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《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第9章 ドラン帝国、サハル王国侵攻

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第162話 倒すべき敵

「グオオオオッ!」


 フェンリルが地面を蹴った。


 巨大な身体が一気に迫る。


「アレン!」


「大丈夫!」


 前脚が振り下ろされた。


 横へかわす。


 続けて牙。


 身体を沈めた。


 頭上を巨大な顎が通り過ぎる。


「グルルルル……!」


 速い。


 力も強い。


 でも、動きは見えている。


 倒すだけなら難しくない。


 問題は、殺さずに止めることだ。


「クゥン!」


 テリーが鳴いた。


「グ……」


 フェンリルの耳が動く。


 一瞬だけ動きが止まった。


 その直後。


「グオオッ!」


 また赤い目がこちらを向く。


 テリーへ前脚が伸びた。


「危ない!」


 間へ飛び込む。


 前脚を受け止めた。


 ドンッ!


「アレン!」


「平気!」


 フェンリルの力を押し返す。


 その時、もう片方の前脚が横から来た。


「っ!」


 避ければ、後ろにテリーがいる。


 身体を捻る。


 爪が左腕をかすめた。


「うっ!」


 服が裂け、血が滲む。


「アレン!」


 ルナが叫ぶ。


「大丈夫。このくらい」


 傷は浅い。


 フェンリルを見る。


 こっちが攻撃をためらっているだけだ。


「グルルルル……」


「もう終わりにしよう」


 右手の鞘を握り直す。


 正面から来る。


 前脚。


 かわす。


 牙。


 さらに横へ。


 フェンリルの顔が低く下がった。


「クゥン!」


 またテリーの声。


「グ……」


 ほんの一瞬、動きが鈍る。


 今だ!


 地面を蹴った。


 一気に懐へ入る。


「……悪い」


 右手を振り抜いた。


 ゴンッ!


 鞘が顎を跳ね上げる。


「グッ!」


 フェンリルの頭が大きく揺れた。


 まだ倒れない。


 さすがに強い。


 でも、足元がふらついている。


 もう一度踏み込む。


 フェンリルが前脚を振るう。


 かわす。


 身体の横へ回り込み、地面を蹴った。


 頭の高さまで跳ぶ。


「ごめん!」


 ゴッ!


 鞘を側頭部へ叩き込んだ。


「グ……」


 巨体が揺れる。


 一歩。


 二歩。


 そして。


 ドオオオンッ!


