃、北では公爵が討ち取られた。


 しかも、父上もその戦場にいる。


「アレン」


 クロードさんが俺を見る。


「……はい」


 拳を握った。


 さっきまで勝ったと思っていた。


 だけど、この戦争は終わっていない。


 北では今も戦いが続いている。


 ドラン帝国第十三皇子。


 ジェリド。


 勝利の夜。


 俺は初めて、その名前を知った。


【保有:44,500P】

【累計獲得P:494,210P】



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― 新着の感想 ―
ジェリドといえば汚名挽回
いやもう一旦橋落としちゃいましょうよ。こんな危険な国とは国交断絶で。そしたら北にも加勢に行けるし。
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