第14話 四階で稼ぐ
翌朝。
宿を出ようとしたところで、フェリシアが急に立ち止まった。
「ちょっと待ってください」
「どうしました?」
フェリシアがその場で軽く跳ねる。
続けて腕を何度か回した。
「身体が軽すぎます」
「ああ……」
「昨日、かなり上げました?」
「筋力と耐久と敏捷を、それぞれ百八十ずつ」
「百八十!?」
フェリシアが目を見開いた。
「一晩でですか?」
「Pがかなり貯まったので」
「残ってるんですか?」
「八十Pだけ」
「ほとんど使ってるじゃないですか」
フェリシアが自分の能力情報を表示する。
【名前:フェリシア・ロート】
【筋力:10+53】
【耐久:12+52】
【敏捷:15+57】
【魔力:33+1】
「あれ?」
「どうしました?」
「『共有』でもらってる方じゃなくて、私自身の数字も上がってます」
前に確認したときは、筋力9、耐久11、敏捷13、魔力32だった。
ここまで移動や戦闘を続けてきた分、フェリシア自身も少しずつ成長しているらしい。
「共有分だけじゃないんですね」
「その方が嬉しいです」
フェリシアが自分の表示を見ながら笑う。
俺も《会員》を開いた。
【基礎能力】
【筋力:532】
【耐久:523】
【敏捷:573】
【魔力:18】
昨夜、強化した直後と同じだ。
その下に、見慣れない表示が出ていた。
【前回購入後、基礎能力値500以上への到達を確認しました】
【次回購入分より高能力帯強化が適用されます】
【筋力強化(中) 100P】
【耐久強化(中) 100P】
【敏捷強化(中) 100P】
「……百P?」
これまでは一回五十Pだった。
必要なPが倍になっている。
「何かありました?」
「次から強化に必要なPが倍になるみたいです」
「ずっと同じ値段じゃないんですね」
「そうみたいですね」
保有は80P。
今は一回も買えない。
「じゃあ、今日も稼がないとですね」
「そうなります」
表示を閉じ、宿を出た。
◇
冒険者ギルドへ着くと、まず受付で四階について聞いた。
「昨日、四階でアイアンウルフを一体倒したんですけど、ほかにはどんな魔物がいるんですか?」
「四階ですと、アイアンウルフのほかにロックアーマーやブラッドボアが確認されています」
「三階よりかなり強いですか?」
「はい。特にロックアーマーは防御力が高いので注意してください」
受付嬢が依頼書を一枚出した。
【アイアンウルフ 三体討伐】
【対象:ベルガント西部ダンジョン第四階層】
【報酬:36,000ジェニー】
「三万六千……」
三階で受けたストーンリザードの依頼は一万八千ジェニーだった。
一階層違うだけで、報酬は倍だ。
「これ、受けられますか?」
「Eランク二名ですので、積極的にはお勧めしませんが……」
「昨日、アイアンウルフを倒したんだろ?」
後ろから声がした。
振り向く。
クロードだった。
《銀狼》の仲間たちも少し離れたところで依頼を確認している。
「はい。一体だけですけど」
「二人で?」
「はい」
「怪我は?」
「ありません」
クロードが少し考える。
「なら、もう四階でいいんじゃないか」
「Eランクでもですか?」
「ランクは目安だ。アイアンウルフを初見で倒して、二人とも無傷で戻ったなら四階でも戦える」
「なるほど」
「ただし、五階はまだ行くな」
クロードの声が少し強くなった。
「四階で何日か戦ってからにしろ」
「分かりました」
「それならいい」
クロードは仲間のところへ戻っていった。
「Aランクの人に言われると少し安心しますね」
フェリシアが言う。
「油断はできませんけどね」
「はい」
俺たちはアイアンウルフ三体の依頼を受けた。
◇
一階と二階はほとんど足を止めずに抜けた。
三階へ入ったところで、一体のストーンリザードと遭遇する。
「《魔弾》!」
フェリシアが前脚を撃つ。
体勢を崩したところへ踏み込み、腹へ剣を入れた。
もう一撃。
それで終わった。
【120P獲得】
【累計獲得P:3,210P】
【保有:200P】
魔石と鱗を回収し、そのまま四階へ向かった。
◇
四階へ下りる。
ランタンをつけ、広い通路を進んだ。
歩き始めてすぐ、身体の違いが分かった。
少し力を入れただけで、思った以上に前へ出る。
歩幅を意識して抑える。
「私も気をつけないと、動きすぎます」
「共有分が一気に増えましたからね」
「転ばないようにしないと」
しばらく進むと、暗闇の奥から低い唸り声が聞こえた。
「グルルル……」
「来ます」
アイアンウルフが飛び出した。
「グルアッ!」
こちらへ一直線に走ってくる。
昨日は速いと思った。
今日は、その動きがはっきり見える。
一歩横へ出た。
アイアンウルフが目の前を通り過ぎる。
反転する前に追いつき、肩へ剣を振り下ろした。
ザクッ!
