第15話 Dランク冒険者
翌朝、俺とフェリシアが冒険者ギルドへ入ると、いつもの受付嬢に呼び止められた。
「アレンさん、フェリシアさん。少しよろしいですか?」
「はい」
受付へ向かう。
受付嬢は俺たちの冒険者証と手元の書類を確認した。
「お二人とも、Dランクへの昇格条件を満たしました」
「Dランク?」
フェリシアが聞き返す。
「はい。依頼達成数に加えて、護衛依頼やダンジョンでの討伐実績も基準を満たしています。
依頼の失敗もありませんので、本日付でDランクへ昇格となります」
冒険者証が返される。
【冒険者ランク:D】
「上がりましたね」
「はい!」
フェリシアが嬉しそうに冒険者証を見る。
俺も自分のものを眺めた。
「Dランクになりますと、受けられる依頼の幅も広がります。長距離の護衛や大型魔物の討伐なども対象になります」
「ダンジョンはどうなります?」
「Eランクでは第五階層まででしたが、Dランクからは第十階層まで入場できます」
「十階まで?」
「はい。ただし、入れるからといって十階まで安全に進めるわけではありません。
実力に合った階層を選んでください」
「分かりました」
横を見る。
フェリシアもこちらを見ていた。
「昨日、しばらく四階で戦うって話してましたよね」
「しましたね」
「十階まで行けるようになりましたけど」
「だからって十階へ行くつもりはないですよ」
「五階は?」
「……少し気になります」
「ですよね」
受付嬢が小さく笑った。
◇
依頼を見る前に、受付嬢へもう一つ聞いた。
「この辺で、今泊まっているところより少しいい宿ってありますか?」
「宿を変えられるんですか?」
「はい。最近は毎日のようにダンジョンへ行ってるので」
これまで泊まっていたのは、一泊三千ジェニーの安宿だ。
冒険者になったばかりのころは、それでも宿代が気になった。
今は一日に十万ジェニー近く稼ぐこともある。
「でしたら、《銀麦亭》がいいと思います。冒険者の利用も多いですよ」
「いくらですか?」
「一人一泊一万ジェニーです。朝食込みです」
「一万……」
三倍以上になる。
少し前なら迷った金額だ。
「行ってみます?」
フェリシアが聞く。
「そうしましょう」
◇
《銀麦亭》はギルドから歩いて十分ほどのところにあった。
今まで泊まっていた宿より一回り大きい。
一階は食堂になっていて、まだ朝なのに何人もの冒険者が食事を取っていた。
「いらっしゃいませ」
受付にいた女性へ代金を払い、それぞれ一部屋ずつ借りる。
部屋へ入った。
「広いな……」
最初に目についたのはベッドだった。
今までの宿では、木枠の上に薄い寝具を敷いた程度だった。
ここのベッドには厚みのある敷物があり、白いシーツも掛けられている。
腰を下ろした。
少し身体が沈む。
「柔らかい」
窓も大きい。
壁には武器を置くための棚があり、荷物箱には鍵もついている。
頼めば湯も部屋まで運んでもらえるらしい。
部屋を出ると、ちょうどフェリシアも隣から出てきた。
「どうでした?」
「ベッドが全然違います」
「私もです。ちょっと寝てみたくなりました」
「まだ朝ですよ」
「分かってます!さぁ、ギルドへ行きましょう」
荷物を置き、必要なものだけ持ってギルドへ戻った。
◇
Dランク用の依頼を見る。
昨日までの掲示板より、報酬額の高いものが増えていた。
【長距離商隊護衛】
【大型魔物討伐】
【第五階層 魔石採取】
【ホーンパンサー 二体討伐】
最後の依頼を確認する。
【対象:ベルガント西部ダンジョン第五階層】
【報酬:60,000ジェニー】
「六万ジェニーです」
「四階の依頼より高いですね」
「これにしません?」
「五階までなら」
「じゃあ、これで」
依頼を受け、西部ダンジョンへ向かった。
◇
一階から四階までは、ほとんど足を止めずに進んだ。
一階でケイブバットを四体。
【20P獲得】
三階ではロックモールを一体。
【80P獲得】
四階ではアイアンウルフが現れた。
「グルアッ!」
飛びかかってきたところを横へかわす。
追いかけ、脇腹へ一撃。
反転する前に首元へもう一撃入れた。
【200P獲得】
【累計獲得P:4,840P】
【保有:1,830P】
魔石と使えそうな素材を回収する。
「四階まで来るのも早くなりましたね」
「最初にダンジョンへ入ったときとは全然違います」
そのまま五階へ続く階段へ向かった。
「ここから初めてですね」
「はい」
「気をつけて行きましょう」
二人で階段を下りた。
◇
五階は四階より通路が広かった。
魔石灯は少ないが、ランタンがあれば十分に進める。
しばらく歩いていると、前方の岩陰から黒い影が飛び出した。
「速い!」
「ホーンパンサーです!」
黒い豹に似た魔物だった。
額から一本の角が伸びている。
低い姿勢のまま、一気に距離を詰めてきた。
横へかわす。
ホーンパンサーはそのまま俺の横を抜け、壁を蹴った。
すぐに方向を変える。
次に来る場所へ踏み込んだ。
「こっちか」
「ギャッ!?」
ホーンパンサーが身体をひねる。
その脇腹へ剣を振った。
ザシュッ!
