第16話 六階の日々
それから三日間、俺たちは六階へ通い続けた。
朝、《銀麦亭》で食事を取ってから冒険者ギルドへ行く。
六階で達成できる依頼を受け、そのまま西部ダンジョンへ向かう。
夕方まで戦い、集めた素材をギルドへ持ち帰る。
宿に戻ったら湯で身体を洗い、食事をして眠る。
そんな生活が始まった。
◇
一日目。
受けたのはアーマードエイプ二体の討伐依頼だった。
【アーマードエイプ 二体討伐】
【対象:ベルガント西部ダンジョン第六階層】
【報酬:80,000ジェニー】
一階から五階までは、ほとんど足を止めずに抜ける。
途中で何体か魔物を倒したが、大きな問題にはならなかった。
六階へ着いて間もなく、アーマードエイプが現れた。
「ウオオオッ!」
巨体がこちらへ走ってくる。
昨日、初めて戦ったときは、動きを確認しながら慎重に戦った。
今は違う。
振り下ろされた拳を横へかわす。
懐へ入った。
「はっ!」
脚を斬る。
「ウオッ!」
体勢を崩したところへ、もう一撃。
アーマードエイプが腕を振り回すより早く背後へ回り、首元へ剣を入れた。
巨体が倒れる。
【400P獲得】
「……早いですね」
後ろからフェリシアの声がした。
「昨日より遅く見えました」
「アーマードエイプが?」
「はい」
「そんなことあります?」
「俺の方が速くなったんだと思います」
魔石と使えそうな皮を回収し、さらに奥へ進んだ。
次に現れたアーマードエイプはフェリシアへ向かった。
「《魔弾》!」
胸に命中する。
それでも止まらない。
フェリシアが横へ動く。
拳をかわし、距離を取った。
「《魔弾》!」
二発目。
今度は顔。
アーマードエイプが怒ったように腕を振り上げる。
フェリシアはすぐに後ろへ下がった。
「昨日より避けやすいです!」
身体の動きには余裕が出ている。
だが、アーマードエイプはまだ倒れない。
「《魔弾》!」
三発目が肩へ当たった。
俺が横から入り、脚を斬る。
続けて首へ剣を入れた。
【400P獲得】
フェリシアが倒れたアーマードエイプを見る。
「身体はすごく動くんですけどね」
「魔弾は?」
「昨日と変わらない気がします」
自分の手を見る。
「共有で身体が強くなっても、魔法まで勝手に強くなるわけじゃないみたいです」
「そうみたいですね」
その後も六階で戦い続けた。
夕方までに依頼を終え、魔石や素材を抱えてギルドへ戻る。
その日の依頼報酬は八万ジェニー。
素材の買取は三十万ジェニーになった。
「合わせて三十八万ジェニーです」
受付嬢から代金を受け取る。
二人で分けて、一人十九万ジェニー。
「一日で十九万……」
「六階は稼げますね」
「危険なのも分かりますけど」
「はい」
【本日の獲得P:1,180P】
【累計獲得P:7,520P】
【保有:1,510P】
◇
その夜。
《銀麦亭》の部屋で《会員》を開いた。
【基礎能力】
【筋力:836】
【耐久:828】
【敏捷:881】
【魔力:18】
昨日より少し上がっている。
今日一日戦った分だろう。
貯まったPは、その日のうちに強化へ回すことにした。
筋力、耐久、敏捷をそれぞれ五回ずつ強化する。
【筋力強化(中)を5回購入しました】
【筋力:836 → 986】
【耐久強化(中)を5回購入しました】
【耐久:828 → 978】
【敏捷強化(中)を5回購入しました】
【敏捷:881 → 1,031】
【1,500Pを使用しました】
【保有:10P】
さらに表示が増えた。
【前回購入後、基礎能力値1000以上への到達を確認しました】
【敏捷:次回購入分より上位能力帯強化が適用されます】
【敏捷強化(中) 200P】
「また上がったか」
五百を超えたときは百Pになった。
今度は二百P。
表示を閉じた。
翌朝、食堂へ下りると、フェリシアが俺を見るなり眉を上げた。
「また使いましたね?」
「分かります?」
「身体が昨日と違います」
「千五百P使いました」
「千五百……」
「ほとんど残ってません」
「本当に貯めませんね」
「また今日稼げばいいですから」
フェリシアは呆れたように笑った。
◇
二日目。
六階へ着くころには、昨日よりさらに身体が馴染んでいた。
アーマードエイプが二体同時に現れる。
「二体です!」
「俺が左をやります」
「はい!」
一体目が拳を振り下ろす。
かわす。
腹へ剣を入れた。
横から腕が飛んでくる。
その下を抜ける。
もう一撃。
【400P獲得】
すぐに振り返った。
もう一体はフェリシアを追っている。
「《魔弾》!」
フェリシアが動きながら魔弾を撃つ。
拳をかわし、少し距離を取る。
また撃つ。
「《魔弾》!」
昨日より余裕がある。
「フェリシアさん!」
「はい!」
走る。
アーマードエイプがこちらを向いた。
振り下ろされた腕の横を抜け、腹へ一撃。
そのまま背後へ回る。
「ウオッ!?」
首へ剣を振った。
【400P獲得】
「もう一体倒してたんですか?」
「はい」
「早すぎません?」