「ギャウッ!」
刃が入る。
昨日はフェリシアが何発も《魔弾》を当てて、ようやく傷をつけられた場所だ。
アイアンウルフが爪を振る。
かわす。
首元へ二撃目を入れた。
「ギャッ……!」
地面へ崩れる。
【200P獲得】
【累計獲得P:3,410P】
【保有:400P】
「……早い」
フェリシアが倒れたアイアンウルフを見る。
「昨日と全然違いますね」
「俺も驚いてます」
鋼鉄剣を見る。
刃こぼれはない。
ただ、全力で振ったときに柄から伝わる感触が少し気になった。
今の力で何度も思い切り振っていい剣なのか。
身体の方が、先に強くなりすぎている。
魔石と毛皮を回収し、先へ進んだ。
◇
次に現れたのは二体だった。
「二体います」
「一体ずつ――」
「グルアアッ!」
言い終わる前に走ってきた。
「私が右へ行きます!」
「お願いします!」
二手に分かれる。
一体が俺へ飛びかかった。
身体を沈めてかわし、脇腹へ剣を叩き込む。
「ギャウッ!」
距離を取られる前に追いつく。
もう一撃。
【200P獲得】
【累計獲得P:3,610P】
すぐにフェリシアを見る。
「《魔弾》!」
フェリシアはアイアンウルフの攻撃を横へかわしながら魔法を撃っていた。
以前より動きに余裕がある。
「フェリシアさん!」
「大丈夫です!」
アイアンウルフが飛びかかる。
フェリシアが横へ動いた。
爪は届かない。
「《魔弾》!」
顔へ命中する。
そこへ俺が追いついた。
「もう倒したんですか!?」
「はい!」
「速すぎます!」
アイアンウルフがこちらを向く。
フェリシアが脚を撃つ。
「《魔弾》!」
体勢を崩したところへ剣を入れた。
【200P獲得】
【累計獲得P:3,810P】
【保有:800P】
「これで三体ですね」
「もう依頼達成です」
四階へ入ってから、それほど時間は経っていない。
「まだ行けます?」
「全然大丈夫です」
「俺もです。もう少し行きましょう」
「はい」
◇
さらに奥へ進むと、通路の真ん中に大きな魔物がいた。
四本脚。
身体全体が分厚い岩のような甲殻に覆われている。
「あれがロックアーマーだと思います」
「確かに硬そうですね」
こちらに気づいた。
「ゴオオッ!」
低い声を上げながら近づいてくる。
速くはない。
「試してみます」
正面から踏み込み、剣を振った。
ガァン!
「っ!」
弾かれた。
甲殻には浅い傷しかついていない。
「硬っ……!」
「《魔弾》!」
光弾が甲殻へ当たる。
こちらもほとんど効いていない。
「腹か脚の内側がよさそうです!」
「ですね!」
ロックアーマーが前脚を振り下ろす。
横へかわし、脚の付け根へ回った。
甲殻の切れ目がある。
「ここか!」
剣を突き込む。
「ゴオッ!」
刃が入る。
身体を回そうとするロックアーマーへ追いつき、同じ場所を斬った。
「はっ!」
巨体が傾く。
「《魔弾》!」
フェリシアの魔法が傷口へ入った。
「ゴオオッ!」
倒れたところで腹側へ剣を突き刺す。
【250P獲得】
【累計獲得P:4,060P】
【保有:1,050P】
「二百五十P……」
「アイアンウルフより多いんですか?」
「はい」
ロックアーマーの甲殻を触る。
石みたいに硬い。
「これも売れそうですね」
「持って帰るの大変そうですけど」
「持てるかな」
試しに身体へ手をかける。
持ち上げてみた。
「……持てますね」
「本当に持ち上がった!?」
フェリシアが目を丸くする。
「でも、これを抱えて探索するのは邪魔ですね」
「そうですね」
使えそうな甲殻と魔石だけ回収した。
◇
さらに探索を続ける。
アイアンウルフをもう一体倒した。
【200P獲得】
【累計獲得P:4,260P】
【保有:1,250P】
次に現れたのは、大きな赤黒いイノシシだった。
「ブラッドボアです!」
俺たちを見つけるなり、地面を蹴った。
「ブオオオッ!」
太い牙を前へ向け、一直線に突っ込んでくる。
かなり速い。
避けようとして――やめた。
「アレンさん!?」
両手で牙をつかむ。
ドンッ!