 フェンリルが地面へ倒れた。


「……」


 動かない。


「お母さん!」


 ルナが駆け寄る。


「ワフ!」


 テリーもすぐに母親の顔へ走った。


「クゥン……」


 俺も近づく。


 鼻先へ手を当てた。


 息をしている。


「大丈夫。気絶してるだけだよ」


「……よかった」


 ルナが大きく息を吐く。


「ワフ……」


 テリーが母親の顔へ身体を寄せた。


 その瞬間。


「うおおおおおっ!」


 大きな歓声が上がった。


「フェンリルを倒したぞ!」


「やった!」


「あいつ、本当にフェンリルを止めたぞ!」


 サハル兵たちが武器を掲げる。


「すげえ……」


「化け物かよ」


 喜んでる。


 当然か。


 あれだけの魔物が暴れていたんだから。


「今だ!」


 近くから声が上がった。


「え?」


 一人の兵士が槍を持って走ってくる。


「起きる前に仕留めろ!」


 その先にはフェンリル。


 テリーが母親の顔の横にいる。


「やめろ!」


「っ!」


 兵士が足を止めた。


 周囲の兵士もこちらを見る。


「どうした?」


「こいつはまだ生きてるぞ!」


「分かってます」


「なら今のうちに――」


「駄目です!」


 思わず声が大きくなった。


「このフェンリルは好きで戦ってたんじゃありません」


「……?」


「薬を打たれて、無理やり暴れさせられてただけです」


 周囲を見る。


 俺が気絶させた魔物たちも倒れている。


「他の魔物も同じです。誰かの従魔だった魔物もいるかもしれない」


 兵士がフェンリルを見る。


「でも、また暴れたら……」


「その時は俺が止めます」


「……」


「だから、気絶している魔物を殺さないでください」


 兵士は少し迷ったあと、槍を下ろした。


「……分かった」


「ありがとうございます」


 周囲を見た。


 傷ついたサハル兵。


 倒された魔物。


 凍った地面。


 折れた武器。


「……」


 腹の奥が熱くなった。


 戦争だからって何をしてもいいわけじゃない。


「アレン」


 後ろから声がした。


 クロードさんだ。


「クロードさん……」


「怒ってるな」


「はい」


 フェンリルを見る。


「こんなの、おかしいですよ」


「ああ」


「魔物まで無理やり戦わせて……」


 拳に力が入る。


「許せません」


 クロードさんはしばらく何も言わなかった。


「アレン」


「はい」


「怒るのはいい」


 クロードさんが俺を見る。


「だが、冷静さは失うな」


「……」


「まだ戦いは終わってない」


 息を吐いた。


 西を見る。


 ドラン軍はまだいる。


「……はい」


「それでいい」


 ◇


「何をしている!」


 バスク将軍の怒声が響いた。


「フェンリルまで倒されたというのか!」


「は、はい!」


 報告兵が頭を下げる。


「他の魔物も次々と倒されています! サハル軍の戦線を崩すには至っておりません!」


「……使えん」


「将軍?」


「使えん魔物共だ!」


 バスク将軍が東を見る。


「百体も用意して、この程度か!」


「……」


「もういい!魔法隊を前へ出せ!」


「魔法隊を?」


「早くしろ!」


 側近が一瞬ためらう。


「ですが、前方にはまだ我が軍の兵もおります」


「構わん!」


「……」


「まとめて撃て!」


 側近が目を見開いた。


「サハル軍を焼け!味方は自分で避けさせろ!」


「……はっ!」


 伝令が走る。


「魔法隊、前へ!」


 ドラン軍後方から杖を持った兵士たちが進み出た。


 何十人もの魔法兵。


「構え!」


 一斉に杖が上がる。


 赤い光。


 次々と火球が生まれていく。


「放て!」


 大量の火球が空へ飛び上がった。


 ◇


「何だ?」


 誰かが空を見た。


「……!」


 西から赤い光が来る。


 一つや二つじゃない。


「魔法だ!」


「多いぞ!」


 何十もの火球が弧を描きながら飛んでくる。


 サハル軍。


 倒れている魔物。


 関係なく落ちてくる。


「フェリシア!」


「分かってる!」


 フェリシアが杖を構えた。


「《魔弾》!」


 光が次々と生まれる。


 頭上。


 左右。


 身体の周囲。


 何十もの魔弾が一斉に空へ飛び出した。


 一直線。


 それぞれ別の火球へ向かう。


 ドンッ!


 最初の火球が空中で爆発した。


 続けて。


 ドドドドドドッ!


 赤い光と白い光が空でぶつかる。


「おおっ!」


 サハル兵から声が上がった。


 火球が次々と爆発していく。


 右。


 左。


 さらに上。


 魔弾が次々と迎撃する。


 ドンッ!


 ドドンッ!


 空が一瞬、炎で染まった。


 最後の一発。


 魔弾が真正面から突き刺さる。


 ドンッ!


 火球が消えた。


「全部……止めた?」


「すげえ……」


 フェリシアは空を見たまま杖を構えている。


「まだ来るかもしれない」


「うん」


「全軍!」


 戦場に大きな声が響いた。


 スコッティ公爵だ。


 馬上で剣を掲げている。


「気絶している魔物には手を出すな!」


 兵士たちが振り返る。


「動けない魔物はもう敵ではない!」


 剣が西へ向く。


「狙うべき相手を間違えるな!」


「……」


「我々が倒すべき相手は、今もこの土地へ攻め込んでいるドラン軍だ!」


「おおおおっ!」


 声が上がる。


「奴らをスコッティ領から追い出す!」


「おおおおおおおっ!」


 剣。


 槍。


 盾。


 次々と武器が掲げられる。


「前へ!」


 サハル軍が動き始めた。


 俺は一度だけ振り返る。


 テリーは母親のそばにいる。


「ルナ」


「何?」


「テリーとお母さんをお願い」


「うん」


「ステフも二人を守ってあげて」


「キュ!」


 ステフが鳴いた。


「アレンも気をつけて」


「うん」


 西を見る。


 さっきまで怒りで頭がいっぱいだった。


 今も許せない。


 でも、怒ってるだけじゃ終わらない。


「アレン」


 クロードさんが隣へ来た。


「行けるか?」


「はい」


 竜爪剣を握り直す。


「この戦争を終わらせなきゃ」


「ああ」


 前を見る。


 ドラン軍。


「行きましょう!」


「おう!」


 俺とクロードさんも走り出した。


 今度こそ倒すべき敵へ向かって。


【保有:30,800P】

【累計獲得P:480,510P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
味方がいるのに絨毯爆撃を指示しちゃったら、味方に討たれちゃうよ、バスク将軍。 それとも、フェリシアが一人で逃げ場がないくらいの絨毯爆撃をやり返しちゃうのかな。 ところで、結果だけを見れば魔獣の投入は…
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