「ギャアッ!」
地面を転がる。
起き上がろうとしたところへ、もう一撃。
【300P獲得】
【累計獲得P:5,140P】
【保有:2,130P】
「……今、ホーンパンサーより先に動きませんでした?」
「そう見えましたか?」
「速さが厄介な魔物なんですけど」
「俺には動きが見えました」
「すごいですね……」
魔石と角を回収する。
依頼対象はあと一体。
◇
二体目は二十分ほど進んだところで現れた。
「今度は私もやります」
「お願いします」
ホーンパンサーが走り出す。
狙いはフェリシアだ。
「《魔弾》!」
一発目は横へ跳ばれて外れた。
そのままフェリシアへ迫る。
フェリシアも横へ動く。
角が空を切った。
「《魔弾》!」
二発目が後脚へ入る。
「ギャッ!」
動きが鈍った。
「《魔弾》!」
三発目も同じ脚。
ホーンパンサーの身体が傾く。
「アレンさん!」
「はい!」
踏み込み、首元へ剣を入れた。
もう一撃。
ホーンパンサーが倒れる。
【300P獲得】
【累計獲得P:5,440P】
【保有:2,430P】
「五階でもいけますね」
フェリシアが息を整える。
「俺もそう思います」
「依頼は終わりましたけど、どうします?」
まだ昼前だ。
俺が答える前に、フェリシアが奥を見る。
「……六階、少しだけ見てみます?」
「フェリシアさんから言うんですか?」
「五階が思ったより大丈夫だったので」
「じゃあ、少しだけ」
「危なかったら戻りますよ」
「もちろんです」
◇
六階へ下りる。
通路には、今までより大きな足跡が残っていた。
「何の足跡でしょう」
「かなり大きいですね」
答えはすぐに分かった。
「ウオオオッ!」
前方から大きな魔物が現れる。
二メートルを超える猿のような身体。
太い両腕を岩のような硬い皮膚が覆っている。
「アーマードエイプです!」
アーマードエイプが俺へ走ってきた。
拳が振り下ろされる。
横へかわした。
ドンッ!
岩床に拳がぶつかる。
力はかなりありそうだ。
だが、動きは見える。
もう一度拳が飛んでくる。
今度は懐へ入った。
脚を斬る。
「ウオッ!」
振り向いたところへもう一撃。
腕が横から飛んでくる。
しゃがんでかわし、腹へ剣を入れた。
「ウオオオッ!」
「《魔弾》!」
フェリシアの攻撃が顔へ当たる。
アーマードエイプがよろめいた。
首元へ剣を振り下ろす。
【400P獲得】
【累計獲得P:5,840P】
【保有:2,830P】
「四百P……」
「多いですね」
「はい」
俺にはまだ余裕がある。
五階より強い。
それでも、十分対応できる。
魔石と硬い皮を回収し、もう少し進んだ。
◇
二体目は、曲がり角を抜けた先にいた。
「ウオオッ!」
今度は最初からフェリシアへ向かう。
「《魔弾》!」
光弾が胸へ当たる。
止まらない。
「《魔弾》!」
二発目。
それでもアーマードエイプが迫る。
フェリシアが横へかわした。
太い拳がすぐ横を通る。
「《魔弾》!」
三発目を撃つ。
身体の速さではついていけている。
ただ、魔弾を当てても相手の勢いを止めきれない。
アーマードエイプが腕を振り回した。
フェリシアが後ろへ下がる。
「っ……!」
「フェリシアさん!」
間へ入った。
振り下ろされた腕をかわし、脚を斬る。
「ウオオッ!」
アーマードエイプがこちらを向いた。
「大丈夫です!」
「《魔弾》!」
フェリシアの一発が目元へ入る。
動きが止まった。
腹へ剣を突き刺す。
「ウオオオッ!」
剣を抜き、もう一撃。
巨体が崩れた。
【400P獲得】
【累計獲得P:6,240P】
【保有:3,230P】
フェリシアのところへ戻る。
「怪我は?」
「ありません」
「大丈夫ですか?」
「はい。でも……」
倒れたアーマードエイプを見る。
「ここは、ちょっときついです」
「五階とは違います?」
「避けることはできます。でも、魔弾を当てても止まってくれません。近づかれると撃つ余裕も減ります」
「なるほど」
俺はまだ戦える。
ただ、二人で潜っている。
「今日は戻りましょう」
「いいんですか?」
「はい」
「アレンさんはまだ行けそうですけど」
「俺一人で潜ってるわけじゃないですから」
フェリシアが少し驚いたあと、頷いた。
「ありがとうございます」
「その代わり、しばらく六階でやりません?」
「六階で?」
「ここなら俺も戦闘経験を積めますし、フェリシアさんもこの速さや硬さに慣れられると思います」