身体に衝撃が走った。
靴が地面を滑る。
一歩。
二歩。
そこで止まった。
「……止まった」
「アレンさん!?」
ブラッドボアが頭を振る。
だが、押し切られない。
牙をつかんだまま横へ力を入れた。
「ブオッ!?」
巨体の向きが変わる。
そのまま地面へ倒れた。
「《魔弾》!」
フェリシアの一発が目元へ入る。
剣を抜き、首へ振り下ろした。
「ブオオッ!」
もう一撃。
動かなくなった。
【180P獲得】
【累計獲得P:4,440P】
【保有:1,430P】
フェリシアが黙ってこちらを見ている。
「どうしました?」
「今、ブラッドボアの突進を止めましたよね?」
「止まりましたね」
「普通は避ける魔物ですよ」
「最初は避けるつもりだったんですけど」
「途中で気が変わったんですか?」
「止められそうな気がして」
「……止めちゃいましたね」
ブラッドボアから魔石と牙を回収する。
荷物もかなり増えた。
「そろそろ戻りません?」
「そうしましょう」
◇
夕方、ギルドへ戻った。
アイアンウルフ三体分の討伐証明を受付へ出す。
「はい。三体分確認しました。依頼達成です」
報酬は三万六千ジェニー。
続いて、今日集めた素材も査定してもらった。
ストーンリザードの魔石と鱗。
アイアンウルフ四体分の魔石と毛皮。
ロックアーマーの魔石と甲殻。
ブラッドボアの魔石と牙。
量が多いため、査定には少し時間がかかった。
受付嬢が戻ってくる。
「お待たせしました。素材の買取は合計十五万四千ジェニーになります」
「十五万四千!?」
フェリシアが聞き返した。
「ロックアーマーの甲殻とブラッドボアの牙が高値ですね。アイアンウルフの毛皮も四体分ありますので」
依頼報酬と合わせれば十九万ジェニー。
二人で分ける。
一人九万五千ジェニーだ。
「剣を買った分、もう取り返しましたね」
「二日潜っただけで取り返せるとは思いませんでした」
「四階、すごいですね」
そのとき、視界に表示が現れた。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【累計獲得P:4,540P】
【保有:1,530P】
朝は強化を一回も買えなかった。
今なら十五回買える。
「Pもかなり増えました」
「今日はいっぱい倒しましたからね」
「フェリシアさん」
「はい?」
「しばらく四階で依頼を受けませんか?」
「五階には行かない?」
「まだいいと思います。四階でも十分稼げますし、今の身体にももう少し慣れておきたいです」
「訓練しながら稼ぐってことですね」
「はい」
「私もそれがいいです。まだ自分の速さに慣れてませんから」
「じゃあ決まりですね」
フェリシアが頷いた。
◇
その夜、宿で《会員》を開いた。
【保有:1,530P】
【基礎能力】
【筋力:534】
【耐久:526】
【敏捷:577】
【魔力:18】
「上がってる……」
昨夜は筋力532、耐久523、敏捷573だった。
今日一日戦った分、Pを使わなくても少し伸びたらしい。
その下には、高能力帯の強化が並んでいる。
【筋力強化(中) 100P】
【耐久強化(中) 100P】
【敏捷強化(中) 100P】
今日は買わずに表示を閉じた。
しばらくは、四階に通うことになりそうだ。
累計獲得P=4,540P
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