「俺もそう思います」
六階では、もう一体ずつならほとんど怖さを感じない。
その日も夕方まで戦い続けた。
依頼報酬と素材の買取を合わせて四十一万ジェニー。
一人二十万五千ジェニー。
【本日の獲得P:1,230P】
【累計獲得P:8,750P】
【保有:1,240P】
宿へ戻る。
湯で身体を洗い、食事を取ってから《会員》を開いた。
【基礎能力】
【筋力:987】
【耐久:979】
【敏捷:1,033】
【魔力:18】
今日も少しだけ基礎能力が伸びている。
まず筋力を一回強化する。
【筋力強化(中) 100P】
【筋力:987 → 1,017】
続いて耐久。
【耐久強化(中) 100P】
【耐久:979 → 1,009】
表示が切り替わった。
【筋力:次回購入分より上位能力帯強化が適用されます】
【耐久:次回購入分より上位能力帯強化が適用されます】
【筋力強化(中) 200P】
【耐久強化(中) 200P】
残りは1,040P。
敏捷を五回強化する。
【敏捷強化(中)を5回購入しました】
【敏捷:1,033 → 1,183】
【1,000Pを使用しました】
【保有:40P】
これで三つとも基礎能力が千を超えた。
◇
三日目。
六階へ向かう前に、フェリシアが自分の能力を確認していた。
【名前:フェリシア・ロート】
【筋力:11+101】
【耐久:13+100】
【敏捷:17+118】
【魔力:33+1】
「私自身もちょっと上がってます」
「毎日戦ってますからね」
「でも、共有分がすごすぎて自分の分が小さく見えます」
「十一とか十七でも、最初より上がってますよ」
「そうなんですけどね」
フェリシアが表示を閉じる。
「今日は六階でも大丈夫そうな気がします」
「無理はしないでくださいね」
「それ、アレンさんが言います?」
「俺は無理してませんよ」
「ブラッドボアの突進を手で止めた人が言ってます」
返す言葉がなかった。
◇
六階。
アーマードエイプが拳を振り下ろしてくる。
遅い。
一歩ずれるだけで避けられた。
腹へ剣を入れる。
アーマードエイプが振り返る。
その前に反対側へ回った。
「ウオッ!?」
脚。
首。
三撃目で倒れる。
【400P獲得】
少し離れたところでは、フェリシアが別の一体と戦っていた。
「《魔弾》!」
拳をかわす。
撃つ。
アーマードエイプが腕を振る。
フェリシアは余裕を持って後ろへ下がった。
「《魔弾》!」
もう一発。
身体の動きだけなら、昨日より明らかに余裕がある。
俺は助けに入らず、そのまま見ていた。
フェリシアが五発目を撃つ。
「《魔弾》!」
アーマードエイプがまだ向かってくる。
フェリシアはそれもかわした。
「アレンさん!」
「はい!」
「やっぱり倒せません!」
「手伝います!」
踏み込む。
一撃目を脚へ入れる。
二撃目を首へ。
【400P獲得】
戦闘が終わると、フェリシアが小さく息を吐いた。
「身体はもう大丈夫です」
「六階でも?」
「はい。攻撃も見えますし、避ける余裕もあります」
「ならよかったです」
「でも、魔弾が全然追いついてません」
フェリシアが人差し指を立てる。
「威力も前と同じです。撃てる速さも、狙ったところに当てる精度も変わってません」
「共有じゃそこまでは変わらないんですね」
「身体だけ強くなっても駄目ですね」
「これから練習すればいいですよ」
「はい。もっと速く、もっと正確に撃てるようになりたいです」
フェリシアが笑う。
「アレンさんばっかり強くなるの、悔しいですから」
「競争ですか?」
「勝てる気はしませんけど」
その日は昼を過ぎても六階で戦い続けた。
三日前とは、六階の見え方がまるで違っていた。
◇
夕方、ギルドへ戻った。
今日の依頼は六階で集めた魔石の納品だった。
受付嬢が数を確認する。
「はい。必要数あります。依頼達成です」
報酬は十万ジェニー。
集めた素材の買取は三十四万ジェニーになった。
合わせて四十四万ジェニー。
一人二十二万ジェニーだ。
「この三日だけで、かなり稼ぎましたね」
フェリシアが受け取った金を確認する。
一日目が三十八万。
二日目が四十一万。
今日が四十四万。
二人合わせて百二十三万ジェニー。
「百万超えてますね」
「三日で……」
フェリシアが少し笑った。
「最初のころ、一万ジェニーでも大きなお金に見えたのに」
「今でも大きいですよ」
「それはそうですけど」
そのとき、視界に表示が出た。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【本日の獲得P:1,250P】
【累計獲得P:10,000P】
【保有:1,290P】
「一万……」
次の表示が現れた。
【会員ランク上昇条件を達成しました】
【会員ランクが上昇します】
【シルバー → ゴールド】
「……え?」
累計獲得P=10,000P
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