「六階で普通に戦えるようになるまで?」
「はい。そのあと七階へ行きましょう」
「それがいいです」
アーマードエイプの魔石と素材を回収し、来た道を戻った。
◇
ギルドへ戻ったのは夕方だった。
ホーンパンサー二体分の討伐証明を受付へ出す。
「二体分確認しました。依頼達成です」
報酬は六万ジェニー。
続いて、今日集めた素材を査定してもらった。
ケイブバット。
ロックモール。
アイアンウルフ。
ホーンパンサー二体。
アーマードエイプ二体。
受付嬢が査定を終えて戻ってくる。
「素材の買取は、合計二十四万ジェニーになります」
「二十四万……」
フェリシアが小さく息を飲んだ。
依頼報酬と合わせて三十万ジェニー。
二人で十五万ジェニーずつだ。
今夜の宿代を払っても、十四万ジェニー残る。
そのとき、視界に表示が現れた。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【累計獲得P:6,340P】
【保有:3,330P】
◇
《銀麦亭》へ戻る。
「お帰りなさいませ」
宿の女性が声をかけてくれた。
部屋へ戻る前に湯を頼む。
しばらくすると、大きな桶に温かい湯が運ばれてきた。
汗や汚れを落とし、着替える。
それだけでも気持ちがいい。
夕食は一階の食堂で取った。
焼いた肉に温かいスープ。
柔らかいパン。
「美味しいですね」
「はい」
「これも一万ジェニーに入ってるんですか?」
「夕食は別料金みたいですよ」
「あ、そうなんですね」
「朝食は入ってるみたいです」
「それでも十分です」
食事を終え、それぞれの部屋へ戻った。
ベッドに横になる。
身体が沈む。
「……これはいいな」
六階まで歩き、何度も戦った。
それでも硬い寝台に横になるときのような身体の痛さがない。
しばらくすると、そのまま眠りに落ちた。
◇
翌朝。
目が覚め、身体を起こした。
「……軽いな」
昨日は六階まで潜った。
アーマードエイプとも戦った。
それなのに脚の重さがほとんど残っていない。
肩を回してみる。
張りも少ない。
顔を洗い、一階へ下りた。
フェリシアはすでに食堂にいた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よく眠れました?」
「かなり」
「私もです」
フェリシアが肩を回した。
「昨日の方がずっと戦ったのに、今日の方が楽です」
「俺もです」
テーブルには焼きたてのパンと卵、温かいスープが並んでいる。
「三千ジェニーの宿も助かりましたけど」
フェリシアがパンをちぎる。
「今なら一万ジェニー払う意味が分かりますね」
「泊まる場所って大事ですね」
「毎日ダンジョンへ行くなら、特に」
「ここに変えて正解でした」
朝食を終え、自分の部屋へ戻る。
そこで《会員》を開いた。
【保有:3,330P】
【基礎能力】
【筋力:535】
【耐久:527】
【敏捷:579】
【魔力:18】
昨日の戦闘で、基礎能力も少し伸びていた。
その下に強化項目が並ぶ。
【筋力強化(中) 100P】
【耐久強化(中) 100P】
【敏捷強化(中) 100P】
三千三百三十P。
ここまで貯めておく必要はない。
筋力を十回。
耐久を十回。
敏捷も十回。
【筋力強化(中)を10回購入しました】
【筋力:535 → 835】
【耐久強化(中)を10回購入しました】
【耐久:527 → 827】
【敏捷強化(中)を10回購入しました】
【敏捷:579 → 879】
【3,000Pを使用しました】
【保有:330P】
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部屋を出て一階へ下りると、待っていたフェリシアがこちらを見た。
「……アレンさん」
「はい?」
「また何かしました?」
「筋力と耐久と敏捷を三百ずつ上げました」
「三百!?」
「Pがありましたから」
フェリシアが自分の手を開いたり閉じたりする。
「さっきより、また身体が軽くなってるんですけど……」
「共有も増えますからね」
「今日、ちゃんと加減してくださいね」
「気をつけます」
「本当にお願いしますよ」
今日はまた六階へ行く。
まずは、この身体に慣れるところからだ。
累計獲得P=6,340P
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